私は疲れ果てていた。
誰か言い出したか“夜中の小学校で鬼ごっこをする”などというくだらない企画に、嫌々ながらも参加してしま
ったことがそもそもの間違いだった。
そこは、異常な空間だった。
“私以外の全員が鬼役”であるという、不可思議なルール。
さらに異常なのは、その鬼全員が私を見つけると必ずと言っていいほど物陰へ連れ込み、服を脱がせたり陰部を
まさぐったりという性的な行為を行ったことだ。
「鬼ごっこ」とは程遠いシロモノだった。
何人いるかもわからない“鬼”たちは、ある者はわたしの下半身を露出させ陰茎を弄んだり、またある者はいき
り立つグロテスクな性器を私の口内へ強引にねじ込んできたりした。敏感な部分を刺激され強制的な快楽を与え
られた私が、反応するほどに彼らは悦んだ。
一体何人の手が触れてきたか分からない。どこへ逃げても誰かに捕まる気がして、私は心身共にくたびれ果てた
。薄暗い廊下の隅に膝を抱えてうずくまると、息を殺してひたすら時がたつのを待った。
小さい膝小僧に、ぽとりと一粒涙が落ちた。
こんな子供の体でさえなければ、こんな目に遭うこともないだろうに…
小さいこぶしで目元をぬぐった。
その時、「いた!」という声が聞こえて私は反射的にそちらを見た。
また、見つかったのか。
今度は、何をされるのか。
息をのんで目を凝らすと、闇の中に見慣れたギザギザ頭が浮かんでいた。
「こんな所にいたのか」
見慣れた顔が近付いてきた。
この異常な“鬼ごっこ”に、彼は私の引率役として共にやって来たのだった。
“鬼”たちから逃げまどううちにいつの間にか彼ともはぐれ、しばらく離れ離れになっていた。
「探したぞ、御剣」
安どした表情でほほ笑む成歩堂。
よほど追いつめられていたのだろうか。知った顔を見て緊張の糸が切れたのか、私の目からはぽろぽろと涙が溢
れた。
それに気づいた成歩堂が、心配そうな顔で駆け寄ってくる。
私は立ち上がると、成歩堂に飛びついた。
身長差があるせいで、私の頭がちょうど成歩堂の腹部の高さになる。
成歩堂の腹に顔をうずめて、あふれる涙をごまかした。
「どうした?怪我でもしたのか?」
優しい声が余計に涙腺を刺激した。
成歩堂の体に顔をうずめたまま、ふるふると首を横に振った。
「誰かに、いじめられたか?」
成歩堂に頭を撫でられる。
私自身の汗と、いろんな人間の体液ですっかりベトベトになってしまった髪を、大きな手が撫でつける。
安心感からか、緊張から解放されたせいか、私は急激に体から力が抜けていくのを覚えた。
膝から崩れ落ち、咄嗟に成歩堂の足にしがみつく。
「おい、どうした、大丈夫か?」
成歩堂の声が遠くなる。
成歩堂の両腕が私の体を包んだのだろう、温かさを感じたのを最後に意識を失った。
再び意識を取り戻した時、白い天井を見上げていた。
部屋は暗く、窓から街灯の明かりだけが入ってくる。徐々に自分の状況が分かってくる。白いシンプルなベッド
に横たわって、布団を掛けられていた。
この天井やベッド、窓から見える景色には見覚えがある。
小学校の保健室だ。
成歩堂が運んで寝かせてくれたのだろう。どれくらいこうして眠っていたのだろうか。
私は成歩堂の姿を探すためベッドから体を起こした。
いや、「起こそうとした」。
カシャン、と冷たい金属音がすると同時に両手首に締め付けられるような違和感を感じた。
起こそうとした体は、相変わらずベッドの上にあおむけになっている。
!?
理解するのに時間がかかる。もう一度両手を動かしている。同じような冷たい金属音が聞こえ、今度ははっきり
と手首に何かが巻き付いているのがわかった。
何かはめられている?
