ね?(適当)




「ね」
「…なにが、ねなんだ。いや、ね、なんですか」
袖を引くイキモノがどっからどうみてもうさんくさい成人じゃなければ、まだもう少し優しくしてやれたかもしれない。
でもなぁ。この人毎度毎度こうだし。
今受付は大混雑してるってのに、これだ。
袖を引いて、小首をかしげて、それからちょっと強引にひっぱってくる。
一度は何か緊急事態かとついていこうとしたんだが、同僚に泣いて止められた。
そりゃそうだ。このクソ忙しいときに席を空けるわけにはいかないよな?
まあだからさくっとお詫びしてお引取り願おうと、今は無理ですってのと、他に連絡しますかってのと、ご用件はってのを聞いたんだが…。
「なんでもいいでしょ?ね。…こっちきて?」
ここら辺りでからかわれてるんじゃないかってコトにやっと気がついた。
…いやその前にアカデミーで俺がチビだったころから語り継がれる階段も思い出したんだけどな。
「ごめんなさい。無理です」
申し訳ありませんがーとかなんとかもうちょっと大人の対応をすべきだったとは思う。
何せ相手は中忍以上。俺が顔を知らないってことは多分上忍である可能性が高い。
でもなー。この仕草。
…どっからどうみても子どもの悪戯だ。
中身がちょっとアレな上忍はそれなりにいて、でっかい騒動と共に里に話題を提供してくれるからある意味貴重と思えって、受付始めたときに言われたもんな。先輩たちに。
じゃあがんばれよ!俺はもう二度とやりたくないっつー捨て台詞はいかがなものかと思う。思うんだが納得もした。ここは本当に忙しいし、変わった人は依頼人も忍もたっぷりやってくる。
そうなるとだな。逃げたくなる気持ちもわからなくはないんだよな。
今日の、今まさにこの瞬間の俺のように。
いつもなら適当に無視していればいなくなってくれるのに、今日はヤケにしつこい。
こうして構ってほしそうに纏わり疲れる度に、もやもやしたものが胸に溜まっていく。今は!忙しいんだよ!今は!
袖口を引っ張られ続けると作業がしづらいのになにすんだもう。
くっついてくるならくる!こないならこない!何で側にいてもじもじしてんだこの人は!
「ねぇ。どうしても、だめ?」
「…あの、ですね。今仕事中なんです」
だめだ。ぐらつくな。新たなる技、涙目なんてものを繰り出してきたとしても、この男は忍。油断したらあっという間に…何をされるんだろう。まあとにかくなんかされちゃうはずだ。よく分からんが何かをたくらんでる顔だから、それは間違いない。
「…ねぇ」
ああ、だめだ。きっと、いや絶対演技だと思うのに。
「こ、ここでなら!お話を伺います!」
大声でとっさにそう宣言してしまったのは、とにかく事態を何とかしたかったからだ。
ざわざわと並んでいる忍たちがこっちを伺っているのもわかったし、待たせすぎてイラついている人も少なくはない。とっとと決着をつけるべきだと思ったんだ。
…要するに、何も考えていなかったとも言う。
「そ?じゃ、好きです」
「はい?」
「あ、よかった。相思相愛ですね」
「え!?」
「後で迎えに来ますからー」
文字通り風のように消えた男を呆然と見送って、だが無情にも新たなる報告者は書類を置いて待っている。
「お待たせしました…!?」
混乱のうちに書類を片付ける俺を、同僚が諦観に満ちた瞳で見つめていた。
*****
人は減った。もうすぐ上がる時間だ。
だが、それはつまり死刑執行を意味しないだろうか。
「どうすんだ。どうしたらいいんだ」
「諦めろ」
「そんなこというなよー!なんだ?俺はこれから消されるのか!?まだテスト返してねぇ!」
「そうじゃなくてさ」
「なにがだ!」
「…お前、ほんっとーに鈍いのな」
「え?」
そりゃ痛みには強いし、風邪ひいてんのに気付かないで水遁バンバン使って怒られたりしたこともあるけど、え?
「あのな。あの人は多分本気で…」
「迎えに来ましたー!」
きた!とかどうすんだ!とか考える間もなく抱き締められて、あっという間に受付所が遠ざかる。
「わー!?おい!?」
「がんばれよー!」
つまりは男に浚われた。
無責任な同僚の応援もすごい速さで聞こえなくなった。
もうだめだ。俺の人生ここまでか…。長いようで短かったなぁ…。
涙すらも風に流されて乾いてしまうのが悲しかった。


で…その後、どうなったかって言うと。
限りなく絶望に近いものを味わっている俺に、切々と恋情を訴える男と、なぜか付き合うことになっていた。
二人っきりで告白をしたかったとか、照れくさかったとか、笑顔がかわいいですとか…!こういう一生懸命なイキモノに俺は弱いんだよ!
「うぅ…!」
うっかり頷いてしまったおかげで、今度は同性と付き合うと言う悩みと向き合わなくてはならなくなったわけだが。
「好きです」
…とりあえずそれだけははっきり口にするようになった男のおかげで、もやもやした気分はなくなったから、よかったってコトにしておこう。


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適当。
ニブチンイルカともじもじカカシ。
周りは上忍がイルカを食おうとしているが、アレは危ないからノータッチの構えだったが、上忍が思いのほか乙女過ぎて結局…ということで。
ご意見ご感想お気軽にどうぞ。

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