当たり(適当)

当たりつきだなんて知らなかった。
たまたま駄菓子屋の店先を通り掛かったら、悪戯小僧だった頃をしっかり覚えていた店主のばあちゃんに捕まったんだ。
俺がチビだったころからばあちゃんだったばあちゃんは、そのころからずーっと話が長いし耳もちょっと遠い。
つまり人の話を聞かない。しかも繰り返し同じ話をする。
…だからまあ、話を終わらせるためにはさっさと何か買っちゃった方がいいだろうと思った。で、まあとりあえずその場でさっとアイスを手にとって金を払って、どれだけ俺が悪戯小僧でしかも馬鹿なことをやってたかってのをシミジミ語ってくれたばあちゃんから逃げだした訳だ。
たまたま目についたとはいえ、まだ肌寒い。買っちゃったからと食い始めてすぐ、アイスにしたのは失敗だったなぁと思ったが、当たりだったってだけで嬉しくなるのが不思議だ。
俺の運も捨てたもんじゃないなんて、アイス1個当たったくらいで悦に入ってたら、俺の背にひたりと張り付くものがあった。
「あー。いーなー?イルカせんせ」
…前言撤回。やっぱり失敗だった。
この声の主は、間の抜けた声に似合わぬ実力と…それからしつこさで、この所俺を疲れさせてきた上忍だ。
ナルト絡みで何かと突っ掛かる上忍は今までだって結構な数がいたが、こんな風に違う意味纏わり付いてくるのには初めてだ。
正直、その意図が読めない男に執拗に張り付かれることには閉口している。
しかもだ。アイスが当たったってだけだが、それでなくとも扱いに困っていた男に、付け込む隙を作ってしまった。
ナルト達から聞いた話では、甘いモノは苦手らしいのに、物欲しげな目で、当たりが辛うじてわかる…つまりまだ結構残っている食べかけのアイスを見つめている。
「ただの駄菓子ですよ。上忍の方口には合うかどうか」
折角の当たりと思うと、全部食べるのは寒くてキツイなんて思っていたのに意地でも譲りたくなくなった。
それとなく視線を逸らし、アイスを食べ切ってしまおうとしたんだが。
「もーらい!」
残りのアイスはあっさりと上忍の口に消えていた。
「あー!俺のアイス!」
久しぶりに食ったコンビニには置いていないような四角いバニラ味のそれは、一瞬で俺の手から奪い去られ、影も形もなくなってしまった。
「ん。おいしかったです!」
嬉々として言われても、良かったですねとも言えなかった。
チビだったころのあの嬉しさが甦ってきたのに、それをあっという間に台無しにされてしまったような気がする。
「…俺の、アイス…」
視界がちょっと歪んでいる。鼻の奥だってツンとして、目がじわじわと熱くなってきた。こんなコトで。
…きっと、このはた迷惑な男のせいだ。
俺にやたらとくっ付いてきて平和を乱し、俺をこうやって困らせる。
アイス1個で限界に来てしまう位に。
「ねぇ。もう1個もらえるんでしょ?これで」
鼻先に突きつけられた当たりの棒は、いつの間に取り出したんだろう?食べるのも一瞬だったけど。
「そうですけど…欲しいなら、どうぞ」
もういらない。アイスなんて。
こんな目に合う原因なんて。
「ね、もらってきたら、イルカせんせが食べて?そんでまた残りは俺に頂戴ね?」
なんでこんなに嬉しそうなんだろう。それこそ、アイス1個のことなのに。
イヤなんだ。こんな風に側にいられるのは。一人になれすぎてしまったから、居心地が悪い。
それなのに、いなくなった途端に寂しいなんて思わされるのも耐えられない。
「あげます。全部。もういらないので」
家に帰ろう。今日は十分俺で遊んだはずだ。これ以上くっ付いてこないだろう。
地面に吸いつけられてるみたいに足が重かったが、それでも前に進まなければ。
明日が来る内は生きなくちゃいけないんだからな。
「…ふぅん?」
ほら、この反応。きっともう飽きたんだ。俺だっていつまでも相手にしてられないんだってことをやっと分かったんだ。
もう、開放してくれるはずだ。
「じゃ、これで」
振り返りもせずに歩きだした俺の後を、だがなぜか男も着いてきた。
それでも無視して、後ろを振り返らずに歩いてみたが、もうすぐ俺の家だ。これ以上面倒はゴメンだっていうのに。
「あの、いい加減にしてくださいよ。もういいでしょう?」
もう駄目だ。これ以上は。
「…頂戴って言ったらくれる?全部」
今更アイスの話らしい。…何を考えてるのかさっぱり分からないが、もう限界だ。
なんでもいいから開放されたい。
「どうぞ」
これで話は済んだはずだと思った。
「じゃ、ありがたく」
にっこり笑った上忍が、俺を担ぎ上げるなんて思いもしなかった。
「な!?…アイスの話でなんでこんなしつこいんだアンタ!」
気付いたら階級なんて無視して叫んでいた。
「貰ったんだからもう俺のモノだよね?」
「はぁ?」
「だって、くれるっていったもん。今更駄目っていっても聞かないよ?ずーっと誰かに盗られないか見張ってたんだから!」
意味が分からない。
大人気なく俺のアイスを奪い取ったのはこの男のはずなのに。
「アイス見張ってるくらいなら、買い占めたらいいでしょうが…」
財力が有り余っているはずだ。何故こんなにも他人に迷惑をかけてまでしつこく食い下がるんだろう?
もう考えるのもイヤになってきた。溜息しか出てこない。
「見張ってたのはイルカせんせ。あ、でももう俺のだし?今度からイルカって呼ぶね!」
「へ?は?え?」
混乱している間に俺の家がぼやけて消えていた。代わりに俺の目に映ったのは知らない部屋で。
「じゃ、早速。盗られる前に食べないとね?」
そんなコトを言う男に、それはもう手早く美味しくキレイに食べられてしまったわけだ。
*****
怒鳴る気力すら失った。
男同士でわざわざヤルほど戦場でも溜まったりしない方だったし、外見もそういう方面に向いてるほうじゃなかった。
つまりそういう経験など無かった自分に、手際よく愛撫を施して、蕩けさせてしまった男は、相当手馴れているんだろう。
自分の性別すら疑いたくなるような情けなくも欲望に溺れきった声を上げて、腹の中にくわえ込まされた熱い肉を歓喜を持って受け入れた。
「あー…」
何かを考えるのも億劫だ。…怖いからってのも勿論あるが、なにより。
「これで全部俺のだから、誰にも上げません!イルカせんせは全身くまなく当たりだけどね!」
訳のわからない相手に離さないで欲しいなんて思う自分なんて認めたくなかったから。
だが、そう長くは誤魔化せないのかもしれない。
触れる肌がじんわりと俺を満たし、訳のわからない目にあったのにどうしてか心地良いとさえ感じている。
「アイス、後でもらいに行きましょうか」
それで、今度はこの男の口に突っ込んでやろう。
…食べかけのアイスを奪い返すくらいでは、この感情の収まりはつかないだろうけれど。


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長いが書き直すのめんどいのでこっちに。←適当。
適当ー!
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