後の祭り(適当)


「夢?」
変な感じだ。
確か任務先で荷をまとめているのに、延々と同僚に邪魔されたんだよな。
まとめてもまとめても勝手に荷を崩したり、まきちらしたり。それで腹が立っていい加減にしろといったところまでは覚えてるんだが。
ニヤニヤしながらお前ごときのいうことなど聞くものかとか、えらく時代がかった物言いをした、その同僚だと思い込んでいたヤツの顔が思い出せない。妙に生臭い吐息に、生徒に示しがつかないからちゃんと歯を磨けとかなんとか、文句を言った覚えはあるってのに。
今は確かに任務中…というか、帰還中で、単独任務だから荷をまとめるのを邪魔するような同行者はいない。
そもそも同僚と一緒になるってこともそうそうないしな。中忍だけでマンセル組ませるにしても、アカデミー組は内勤の中でも里の防衛にあたれるようなそこそこできるヤツか、元上忍で怪我やなんかで半分引退した代わりに、結界やトラップとか万が一のとき子どもたちを守れる人が多いから、小隊長か、そうじゃなかったらそもそも外の任務なんかに出さない。
つうかだな。今は人が少なすぎて俺クラスの忍を複数派遣するような任務なら、上忍が隊長についてくるんだよな。
何だってこんな夢みたいんだか。それに同僚にも申し訳ない。いや誰だったかなんて思い出せないんだが、まるで濡れ衣を着せちまったみたいで気分が悪い。
「あ、起きました?」
「うお!え?あれ?カカシさん!」
そのあまりにものんきな声に聞き覚えがあった。この人は最近何かと世話になっている上忍だ。どうにもとろくさい態度に出会った当初は不安を覚えたもんだが、子どもたちの面倒をきっちりみてくれて、…不幸にして一人出奔しちまったが、今でも何かと俺のことまで気にかけてくれる。
いい人、なんだよな。どうも自分で全部抱え込みたがるところが心配なんだが。
俺は、確かにショックだった。教え子が抜けたのは初めてのことで、しかもあの子が抱え込んでいるものを知っているはずだったのに、なにもできなかった。
でも、それはこの人の方が辛いはずで、それなのに俺のところに来ては「寂しいんじゃないかと思って」なんて嘯いて慰めてくれるわけだよ。酒飲んで管巻いても、食いすぎて無様に転がっても、ちょっとはかなげに笑ってくれたりなんかして、時々どこか遠くを見る視線でここじゃないどこかに意識を飛ばすくせに、俺を見てなんでかしらんがやたらほっとした顔をするんだ。
気遣いが細かくて、俺の飯の好みも酒の好みもすぐ覚えて、憂さ晴らしだとばかりに酔っ払った俺が家に引っ張り込んでさらに飲み明かしても、翌朝には俺はベッドに、この人はもはやこの人専用と貸した元ナルト用の布団で寝てるし、朝飯はできてるし、水も枕元に用意してある。
挙句、勝手に使ってごめんなさい。ときたもんだ。むしろ迷惑だと怒鳴り散らしたって撥は当たらない扱いを上忍相手にしてるっていうのにな。
流石上忍っていうよりは、この人自身も無自覚に寂しいんだろうなと、俺はまあ思うわけだ。
そんな人が俺の宿にいる。任務か、それとも…俺はまだ夢を見てるんだろうか。
「覚えてます?」
「おれ、おれは、任務中で、野党を片付けて突き出して、それから依頼主から印鑑貰って宿とって、ええと?」
寝た。はずだ。風呂に入って飯が美味かったなぁとか、あの人もしっかり休んでいるといいなとか、そんなことを思いながら。
そこまで覚えているのに、この人がどうしてここにいるか、どうしてもわからない。
「あなたは、ここで三日も目を覚まさなかったんです」
「へ?」
そんなはずはない。そう思いたかったが、言われてみれば不自然に体がこわばっていることに気づいて愕然とした。
三日も。それじゃ里抜けを疑われてる可能性だってあるじゃないか。
色をなくした俺を慰めるように、如才なくいつの間にか用意したらしい茶を差し出してくれるところがこの人らしい。
震える手で一気にそれを飲み干すと、カッと熱くなった喉の代わりに、頭の中が冷えた気がした。
「どうもそんな事件が頻発してて、俺はその調査に呼ばれたんです。ほら、この目があるので」
「…そうですか…」
一般人ならまだしも、中忍がこんなことになるなんて、相手はいったい何者なんだ?帰還中だったからいいようなものの、往路でもしものことがあったら大変なことになるところだった。
「そこでですね。あなた拾い物しませんでした」
「ひろいもの…?」
そんなものしたか?たしか、途中で行きあった子どもの落とした手ぬぐいを拾ってやったのと、婆ちゃんが荷物を落としたっておろおろしてたから、崖下にひっかかってたのをひろってやったのと、あとは…そうだ。桜の木の下にいた爺さんにも、そういえばなんか頼まれたよな?
