嵐の前触れ5(適当)


 締め切った薄暗い部屋でも、忍の目なら細部までよく見える。シーツに顔を埋めるのも、もぞもぞと手を伸ばして何かを探す仕草するのも、それから意識を手放しかけているのも全部。
「ふかふか…ねみぃ…」
「寝てていいよ。はい脱いで」
「んー…?う、はい」
 酒気の残るとろんとした目で素直に従ってくれた。自分がそういう対象になるってことを自覚していないのは確実だ。無防備で、危害を加えられるなんて少しも考えたことがないんだろう。
 これからその信頼を裏切ることになるのに、止めてあげる気は疾うにない。
「よくできました。…おいしそ」
 赤く染まった肌のそこここに、薄く浮かび上がる古傷が卑猥だ。わずかに色を変えた皮膚は前線で戦ってきたってことの証明で、今は教師なんてやってるけど戦績を考えればむしろ上忍を目指せただろう。
 この無防備さと無鉄砲さと、なりふり構わず味方をかばう癖さえなければ、の話だけど。
「へへ…かかしさんも、ちゃんとねなきゃだめですよ…おやすみなさい」
 髪の毛の手触りが気に入ったのか、やたらと撫でまわしくれるおかげで、あるかなしかの罪悪感めいたものが胸を疼かせる。それをはるかに上回るのは、この人の欲しがられているという錯覚だ。
 少なくとも嫌われてはいないだろう。この懐かれ方が、誰に対しても同じモノじゃないと信じたかった。
 半開きの口が誘っているようにしか見えなくて、引き寄せられるように口づけた。良く動く口は食べ物だとでも思ったのか、おずおずと舌が探るように触れてくる。わずかに苦し気な吐息は酒臭くて、それでも開かない瞼にせかされるように次の手を打った。
「好き。…ねぇ。欲しいって言ってもいいの?」
 返るはずのない言葉を待たずに、唇を胸の飾りに滑らせる。ほの赤く染まった肌がひくりと震えて、酔いの中でも感じていることを教えてくれた。身を隠すものを取り上げたせいで、けなげに震えて勃ちあがる性器も良く見える。
 この肌に触れたい。この熱を隔てる布が邪魔で、気がせくあまり服を着たままだったことに今更ながら気が付いた。
 乱暴に脱ぎ捨てて、僅かな時間でも離れているのがもどかしくて、肌を重ねた。
「ん…あったけぇ…?」
「そ?」
 項に軽く歯を立てても拒まれることもなく、むしろ熱を求めてかぎこちなく背に回された腕が思った以上に強く縋りついてきた。夏の嵐が連れてきた冷気は、確かに普段以上に部屋の気温を下げている。酔っていて、服も着てないんだから寒さを感じてもおかしくはないか。
 求めた熱源がこれから己を食おうとしていることになんて、気づいちゃいないんだろうし?
 どこからどう見ても雄の体で、欲望の印がヌルついて太腿を汚している。それなのに嫌悪感などまるで感じない。寧ろ手筈が整っていくことの高揚感さえあった。
 背に残っているだろう傷にかじりついたらどんな味がするだろう。思ったより細いが、バランスよく筋肉がついた二の腕も美味そうだ。じっくり時間をかけて全部に痕を残してやりたいのは山々だけど、そろそろ限界だ。
 早くこの男の中に入り込みたい。足を担ぎ上げて、最近出てきたと気にしていた割にはしっかり割れた腹筋に口づけて、隙を見て用意しておいた潤滑剤を掌で温めて少しずつ塗り広げる。
「んん…?うー?」
 流石に濡れた感触が不快だったのか、虫でも追い払うように腕が豪快に振るわれた。夢中になりすぎてまともに食らうところだったけど、間一髪交わすことができた。一応この人も忍で、寝ぼけていてもそれなりに鋭い動きだった。寝ぼけてるのにそういうところがこの人らしいっていうか、うっかりしたら怪我をさせられるのはこっちかも?
「縛っちゃおうかなぁ?」
 それは酷く魅力的に思えた。途中で正気付いても抵抗を抑え込むことができるし、何よりこの人にはきっと縄が似合う。
 極僅かに残った理性が、痕が残ったらこの人の仕事に差し支えることを思い出さなければ、多分実行していただろう。腕に縄の痕なんかつけてたら、周りもだけど子どもたちが怯えるかもしれない。体術はガイ相手じゃなければ遅れをとったことはないから、酒の残ったこの人相手なら恐らくは抑え込める。
 気を取り直して股間に顔を埋めたところで、いきなり頭を掴まれてわしわし撫でられてしまった。
「ん。危ないでしょ?」
「へへ…カカシさんだ…」
 まるで誘われてるみたいなんだけど。完全に寝ぼけた口調からして、未だ眠ったままなのは確実なのに、押しのけようとしたのが切っ掛けかもしれないけど、こうやって大事なものみたいに扱われるのは無自覚にしても受け入れられているようで。
「いれたい」
