布団は暖かく、傍らにある熱源に頭を摺り寄せればやわらかく微笑んで口付けてくれる。 このぬるま湯のような世界にずっと浸っていたかったのに。 「さあ、そろそろ一旦起きてください!」 残酷な宣告どおり、次の瞬間には温もりに満ちた布団は引き剥がされ、隣に横たわっていた人はさっさと立ち上がって手触りの良い素肌を忍服なんて無粋なもので隠してしまっている。 ああ詰まらない。ものすごく気に入らない。…それに寂しい 「折角お休みなんだもん。もっと一緒に寝てくれたっていいじゃない」 駄々をこねながら布団の上でごろごろと転がって見せつつ、上目遣いで強請ってみた。 この人は俺が子どもっぽい仕草で訴えるたびに困ったような顔をしながら、結構な我侭を聞いてくれる。 他愛のないと言えば他愛のないことばかりだが、この人にとってはそれなりの犠牲を払うことばかりを。 たとえば、もうちょっとだけ撫でてくださいとか、今晩は早く帰ってきてね?だとか。 今まで相手にしてきたどの女より面倒なことを言っているという自覚はあるが、それでもこの人はたいていのことは聞いてくれる。 …でも。仕事に関することだけは駄目なんだよね…。 「俺は受付です。午後休とってあるからそれまで待っててください!それに!まずは朝飯です!飯食わなきゃ元気でないでしょうが!」 そう、これがうみの家の方針。…らしい。結局この人しか生き残らなかったから、俺のせいでその教えは途切れる訳だ。 どんなに罪深いと騒がれようが咎められようが罵られようが、この人以外駄目なんだもん。悩まなかった訳じゃない。意外に思われるかもしれないけど、俺は基本的には常識を重んじる方なのよ。これでも。 でもね?俺が全身全霊で求め、手に入れるために手段を選ばなかったのはこの人だけ。 本能のレベルで必要な人を、今更諦めろといわれたら死ぬしかない。 それでなくとも死にたがりのケがあると誤解されていたらしいから、俺がそういっただけで外野は恐ろしいほど静かになった。むしろ未だに怯えていると思う。 未だにこの人のことを欲しがっている人は両手両足を使っても足りないくらいいるし、同じくらい写輪眼の子種を欲しがる女もいるけど、その一切を押さえ込み、多分気付かせないようにしてくれている。 ま、俺もさっさと処分してるけどね!俺の邪魔をしないでくれるなら無視してやれるけど、そうじゃないなら消すしかないでしょ? 「ごはん食べます…」 一番大それた願いは驚くほどあっさり叶ったのに。 好きだといったときにそりゃもう目をむいて驚かれた挙句に掴みかかられて、あんた正気かとかまで言われて、でも好きなんだもんって泣いて見せたらあっさりじゃあアンタ俺のモノですって言ってくれたんだもん。 それまでこの人に言い寄る男も女も全部きれいに闇から闇へ葬ってきたのに。術を使うときも任務にかこつけたときも、少しの罪悪感も感じなかったのに。 どうしてこの笑顔の前だと呼吸さえ止まりそうなほど苦しくて、あっさり頷かれたのが信じられなくて、そのまま強引に全部自分のモノにして、それからやっと安心できた。 本当はもっと抵抗できたはずなのに、この人は怒ってみせたくせに受け入れてくれた。 甘やかしてもらってるのも分かってるけど、でもでも!寂しいんだもん! 「ちゃんと食べて、それからゆっくり休んで…おかえりなさいって言ってください」 「え?」 あの笑顔だ。俺から何もかもを奪う。 思考も、抵抗も、それから心さえも。 「行ってきます」 そうして行ってしまってからも、俺は身じろぎ一つせずに閉ざされた扉を見つめていた。 「反則でしょ…!」 帰ってきたらおかえりなさいのついでにやりたい放題させてもらうんだから! そう決意してまだかろうじて湯気を立てている朝食にはしをつけた。 全部きれいに残さず食べて、後でたっぷり褒めてもらうために。 ******************************************************************************** 適当。 今度は(`・ω+´)→Σ(*´こ`) ご意見ご感想お気軽にどうぞ。 |