「アンタ何やってんですか」 怖い。凄く怖い。怖すぎて顔が上げられない。 イルカ先生は本気で怒ると、怒鳴ったり殴ったりしてこない。 今みたいに静かに低い声で、でも物凄くどろどろしたチャクラをぶつけられるだけだ。 どうしよう。どうしたらいいの? …嫌われたくない。 「…ごめんなさい」 脊髄反射で謝ってから、失敗したことに気がついた。 イルカ先生はちゃんと反省しないで謝るやつが嫌いだ。 それに理由を聞かれてるのに、とっさに謝っちゃったからきっと火に油を注いだ。 その証拠に中忍だって言うのが信じられないくらい威圧感を感じる。 まあそれはこの人が俺の唯一無二の大切で大切で大切すぎて、ちょっと暴走しちゃうくらい愛してる人だからかもしれないけど。 「…何やってんだって、俺は聞きましたよね?」 うわぁやっぱり怒ってる…!こうなったらさっさと白状すべきなのはわかってるんだけど!でもでも!だって! イルカ先生になにかあったら俺が死んじゃう。守られていたい人じゃないことは知ってるし、むしろ率先してその身を盾にする人だってことも知ってるから。 上手い言い訳を探し始めたものの、多分それにこの人が気付いてしまうだろう。 子どもたちのいい加減な嘘にはひっかかるし、俺の凄く適当に吹いたホラにもあっさり引っかかるんだけど、大事なことは決して見過ごしてはくれない人だから。 野生の勘っていうの?これも。 この人とこうやって一緒に暮らせるようになったときだってそうだ。 俺の冗談めかした告白に、ちゃんと言いなさいって言ってくれていなかったら、焦れた俺はこの人を強引に手に入れていたかもしれない。 あの頃の俺は、同性でしかも俺の方が階級が上で、だから決して受け入れられることはないだろうし、でもだからこそ強要されたら断れないだろうって、ずーっとそんなことばかり考えていた。 ああどうしようか。いっそ幻術でも掛けちゃう? 「…あんたね。なに考えてんですか。俺に下手なまねしたら、追い出しますよ?」 そう、ここはこの人の家。やっすい賃貸だけど俺の家なんかより居心地が良くて、それはこの人がこの場所にいてくれるからで。 …そう、結局はこの人には敵わないんだ。俺は。 「追尾の術をちょっと」 「ちょっと?」 語尾が上がる。でも声は低い。…うぅ…!分かってるくせに! 「イルカ先生がどこにいるかいつでもわかるようにしたいなーって?」 かわいこぶって首を傾げてみせたのは、一片の可能性に賭けたからだ。 俺は気持ち悪いと思うんだけどねぇ。いい年した男がこういう行動するのって。 でも効く。覿面に。 この人は俺のことをかわいいかわいいって素で惚気て、上忍連中を一瞬で行動不能に陥らせた前科があるくらいで、未だに暗部でも語り草になっている。 朝寝ぼけてくっついてくるのがかわいいとかね…盛大に色々言ってくれちゃったから。もちろんそれは邪な気持ちで朝から一発とかそういう目論見があった訳よ?でもね。この人ったらそれを以外と甘えん坊なんですよとかはにかみながら…! おかげで変な連中がこの人を付けねらうようになってしまった。 写輪眼のイロとかね…馬鹿じゃないのって思う。イロとか愛人とかそういうのになれる人じゃない。気に食わなかったら、多分火影様ですら一蹴してみせるだろう。 味見なんて下らない理由でちょっかい掛けようものなら、本気で潰される。だってこの人並の上忍より強いし度胸があるし、不貞行為は許さない派だし、俺を膝枕しながら髪を弄るの好きだし、してる最中も可愛い声で鳴いてくれるけど大胆だし、意外と快感に正直だし無意識に煽ってくるし…! ああ後半全然関係ないな。落ち着かなきゃ。 「アンタは…そんなに心配しなくてもいいんですよ?寂しがりやさんですねぇ」 何その勘違い!よっし!嘘でしょ効いた!こんな状況で!?それって大丈夫なの!? でれでれしちゃってもう!もう!我慢できないじゃない! 「イルカせんせ。しよ?」 「え?アンタでも飯は?」 「へーき。イルカせんせこそ」 「ああそれはその、平気です。へへ」 っ!もう!なんなのそこで照れるのは!いいよね?よくなくたってもうしらない。だってこんなにかわいい方が悪い! 「じゃ、お布団」 いそいそと、っていうより強引に腕を惹く俺に、イルカ先生がぼそりとつぶやく。 「…ちくしょうかわいいなぁ…!」 かわいいのはあんただ!って叫びたいのを堪えてさっさと押し倒した。 だって俺かわいいモードに入られて撫で回されすぎてやる前にもうちょっとなでさせなさいって言われたら拒めないじゃない? そんなわけでたっぷりとめくるめく夜を堪能した後、術に関してはペアリングみたいなものだからと主張して何とか了承して貰った。 俺って幸せ者! 「カカシさん、俺が絶対幸せにしますからね?」 笑顔で男らしく堂々とそう宣言してくれた恋人は、まるでそれをプロポーズのように思ってくれているらしい。 こうなったら幸せにしてもらうしかないよね! 「俺はイルカせんせが一緒ならずーっと幸せです。どこにもいかないでね…?」 ちょっと不安そうにするのがポイントだ。案の定感極まって抱きついてきた。 あーむらむらする。でも朝だしねぇ?今晩は寝かさないけど。 「どこにも行きません!アンタ置いてどこにいくっていうんですか!」 どこまでも雄雄しくそう宣言したイルカ先生が、速攻手帳をチェックしてからあっさり有給を取得して、今日はずっと一緒にいましょうね?なんて言ってくれたから、勢いで盛り上がって一日中やってたなんていうのは…幸せすぎる秘密だ。 ******************************************************************************** 適当。 ばかっぽー。 |