 濡らした指で縁をなぞり、硬く閉ざされた肉の輪をたっぷりと濡らしてから、指を一本ぐっと押し込んで回した。
「う?…いっ…え?」
「大丈夫大丈夫」
「…だいじょうぶ…?そうですか。ん…ならいいや」
 ちっともよくないと思うんだけど。口から出まかせで言い聞かせただけで、ぼんやりしたままあっさり体を明け渡してくれた。痛みに反応して意識を浮上させたらしいのに、こんなに簡単に言い包められちゃうってどうなのよ。裸の男に、同性に伸し掛かられてるのに、流石に無防備過ぎるんじゃないの?
 とはいえ痛みを与えるのはこっちも嫌だ。苦しめたいんじゃなくてこの人が欲しいだけだから。シーツがべたべたになるのも気にせずに潤滑剤を塗り込んで、今度はさらに慎重に濡れて充血していく穴を広げていく。
「…んん?」
 意識が怪しいくせに足をもぞつかせて腰を揺らしている。広げるだけじゃなくて指で中を探っているせいか。雄に欲を感じたのも初めてなら、抱くのも初めてだ。女の体とは勝手が違うが、同じ性別であるからこそわかることもある。
 素直な体は与えられる未知の刺激にも従順で、すっかり勃ち上がったそれは、今にも達しそうによだれを垂らしている。明らかに激しい反応を返すところもすぐに見つかった。
「ここ、かな?」
「ふっ、あッ、え?あ?」
 甲高い声が断続的に上がって、ゆっくりと閉ざされていた瞼が開いていく。
「きもちいいの?あんなに飲んだのに元気だねぇ?」
 このまま出させてあげてもいいんだけど、薄く膜のかかったように霞んでいた瞳が徐々に正気に戻っていくのをみると、そうもいかなそうだ。なによりこっちがもう我慢できそうにない。
「あ、や、なんですか?え?」
「ごめんね?」
 戸惑いながら肩に手をついた人にまるで誠意のない謝罪を投げつけて、それから。十分に広げたそこに突っ込んだ。
「んっ!っつ!あ、あ…!」
「痛い?」
「いてぇ…っつーかなんですか。嵐…?」
「…似たようなモノかもね」
 この期に及んで素ボケってどうなの?過ぎるのを待つだけの時間すら楽しんでいたこの人なら、こんな状況にも動じないってことだろうか。
 もう、なんでもいい。キツイそこをこじ開けるようにぐんっと奥に突き込むだけで、恐ろしく気持ちイイ。
「ひっ」
「ああ大丈夫?萎えてはいないけど」
 混乱と急激に高められた熱が処理できないのか、さっきあれほどしゃべっていた口は悲鳴染みた喘ぎ声しか零さない。
 それをいいことにコトを進める俺も俺だけど。
「や、あ!そ、ん、ぁとこ!」
「かわいいよね。ここも。こっちは…ご立派?」
「なにいって…!さ、触っちゃだめですってそんなとこ!うぁッ!」
 ガンガン突っ込んで鳴かせたい。気持ちイイ顔をもっと見たい。どっちつかずの欲は手近なところに落ち着いて、十分に育って開放を求めてひくつくそこに手を伸ばした。軽く触れるだけで感じるのか、掠れた声で拒絶するくせに、腰は続きを強請って嫌らしくくねっている。
 たまらない。…足らない。
 強く扱いて胸を弄っただけで、息をつめて後ろを締め付けてくれる。腹に飛び散った熱く粘るそれに、どうやら先に限界を迎えたらしいことを知った。
「凄い」
 腹に白いモノをこびりつかせて喘ぐ人は酷く卑猥で、興奮で頭の中の冷静な部分が少しずつ剥ぎ取られていく。
 茫洋とした目が次第にはっきりと意思の光を宿して、それと同時に快感をありありと映して歪んだ。
「あ、うそだろ。なんで」
「…うん。好き。全部消してあげるから」
「なに、いって」
 それ以上聞きたくなくて、言葉を、吐息を奪うように口づけた。
 もがいて抵抗しているのかそれとも慌てているのか、どっちかなんてわからなかったけど、背に回った手は俺を拒んでいないように思えて、言葉を次ぐことを忘れた。
 揺さぶって歯を立てて、とろとろと蕩けていく体は、今だけは俺のモノだ。
「あ、で、る、も…!」
「出して」
 助けを求めるように縋る体を抱きしめて、手の中で弾ける熱を受け止めた。締め付けに唆されるように奥の奥に吐き出す。快感だけじゃない満足感と、それと同じくらい汚してしまったことへの恐怖が這いあがってくる。
「イルカせんせい」
「ん…」
 …衝撃が強すぎたのかそのまま意識を手放してしまったらしい。
 全部なかったことにする前にこの人を綺麗にしてしまわないとなんて、妙に冷静にそう思った

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適当。
嵐の前触れ。続きの続き。あとたぶんほんのちょこっとかとおもいます。なげぇ。

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