思い出しつつつっかえつっかえそう伝えると、あからさまに顔色が曇った。
なんだろう。なんかしちまったんだろうか。いや既に迷惑はたっぷりかけてるんだろうが。
「桜だって、なんでわかったんですか?まあ枝ぶりからもわかるでしょうが」
「え?それは…だってあれだけ綺麗に咲いてれば…あ」
そうだ。おかしい。桜は春に咲くのが多くて、そりゃ品種と気候にもよるが、アレは確かに普通の八重桜だった。
しかも、他の二人のことは覚えているのに、その爺さんから受け取ったものを、俺は少しも思い出せていない。
「気づいた?ま、この時期に咲く桜がないわけじゃないけど、十中八九、そいつですね」
「申し訳ありません!ご迷惑をおかけしました!」
うっかりしすぎだ。普通なら気づくべきことだってのに、なにをやってるんだ。俺は。
「ん。ま、いいんだけど。ね、イルカ先生って童貞?」
「は?」
どうてい?道程?どうて…童貞?
「なななななにいってんですか!いや、ちがいますが!その!」
その道のお姐さんから手ほどきを受けて以来、すっかりご無沙汰気味ではあるが、多少の心得はある。というか、俺たちの世代は全員義務になってたから、未経験はありえない。よな?
ついつい胡乱げな視線を向けたのが悪かったのか、いきなり声を出して笑い始めたからこっちも扱いに困った。なんだよ。笑うようなことか!くそう!
「そ?じゃ、やっぱりアカデミーの先生だからかな?子どもの匂いが染み付いてるか、それとも道中で子どもに触ったからか。コレにかかってるのみんな子どもか、そういう経験のない人ばっかりだったんですよ。それなのにあなたが引っかかって、大騒ぎになってたんです」
「そ、そうですか?」
あらぬ疑いは晴れた…ような気がしないが、とりあえずは任務優先だ。
ため息で沈んだ心を追い出して、まっすぐに上忍を見ると、どうもなにかを思案しているらしい。
考え込んでいるこの人をそういえば久しぶりに見る。普段は飄々としていて、あまりそういうところを見せない人だから意外だった。時々、そう時々、俺の部屋で酒を飲んでいるときにちらりと見せるその顔が、こんなところでも見られるとは思わなかった。
「ん。また眠らされたら困るって口実に使う手は無理かなぁ」
「へ?」
口実。なんだ。なんかの作戦か。こうなりゃ乗りかかった船だし、できれば俺も協力させてもらいたい。それでこの人にはちゃんと休みを取ってもらいたい。
「ま、とりあえずイルカせんせの中に入り込んでたのは追い払ったんですけどね。どうも人じゃないみたいなんで、専門外だなぁと」
「は?」
「全員の証言で共通してたのは、桜の花が綺麗だったってのと、汚れ知らずってこと位だったんで、とりあえず汚れた大人の代表として、桜の木の下を掘ってみたんですよ」
「あ、あぶないじゃないですか!術の気配は!桜が綺麗って…やっぱり咲いてたんですか?」
「あ、もちろん花なんか咲いてませんでしたけどね。首をはねられた犬が出てきたんで、お寺に預けてきました。ご丁寧に壷に封じてあったのに、札が破れてましてね」
「そう、ですか」
犬か、そういえば妙に生臭い息とせわしない呼吸は、犬に良く似ていたかもしれない。
「そこでね、首をくくったのがいたみたいです。それが切っ掛けで起こしちゃったのかもしれません」
なるほど。わかったようなわからないような。
「…で、俺が目覚めたと」
「あ。違います。その前にイルカ先生が倒れたって聞いていても立ってもいられなくて見にきたら、変なチャクラがまとわりついてたんでイライラしてつい、ね?」
なんだろう。笑顔が怖い。
「つい、とは?」
聞きたくないのに聞かなきゃならない気がして水を向けると、にっこり笑って手に電撃を纏いつかせてくれた。
「この目で潜り込んで、これで、引っ張り出したっていうか…まあ切って捨てちゃいました」
朗らかな悪魔という単語が頭を過ぎる。なんで殺気滲み出てんだとか、そういうことを効いていい雰囲気ではもちろんない。
とにかく…なんだかよくわからんが助けてくれたことは事実だな。
潜り込んでってことは、頭の中にまで入り込めるってことで…この人に同僚もどきに怒鳴り散らしてた姿を見られちまったんじゃないだろうか。それは、恥ずかしいというかなんというか。
