追いかけるの、もう止めちゃおうかな。 そう思えたことをいっそ清々しく思えた。 驚くほど手の届かない人は、いつだって誰にでも笑顔で、だから俺にも笑顔で、だからこそ、俺だけに向ける特別なんてありえない。 気づいてないだけで女にもモテてるし、ナルトが認められたことであの人への扱いも変わったみたいだし、いつだって自力で幸せになれる人だもんね。 同性じゃなきゃ、何か変わったかといわれたら、それも否だ。 だって、俺とあの人は違いすぎる。 任務だってきちんとこなす人なのは知っている。でも根っこが違う。俺みたいにゆがんでないし、曲がってないし、どこまでもまっすぐで、何があってもそれが変わることはないだろう。すごく純粋で、やさしくて、そのくせふとした瞬間に見せる鋭さも俺を魅了してやまない。 多分きっと、好きだなぁと思うことに少しずつ疲れ始めていたのかもしれない。 「付き合っちゃったりするのかねぇ?」 クリスマス、一緒に過ごしてくださいなんて、俺には絶対に言えない台詞を口にして、あの人の好みだろう顔はそこそこで、ドンくさそうで胸の大きな女が抱きついていた。 うらやましいと思う前に、あれが当たり前なんだとどこかで納得してしまった。 俺じゃ駄目だなんて、ずっと前からわかってたはずなのに、どうしよう。 泣きそう。全部今更なのに。 思わず逃げ出してしまった俺を、もしかするとあの人が見咎めたかもしれない。 当然いつも通り気配は消してたつもりだけど、あの人はなんでかしらないけど俺が落ち込んでたり、怪我してたりするとすぐに気づいちゃうから。 今俺は泣きそうで、いい年した男が川原で膝を立ててうすっ暗いため息なんかついている。水面に映る騒がしい太陽の断末魔が、何もかもを真っ赤に染めていて、これを、こんなにも強い景色を綺麗だといっていたあの人のことをまた思い出している。 何をするにもあの人のことばかりを考えて、いっそあの人が心の中に住んでいるといっていいくらいにいっぱいになって、苦しい。 それなのに忘れることなんてできそうにないくらい、胸に降り積もって育ちきってしまった思いが死んでくれない。 「あーあ」 苦しい。望んでも手に入らないものばかりが増えていく。 俺にとってはそれはいつものこと。でも、当たり前のはずのそれが、あの人に関してだけはどこかで諦めきれないままなんだ。 忍として磨いた技だけしかもっていない。だからこんなときでも無表情でいられる自分を、誇ることなんてできやしない。 「あー!いた!カカシさん!そこ!動くなよ!」 それは命令というよりも怒声に近かった。 慌てているのは確実だけど、怒ってるのはどうしてなの?やっぱりみちゃいけないものみちゃったから? あの女と付き合うの?それで、それなのに俺が妙にしょぼくれてるから心配でもしてくれるの? そんなの余計なお節介でしかない。 「えーっと。…お幸せに」 理由が何をしてしまうかわからないから近寄って欲しくなくて、だったけど、笑顔でそう言えた。 俺としてはがんばった方だろう。反射的に口をついてでそうになった憎まれ口を押さえ込めただけでも奇跡だ。ののしって怒らせて、逃げようとしたら捕まえてしまったかもしれない。 この人に関してだけは、衝動が抑えきれなくなっていることには気づいていた。もう、駄目なんだってことも。 「あーうるせえ!そんな顔して!…まあ、もっと嫌な思いさせちまうのかもしれないけど、その無駄に形のいい耳の穴かっぽじってよーっく聞きやがれ!」 あまりの剣幕に逃げそこなった。それに一瞬だけ傷ついたみたいな顔するから余計に。 気づいたときにはすでに本人が目の前で息を荒げていて、汗を乱暴に袖口で拭っていた。どれだけ急いできたんだか。 それに、目が怖い。どうして怒ってるの?なんでよ? 「なに?」 「あんたが、好きです。…それでその、こんなこと言われちゃ気持ち悪いだろうって、知ってたんですが、俺はあんたがそんな顔する理由が、たとえ飲み友達程度の扱いでも、俺は!嬉しかったんだ…!」 「…なに言ってんの?」 顔をくしゃくしゃに歪めて、俺なんかよりずっとこの人の方が苦しそうだ。信じがたい台詞が耳を素通りしすぎて、座り込んだままの足が動いてくれそうにない。 「あんたと付き合いたいって話です」 ふんぞり返って言う台詞じゃないと思うんだけど。でも。 「俺、男よ?」 「知ってます。風呂も一緒に入ったでしょうが」 「上忍だけど。訳ありだし」 「それも知ってます。残念ながら俺も訳ありですし」 「…いいの?」 「へ?何が?そんなのあんたが嫌じゃなけりゃ、何だっていいに決まって…うお!?」 心臓が大騒ぎしているせいか上手く立てなくて、抱きついたというより絡みついたみたいになったけど、悲鳴みたいなものを上げただけで抵抗はしてこなかった。 「好き」 耳元でたったひとこと口にしただけなのに、真っ赤になって倒れかけるとまでは思わなかったけどねえ。 「だってあんたさっきまで泣きそうだったのに、綺麗な顔してくっついてくるから!」 っていうのが、発作的に俺の家に連れて帰られた挙句に、きっちり既成事実作成寸前までいったときの恋人の台詞だ。 突っ込まれる方だってことに驚いて抵抗とかしてたけど、止まれるもんならこんなに長く片思いこじらせてない。 「あんた何ニヤニヤしてんですか…?」 「んー?イルカ先生がかわいいなーって」 最終的にあんたの好きにしてくださいなんていうから、動けなくなるまでしちゃったんだけど、怒っても、嫌がられてもいないのがわかるから、ついつい頬が緩んでしまう。 もしこれが夢でも、転がり込んできてくれたものを、二度と手放しはしないから。 「…馬鹿ですか!」 照れてるのか、真っ赤になって、でも動けないから俺の腕の中でもがもが動くのが精一杯みたいなんだけど、それもたまらなくかわいい。 「たまんない」 「…もうしませんよ。今日は」 さりげなく今後には許可を与えてくれていることに気づかないのか、口づけだけで蕩けた顔でくっついてきてくれた。とりあえず飯、かな?それからくっついてすごせるならもうちょっとなら我慢できるだろう。 今日っていうのがどこまで我慢できるかどうかわからないけど、ね? 脂下がる俺にキスなんか返してくれる恋人には、その辺追々わかってもらわなきゃなぁなんて、思ったりした。 ******************************************************************************** 適当。 更新亀すぎ。 |