|
美味そうな匂いと共に、うっとおしい鳴き声が聞こえる。 「う…うぅ…っ…っふ…っ」 元々声はいいだけに、じめじめと泣き続けられるとぞりぞりと神経を削られるような気さえした。 「泣くな！欝陶しい！」 掠れて出ない声にまでイラつきながら何とか怒鳴りつけてやると、男は鍋に向けていた視線をこちらに戻した。 「だ、だって…だって…ついに…ついにイルカ先生と…！」 …途中で頬を赤らめて、まるで乙女のようにくねくねと身悶える男は、無駄に整った見た目に反して、どうしようもないロマンチストだと知っていた。 だが、ここまでとは。 「…そんなんだと二度とやらねぇぞ…」 酷使した喉と軋む体に鞭打って呟くと、慌てたように駆け寄ってきて擦りつかれた。 「喉が…！痛くないですか？コーヒーじゃやっぱり駄目だった！？」 お前が飲ませたのはコーヒーだけじゃないだろう。 そういって怒鳴りつけてやろうかとも思ったが、まずはとにかく。 「いいから、落ち着け！」 ふさふさの頭をがしっと掴んで耳を引っ張り、正気に戻してやるコトにした。 そもそもこの男に正気なんてものが元々存在するかどうかってのは、とりあえず考えないコトにして。 ＊＊＊＊＊ 階級差があるとか、男同士だとかそれ以前に考え方も生き方もまるで違うのに、何の因果か恋人なんてものになって、それから…まあ所謂大人の関係ってやつに思うところはあっても中々それは果たせなかった。 嫌いなわけじゃない。だが…お互いに惚れていても乗り越えるには高すぎる山だった訳だ。 同性相手で…そんな経験なんて当然なかった。 だからこそ、だ。 稼業が稼業だから痛いのに慣れてるからって、それじゃ何のためにヤルんだって話だし、気持ちよくするのも気持ちよくなるのも無理なんじゃないかって思ってた。 そもそも、相手は高名すぎる男だ。別れは必然のように思えていた。 それなら…体を繋ぐ必要もないと。 側にいるだけでいい。欲を感じないわけがなかったけれど。 …でだ、そうやって消極的な俺に焦れた男が懇願する形でかなり強引に閨に持ち込まれて現在に至る。 初夜、なんていい方はしたくないんだが、男にとってはそうだったんだろう。 しきりに俺の体を気遣い、快感を探り出すのもどこか必死で、終始俺の名を呼んで切なげな瞳で見つめ続けた。 こっちは想像もしなかった行為を強いられ、想像もしなかった卑猥な体勢を取らされて、精も根も根こそぎ奪い取られる勢いで攻め立てられて…快感でも人は死ねると実感する羽目になった訳だ。 朝が来たコトにすら気付かず呆然とただ横たわっていることしか出来ない俺に、男が「お腹、減ったでしょ？何がいいですか？」というので、ぼんやりしながらとりあえず「麺。らーめんが…確か戸棚にあるはず…」なんていったのがまずかった。 男は蕩けそうな笑顔の中に不安を練りこみながら俺を見ていたのに。 「じゃ、探してみますね！」 テレながら微笑まれると、こっちまで恥ずかしくなってくる。 いたたまれなくてそっと溜息をついたのまではよかったが。 …それから、何かを企んでいるアカデミー生のようにキラキラした瞳の男が、夜明けのコーヒーとやらを口移しで飲まされ、驚いてむせたら今度は水まで口移しだった。 しかもだ。 「あ…も…なんでそんなかわいいんですかアナタは…！」 などと意味の分からないことを言い出した男に再度挑まれて散々貪られた。 「なーにが優しくしますだ…。ばーか」 文句も出ようというものだ。腰なんてすっかり感覚はないし、一日中寝て過してしまったし…。 空腹を抱えてぐったりする俺に、「あー！？インスタントじゃないですか！体に悪い！俺のイルカ先生なのに！」と近所迷惑にも程がある声で叫んだ男が、どこからか調達してきたスパゲッティを茹でているんだが…。 インスタントなら3分なのにとぼやく間もなく、男がぐずぐずと鼻をすすりだして、非常に鬱陶しい上に、これでは俺の空腹が満たされない。 …恥ずかしくて顔も見られないなんて、自覚したくないんだから、さっさと飯食ってもう1回寝てしまいたいのに。 耳を引っ張ってるだけでも間近で見る顔が、ついさっきまで薄紅色に染まって欲望に浮かされた瞳をしていたのを思い出せられる。 ああもう末期だ！なんだってこんな…こんな…！ 「好きです。もう本当にサイコーに幸せ…！」 「もう、黙れ」 素直すぎる唇を塞ぐために唇を寄せると、奪い取るように食らいついてきた。 なんて恥ずかしくて幸せな。 …これでまた空腹を満たすのが遅くなるだろうなぁと思いながら、せっせと俺の快感を探り始めた手に身を任せたのだった。 ********************************************************************************* 適当をどんどんさくさくー！ ではではー！ご意見ご感想など御気軽にどうぞ！ 引き続きー！ド粗品のニーズを探る旅＆夏のオフ本のニーズも探ってるんだってばよ！ ご意見…あれば是非にー！ 後眠い。眠いよ…？←ドヘタレ。 |