秋のある日の(適当)


 背後の気配は気のせいかと思えるほどに薄いのに確かに消えずについてきている。
 これが里の外ならちょっとつぶしてこようかなと思うところだが、ここは里の中で、しかもこれから向かうのは自宅だ。
 一人暮らしの倹しい日々を送っているそこにあるのは、冷蔵庫の中の干からびた野菜と牛乳と、昨日近所のおばちゃんからおすそ分けしてもらった煮物に、あとは忍術書や書き損じのテストの草案くらいのものだ。
 多少価値があるのは薬剤の類か。それも一応は暗号化したラベルを貼って、それなりのところにしまいこんである。盗んだところで何が入っているかわからないものを使う馬鹿もいないだろう。
 クナイや手裏剣はそれなりに手入れはしていても、高級品ってほどのものじゃない上に、もともと消耗品だ。戦地であれば敵から奪うこともあるだろうが、里の中で必要なもんじゃないだろう。多分。
 …となると、目的はなんだ?
 里長となったかつての問題児絡みでの襲撃など、あの子が忍界大戦を鎮めてからはまったくと言って良いほどなくなった。
 先代と少しばかり親しかったせいで、多少のあてつけややっかみはあったが、それもちょっとした嫌味程度のかわいいもので、一時期の毒から罠から術から勢ぞろいといったものを経験しているだけに、子供の遊びのようにしか感じられなかった。
 他に狙われる心当たりなど、全くと言っていいほどない。だが、そろそろ家に着いてしまう。
 まさかボルトやヒマワリを狙ってってこともないだろう。夏休み中はしょっちゅう遊びにきてはいたが、だからってこんな時間に一人で歩いているんだから、うちにあの子達がいないってことくらいはわかるはずだ。罠を仕掛けるなら俺の跡をつける必要もない。
 ってことはだな。まあほぼ確実にターゲットは俺自身か。
 さて、どうしたもんだろう。叩きのめすという手もあるが、相手の目的を聞き出してからにしたい。幸い相手は単独のようだ。家に帰った途端大勢に制圧される可能性を考えると、今こっちから仕掛けた方がまだマシだろう。
 気楽な独り見だ。わが身を惜しまないとは言わないが、守るものがある訳でもない。
 ただ、迷惑だけはかけないでいたいと常々思っていた。
 それに少しだけ。ほんの少しだけだが、久々の荒事の気配に興奮していたのかもしれない。やんちゃ坊主と呼ばれる年は遥か彼方に過ぎているというのに、そんな稚気を残していたことに気づかされて苦笑いした頬を、冷たくなり始めた秋の風が撫でる。ピンッと張り詰めた空気の奥で、僅かにこちらを伺う気配が揺らいだ気がした。
「出てこいよ」
 一声だけで、相手の放つチャクラが膨らんだ。幻術でも仕掛けられたら面倒だなぁ。洗脳とかその手のモノに関しては、自分の立場のこともあって厳重に札と術で対抗してあるつもりだが、果たしてどこまでこの体が動くだろうか。
 一応はすばしっこいちびたちを相手にしても、何とか動きについていけるだけの体力はあるつもりだが、相手は上忍以上だろうからなぁ。
「あ、はい」
「…え?何してんですか?カカシさ…いえ、六代目!」
 ひょこっとなんでもないようにでてくるのがこの人らしい。猫背も相変わらずで、ついでに言うなら顔も変わっていない様に見えてうらやましい限りだ。俺なんて皺ばっかり増えちまってボルトやヒマにじいちゃんなんていわれてるからな。それに脂下がってる自分をナルトに指摘されても腹も立たなかったからいいんだが。
「あ、いえ。その。…あのーお願いがあってね?」
「ええと。はい」
「お邪魔していいですか?」
「…はぁ。せまっ苦しいところですがどうぞ」
 妙におどおどした態度と低すぎる腰に驚きはしたものの、立場的にも追い返せるような相手じゃない。それに懐かしかったのもあった。古びてかすれて消えたと思っていたモノが、いまだにこんなにも自分の中に眠っていたんだと驚かされる。
 大丈夫だ。それでも張り付いたままの笑みはゆがみもせずに顔に居座ってくれている。年を経てありがたくも馴染んだそいつを、今ほど感謝したことはなかった。
「あー。じゃあ、失礼して」
「すぐそこですんで」
「知ってます」
 その言葉と同時に視界が歪んだ。肩に手を置かれた感触はあったが、いきなり振り回されて頭でも打ったときみたいに眩暈が襲ってくる。術、か。これは。
「…ないみつなはなしですか」
「ん。ちょっとじっとしててね?すぐ収まると思うから」
 ろれつが回らないことに動揺している間に、男がてきぱきとベッドの上に俺を横たえ、ついでに印まで結んでこの空間を閉ざしてしまった。よっぽどの厄介ごとらしい。
 このまま静かに老いていくんだろうと思っていたのに、またなのか。だが今度こそ誰も失わせない。あの子ほどじゃないが強くなった。それにずるくもなった。どんな手を使ってでも…。
「てきは、どこですか」
「いいえ。そういうんじゃなくてね?」
 額宛を外した素顔を見るのもそういえば久しぶりだ。枕もとの電灯が淡く照らすその眼窩には、そろいの瞳が収まっている。あの時は赤くて、親友の形見だというそれがうらやましくて妬ましかった。…この人を連れて行ってしまいそうで。
