つやつや毛並みの(適当)



「イルカ先生っていいよねー」
友というより腐れ縁だが、確かに付き合いの長い気心の知れた銀髪の男が訳のわからないことを言い出したのは、上忍待機室でのことだった。
「まあいいヤツだな。面倒見もいいし、男気ってもんがある」
お陰で部下たちも犬っころのように懐いてまとわりついている事が多い。
うちの下忍たちもそうだが、なによりそれこそこいつんとこの下忍なんて、親兄弟みたいに引っ付いてるじゃねぇか。
…いいやつ。その評価がアイツほどぴったりな奴はいない。
だがどうしても胡散臭さが拭えなかった。
非凡な才能と異常な環境に長く置かれたこの男は、常識ってもんがないし、頭のネジは二三本どころか粗方抜けている。
性格は悪くねぇんだ。常識ってもんが致命的にないだけで。
「犯したい」
「おちつけ!?」
今度もまたかと大慌てした。
この男は里での暮らしが短いせいか、とんでもないことをしでかすことがよくある。
大抵のことは自分でなんとかできるやつだから被害はすくないっちゃすくないんだが…。
強姦なんざありえねぇ話だ。
里外でも里内でも、無理強いすれば処分される。激戦区でやらかせば、特に戦地で戦力を欠く原因となる行動を取ったとして、場合によっちゃ忍でいられないどころか命さえ危うい。
いくらこいつが幻術使いでも、誤魔化せることと誤魔化せないことがあるってもんだ。
「ほしい。どーしよう。あの髪」
「あ、ああ。髪?髪がどうしたってんだ?」
イルカとは昔から知り合いだ。艶のある黒髪は両親譲りで、髪型もそうだ。
確かにきれいではあるが、手入れなんてしたことがなさそうだ。
第一黒髪なんざ他にも山ほどいるだろうが。なんだって俺のダチを狙いやがるのか。こいつは。
「黒いししっかり硬いし、最高」
「…いつ触ったんだ?」
「ベッドの上に決まってんでしょうが」
「は?」
「鈍いねぇ?クマは。そんなんで上忍やってて大丈夫なの?」
コイツのこういう言い方はいつも通りだが、怒りより先にその前の台詞の真偽の方がずっと重要だった。
「おい!なにしやがったんだ!アイツに!」
「お泊りデート?」
うふふーと頭に花が咲いたみたいな笑い方をして、ついでに視線は窓の外のダチからはなれやしない。
いつのまにコイツとそんな関係になったんだ!
「おいてめぇ…!まさか強要したりは…!」
怒気を押さえきれず、お陰で待機所に入ってきた連中が慌ててでていった。チッ邪魔くせぇな!
「してないよ?」
…本当かどうか疑わしい。だがとりあえずは信じることしか出来ない。
アイツは曲がった事が嫌いだから、変なことされたら訴え出るだろう。
でも幻術耐性が低いんだよ。それからなんでも自分で解決しようとする。
心配だ。そりゃもうとんでもなく心配だ。
「じゃ、ちょっと撫でてくる」
懊悩している隙に、アホで危険物が飛び出していった。
おいかけようにもかわいがってた弟みたいなヤツがアレの毒牙に掛かったかもしれないってことに頭を抱える方に忙しくて、そこまで手が回らない。
腰に手を掻け、一緒に去っていく二人は…悲しいかな幸せそうに見えた。


後日、でかいだの黒いだの言ってたのがどこをどう曲がってつたわったのか、イルカが巨根でしかも黒いとか太いとか、ベッドの上では帝王とかわけのわからん噂がたち、俺とアイツがそれをとりあってるとかいう恐ろしい発展系の噂まで…!
しかも、だ。同じく艶のある巻き髪で黒髪のくノ一に、涙が出るほど笑われた。
泣きたいのはこっちだ!
「馬鹿ねぇ?好きあってるんだからほっとけばいいのよ」
そういって慰めてはくれたけどな。
…まあでも、この黒髪を選ばないでくれたあの馬鹿には一応ささやかに感謝しておいた。


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てきとう。
黒髪というより、手触り優先派のカカチ。
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