知り合いの上忍が犬の群れを率いて歩いていた。 上忍を先頭にぞろぞろと犬がついてまわるさまは、なかなか壮観だ。 雨は上がったばかりで地面はまだぬかるんでいる。 そもそも季節が季節だから、からっと乾くことなどないのだが、そんな足元の悪い中、犬たちは行儀良く、そして楽しそうに整然と己の主について歩いている。 散歩、なんだろうか。 顔の殆どを覆っている上忍は、相変わらず表情を読み取るのが難しい。 だがどこか微笑ましいと思えるのは、かの人の足取りが軽やかだからだろう。 見ているだけで楽しそうだというのが分かるほどに。 犬たちもすれ違う人たちの前ではすまし顔をしてはいるが、鼻を突合せ、わふわふと仲間同士でなにがしかやりとりしながら歩くさまは、やはり主人同様この道行きを楽しんでいるのだろう。 声をかけようか、それともそっとしておいた方がいいだろうか。 図らずも自宅へと帰るために歩く自分と、犬たちを引き連れた人が歩く方向が一緒なようなのだ。 おかげで後ろからふわふわした尻尾と、それを連れて歩いている男の銀色の髪の毛が視界に入れようとしなくても入ってしまう。 きっと犬たちの散歩コースがこのあたりなんだろう。 今まで目にしたことがなかっただけに驚きはしたものの、ふわふわしたイキモノは見るだけで楽しい。…不遜ながらその中にふわふわ頭の上忍まで入れてしまったなんてことは誰にも言えないにしても。 追い越すことはできたけれど、不審がられなければいいなと思いながら、どうせならと少しだけ歩みを遅くした。 ふわふわの尻尾の群れを眺めながらの帰宅は、なかなか気分が良かった。 急いで帰ってゆっくり風呂にでも入りたいと思っていたのをあっさり変えてしまえるほどに。 それでももう家までついてしまう。 犬たちはちょうど自分の家の前に一足先にたどり着いていた。 寂しさを覚えたつつ、心の中でこっそり犬たちに別れを告げていると、何故か先頭を歩く犬…ではなく、上忍が足を止めた。 一旦休憩でもするんだろうか。 上忍が何事か指示したらしく、思い思いにくつろぐ犬たちが、まるで自分を見送ってくれているようで得をした気分になった。 …もしかして尾行けられていると勘違いされてたりしないよな? そう不安に思わないでもなかったものの、それならさっさと捕縛なりなんなりされているだろう。 なにせ相手は凄腕の上忍だ。 この人の部下になったかつてに生徒たちに言わせると、ちょっと変わってはいるらしいけど。 自分の住むぼろアパートの階段はすぐそこだ。あがってしまえば犬たちともお別れになる。 またいつか会えればいいのだが。 そう思いながら、さびの浮いた手すりに手をかけた。 「うそ」 いきなり前に進めなくなって初めて、上忍が俺の腕を掴んでいることに気がついた。 ウソって何だ一体? 「あ、あの?カカシ先生?」 「あ!ごめんなさい!で、でも!あの!いつの間にここに!?」 いつの間にも何も、ずっと後ろを歩いていたのに。 どうやら俺が勝手に犬の散歩に混じりこんでいたことに、この人は欠片も気づいていなかったものらしい。 「俺の家が、ここなので。…あの、すみません。犬たちがかわいかったので後ろから眺めてました」 ひょっとして咎められるかと思ったのだが。 「うわ…!…あの、ごめんなさい!」 「わっ!?え?なにがですか?謝るようなことじゃ…!」 掴まれた腕は離されたのに、今度は両手で包み込まれるように手を握られた。 「…好きです!」 「へ?」 「きゃー!」 「えええ!?」 何がなんだかさっぱり分からない。 だが、悲鳴と共に犬も上忍も綺麗さっぱり消えていた。 ***** その後、受付所を除きながら挙動不審な行動をしていた男を捕まえて、事情説明ついでに再度告白のやり直しとやらをされたのだが、とりあえずお友達から始めることになった。 …犬の散歩に混ぜて貰えるならって条件で。 そうして、男があの日俺の家の前にいたのは、ああして俺の家を眺めるのが日課だったからだと犬たちから教わって知った。 犬たちがじゃれているように見えたときに、主に何度も俺がいると告げようとしたのだそうだ。 …なんというか、やっぱり変わった人だ。 要するに、あの軽やかで楽しげな散歩は、俺の家を見られるからってだけでああも舞い上がっていたってことらしい。 そうして、今日も俺の隣であの時と同じ…いや、もっと楽しげな足取りで犬たちを引き連れている。 時々ちらちらと俺の様子を伺っては、さっと目をそらしてなんでもないって顔を必死で作ったりしながら。 …返事は、もうちょっとだけ待ってもらおう。 好きだと告げてしまったら、この人が驚いてひっくり返ってしまいそうだから。 早く俺に慣れてくれないかな。 ため息を一つついて。今日も俺は犬たちとこっそり目配せしあったのだった。 ********************************************************************************* 適当。 犬もいいなぁとふと思ったという話。 ではではー!なにかご意見ご感想等ございますれば御気軽にお知らせくださいませ! |