天使4(適当)

思い出さなくてもいいと言うのをいなして、無理矢理口を開かせた。
だがやっとなんとか大まかな話だけは聞きだせたというのに、いつイルカと知り合ったのか思い出せないってのはどういうことよ。
「そんなことが…そういやあったっけ?」
怪我なんかしょっちゅうしてたし、救援要請を受けたことなど掃いて捨てるほどある。
でもさすがにこの顔をみてたら覚えてると思うんだけどねぇ?
惚れた腫れたを抜きにして、ここまで目立つ特徴がある人間を覚えてないなんてことがあるだろうか。傷の有無なんて真っ先に記憶に残すはずなのに、任務で隠してた…にしてはそんな話は出なかった。
記憶力には自信があるし、それ以前に忍である以上、一度見たことのある相手は忘れない。
それなのにこんなに印象が残りそうな相手を俺は初対面だと思い込んでいた。
「覚えていなくても無理はないです」
そう言って少し残念そうにしながらも笑ってくれたけど…。
んー?イルカは良くても自分が気持ち悪いのよね。
惚れた相手を覚えていないってことも、忍としての能力を疑うような事態だってことも両方とも、俺にとっては放っておける問題じゃない。
「任務中で…俺は、そのときどんな格好してた?」
救援に向かった俺に助け出されたとしか聞いていない。
昔の話ならまだしも、正規部隊に入ってからなら多少は見当がつく。なにせ記録が残ってるし。でもなーそれより前だと、守秘義務盾に記憶操作でもされてたら無理だよね。
「お面かぶってましたね。あとは…そういえばちゃんと見たのは外に出てからなんです。それも一瞬でしたし」
そういえば閉じ込められてたって言ってたっけ?
「ちょっとまって、何か思い出しそう」
「あの時、腹に破片が刺さって、それになによりこの眼が」
とっさに閉じたまぶたの上を、暖かい手がいとおしむ様に撫でていった。
指先まであったかいところがイルカらしいと思わず頬が緩む。
なんだろうね。この人。俺より弱いのに俺を守ろうとする。ま、性分なんだろうけど。
男なのにまとう空気は恐ろしくなるほどやわらかくて穏やかだ。
包み込まれたら…それこそ昇天しちゃうかも。
この人が知ったら卒倒しそうなほど下品なことを考えながら、その条件に符合する任務を思い出そうとしていた。
瞳を負傷することはめったにない。借り物の瞳は自分のものじゃないし、里にとっても重要な兵器のようなものだから。
そんなことがあったのは…。
「ねぇ。兵糧丸くれた?」
「あげてません!あんなに使えって言ったのに、俺に無理やり…!外へでたらあなたの方が怪我がひどかったし!血の匂いで鼻が馬鹿になってたにしても、もっと手当てだってできたはず…」
思い出した。そうだ。いたよ。
でもあの時の声はもっと掠れてて、気配は小さくて弱くて消えてしまいそうだったけど。
「そっか。あの時の」
*****
にごった視界でも惨状は感じ取れた。
凄まじい血臭と、ひしめく今まで感じたことのないような異質なチャクラ。
それに取り囲まれるように救援要請に感じたのと同じ気配があった。
それ以外に感じ取れるまともなチャクラは一つも残っていない。
…間に合わなかったんだ。俺は。
焦りは足を早めることに使った。冷静さを欠けば最後の一人すら奪われかねない。
襲い掛かってくるモノを切り捨て、走った。
見つけた最後の一人は負けん気が強くて、俺がたどり着いた時には無謀にも捨て身で特攻しようとしていて、とっさに援護に回って…この人を抱え込もうとした異形の腕を切り落とした。
俺たちが追っていた奴らの大元は、どうやらここだったらしい。
間抜けにもそんなことにも気づかずに仲間を傷つけ、守りきることもできなかったってことだ。
おぞましい声で呪いの言葉を吐く化け物にしか見えないその生き物に、それでも男は止めを刺した。
そのまま抱き上げて距離をとった途端に自爆されて、後はもうめちゃくちゃになっちゃったけど、最後の一人だけでも守りきれたことに少しだけ安堵した。
この人は、まだ生きている。
今回の任務は最悪で、ひよっこばかりの部隊には荷が重かった。
それでも慎重に策を立てたつもりが、結果的には犠牲者はでてしまった。
数ばっかりいても意味がないから、使えないのは戻すと宣言しておいてよかった。
もう無理だろう。仲間の死にあれだけ取り乱す奴は、ここでは生き残れない。
…残った奴らだけでも返してやりたくて、それは何とか間に合ったから良かったんだけど。
でも、守りきれなかった痛みを俺は誤魔化したかったんだ。多分。
せめて、この人だけでも助けたい。
戦闘中は気づかなかったけど、まだ細い成長途中の体だ。
ま、年齢的には人のことは言えないんだけど。多分ちょっと下だと思うけどあんまりかわらなそうだ。
爆発の後、薄明かりさえ途絶えた中で、手探りで手当てを終えた。
自分の方は元々やられた瞳は別として、被害は吹っ飛んだ面と破片で内臓に届かない程度にちょっと切っただけの傷だ。この程度なら治療すれば問題ない。
それに比べたらこの人は満身創痍としか言いようがない。
手足は切り傷だらけだし、破片で多分頭も傷つけている。服もぼろぼろだ。
塞げるものは塞いだとはいえ、ここにいたら早晩この人は死ぬ。
まあそれは俺も遠からずなんだけど。さすがにここまで密閉された空間で食料もチャクラもなしってのは厳しい。
絶対にそれを悟られるわけには行かなかった。
血を失いすぎたせいか震えているこの人には、焦る素振りすら見せられない。
ああいう思い切りがいいことをする人は、大体諦めも早いんだよね。
何度見てきたかわからない。…大抵は俺を庇ったときに、笑って言う。
お前は生きろって何様のつもりなのよ。
あいにく薬の類はほぼ使い切って、補充できたのは目薬だけ。ま、元々持ってたとしても、俺の手持ちじゃこの人には強すぎて使えない。
せめてあっためなきゃと思って抱き寄せたら、犬の毛みたいな髪の毛に気がついて、ちょっとおかしくなった。
さわり心地はあの無鉄砲ぶりに似てまっすぐで、状況的には埃っぽいはずなのにさらさらと指どおりも良かった。
それに、もしかすると発熱しているのかもしれない。震えている割にはその体は温かくてこんなときになんだけど心地良い。
不思議と落ち着いてきた。なんだろ。落ち込んでたし焦ってたし、最低の気分だったのに。
いなくなったらあの心配性の副官が絶対に探しに来るはずだし、あの式はまだ消えていなかった。助かる見込みは十分にあると、うそじゃなく思うことができた。
それでもどうしてそんなに死にたがるのかって思うほど、丸薬を飲めと駄々をこねるから、ちょっと無理矢理な手段で飲ませちゃったのは…そのせいもあるかもしれない。
俺一人だけ助かったって嬉しくもなんともない。この瞳があるから勝手に死ぬわけにもいかないけど。
この人、どうしても助けたくなっちゃったんだよね。なんでかしらないけど。
元々助けるつもりだったけど、今の感覚は衝動に近い。
「え!?うわ!?えぇえ!?」
「はいはい。騒がない騒がない。…着いたみたいね」
うちの副官が優秀だ。さっさともっと詰めの甘さが抜ければ後を任せられるんだけどねぇ?
ま、いいや。もうちょっとこの人の側にいたかったけど、これでこの人は助かる。
引き上げられてからすぐ医療班に眠らされてしまって話すこともできなかったけど、行き先は一緒だ。なんとかなるだろう。
…そう思っていたのが誤算だった。
瞳の損傷を重く見た上層部に隔離までされるなんてね。確かにその頃は怪我も多くて、闇雲に仲間の盾になってばかりだったから、ある意味アレは警告だったんだろう。
結局、最後に話したのはあの暗闇の中になった。

