だって逃がしたくなかったんだもん。 それだけがこの大それた計画を決行した理由で、そのためにこの地位を手に入れたに等しい。 本当なら火影なんて面倒なモノになるよりは、あの人の側にずっとついていられればそれで良かった。 あの人が誰かのモノになってしまうことだって、側にいればいくらでも邪魔できる。そうやって少しだけこの人を手に入れて、その代わり一生離れないつもりだった。 でも、それだけじゃ足らないって、ある時唐突に気付いちゃったんだよね。 この人は自己犠牲が過ぎる。自分の命を簡単に他人のために投げ出してしまえることは、忍としては決して褒められたことなんかじゃないのにね。アカデミー教師でもあるくせに、どうしてかむしろ率先してその身を犠牲にしがちだ。 普段の快活でさわやかなイメージにそぐわないほど狡猾な部分もあるのに、根っこの部分が忍じゃないんだよね。きっと。 任務ともなればぞっとするほどの計略をめぐらすその頭がありながら、自分より弱くて、守らなければならないと思う相手だと、後先なんて考えずに当たり前のようにその身で庇う。 そう、もちろん俺のコトなんか少しも考えちゃくれない。 ま、それも当然だ。この人にとっちゃ俺なんてただの知り合い程度に過ぎない。 この人には随分長いこと気が狂いそうになるほど惚れていて、結構分かりやすい誘い方だってしたのにねぇ? 鈍いってだけじゃない。この人は自分に向けられる好意を受け入れるのがへたくそだ。 なんでかしらないけど、自分が望まれることなどないと思い込んでいる。 そのくせ寂しがり屋で今はもう随分と育った教え子に、それから教え子の子どもたちに、その愛情を惜しみなく注いでしまう。 女に興味がないってわけじゃないし、実のところ結構モテるからほんっと油断できない。ちょっと任務に出たら、女が張り付いてるなんてことはしょっちゅうだもん。 その全てを無意識に袖にするのを見てきたからこそ、そこに気付けたんだけどね。 欲しがりの癖に与えられても自分のモノじゃないと我慢してしまう。 なら、簡単だ。 強制的に溺れる程たっぷり注ぎ込んで、何も考えられなくしちゃえばいいと思わない? 「…ラーメン食べたいんですけど」 「ん。作るね?」 「一楽にいきたいです…」 「ま、仕事が片付かないからねぇ…ごめんね?俺の頑張りが足らないから…」 「い、いえ!そんなことは!そうですね!さくっと片付けましょう!終わったらたっぷりラーメン味噌とんこつチャーシューマシ麺硬油マシビールつきで…!」 うーん。ほんっとラーメン好きだよね。そんなとこもかわいいけど、流石に目が座ってるし濁ってきたから後で出前でも用意しようか。俺が作ったのも美味しいって喜んで食べてくれるんだけどねー。一楽にだけはすさまじい執着を示すから。 「お仕事頑張ってくれたお礼、いつかしますから」 「何を言ってるんですか!六代目!どーんと構えててくださいよ。それを支えるために俺たちがいるんです!」 「ん。ありがと」 そっと抱き寄せても抵抗しない。この人の望む「必要とされる場所」を強制的に与えて、代わりにその思考を奪ってあるから、追い詰められていることになんか気付きもしない。 ごめんね?俺の腕の中にいることに馴らしたら、そのまま食べちゃうつもりだけど、逃がしたりなんかしないし、自分のモノじゃないなんて考えることもできないくらいめろめろにしてあげるから。 心の中でだけ謝って、後はせっせと筆を動かすことにした。 この人をここに縛り付けるためにはじめた事業が大成功を収めた結果、図られた忙しさが本当に忙しすぎるようになって、手を出したのが結局1年以上経ってからだったっていうのはちょーっと予想外だったかな。 …ま、この人が俺の告白に笑って遅いですよって言ってくれたからいいことにしとくけどね? ******************************************************************************** 適当。 あつさにまけまくりすぎる。 |