大好物の酒に嵐を避けるための薄暗く閉ざされた部屋。それに食料もそろっているとくれば、ピッチが速くなるのは予想の範囲内だった。酒がうまいからもったいないといいながら、ビールを間に挟んで、買い込んだ料理もしっかり食べている。ここまでくれば…早晩眠りに落ちるだろう。 理性が切れた途端、冷静になれるってどんな冗談? 「うまい!」 「ん。おかわりね。はいどーぞ」 「かかしさんものみましょう!」 「俺はほら、まだ入ってるし。ああ、どれがおすすめ?こっちの和え物美味そうだけど」 「それは、美味いです!ごまと、ええと?あーうん。美味いです!」 「そ?ありがと」 忍にあるまじき速さで酔っぱらってる気がするけど、ご機嫌なのをいいことにどんどん飲ませてるのは俺だしね。一升瓶は早くも二本目が空になろうとしている。ビールの空き缶も机の上に山を作っていて、酔っぱらいが楽しそうにそれを積み上げて遊んでいる。手先が器用なのは知っていたが、酔っても手元がしっかりしているのは流石中忍といったところか。この分なら感度も鈍っていないだろうからきっと楽しめる。 欲に塗れた思考に浸っていても、どうせこの人は気づかない。己を戒めるはずだったそれが、今は後押しするものに変わってしまった。 「ふぃー…!いい酒ですねぇ」 「気に入った?」 「ふぁい!さあ食べた食べた!ちゃんと食わねぇと元気出ませんよ!」 勢いよく背中を叩いてくれた人は、つまみを律儀に半分ずつ残してくれていて、それを食べないと怒る。怒るっていうか、ま、心配してくれてるんだろうけどね。全身を僅かにしびれるような緊張と興奮が支配していて、食欲よりもずっと無防備な獲物を食ってしまいたい衝動の方が強い。それを押し殺すために、少しずつ口に運んでは酒を注いでやった。 酒で酔ったりはできないんだけど、見ているだけで酔いそうだ。鼓動が僅かに早いのに、頭は痛いほど集中している。逃がさないために…この人を楽しむためにどうすればいいのかを考えて。 酔いというよりは、これはただ欲に流されているだけか。 それでもいい。…だってもう今更だから。 距離を取ることもできずにこの人の周りを飢えた野良犬みたいにうろついて、結局はこうして閉じ込めてしまった。 今ならまだ引き返せる?…そんなの無理に決まってる。 「ふぅ。うー?つまみもっとかってくればよかったですかね?たりますか?ちゃんとたべなきゃだめですよ?」 「はいはい。ちゃんと食べてますよ。からあげ食べる?」 「うっ!いやでもそれはかかしさんの!」 「はいあーん」 「おわっ!むぐ!うめぇ…!」 「つまみ足らないなら何か作るけど」 「らいじょうぶです!…でもその、こんど、カカシさんの飯…」 口をもごもごさせて上目遣いで見るなんて、何されてもいいって言ってるようなものだ。 俺の飯を気にしてくれているなら、それを利用しよう。 「ん。朝ごはんはうちで食べてくでしょ?」 「ふぁい…んー…ごめいわくじゃなければ…」 あくびを噛み殺しきれずに零して、限界なのは見ているだけでわかった。そんな状態でも一瞬瞳を輝かせたところをみると、本当に楽しみにしているらしい。食事はきちんと用意してあげないとね。…ただし、それを食べられる状態かどうかは自信がないけど。 「大丈夫だけど、ねぇ。眠いの?お布団行く?」 「ん。もうちょっろ。へへ…カカシさんだ」 そこで笑うのは駄目でしょ?…なんて、説教できるような立場じゃないくせにね。 姿勢を保てないのかころりと顔を食卓に懐かせて、眠そうに眼をしばたかせている。並んでいた料理もほとんど片付いた。もう箸も持てずに突っ伏して口をもごもごさせている人は、それでも酒の入ったコップだけは手放さないでいる。 皿は適当に重ねて片づけて、流しのタライに放りこんでおいた。コップは…ま、明日でもいいでしょ。水は冷やしてあるから、朝は味噌汁と飯と、あとは適当に作ればいい。 「んあ?かかしさん?かかしさん…?」 「はいはい。なぁに?どうしたの?」 「いた。いたならいいんですよいたなら…ん」 動きは酷くぎこちないくせに、酔っぱらっても良く通る声で俺を呼ぶ。慌てて駆け寄ればこうして子どもみたいに抱き着いて、そのくせ意識を手放しかけている。 頃合いか。…任務で使った道具なら揃っている。痛みを与えずに最後までコトを進められるだろう。 後生大事に握っていたコップよりも、俺にしがみつく方を選んだ。それに期待なんかしちゃうつもりはないけど気分がいい。 だってもうすぐ、この人が手に入る。 「ねぇ。お布団、いこう?」 「ん。いっしょに?」 「もちろん」 「なら、いきま…ー…」 「うん」 あどけなさにどうしようもなく欲情して、胸をときめかせながら獲物を運び込んだ。 もちろん、全部綺麗に食ってしまうために。 ******************************************************************************** 適当。 嵐の前触れ。続きの続き。短いですが更新。土曜日出勤だと日曜日寝ちゃうってばよ…。 |