通い猫(適当)


足元で丸まっているイキモノはそれはもう手触りも良くて、さらに怪しげな覆面を下ろせば見た目も美しくて、声まで良い。
中身は…まあ大分難ありなのが残念な所だけど。
「重いですよ」
わざわざ深夜に勝手に人の家に上がりこんできたくせに、なぜこんな所で眠るのか。
せめて布団の中に入ってくれれば、重くて目が覚めるなんてこともなくなるのに。
布団ごと下敷きになっていた足を引き抜いても低く呻いただけで、そこから動く気はさらさらなさそうだ。
階級だけは上忍様だが、うちに勝手に居ついている以上、足蹴にしても文句は言わせない。
…最初は流石に少しの躊躇いがあったものの、今はベッドから蹴り落とす位なら気にもならない。
ただ、今日は流石にそれはできなかった。
「アンタ任務終わったなら自分ちに帰ればいいでしょうが…」
血臭はしない。
あるのは落としきれない殺気というか…緊張感を残した空気だけだ。
こんな重苦しい空気を抱えたまま人の家に転がり込むより、甘えさせてくれる腕の一つや二つ、心当たりはあるはずだろうに。
あとくされのない女くらい、いくらでも里が紹介してくれるし、花町の女は綺麗なモノが好きだ。
この男なら事情を知らずとも進んで閨に招き入れてくれるだろう。
…こんな風に甘え上手なのだから。
「イルカせんせ」
人の問いかけに答える気はないらしい。
ずるずるとはいずるように人の体に圧し掛かり、頬を摺り寄せたかと思うと、挙句の果てにふにゃりと顔を蕩けさせて眠り込もうとしている。
「ああもう!」
このまま風呂に突っ込んでこようか。それから適当に服を着せて飯も口に突っ込んで、ついでに布団にも突っ込んで…。
そこまで考えて、この男の危険性を思い出した。
今は大分草臥れているせいか、動くことすら億劫そうだが、隙を見せれば人肌を求めて当然のように人を組み敷こうとするのだ。
…今の所貞操は無事だ。内に転がり込んでくるときには、大抵疲れ切っているか、興奮しすぎているかのどちらかだから、隙をつくことも出来る。
風呂で勝手にその気になられても面倒だ。
こんなに手のかかる生き物を懐に入れてしまう気になどなれない。…それでなくてもこんな風に懐かれているだけで、手放せなくなりそうなのに。
「イルカせんせ」
無意識に俺の名を呼び、縋る様に抱きついてくる男を、俺はどうしたらいいんだろう。
目覚めればいつものように不思議そうな顔で俺を見て、それからまた…俺の家の前に落ちてたとか、適当な言い訳を作ってやらなきゃならなくなる。
どうせなら、いっそもう諦めてしまえばいいのに。
一度だけ迎えに来た黒髪の男が呟いた言葉が今でも耳に残っている。
それは、俺に向けたものだったのか、男に向けたものだったのか。
厄介な思いは今日も答えを見出せないまま降り積もっていく。
「アンタが、俺のことどう思ってるか言うまで、折れるつもりはないんだけどな」
そう呟いてしまうあたり、答えなど疾うに決まっているのかもしれない。



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適当。
中忍布団大好き上忍と、苦労性の中忍の話。
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