庭先で猫が鳴いている。
切なげな狂おしい声で。
番う相手を請うるためのそれはこの所一層激しさを増した。
時に激しく唸る声や、悲鳴じみた威嚇も混じり、夜だというのに騒がしいことこの上ない。
「春だなぁ」
この季節…そうか。
あの時鳴きもせず、じっと俺を睨んでいたあれを拾ってから、もう一年になるのか。
*****
空気が春の色を帯びて緩み、夜ですらうっすらと暖かく感じ始めたあの日、庭先でうっすらと血臭を漂わせた塊に睨みつけられた。
小さすぎるチャクラと気配に、また喧嘩でもして弱った猫でもいるんだろうかと思った。
だから、手当てをするか、それとも気が立っているだろうからしばらく様子をみようかとふっと視線を外したのがまずかった。
…猫。確かに面は獣のようだったが。
「ねぇ。中忍でしょ?ここ。開けて」
人語を解する猫など忍の里では珍しくもなんとも無い。
だが猫の面を被ったそれは、腕の印からも間違いなく里でもっとも尊敬され、また忌まれる部隊の所属であることを示していた。
上位の命令には従うのが忍だ。だがそれだけでなく、血の匂いをさせたままのその男を放っては置けなかった。
…いきなり後ろ手に拘束されていたとしても。
「手を、離してください。これじゃ開けられない」
そういうと、男は低い声でつぶやいた。
「…逃げない?」
猜疑心に満ちた声は、不思議と俺を落ち着かせてくれた。
こんなことをしておいて、今更逃げるかどうかを問うなんて。
実力差は雲泥の差だというのに、どうやらこの男は冷静さをどこかに置き忘れてきたらしい。
そう、きっと戦場にでも。
「逃げないからこっちきなさい。ノラ猫みたいな顔してねぇで、とっとと上がれ!」
…そうだ。あの時俺は、自分からこの猫もどきを家に上げてしまったんだ。
気の立った猫みたいに毛を逆立てて威嚇してくるのを、何とか宥めてやりたくて。
*****
拾ったときと変わらず、毛並みは上等だが、性格は…。
「こっち見なさいよ。あんなのより」
男は窓辺で愛を叫ぶ獣にまで鋭い視線を向け、強引に俺を抱き寄せてくる。
それをかわいい嫉妬と思える位には慣れたが、やはり生き物を簡単に拾うものじゃない。
特にこの生き物の愛を請う激しさは、鳴き騒ぐ猫たちよりもずっと激しい。
俺がそう気づいた時には、すでにあっという間にそれに飲み込まれて全てを奪い取られた後だった。
「手がかかるのほどかわいいってことか」
不満げに睨むのを撫でてやりながら、春だけじゃなく俺を求める男に、1番欲しがるモノを与えることにした。
激情に飲まれたのが自分だけじゃないことに満足しながら。


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春のうわ言。
猫の歌はどんどん激しさを増し、多分そのうちふんわり毛玉生物が転がり始めるんだろうなぁ。
ではではー!ご意見、ご感想などお気軽にどうぞー!


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