雨音(適当)


梅雨時らしいはっきりしない天気のおかげで、その銀色の頭まで湿って灰色に染まった景色に溶け込んでいるように見える。
「終わったの?」
「…ええまあ」
部屋で待っていればいいものを、わざわざこうして迎えに来るんだから物好きなことだ。
「イルカせんせ」
「なんですか?ああもうこんなにびしょぬれで…!なにやってんですかあんたは」
この季節にありがちな狂ったような雨を凌ぐには、木陰では不十分なのは分かっていたことだろうに。
普段は逆立つ髪の毛が水を吸ってへたりこんでいる。服からも水が滴っているほどだから、随分と長いことここにいたのかもしれない。
少しだけ、慌てた。
このままここへおいておけば、この男は捨て猫宜しく俺を見上げるばかりで動きもしないだろう。
それが同情だのなんだの…とにかく俺から感情を引き出すための手段だと知っていても、放っておくことなどできなかった。
この男があざとい手を使って、俺の興味をひきつけようとするたびに、不思議に思う。
なりふり構わずに求めるほどのモノじゃないだろうに。
上忍なのにこんな風に無防備に…いや、多少の演技もふくんでいるにしろ、濡れそぼったままこれ見よがしに俺からの反応を待ち続けている。
そんなことをされれば、当然良心が疼く。
…例え人でなしな欲望が理由だとしても。
濡れた手を引くと、垂れかかるように抱きついてきた。
一瞬怪我でもしていたかと焦らされたが、どうやら甘えているだけのようだ。
「笑ってないで立て。帰りますよ」
「んー?そうね」
一体何が楽しいのやら。
とりあえず何があったかは聞かないでおこう。甘えるのが致命的に下手な男だから。
「洗ってやるか。しょうがねえ」
抱き上げると流石に少し驚いたようだが、とりあえずはおとなしくしていてくれそうだ。
「温かい」
「あんた冷えきってんでしょうが」
暖めて飯を食わせて、あとのことはそれから考えよう。
懐で喉を鳴らす男が、いつまでも大人しくしてはいないだろうから。
染み込む雨よりも冷たい体では、共寝するにも具合が悪い。
こんなことを考える自分も大概外道だが。
「雨何て嫌い」
「…奇遇ですね。俺もです」
濡れた男を見るのも、喪失だれかを記憶を思い出すのも全部まっぴらだ。
「イルカせんせのさ、そういうとこすき」
「…そこは気が合いませんね?」
うそだけど。
…ああ、どうしてこんなおとこを、雨の日どころかいつのまにか消えてしまいそうな人を、好きになってしまったんだろう。
答えるものなどない灰色の世界で、男がにんまりと笑った気がした。


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適当。
なにげにいちゃいちゃ?
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