「ふぅん?」 相変わらず癇に障る男だ。 コイツがチビすけのころからだから随分と長い付き合いになるが、その頃からコイツの根っこは変わっちゃいない。 本質的に他者との関わりを避ける。他人を受け入れることを良しとしない。 まあ穏やかなフリ位はできるようになったらしいが。 つっても少しでも邪魔になったらためらわずに切り捨てるのを見ちまってるから、未だに危なっかしくて目が離せない。 今も忠告というには少々乱暴だが、一応。そう、一応は気をつけろと伝えるつもりだったんだが。 まさに暖簾に腕押しってやつだ。 「まあそっとしておいてやれよ?あんなにすぐ嫁を決めちまうのはどうかと思うがな、お前のせいだろ?」 こいつが誰かに、いや何かに執着する所なんてみたことがなかった。 そのせいだ。コイツの執着を見誤ったのは。 中忍としては申し分ない実力はあるが、特に突出しているってほどでもない。 …まあコイツと引き比べりゃ大抵の忍は平々凡々になっちまうけどな。 後数年もすれば上忍になれる可能性は十分にある程度で、今の所本人にその気は無さそうだからそのまま内勤の中忍教師でい続けるんだろうと思っていた。 ソイツがどうしてこの馬鹿の目に留まったのかは、実の所知らない。 確かに下忍を引き受けはしたが、任務と割り切っていれば笑顔をみせもするが、それ以外じゃ舌も出さないような横着者が、わざわざ特定の誰かに付きまとうってにはまずない話だった。 最初はじゃれ付いているだけに見えた。 何かとついてまわり、飯を食わせろだの一緒に食えだの、怪我をしたから手当てしろだの、まるでガキだ。 付きまとわれる方も最初は面食らってたようだが、少しずつアイツを受け入れていた。 根っからのおひとよしだ。構えと全身で訴えてくるコイツを見捨てられなかったんだろう。 あまりのしつこさに中忍をからかうなと言ったこともあったか。 いいんですよ。なれてますから。 そう言って流したのは付きまとわれている中忍の方だ。 コイツの瞳にも、いつも寂しさがあったのを知っている。唐突に庇護してくれるものを失って途方にくれていたのを拾ったのは里長だ。 つまりは俺のオヤジでもあるわけだが。 大人になりそこなったガキが二匹、つるんで傷を舐めあってるくらい放っておけばいいと思ったのが間違いだった。 こいつは違う。イルカを見る目は普通じゃなかったと、気付いていたのに。 ほっといちまったのは致命的なミスだ。全部今更だが。 二人して同じ任務にでるのだと知って何かと敵の多い連中だからと心配はしたが、逆に上忍元暗部つきなら問題ないだろうと勝手な思い込みで送り出した。 帰ってきたコイツは当然のように無傷で、…ツレの方はめちゃくちゃにされていた。 何をされたのか一目で分かった。怯えるでもなくうつろな瞳のまま抱きかかえられて、野営用の毛布にくるまれ、慌てて駆け寄れば殺気を向けられた。 挙句閉じ込めるなんて寝言を言う馬鹿をぶん殴って毛布ごと中身をひったくって病院に突っ込んで、その足で追いかけてきた馬鹿を拘束した。 「なんで?だってこの人は俺のものだもの」 不思議そうに言うコイツに、なにもかもが手遅れだったことを知った。 病院でしばらく思い出したように震えるイルカを慰め、里長の持ち出した見合い話を勧めたのも俺だ。 「ありがとう、ございます」 思いつめたように、それでも笑ったアイツはどこか綺麗で、あの狂おしいほどの執着を向けられた意味が分かる気がした。 そのままとんとん拍子に話は進み、このままならほぼまちがいなく人形のように器量よしの女を娶るだろう。 …釘を刺したのかけしかけたのか、自分でも分からない。 「じゃあ、な。…邪魔すんじゃねぇぞ。幸せになりたがってんだからな」 肩を叩く。表情を少しも変えずに佇んでいる狂人が思い人を傷つけないことを願って。 「だってそんなの許せないじゃない?」 例えその小さすぎる呟きに…安堵したのだとしても。 中忍が一人里から姿を消したと聞いたのはその日の夜。 翌日に見つかったと聞くまで生きた心地がしなかった。 心配でうろついた挙句、恋人に大丈夫だったでしょ?なんて言われて笑われた日にゃシマラネェにもほどがある。 「あの子もねぇ。結構な玉なのよ?」 だからお似合いよ? 思わせぶりな物言いに納得というより諦めた。なるようになるんだろう。 実際それきり二人が離れているのを見ることはなくなった。結婚だなんだってのもそもそもそんな話の存在自体が抹消されている。 …時々、妙に満足げで冷たい笑みを浮かべている中忍には、気付かなかったことにしておいた。 知らねぇ方がいいことってのはあるからな。 ********************************************************************************* 適当。 カカイルサイドからかくべきだっただろか。 ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ! |