赤ん坊(適当)


やわらかくてふにゃふにゃしたイキモノは、触れるだけで指がこわばる。顔なんてもっとだっただろうに、親となった存在ってのは強いらしい。
 こんなにへっぴり腰で抱き上げてるのに怒りもしない。
「かーわいいだろ!へへ!」
「そうだなぁ。ヒマワリは母ちゃん似か?お前にも似てっけどなぁ」
「そーだろそーだろ!ヒナタにも似てるし、俺にも似てるんだってばよ!」
 誇らしげに胸を張る教え子…いや、もう次期火影候補になった青年は、いつの間にか大きく育ってこうして子を持つのも二人目だ。
 ほそっこいチビスケだった姿を今でも思い出せるのに、少しずつ育っていった姿も同時によみがえって、今のこの姿に繋がるそれらがどうしようもなく懐かしくて愛おしい。
「かわいいなぁ」
 ふくふくの赤子のぬくもりはじんわりと幸福感をもたらす。やわらかくてあったかくて、遠い昔にこんなイキモノだったコイツが、すっかり大きくなってこの赤子の素になっただなんて信じられない。
 その頼り気のなさを不安にも思うのだが、むしろそれが庇護欲を刺激する。
 なんていうかな。かわいいんだ。ものすごく。
 母親である別の意味で心配だったあの子が、一時的に日向の本家に帰っている間だけとはいえ、こうして赤ん坊と過ごす時間を分けてくれた教え子をありがたく思う。
 自分の子は、おそらく一生もつことはないだろうから。
「なぁ、そのさ、あの」
「ん、なんだ?どうした?」
「俺ってばさ、イルカ先生のこと」
「うん」
 ああ、久しぶりにみるなぁ。この顔。もじもじして言いたいことがあるのに言えないで、でも一生懸命になって、何かを伝えようとしているときの顔だ。
 育ったのにそういうところは変わってねえなぁ。
「…俺のさ、父ちゃんはいるけど、母ちゃんもいるんだけどさ、イルカ先生は、俺の、父ちゃんみたいで母ちゃんみたいな人だからさ」
「そうだなぁ。まあ爺ちゃんみたいなもんか。はは!」
 そう言った途端、いきなり泣き出したから驚いた。相変わらず感情の触れ幅が大きいのは変わらないらしい。でっかいなりしてしがみついてくるから、慌てて赤ん坊を抱えなおさなきゃならなかったじゃないか。
「っルカせんせい…!」
「あーほら。泣くんじゃねぇ。あと抱きつくなら気をつけろ。チビがつぶれちまう」
「おっヒマワリごめんな?へへー!わらったってばよ!」
 この状況で確かに嬉しそうに笑っている。…豪胆さというか豪快さというか、肝の据わりっぷりは母親譲りか、それともおおらかというか大雑把なところを父親からもらったんだろうか。将来有望であることは確かだ。
「おめーは二人目なんだからもうちょっと気をつけろよ?」
「あーうん。前ボルトも抱っこしてたときびっくりしておっことしかけたことあるってばよ…」
「お、お前なぁ!?気をつけろよ!」
「うん…。でもアイツ素早いからちゃんとスタッてこう、猫みたいに着地したってばよ!将来すっげー忍になるよな!きっと!」
 それは環境がそうさせるんじゃないだろうかとすさまじい不安に駆られたものの、意地っ張りなくせに意外と素直で懐っこいところのある長男坊の事を思い出すと、いつも元気そうにしてるから、まあなんとかなるだろうか。
…にしてもなんだったんだ?さっきのは。いきなり泣かれると焦るだろうが。
「ヒマワリはおとなしくていい子だな。ボルトもやんちゃで元気でいい子だ。どっちも将来有望だなぁ」
「ボルトは俺に似てイケメンになりそうだし、ヒマはヒナタみたいに美人さんになりそうだしな!へへ!」
 脂下がる教え子はさっき泣いたのがウソのように幸せ一杯って顔をしている。
俺までうれしくなっちまうよな。へへ!
「で、どうしたんだ?さっき」
「え、あーうん」
「なんだよ。何か困ってるならさっさと言えよ?オムツがえならボルトで慣れたぞ?」
「いいんだ。さっき、さ、その、さ、イルカ先生に俺の子のじいちゃんになってくれって言おうと思ったんだけどさ、もう爺ちゃんみたいなもんかなぁって」
 爺ちゃんの連呼は急に年をとったようで少しばかり胸に刺さるが、それ以外はまあ納得だ。なんだ。そんな小さいことで泣いてたのか。あいかわらずだなぁ。
「お前はずっと俺の大事な教え子で、そうだなぁ。この子も孫みたいなもんだよ。確かに。たまにはチビたち連れて遊びに来てくれよな?」
「当たり前だろ!な?ヒマ!」
 きゃっきゃっと笑う赤ん坊を抱き上げて、とろけそうな笑顔をみせる教え子に、なんとなくやっと子育てが終わった親ってのはこんな気分なのかなと思った。ちょっと寂しいけどすッげー嬉しいぞ!ナルト。今言ったらヒマおっことしそうだから言えないけどな。
「ねー返してよ早く。まだなの?」
「うお!カカシ先生!また影分身かよ!」
「うーるさいね。お前ももうすぐ分かるよ。ね?イルカせんせ?」
「あーまあそうですね。ほら、俺たちの孫娘ですよ?」
「えぇ!?いつの間に生んだの!?」
「…相変わらずだってばよ。先生たち」
 さっき思ったのとそっくり同じ感想を零した教え子に思わず噴出して、釣られて笑うチビとそれからナルトとで、憮然とした恋人を抱きしめる。
「あーちっこいね。チャクラ量も多い…?」
「将来有望ですよ?母親に似ても父親に似ても美人でしょうから」
「そうねー。女体変化で鼻血ふいてたもんね?」
「…まだそれ根に持ってたんですか…」
 嫉妬深い恋人のおかげでアカデミーも辞めて側近もどきの事務処理要因になってもう何年だ?その間も随分と昔のことを覚えていたのも恐ろしい。まあいいんだけどな。この人の執念深さはいつものことだし、どっちかっていうとこれは…。
「お仕置きしちゃおうかな」
「…仕事の片が付いたら飯食ってちゃんと寝なさい」
 言外にそれからならいいのだと許可を出した訳だが、それを察した途端俺を担ぎ上げてもって帰るのは止めて欲しいんだが。
「早く片付けますね?」
「はいはい。無理しないでいいですからちゃんと仕事してくださいよ」
「…ご褒美があるならいいよ?」
「…善処しますよ」
 お仕置きでもご褒美でもどっちにしろこの人が足らないのは俺も一緒だ。子どものいる家庭なんてものは作れなくて、支えることしかできない俺を選んだこの人はかなりの物好きだと思うが。それでも好きなのは変わらないんだからしょうがない。
そう達観するのに掛かった年月は長かったのか短かったのか。
「ん。大好き」
 顔を半分隠していてもわかるくらいあからさまにとろけそうな顔をするからため息くらいしか零せなくて。
 執務室に入るなり影分身と二人がかりでどうこうされるなんてことは、その純粋に見える笑顔からは想像もできなかったのだった。



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適当。

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