今日のアカデミーは戦場だ。 悪戯小僧共がこぞって怪しげなウソを付きに来るし、女子も意外と油断できねぇからな…。 下らないとかいいつつエグいウソをつくのはどっちかっつーとくノ一クラスの方が恐ろしい。 担任の先生がもうすぐ結婚するだの、とある上忍が実は痔だとか、告白したいって人がいるのーなんていうから怪しみながらついてったら変化した生徒だったり…まるで女性週刊誌並にバラエティに富んでいる。 低学年はなー。かわいいもんなんだよ。今日は空から飴玉が降ってくるんだ!とか、そりゃお前の願望だろうみたいなのが多いから。 高学年になると中々破壊力のある、ウソというよりすでにトラップみたいなのまで来るからな。 いつだったかは術まで使われたこともあったな。水道管が故障したなんていうから警戒しつつも見に行ったら教室が水浸しで、カーテンや天井まで水が滴っていた。 ただな。詰めが甘かった。チャクラをちゃんと制御できなくて、術者がどこにいるかバレバレだった上に、水量を維持できなくて本人がぶっ倒れてくれたんだよな…。 親御さんの激しい雷と、罰として命じた掃除を手伝うだけで一日が終わった。 今年は幸いにして低学年の担当だから、そうそう被害はでないと思いたいところだが、油断したらしただけ痛い目にあうので気合だけはしっかり入れておく。ある意味これも修行だ。相手を上手くひっかけることができれば任務でも役に立つし、警戒すべきは午前中だけだしな。 午後にウソをついたら、もれなく罰として1ヶ月間便所掃除だと宣言済みだ。 「うっし!行くか!」 かばんも持った。いざという時の着替えも入っている。自爆するヤツ向けに傷薬なんかも普段の倍量持った。 玄関の扉を開けて勢い良く飛び出すはずが…何かにぶつかった。 「ぶへっ!うお!カカシ先生!」 なんだ?なんでここにいるんだおい?この人は今上忍師の任務で…まあすごい遅刻癖があるらしいが、こんな里の外れにあるボロアパートなんかに来る理由はないはずだが。 「今日からアナタは俺の部下です」 「は、はぁ。え?任務ですか?」 なんだ?聞いてないぞ?緊急なら俺に式飛ばしてくれよ!上忍にお使い頼むなんてどこの馬鹿だ? あせりつつも荷物の中身を思い出す。 任務に絆創膏も着替えもご褒美用の飴玉だっていらない。クナイは荷物に細工しようとたくらむヤツが怪我したら困るから殆ど入ってないし、学習用の太くて目だって痛くないワイヤーしかないから敵を切断したりとかできないし、今日は却って危ないから札も殆ど抜いてある。 こんなんで上忍が同行する任務になんかに行ったら確実に俺は死ぬ。 「というわけで、今から俺と一緒に来てください」 おいおいおい!ちょっと待て!待ってくれ!この人のんびりしてんのか思ってたけど、意外とせっかちなのか!? 「すみません!装備を整えるのでもうちょっとお待ちいただけますか?護衛ですか?戦闘ですか?」 俺に回ってくる任務って、大体子どもの護衛とかなんだけどな。扱いが上手いとかで毎回指名してくる大名とかもいるくらいだ。…忍としての技術は全く気にもされてないってのが悲しい所だけどな…。 戦忍の経験ももちろんあるが、このレベルの上忍と組んだことはほとんどない。 実力差がありすぎる。この人が普段こなしてるような任務に混ざるなんて、犬死しにいくようなもんだ。 …諸々考えて、この上忍とセットとくれば、相当上の身分の子ども付き護衛か。花見の宴の依頼かもしれない。そうすると広範囲に結界がいるな。できれば詳細を知りたいんだが、なんかイライラしてそうだし聞きづらい。 とにかく心当たりの物手当たり次第つっこんどけばなんとかなるだろうと、大慌てででてきたドアに引っ込もうとしたんだが、捕まった。 「いりません。行きますよ」 「へ?いやちょっ!まっ…!」 ひょいっと米袋のように担がれて、呼吸が出来ないくらい高速で移動された。 さすが上忍だが、なにすんだおい!支給品がそろってるのか?もしかして? まだ授業が本格的に始まってないし、今日も入学式の準備とリハーサルが済んだら補習対象者以外は帰らせるけど、それが終わってからじゃまずいのか? …冷静になれば今日俺をわざわざ指名する意味がわからない。悲しいかな俺程度の忍はそれなりにいる。そしてアカデミーで入学式の段取りを理解している忍は少ない。俺を含めて数名だ。抜けたら穴を埋めるのは意外と面倒になる。 この状況で何で俺なんだ。何があったんだ。 一瞬だけ頭を過ぎった可能性を否定したくてたまらない。いやだって、まさか。 「今日は一日ここで過ごしてください」 「…それは任務ですか。命令ですか」 「命令です」 ウソだろ。…いやまだほんの少しだけウソじゃない可能性もあるけど。 だが俺には絶対ウソだという確信があった。 第一、同行者なのに俺は依頼書を見ていない。そういう自分勝手な上忍がいないわけじゃないが、この人はそういうタイプじゃない。 それにさっきから目が合わない。