でていきません(適当)


「どうして駄目なんですか?」
心底悲しそうな顔で玄関先に座っているイキモノは、まるっきり捨て犬のようだが上忍だ。
人目につけば不遜だなんだと騒がれるのは俺の方で、この人にはそういう自覚がまるでない。
駄目な理由なら説明した。それも散々何時間もかけてとくとくと言い聞かせた。
声が枯れるまで宥めてすかして泣きついて、結果がこれだ。
「だって好きです。すごーく。一緒にいたい」
「…そうですか…」
それは双方合意の下じゃない場合はまるで意味がないということについて、この人に納得させるだけの努力をする気力はもう残っていなかった。
結果は変わらない事が目に見えていたからだ。
「イルカ先生」
「はいなんですか。布団は貸して差し上げます」
風呂とか飯とかまでは用意してやらんという意味を込めての牽制兼嫌味だったんだが、本人は俺のベッドに顔を埋めて早速寝る態勢に入っている。
ああくそ!だから嫌だったんだ!
「ん、イルカ先生は寝ないんですか?」
「まだ寝ません。飯食って片付けて風呂入って明日の仕度もしなきゃいけないんでね」
寝床は…取り返すよりも自分が別の所で寝たほうが早そうだ。
こうと決めたらてこでも動かないこのイキモノと、真っ向から対決しても疲れるだけだ。
布団、干しといたんだけどな。客用のも最近こうやって上がりこんでくることが多いから、それなりに手入れされているが…干したての布団の心地良さを奪われた件については許しがたい。
とはいえ、それも出来うる限り日々を安寧に過ごすことには変えられないんだがな。
今日は随分疲れているらしい。もうすーすーと規則正しい寝息が聞こえる。
任務開けに人んちの前で長々とまちぼうけなんかするからだ。約束もしてないヤツのために早く帰ったりなんてしない。予定を聞いたのが終業後だったから、用意できたのは飯ぐらいのもんだ。
それも食う気力が残ってなさそうだが。
「イルカせんせ」
寝ぼけて名を呼ぶ上忍を放置して、さっさと飯を食って片付け、風呂に入った。後は寝るだけだ。布団は卓袱台を片して敷いておいたし、後はゆっくり寝るだけのはずだったんだが。
「ちくしょうまたか」
布団に収まって寝ている。アンタさっきまでベッドにいただろうが。
「イルカせんせ」
足首を掴む素早さは上忍らしいが、そのままずるずる布団に引きずりこまれるのは何度体験しても一瞬恐怖を感じる。首まで布団に引っ張り込まれたら、背後からがっしり捕まえられて抱き枕にされて…この男が寝る準備が完了した。
「重いです。離せ」
「やです。早く寝ましょ?」
「俺だって嫌です。布団がせまいだろうが。あんたつかれてんだからもうちょっとゆっくり寝られるように…」
「イルカせんせ」
…ああくそ。畜生。へらへらご機嫌な顔しやがって。
「おい起きろ。俺はベッドで寝るんです」
「ヤだ。イルカ先生と一緒じゃないと」
「だから起きろっつてんだろうが。俺は干したての布団で寝たいんだよ!」
「はい」
理解すると行動が早いのは、これが上忍ってことなのか、それともコイツがとてつもなく現金なだけなのか、考えるのも面倒だ。
「アンタそっち。俺はこっち。一緒に寝てやってもいいですが、せまっ苦しいのは嫌なんで、あんまりくっついてくるなら俺はあっちの布団で寝ます」
「…ふぅん?」
納得してませんって顔は無視してやった。本当なら鼻でもひっつかんで振り回してやりたいところだが、睡眠時間の確保のが優先だ。
「おやす、み」
「おやすみなさい」
ひとっと背中にひっついてきたイキモノを罵るのも怒鳴るのも諦めて、さっさと意識を手放すことにした。とんでもないものに懐かれちまったなぁと密かに嘆きながら。



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適当。
第一段階終了。
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