…顔も見てなきゃ声も低くなってるし、わかんないよね。そりゃ。
そう思いながら髪に触れると、思った通りあの頃と同じまっすぐで手触りがいい。
「カカシ、さん?」
「ん。手触りいいの、変わってないなぁと思って」
思わず頬が緩む。そうそう。この髪だ。
多分抱きしめたらあのあったかさもかわらないんじゃないだろうか。
触るだけで分かるってちょっと変態くさいかも。
でもこれで、思い出せる。
あー…なんか、あのふわふわした感覚まで戻ってきそう。
天使とか言ってたけど、よっぽどこの人のほうがそれに近い。
清らか過ぎるとこなんかも特に。
「あ、あなたこそ!怪我は!大丈夫だったんですか!?」
思い出に浸ってたら、いきなり服を剥かれた。怪我は多い方だけど、傷跡はもう残っていない。そんなに深くなかったし。
そんなことより確かめるように腹を撫でてくるこの人の方が問題だ。
「なにすんですかもう!」
「だ、だって!ずっと心配してたんです!天使みたいに白いし!でも血が…血が…!」
うーん。この人らしい。後輩に言わせると俺も大概ロマンチストらしいけど。
「煽ってるわけじゃないのもわかってるんだけどねー」
この人にそんな器用な真似ができるとは思えない。
どっちかっていうと、いきなり脱いで乗っかってくる方がまだしっくりきそうだもん。
「と、とにかく!これからは俺があなたを守ります!」
ああもう。どうしよう。こんな台詞にときめくなんて。
実力的には俺より絶対にこの人の方が弱いのに。
「惚れ直しました」
「へ?」
「とりあえず…ちゅーしません?」
「え?え?」
ぼんやりしてる方が悪いってことにして、唇はちゃっかり頂いておいた。
あ、固まっちゃった。…ま、これから先はおいおいってことで。急がば回れだもんね。
「好きですよ」
ま、それだけでいいんじゃない?シンプルに。
多分、必要なのってそれだけでしょ?


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適当。
というわけで上忍は天使食う気まんまん。
ではではー!ご意見、ご感想などお気軽にどうぞー!


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