0721(適当)



「見たいんですが」
「お断りです」
ベッドの上に正座している時点でかなり微妙な状況だってのに、膝を突き合わせて話している内容は最低だ。笑顔ですぱっとお断りするくらいには。
「だって!折角だし!」
「嫌です。嫌なもんはぜってー嫌です」
ああ、早く寝たい。泊まりに来いなんていうからついつい冷房に引かれて寄ってしまったが、まさかこんなわけの分からんことを言い出すとは。
こんなことなら憩いの我が家のおんぼろ扇風機にがんばってもらった方がよかったかもしれない。
なんだって人様の前でそんなことをしなければいけないのか理解に苦しむ。
見目麗しい女性なら…まあその手のビデオなんかにもあることだし、まだわからなくもないんだが、どうして俺が。それもこの人の前で自慰なんぞしなければならないんだ。
「俺も見せますから」
「ごめんこうむります」
考えても見ろ?野郎同士で向き合って扱き合うなんて、毛が生え始めた頃ならまだしもこんな年になってからなんてありえん話だ。
この人だってそんなことくらいわかるだろうに。
女なんて引く手あまたで…あ、なんか腹立ってきた。そうだよ。この人モテモテなんだよ。それなのに俺なんかに告白しちゃう趣味の悪さと、頭のネジが頻繁に緩みまくる所とかはどうかと思うけど、顔はとびっきりいい。
…頭は残念すぎるけどな。
「みたい」
「…なんでですか…?」
あんまり必死な顔をするからつい聞いてしまったが、これは多分悪手だ。ほだされやすい自覚があるから気をつけているつもりだが、この人相手だとどうも上手くいかない。上忍だからってだけじゃなく、この人がいつもこうしてどこか子どもっぽく振舞うからかもしれない。
分析した所で罠にかかったんだとしたら意味はないんだけどな。
「イルカ先生としてるときはみられないじゃない。あんまり」
「…み、みるもんじゃありません!あんなの!」
そりゃなにもしなければ溜まる。溜まれば出すのが自然の摂理ってやつで。
だからやったことがないなんて白々しい嘘をいうつもりはないが、ああいうモノをノリと勢いだけで他人の前で見せられるような年はとっくに過ぎた。
なんだってそんな恥ずかしいことを態々みせびらかさなきゃいけないんだ。
それに…。
「みたいです」
きりっとした顔で宣言された所でその中身が中身だからまるで締まらない。
エロ本の読みすぎだろ。この人は。
「みせません!だ、大体!なんでアンタがいるのに一人でしなきゃいけないんだ!」
勢いで言ってしまってから気がついた。こりゃなんの惚気だ。馬鹿だアホだ間抜けだ。俺は一遍死んだ方がいい。
目をまん丸にして驚いた後、すぐさま蕩けそうな顔でにやにやし始めたこの男が、こんなチャンスを見逃すわけがないのに。
「そうですねー!今日は二人でやりましょう。俺がせんせの、イルカせんせは俺のを」
「す、するかー!」
「まあまあいいからいいから」
そんな風に押し切られて触れられたら容易く蕩けるわが身を嘆く暇もなく…。
結果的には触るだけじゃ物足りなくなった男にさんざっぱら好きなようにされたので、勝ったのか負けたのかは定かではなくなった。
そういえば、絶頂は小さな死というのだったか。
一遍所か数えるのも馬鹿らしくなるほど頂点を極めたんだから、少しは…。
「気持ちよかったですねー!またしましょう?」
「しません…」
駄目だ。きっと無駄だ。死んだってきっとこの病は治らない。
「ま、色々他にもやりたいことがありますしねぇ…?」
艶っぽい流し目に背筋が性懲りもなく震える。
流されてなんかやらないつもりだが、この決意もいつまでもつだろう。
とっくの疾うにこの人にめろめろにされてる自分が。
「うー…次こそは…!」
曖昧な呟きをくすくす笑う声が遮って、背に張り付いた体温が全身を囲い込むように腕を回してくる。
ひたひたと眠気が襲ってきて、抗う気力ももはや残されていない。
「おやすみなさい」
甘い声にそそのかされるままに意識を手放した。
最後の気力を振り絞って、男の唇を掠め取ってやってから。

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適当。
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