同棲始めました(適当)


うちの表札が今日1つ増えた。
「まさか本気だったとは…」
元々突拍子もないことをしでかす人だということは思い知らされていたが、ここまでやるとは思わなかった。
真新しいその表札には、はっきりくっきり「はたけ」と書かれている。高名な上忍のくせに忍んでいないにもほどがある。
…まあ、俺の表札も歳月を経て痛んではいるが、「うみの」と書かれているからあまり変わらないか。こんなぼろい家に上忍が住んでるなんて誰も思わないだろうし。
「本気ですよー?だって一緒に住んでいいって言ったでしょ?」
そうだ、確かに言い出したのは俺からだった。
「あんたそんなにずっとうちにいるなら、いっそここに住めばいいでしょうが」
そう言ってしまったのは、俺の家に居ついているに等しい男が、時折寂しそうな顔をしながら俺の顔色を伺っていることに気づいてしまったせいだ。
普段は我が物顔で居座っているくせに、俺が「そろそろ帰んなくていいんですか」と聞いただけで、叱られた犬みたいな顔でちらちらとこっちを見るから、こんな顔されるくらいなら、いっそきっちりここに住まわせてしまった方が安心できそうだと思ってしまったのが運の尽きか。
こんな風に男が居座ったのはいつのころからだったか、もう忘れてしまった。
下忍として俺の生徒たちを引き取ってくれた頃からそれほど時間をおかずに、この男は俺の家にやってきた。
上忍に押しかけられればむげにもできずに飯をやったらうれしそうに食って、ついでにちゃっかり泊まって行って、それが週に1日から3日になり、5日になり、気づけば毎日のように男が居座るようになるまで、そう時間は掛からなかった。
最初は気づかなかったが、飯を食っていった分はいつの間にか金を置いていくから、うちは宿屋じゃないし、男一人泊めた位で困ることなど何もない。馬鹿にするなと叱り付けてやったら、今度は食い物を持ち込むようになっ て、着替えもいつのまにかたんすに収まっているし、忍具も変な所に仕込まれるし、風呂は勝手に沸かすし入るし入ってると乱入してきたりするし、今ではどうしてこんな状態になるまで気づかなかったんだろうと思うくらい、好き勝手に暮らしている。
それなのに。
…あの時の素振りからして、男は俺に追い出されることにおびえていたらしいと知った。
確かに飯だってそう大していいものを食わせているわけじゃないし、寝床だってベッドは一つしかないからぎゅうぎゅう詰めで雑魚寝もいいところだ。
風呂上りによく体を拭かずに上がってくるからいつもぐいぐい洗いたての犬でも拭くみたいに乱暴に拭いてやってるし。…でも鼻を鳴らして気持ちよさそうにしてたくせに。
だからまあとにかく。この男が越してくることに関しては問題ない。
それよりも問題は、男がどういうつもりなのかってことだ。
懐く男の扱いにはほとほと困り果てている。きれいな顔をさらしてごろごろ寝転がっている分にはかまわないが、これで正式に俺の家の一員になったわけだし、それなりに立ち位置って物を考え直すべきじゃないだろうか。
状況からすると考えたくもないが、ペットに近い。
俺が飼いたいといったわけでもないが、食事と愛情を強請り、好き勝手に振舞う男はまさにペットそのもの。
…だがまさか上忍飼ってますなんていえるわけもない。
冷静になってみると、うかつな一言でとんでもないことになってしまったかもしれない。
そもそもそろそろ帰れと促した切欠を、今更ながら思い出して頭を抱えた。
女とも縁遠いとはいえ、性欲がないわけでもなし、この男が任務や家に帰る留守の間を狙ってそれなりに処理してきたが、どうも最近できる限り俺の家に居座ると決めたらしい上忍がさっぱり出て行かないので、ついついあんなことを言ってしまったのだ。
出て行けといえなかったのは、男が上忍だからというより、どんなにぼろぼろになっても俺の家に戻ってくる上忍が、もう俺にとってなくてはならない存在なのだと気づいてしまったせいだが、事態はおそらく悪化した。うっかり所の話じゃない。
男はそれはもう楽しそうに俺の手を引いて家の玄関を開けている。
着替えなんかはとっくにおいてあったから、もってきたのは愛読している18禁本だけで、それもいつももって歩いているもののほうだけで、それ以外はちゃっかり俺の家の本棚の一角に収まっていた。
つまりほとんど身ひとつでこしてきたのだ。この男は。
…あんまり所か、おそらくよく考えるまでもなく、この男は俺の家にとっくの疾うに住み着いていたってことだろう。
「どうしよう」
「晩御飯は俺が作りますよ?」
「そうじゃなくて。…あの、今更ですが、どうしましょう?同居人ってことでいいですか?」
今更過ぎる上に取り乱しすぎた自分の台詞は、自分でも理解できないような内容で。
それを聞いた男がなぜ嬉しそうに笑ったのかがわからなかった。
「いいえー?ついに同棲スタートです」
「へ?」
同棲。…それは一般的には好きあった男女が一つ屋根の下に暮らすことを言うんじゃないだろうか。
「ってことで…まずはここからはじめましょうか?」
指先が唇に触れて、それから。
「ん…っ!ぁ…!」
ゆっくりと重ねられたそれが男の唇だと気づいた頃には、腰が砕けそうなほど激しいキスをされていた。
「今まで我慢してたんですが、イルカ先生、もうすっかり俺に骨抜きになってくれたみたいだし、これから先も期待しててね?」
「な、ななな!?」
今までもじーっと俺を見てることはあったが、こんな風に間近で、しかも熱っぽい視線を浴びたことなどない。
「我慢してる先生見てるのも楽しかったけど、これからは俺がいますから…ね?」
笑顔に体が震えたのは、恐怖か、それとも期待のせいか。
玄関の扉が背後で閉まる音がして、それでもまだ手を引く男は上機嫌で、それを嬉しいと思っている俺もいて。
「もういいか、ペットで」
「え!?ちょっとなにそれ!?」
とたんにうろたえた男を笑いながら撫でてやった。
ふくれっつらは一瞬で、すぐに瞳に怪しげな光を宿し始めた男が黙っているとは思えないが、まあなるようになるだろう。
「今度の野望は表札の苗字を一個にして、名前並べることですから!」
そう喚く男にどうやら惚れていたらしい鈍すぎる自分を笑って、それから一言だけ言ってやった。
「うみのカカシならいいですよ」
そんなわけで、どっちでもいいんですと笑って飛びついてきた男は、しっかり俺の全部を綺麗に平らげて今日も俺の隣で笑っている。

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適当!そして千!
はーるーなーのーでー!
てなわけで、今後もド粗品にニーズあるのかどうかちょっくら考えてみようと思います。
まあド粗品なので、気軽にさくっと増やせるのは便利ですが、多すぎると思うので…。
ふるいの整理する元気がないのでしばらくそのまんまかもしれませんが('A`)←こんじょうなし
ではではー!なにかご意見ご感想等ございますれば御気軽にお知らせくださいませ!

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