数日遅れのプレゼント(適当)


祝いだと差し出された代物はどうせろくでもないものだろう。
男と俺との関係自体、ろくでもないものなのだから。
「大体俺の誕生日はとっくの昔に…」
男が任務に出ていたのは知っている。それにしてもこんなに年でしかもこんなに時間がたってから誕生日プレゼントなんていわれても扱いに困った。
固辞しようとしてもどうせ男は好きなようにするだろうと知っていても。
「いいじゃない。受け取ってよ」
案の定押し付けられたその箱は、男の持ち込むものにしては小さいものだった。
普段から気が向いたからと、一目見て高価なものだとわかる酒だのつまみだのを持ち込むことは多かったが、懐事情が反映されてか、それらは大抵量も常識の範囲を超えていた。
桐箱に詰まった酒なんて、怖くて飲めたもんじゃない。
それも一本じゃなく数種類取り混ぜて大量に並べられたら、これ持ってさっさと帰れといった俺の方が正常なはずだ。
そ のときも「いいじゃない?酒なんて飲んじゃえば一緒でしょ?」などと言ってきて、そういう問題じゃないと退けるはずが、ずうずうしく上がりこんできた男に 「なぁに?飲ませてなんかすると思ってるの?意外と怖がり?」なんて言われて言葉巧みに乗せられて、気づけばすっかり箱の中身はスカスカになっていたっけ。
ついでにいい感じに出来上がった所で、別のものもすっからかんになるまで搾り取られてしまったんだが。
結局散々嬲られて喘がされて、ろくに声も出なくなってしまって、それでもせめてと視線だけで怒りを訴えたというのに、男はしれっとしたものだった。
「しないなんていってないでしょ?」
そうだ。最初からして酷かったのだから、男が正規部隊へ所属するようになったからといって、油断なんてしちゃいけなかったんだ。
なりたての中忍のときに、作戦会議だと連れ込まれた天幕で何をされたか…忘れたわけじゃなかったのに。
得体の知れない相手に強いられた行為に抗い、かなわないと自覚した途端に情けなくも泣き出した俺にも、男は終始楽しげに笑っていた。
可愛いだのもっと欲しいでしょだの…ろくでもない台詞ばかり吐きながら。
自分と同じ性別の生き物に貫かれ、揺さぶられながら、あえぐしかなかった過去は、悔しさと共に未だに俺の心に抜けない棘のように残っている。
あれ以来なんだかんだと俺にまとわりつき、こうして隙をついては何かと不本意な行為を仕掛けてくる男のせいで忘れられないというのもあるのだが。
任務が終わればそれっきりだと自分を必死で慰めたのに、あっさりと男はそれを裏切った。
男は長期任務につくことが多く、その隙を狙って引っ越したこともあったというのに、この男には何の意味もなかったらしく、いつの間にか勝手に俺の家に上がりこまれるのが当たり前になりつつある。
少しずつ、だが確実に、男は俺の生活を侵食してきているということだ。
だからこそ、この箱を開けるのが恐ろしい。だがこれを開けないことで男に馬鹿にされるのが何より腹が立つ。
抗ってもかなわなかった記憶は未だに俺の中に燻ったままだ。
その怒りと捨てきれない矜持が、罠だとわかっているのに、俺に馬鹿な選択を強いた。
乱暴に破った包装紙の中身。それは。
「記念日だしちょうどいいかなーって」
指輪だ。それも内側に何がしか彫りこまれているのだから、もしかしなくても特注品だろう。
シンプルな銀色の輪は、いつの間にか男の手に渡っていて、当然のように俺の薬指に収まってしまった。サイズなんて自分でも知らないのに、ぴったりとはまったそれは、まるで俺を縛る鎖のように思えて。
「なんで、こんな」
「ん?最初の夜に言った事、覚えてる?」
恐ろしさに震えていた俺が覚えている台詞なんて、断片的だ。
それもろくでもないことばかり言われたはずだ。
何をそんなに…うっとりと目を細めているのか。この男は。
「知らない。あんたのことなんかなにも」
名前さえ、上忍師になるまで知らなかった。知ろうとも思わなかった。
「あら、残念。忘れちゃった?こんなに…全部知ってるのにねぇ?」
覚えてるでしょ?ここで。
くちゅりと音を立てて男の指を食むそこは、未だ男の注ぎ込んだ欲を孕んだままだ。
結局はそっちばっかりなんじゃないか。
悪態は言葉にならず、慣れた体は快感を拾い始めている。
「しらない。なんにも。…あんたが、なにをいったっていうんだ」
段々本気になり始めた動きに、疼く体が恐ろしい。交じり合うなんて、望んだことはないはずだ。
体だけ。それ以外は知らない。…知りたくない。
「一目ぼれってこういうこと?って言ったんだけどねぇ?ま、あんあん喘いで泣いてたから覚えてないか」
「うるさい!…も、やめ…!」
熱っぽい瞳は、この男が勝手に欲情しているからだ。こんなヤツの言葉なんて信じたらいけない。
そう思うのに、どうしてこんなにも抗う気力が失われてしまうのか。
「好き。だから…諦めて、一生俺に囚われて」
最悪の台詞だ。
それなのに、男の薬指にもそろいの指輪が嵌っていることに気づいてしまった。
ああ、どうしよう。…嬉しいなんて思いたくないのに。
「馬鹿野郎…」
喘ぎにかすれた悪態に口付けをよこして、男はいとおしげに俺を抱きしめた。


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適当。
6月の花嫁ねた的な感じで。寝オチの帝王過ぎて悲しいです…。
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