もっとしっかりしよう。飲みすぎた朝とかにも決意だけは何度もしているが、実行しなけりゃ意味がないよな。
「…その、ありがとうございました…」
いたたまれなくて膝に顔をうずめたら、すすすっと寄ってきて頭を撫でてくれた。もちろんチャクラは霧散していて、感電したりなんかしない。
「こちらこそ。希望が見えてきたので、ここで無理矢理ってのは止めておこうと思います」
「無理矢理…まあお寺で祓ってもらえるならそっちの方がいいんでしょうね」
犬、か。爺さんだと思ったんだけどなぁ。首をくくったって言うヤツだったんだろうか。
眠らされるのは迷惑だが、もうちょっと何とかしてやれば良かったよな。
「んー。ま、それはそれとして、あなたが引っかかったわけがわかりました。化け物は清浄な体を好むっていいますけど、魂もなんですね。お人よしであからさまに怪しい爺さんなんか助けちゃうから貰っちゃったんですよ」
「うっ!それは、その、返す返すも申し訳ありません」
確かにもっと警戒すべきだった。幻術耐性の低さは自覚していて、訓練も続けちゃいるが、こんなことじゃまた誰かに迷惑をかけるだろう。
「悪いと思ってるなら、帰ったら俺の家で飲みましょうね?」
心からの謝罪に応えてくれたにしては妙に含みのある態度だと思うのは、こんなことがあったばかりで神経質になりすぎているんだろうか。
俺の家ってことは、カカシさんの家か。上忍の家に上がったことがないわけじゃないが、この人の家となるとなんとなく特別な感じがするから不思議だ。
だがしかし。
「喜んで!」
これ以外の返事なんてできるわけがなかった。


報告書を提出したら、そのまま妙にご機嫌な上忍に手を引かれるまま家に連れてこられて、風呂を勧められて飯も勧められて、酒も勧められて、最終的にぺろっと食われたってのは…やっぱり俺がうかつなせいなんだろうか。
「俺の匂いがついてたら変なのも寄ってこないと思いますよ?」
自信ありげにそう語る男はいまだ不埒な行為を諦めていないのか、その指先は立たない腰や、注ぎ込まれたモノを溢れださせている箇所をさまよっている。
「うぅ…!魔よけにしてもなんてことしてくれてんですか…!」
呻きたくもなる。同意なんて禄に取らなかった。酒が回っていたのもあるが、この人の手が早すぎるせいでもある。
どうなってんだと叫びだしたいところだが、ここは防音バッチリなんだと嬉しそうに宣言されたとおり、おそらくはこれをしでかした本人以外の誰の耳にも届かないまま終わるだろう。
つまりは誰も答えなんかくれそうもないということだ。
「や、色々手を尽くしたのにいまいち反応が悪いから、じれちゃってねぇ?そろそろ食っちゃおうと思ってた矢先にアレでしょ?さっさと俺だけの物にしちゃわないとなぁって」
「え?は?うえ!?」
「あなたの中みたら意外と俺のこと見てるし考えてるし、コレは多分自覚してないだけだなって」
「は?なにを?つうか勝手に人の中に入っといてなにみてんですか…!」
やっぱりみてたんじゃないか!いやでも、やましいことなんて洗濯物取り込んだときおっことしたけど三秒ルールでそのまま着ちまったことくらいだし!
「そうねぇ。もう奥の奥まで突っ込んじゃったし、俺の溢れるくらい中に出したちゃいましたね?」
「わあそ、そっちじゃねぇ!言うな!なに言ってんですか!」
恥ずかしくて穴があったら埋まりたいくらいなのに、もぐりこめそうな布団には、そもそもの元凶と同衾してるって、どういうことなんだこれは。
「好きです。勝手に変なのにひっかからないように、これからはちゃーんとみはっておきますね?」
それが告白だと気づく前に唇はふさがれていた。
うっとりと、それはもう、それこそこの世の物とは思えぬほどの美しい男の唇で。




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適当。
おちがない。りはびり。

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