秋の味覚(適当)


秋ってのはもうちょっとのんびり楽しみたいもんだよな。
「そっち、2匹。潰して」
「はい」
上司の命令に従うのは任務をこなすにあたって当然のことではあるんだが、なんつーか。慣れない。
暗部で、しかも子どもにしかみえないんだよな。コイツ。
いまだ成長期の俺がいうのもなんだが、オレよりちょっとチビに見える。
まあ命令は命令だし、里の近くで強盗とか、物騒な連中放っておく方がマズイもんな。任務なんだし。一通りの礼儀さえ守れば、後は適当でも大丈夫だろう。…たぶん。
追い込んで足止めのためにクナイを投げて、ひるんだ隙に千本で関節を動かなくする。相対して難しくないってことは、こいつらもしかして一般人か?
まあ忍相手の戦闘任務に、成り立て中忍一人でこなせって言われることもないよなー。
色づき始めた紅葉を楽しむ暇などもちろんなく、現地着くなり唐突な上司の出現に盛大に悲鳴を上げそうになったけどな。もしかしてお目付け役とかなんだろうか。
よくわからんが、さっさと里に帰りたい。秋限定のキノコラーメンが俺を待ってるんだ。どんな味なんだろう。試作品の試食は常連のよしみで何度かさせてもらったけど、一楽の親父さんはそこからさらにクオリティ上げてくるからなー。楽しみだ。
潰せって言われたけど、こんなにあっさりつかまるならいいよな。わざわざ命まで取らなくても、けちな強盗だ。イビキさんとこに連れてったら、色々情報を探り出してくれるだろうし、ひさしぶりに美味いケーキを出す店の話とか教えてもらえるかもしれない。
転がした連中を適当に縛り上げながら、こってり系かそれともあっさり系か、魚介だしにしたのかとか、トッピングに三つ葉は採用されたのかとか、ラーメンに関することを考えるあまり、上司の存在をうっかりちょっと忘れかけていた。
「生け捕りにしたの?」
「うお!え!はい!」
「ふぅん?ま、いーや。情報搾り取ってから処分してもいいし」
あ、やっぱりやっちゃわなくてよかった。んだよな?多分。
ちょっとどっちだったのか判断し辛いけど、いきなり怒鳴られたりしなかったんだからぎりぎりセーフだろう。
「他の連中は?」
「んー。回収するもの回収しちゃったからねぇ?後片付けの式は飛ばしたから」
…ってことはあれか。回収するものって辺りが何なのか分からんが、処分しちゃったんだろうなー…。
顔色一つって、面越しだから分からないし、返り血なんかも見えないから逆にそれがちょっと怖い。ま、まあ任務なんだからしょうがないんだが。
上忍にはあこがれてるけど、こういうの見ると俺にはやっぱり適正がない。
「では、帰還しますか?」
「そーね。あ、俺の家、来てよ」
「へ?」
前半はいい。許可してくれたならこれもって買えるだけだからな。ちょっと重いがなんてことはない。
家って、なんだそりゃ?それも任務なのか?
「もらい物のお菓子があるんだけど。おいしいよ?」
お菓子。暗部のお菓子ってなんだ。危険なにおいしかしない。
でも、俺は子どもには弱いんだよ!なんでそんな不安そうな声だしてんだ?
「おいしいものは好きです」
「じゃ、決まりね。それはおいてっていーよ。もうすぐ処理班来るし」
早く早くとせかす必死さになんとなく絆されて、うっかり言われた通りこの人の家にお邪魔することになったんだが。
家に帰るなり子どもが大人になったり、いきなり告白されたり、押し倒されたり…!
確かに菓子は美味かったけどな!あとぶん殴って貞操の危機は回避した!
「駄目ですか?」
「美味いですね。この菓子」
「ね、痛くしないよ?」
「うるせぇ。まずはお付き合いからだろうが!こういうのは!」
そもそも同性だとかそういうことをうっかりすっ飛ばして説教しちまった俺の不備は認める。
でもなぁ。お付き合い始めましたってそこら中で宣伝してまわるのはどうなんだよ!
「好きー」
「そーですか」
「何日たったらできるの?」
「さ、さぁ?」
そもそもお付き合いそのものに同意していない。していないんだからそんなもん100年たったって無理だと言いたいんだが…。
「ま、いーや。そのうちやらせてね?好きー」
口癖のように好き好き騒いでくっついてくるこいつに絆されない自信が揺らぎまくっているのだった。


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適当。
秋。体力がほしい。

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