悪趣味(適当)


だれよりもなによりも大切な人だ。
触れることすら思い付かない位、遠い人。
その姿を見守るだけで耐えられると思っていた。手に入れてはいけない人なのだと。
己が忍としては優秀でも人としては出来損ないであることなど、誰に言われないでも知っていた。
あの日俺に笑いかけないでくれたら、そのままでいられたのに。
…一度たがが外れたケダモノを今更押さえ込めるわけがない。
望まない快楽に蕩けた虚ろな瞳がたとえようもないほど俺の欲を誘った。
半開きの口からは言葉にならない甘い悲鳴とせわしなく熱い吐息を零している。
「ん…っんぅ…っ!」
「きもちい…?」
「や、や…っ!そこ、あ…っ!」
何度もイかせた。
度重なる情交でぬかるんだそこを突き上げると、ひくひくと手がシーツを掻く。
強引に頂点を極めさせ続けたせいで、抵抗すらおぼつかないらしい。
そもそもの切欠が無理やりだ。それなのにこの手が俺の背にすがってくれればいいのにと、埒もないことを思った。
「脚、もっと開いて」
「ひ、ぁっ!」
ぐっと腰を進ませ、奥の奥までこの人の中に自身を飲み込ませた。
衝撃に反り返る喉に口付けだけでは足らずに歯まで立てて痕を残し、それにすら感じ入ったように甘い悲鳴を上げる熱い身体が、己の分身を締め付けるのを楽しんだ。
なんて気持ちいいんだろう。…気分はこんなに最悪なのに。
「もっと、欲しいでしょ…?」
「や、も…!…おかしくなる…!」
だから終わってと懇願するいとしい人。
どうしてか鳴かせたくて仕方なくなって、これ以上はかわいそうだと思うのに喘がせるのを止められない。
この体に突き立てられた己は凶器そのもの。
切り裂かれ喘ぐこの人の心は、俺に向けられることなどないのだろう。
「ごめん、ね…?」
「…っぁああ…っ!」
高みに追い上げられて、もう吐き出すものも碌にないらしい性器からこぼされたのは、涙のような煌きだけで。
意識を手放した体に俺もたっぷりと吐き出し、汚した。
どろどろの体は俺の匂いでいっぱいだ。
それなのに、この人は、この人の心は俺のモノにはならない。
命を奪うことは、息をするより簡単だ。
だがこの人の心が欲しいのに、その方法は一つも知らない。
こんなことしかできない己に泣いて、それでも手放すことなどできないと狂った己を哂った。
*****
報告書を受け取る。
ここにくる者たちは名も素顔もさらすことはない。
ただひたすらに戦い、その結果だけを知らせにくるだけだ。
いつも通り、俺はその紙切れを受け取るだけでよかった。
…白い紙に書き付けられた内容は、墨さえ赤く染めてしまいそうなほど血なまぐさい。
ふっと手渡した男をみると、濡れそぼり、面の奥の表情はうかがい知れない。
だが、俺には…まるでしょぼくれた犬のように見えたんだ。
成り立て中忍の振る舞いとしては不遜だと知りながら、俺は。
「お疲れ様です」
一言、そう言っただけだ。せめてと、笑顔を心がけて。
それだけなのに面の奥の瞳がわずかに揺らいだ気がした。
…蹂躙がはじまったのは、それからすぐ後、見知らぬ部屋に運び込まれてからのことだった。
ひたすら与えられる快感はむしろ恐怖に他ならなかった。
経験も碌にないというのに、どこか必死ですらある愛撫に蕩かされて、気づけば散々喘ぎ、どろどろになるまで男の欲を飲み込まされていた。
目覚めて、あまりの惨状に悲鳴すら上げたほどだ。…もっとも碌に声など出なかったのだが。
シーツは男と、それから自身の吐き出した欲望でひどい有様だ。
それから、もっと酷いことに、蹂躙者はなぜか俺を見て怯えた顔をしたのだ。
「あんた、そりゃないでしょうが…」
手を伸ばしただけで泣きそうな顔をされるとは思わなかった。どちらかというと痛みと、未だ熱がくすぶったようにうずく体をもてあましている俺の方が、泣く権利があるはずなのに。
「ごめん」
面をはずした男の顔は、たいそう整っている。…今更だが素顔を見てしまった。
素顔を以外もばっちり体で覚えさせられてしまったことには目をつぶっておくことにして、問題はこの男の態度だ。
「あんた謝って済むと思ってるんですか?」
そう告げると、もどかしそうに男の手がシーツを掻いた。…何かを、押し殺すように。
ああもう、なんでこの人は。
この期に及んで触れるのに躊躇するなんて。
「触りたいなら言え。それから…あんたはもう黙って俺について来い」
めちゃくちゃな台詞だ。もっというなら声だってかすれてて相当に聞き苦しい。
だが、それでも。
抱き寄せた体は俺にすがり付いてきた。
「すき。ずっと好きで、でもどうしていいかわからなかった。なのに笑うから」
涙ぐんだ瞳で見上げられて、胸がきゅっと締め付けられた。
男の言葉は支離滅裂なことこの上ないが、こんなにきれいな生き物にうっかり惚れてしまったらしい。
だって、あまりにも必死だから。…こんなにきれいな生き物が必死で俺を欲しがっているから。ほだされないほうがおかしいと思う。
そしてとりあえず責任を取らせようというもくろみはうやむやのうちに成功しそうだ。
「言い訳しない。…とりあえずあんた責任とって俺のモノになりなさい」
ぽかんとした顔が泣き笑いに変わる瞬間にまたときめいて、こんな無体を働いた責任をきっちりとらせようと決めた。

…養い親でもある里長の悪趣味だというそしりには笑顔で答えた。
今でも時折己に怯えてみせる男には多少強引にでも抱き寄せて、その笑顔を独り占めすることにしている。


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適当!
ねむけにまけすぎです。・゚・(つД`)・゚・。
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