普段ちょっと強すぎるくらい視線を合わせてくる人なのに。 あとは勘だ。…悪戯って感じじゃなくて、これはあれだ。素直になれないってヤツだと俺のセンサーがそう言ってる。 「エイプリルフール」 「…」 当たり、だな。 この一言だけでチャクラを乱すくらい動揺した。顔には殆ど出てないけど、目が泳いでる。 「なにやってんですか…。アンタ大人でしょうが…」 「…」 今度はだんまりか。どうするか…。アカデミーで準備してる同僚たちが今頃悲鳴あげてそうだし、ここはどこなんだ? 趣味の悪い手裏剣柄のベッドと、写真立て…あ、これ七班のじゃないか。 …よくわからんが、ココは多分この人の家なんだろう。 「任務というのは、アカデミーにも連絡済ですか?」 「…はい」 どうする。この人はウソをついている。ってことは、これもウソかもしれないじゃないか。 なんでだろう。でもこの人は今ウソを付いていない気がする。 …リハーサルは明日もやるし、準備は…今年は資材購入とか結構な量の担当したから、任務扱いになってるならなんとかなるだろうか。 「エイプリルフールのウソは午前中までなんです。午後についたらアカデミーで便所掃除ですから」 しょうがねぇ。付き合ってやるか。 こんなデカイ成りして、しょぼくれた顔されて、じゃあ帰りますなんて言えないじゃないか。もしこれも演技なら大したもんだ。 嫌がらせというわけでもなさそうだし、どっちにしろ騙されてやろうという気になった。後はこの人がどうでるか、だな。 「便所掃除って、何をすればいいんですか?」 「へ?あー…まあ、普通です。床に洗剤流して、便器もブラシでこすって汚れ落としたら水で流して、水道の所が汚れてたらちょっとスポンジで擦るのと、鏡も汚れてたら拭くって感じですね」 罰則なのでそこそこ厳しくチェックする。おかげでこれを一度経験すると二度とやらなくなると、アカデミー教師の間で評判だ。 だがなんでそこでそれを聞くんだ。 「そうですか。…じゃ、今日はここに1日中いてください」 そうですかって…話がまるでつながっていない。 …これはもしかして、罰則を果たせば何やってもいいと思ってるんじゃないだろうな? 「…あの」 「はい」 「うそは見破られたら白状しなきゃいけないんですよ?」 「…」 またそっぽ向きやがった。なんだもう!かわいいじゃないか! 「今度の休みの日にでも、一緒に飯食いませんか?今俺んちに貰いものの美味い酒があるんですよ」 「いいの?」 撒き餌にしてもあからさま過ぎるかと思ったが、意外と簡単に引っかかってくれた。 いい年してこの人こんなんで大丈夫なのか…? あぶなっかしいっつーか。ほっとけないというか。 「ええ。白状するんなら、ですが」 「…エイプリルフールって、ウソついてもいいって聞いたから。命にかかわるものじゃなければ大丈夫かなって」 「…それで?」 「忙しそうだし、好きだなんていうよりは、変な上忍に絡まれたってくらいの方が傷が浅いかなと思いまして」 「そうですか…。へ?すき?」 「はい」 それこそエイプリルフールなんじゃないかと思ったが、どうやらこの人は真剣だ。 ちゃっかり手なんか握ってきてるところもさすが上忍。油断できない。 「あ、の?」 「白状しましたよ。…返事は午後以降に下さい」 そういって、ふいっと顔を背けてしまった。 どことなく落ち込んでいるのがわかってしまうのは、俺もこの人に興味があるからかもしれない。 「俺も好きです。多分」 「そうですか…いや、駄目だろうなって思ってたけど、結構キツイな…」 おもしろいくらい落ち込んでくれて、決していいことじゃないのにわくわくした。 先にやったのはこの人だという言い訳があるから、余計に悪戯小僧の血が騒ぐ。さあ驚かせてやる! 「さっき俺もウソ付きましたから、白状しますね?」 「あー…はい」 「ウソを見破られたら白状するなんてルールはありません。ってことでこれでお相子ですね」 「は?」 驚いてるこの人をはじめてみた。黒板けしを上から落っことしたときも無表情だったらしいのに。 「さあ、それは午後までわかりませんね?」 「…ひど」 「はは!まあでも俺はエイプリルフールでは一人に付き一つしかウソをつかないことにしてるんですけどね!」 「…それもウソだったらどうすんの」 さすが上忍、疑り深い。 だがそんなところもかわいいと思えてしまう。 「だから、午後までいっしょにいたらいいでしょうが」 にやにやしてるって自覚はある。 いきなり人を驚かしたんだから、これくらいびっくりさせてもいいはずだ。 「イルカ先生の、そういうとこも好きですよ…」 そんなため息を付きながらの敗北宣言に、俺が真っ赤になったせいで色々バレバレだったってことは…今のところ二人だけの秘密だ。 ******************************************************************************** 適当。 ご意見ご感想お気軽にどうぞ。 |