 それにしても、相変わらずきれいな男だ。戯れにかそれとも気まぐれか、家に上がりこんでは人懐っこい野良猫のような気安さでくつろいで眠る男の全てがほしいと思ったあの頃の焼き殺されそうな熱はもうない。
 それでも、手を伸ばしてしまいたくなるのが業腹だ。この人はこっちのことなんて少しも知らないだろうに。悟らせまいと振舞ったのは自分だけどな。
「…どうしたんですか。そんな顔して」
 情けなくも眉を下げて、どこか苦しそうな顔だ。そんな顔をみたら慰めたくなるだろうが。
 しょぼくれた顔を見せるのはいつだってこうして二人っきりのときだけで、甘えるように身を寄せてくるのが単に人肌が恋しい程度のものだとわかっていても、気づけばすっかり恋なんてものに落とされていた。
 飯、食ったかな。里長の座を退いてもなお仕事漬けになっていると聞いている。ほぼ引退したに等しい俺とは大違いだ。
 まああのときの選択が間違っていたとも思わないが。
 里長になったこの人の傍に、誰かが侍るだろうことは予想できていて、それを間近で見る勇気は流石になかったし、そもそもあの子が里に受け入れられたことで俺の役割は終わった気がした。
 もう、いいかと思ったんだ。
 旅に出るにはしがらみが多すぎたし、仕事の引継ぎやら被害を受けた町の整備やなんかで何かと借り出されている内にこうしていまだに仕事は続けちゃいるが、この人と違っていつ消えてもいい身分ではある。そんな立場を気に入ってもいた。それが平和になったってことだからな。
 いつも俺はこの人になにもできなくて、ただ飯を食わせて寝かせてやるくらいがせいぜいで、癒したいと思うくせに、結局は邪な思いを殺すのに腐心するばかりだった。
 どうしたら、いいんだろうな。任務なら命を賭してでも果たしてやる気概はあるが、これはどうも違いそうだ。
 思いつめた顔しやがって。またどんな目に合わされてんだ。アンタは。
「ねぇ。俺、ね。もう火影じゃないの」
「そうですね。それにしちゃ仕事しすぎですよ」
「…そーね。時間なんて作ろうとしなきゃできないもんね」
 笑った。…顔色はうすっ暗い部屋にいるからはっきりとはいえないが、そんなに悪くなさそうだ。
「寝なさい。なんなら布団お貸ししますよ」
 めまいも大分治まってきた。まだ少しばかり足元が怪しいが、布団を引っ張り出すくらいはなんとかなるだろう。無理そうならこの人にこのベッドを譲るって手もある。手を握って開いてみたら、力が入らないって訳でもなさそうだしな。
 問題は、この体勢だ。転がるくらいならできそうなのに、囲い込むように白い腕が体を押さえ込んでいる。心配されてるだけなんだろうが、近すぎる。
 おまけに顔なんて触ってくるから余計に落ち着かない。
「ん。寝ますよ。っていうか、シにきたんで」
「…何をですか?」
 寝にきたならまだ分かる。うちの布団はこの男が泊まりに来るようになったころからそれなりのものを使うようにしているし、ここにこの人がいるなんてことを察するのは相当に難しいだろう。多少の行き来があった昔ならまだしも、今の俺たちには接点がなさ過ぎる。
「素なのはわかってんですけどねぇ?その顔、本気で分かってないでしょ」
「はぁ。すみません」
 どうやら落ち込んでいるらしい男を慰めようにも、その理由が分からない。何がしたかったんだ?とりあえず寝るつもりがあるならさっさとどけて欲しいんだが。
「ま、いいや。体で思い知ってもらおうと思って、準備もしてきたんです」
「は?」
 ごそごそとなにやらポーチからベッドサイドに転がされていく薬ビンたちは、どれも見た目に怪しげな色を放っている。毒か、薬か。どっちなんだろうな。これは。
「…火影なんて面倒なモノになってから傍に置いたら、また厄介な目にあわせるんじゃないかと思って我慢してたんですよ。これでも」
「ええと?」
「でも、もうやめちゃったし?それなのにアンタはすっかり爺馬鹿やって、挙句俺にあうような仕事全部やめて引きこもろうとしてるし?」
「…それは、考えすぎです」
 意図はともかくとして、確かに俺の態度は不審だっただろう。機密に中途半端に触れる身としては、探られるのも頷ける。直接会わなきゃばれないだろうなんざ甘かったか。
 まさかその動機が自分に懸想しているからだなんてことには気づいちゃいないだろうが。
「いいよ。そう思うならそう思ってても。俺も勝手にするから」
 重なった手が温かい。あの時はいつだって冷たくて心配ばかりしていたのに、この人も変わったんだな。当たり前か。
「…カカシさん、おやすみなさい」
 安心したら急激に眠気が襲ってきて、急ぎなら起されるだろうと踏んでさっさと意識を手放した。
「…ここで寝ちゃうのがイルカ先生らしいよね。ま、いーけど。口説くし。既成事実作ってからだけど」

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適当。
臆病な上忍と、覚悟を決めるのが早すぎる中忍。起きたら我慢できずに色々しでかしていた上忍のせいで大変なことになっていればいいと思います。
連勤終わったら体調崩したってばよ。涼しくなったんでもうちょいがんばれればいいなとおもいました。

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