かんちがい

気持ちよさ気に鼻歌なんか歌ってたんだ。
「イルカ先生のバカ…」
帰還は自分でも驚く程遅れた。
横行する裏切りと依頼主の優柔不断さに戦局はころころと変わり、戦いに慣れているはずの俺たちでさえ、それに振り回されてあっという間にガタガタになった。
何度も…何度も戦いは繰り返され、消耗戦を強いられ、自分のこの赤い借り物の瞳のせいで疲弊する体力は限界に近かった。
それでも、敵は湧いてでるし、任務はなくならない。
激しい戦闘は終わりが見えなくて。
戦いの最中で何度覚悟しただろう?
…必ず帰るって約束も守れないかもしれないと。
それなのに。
窓から漏れ出てくるのは湯気だけじゃなくて調子っぱずれな鼻歌もだ。
風呂が好きだって言うのはよく知ってる。でも…でも!
楽しくてたまらないって声に、目の前が真っ赤になった。
「バカ!」
風呂に踏み込み、目を丸くしている恋人をその勢いのまま押し倒して、風呂場で散々喘がせた。それでも足りなくて寝室にぐったりしたのを運び込んで、拒む力さえ失っても、何もでなくなっても、意識を失っても離せなかった。
…その後、あんなにイルカ先生が喜んでいたのは、俺が無事だって連絡が来たからだって知った。
*****
「バカはどっちだ!このバカ!」
こう怒鳴りつけられるまで、散々な目にあった。
もうずっと、不安で不安で仕方なくて、同僚はおろか火影さまにだって心配される始末だった。
帰ってこない未来がありうることは理解できていても、受け入れるどころか、想像すらできなかった。
側にいて、笑っているのが当たり前になりすぎていたから。
その原因が…やっと今日、帰ってくる。
その報せに安堵のあまり倒れそうになったほどだ。
それから、どうせまたギリギリまでチャクラを使って、倒れそうになりながら帰ってくるだろう男をねぎらうために、飯は好物を用意したし、布団だってしっかり干した。
やっと準備ができて、風呂に入って体もきれいにして、待っててやろうと思ってたのに。
「ゴメンなさい…」
しょげた犬みたいな顔しやがって!
怒りたいのに怒れないのを分かってるんじゃないだろうか?
「水」
「はい!」
疲れてるくせにこういう時だけバテ知らずの男が、大慌てでベッドから飛び出していった。
…まあ、しょうがない。何があったか知らないが、さっき式を受け取って顔色を悪くするなり謝ってきたから許してやるしかないだろう。
…ちょっとした、お仕置きだけで。
「み、水!はい!」
「ん」
飲ませろと顎で指示すると、馬鹿な男はごくりと唾を飲み込んだ。
口移しで注ぎ込まれた水を飲み込み、絡み付こうとする舌を拒んで笑ってやった。
「おあずけ」
「…ぅぅ…っ!」
恨めしげな顔も結構楽しめる。…しょうがないから後で何かあったかちゃんと説明できたら拳固でもくれて忘れてやろうと思った。


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で、結局ばれてしばらく顎で使われるのにおあずけ食らったおばかさんがいたという話。
ではではー!ご意見、ご感想などお気軽にどうぞー!


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