首をひねってそちらを見てみようとするが、ちょうど手の上まで白い布団が掛けられていて目では見ることがで
きない。
足も動かしてみたが、両手と同じように足首に何かが巻きついていた。
その時、ベッド脇で何かが動く気配がして私は恐怖を感じた。
しかしそれもつかの間だった。
ついたての向こうから現れたのは、成歩堂だった。
「な、成歩堂…!た、助けてくれ、変なのだ」
自分でも声が震えているのがわかる。
「両手…両足も、固定されているようで…動かないのだ!頼む…外してくれないか」
この異常な状況を訴え、救いを求めた。
…しかし意外にも成歩堂は顔色一つ変えずに、ベッド脇から私を見下ろしている。
「なるほど…?」
成歩堂の表情からは、不思議と何の感情も読み取れなかった。これは私の知っている成歩堂なのだろうか?
私は混乱した。
「…な、なる…」
急激に喉の水分が奪われてゆく気がした。乾いて貼り付き、声をかすれさせる。
その時ゆっくりと成歩堂の唇が動いた。
「外さないよ」
…?
状況が掴めない。成歩堂は一体どうしてしまったのだろうか。
わたしが黙っているので(正確には、言葉を発することができなかったのだが)成歩堂は二の句を継いだ。
「それ、僕がつけたんだ。だから、外してあげないよ」
「何…?」
成歩堂が少し笑った。
いや、笑ったのとはまた少し違う。
唇を歪ませて、笑みのような形を作っただけだ。目は相変わらず濁ったまま、感情を浮かべていない。
わけのわからない恐怖が全身を襲い、血の気が引いていく。この成歩堂は、さっき私に温かい笑顔で抱擁してく
れた成歩堂と同一人物なのだろうか?
「…ど、どうして…どうしてだ…なぜ、こんな…」
貼りつく喉からようやく言葉を絞り出す。情けないことに、声が上ずっているのが自分でも分かる。
「御剣が、いけないんだよね」
唇を歪ませた笑みのような表情のまま、抑揚のない口調で成歩堂が言った。
「お前が今日いちにち、色んな人にいやらしいことをされて、そのたびにいやらしい声で喘いでるのを、僕はず
っと聞いていたよ」
「な…」
私は言葉を失った。
いやらしい声で喘いでいた?私が?
身に覚えのないことだった。
強制的に、性的な刺激を与えられてはいたが決して受け入れたわけではなかった。
快感に身をゆだねたことなどなかったはずだ。
「そ、そんな…そんな声など、私は…」
私の反論を無視して成歩堂は続けた。
「本当はね御剣。誰にも君のことを触らせたくなかった。君のいやらしい声を聞くたび、飛び出して行きそうに
なったよ。でもずっと我慢していたのは…最後にとっておきの君を、楽しむって目的があったから」
何を言っているのだ、そう言おうとしたが言葉にならなかった。
成歩堂は感情の浮かばない表情のまま、ベッドへ一歩近寄ると白い布団に手をかけた。本能的に身をすくめるが
、手首にある何かがクッと皮膚に食い込んだだけだった。
成歩堂は布団を掴んだ手を一気に引き寄せた。私の体を覆っていた重みが一瞬で消える。
いや、軽くなっただけではない。
全身の肌に、空気が直接触れるのを感じる。
見なくても分かる。
私は一糸まとわぬ全裸のまま、ベッドに寝かされていたのだ。
両手首と両足首にはやはり、鎖のつながった拘束具がはめられていた。
「な、何だこれは!」
叫びに近い声だった。
表情のないまま成歩堂がクッと短い笑い声を洩らした。
「何って…?見たまんまだよ。」
「ふ…服を着せてくれ…頼む…。それよりもこれを、早く外してくれ!」
必死に訴える私を、ベッド脇から成歩堂がしげしげと見つめる。その表情がにわかに楽しげに変わる。今までの
無表情ぶりからすると、その変化は少々気味が悪くもあった。
「御剣…かわいい…もっと、泣いたり叫んだりしてよ」
成歩堂のその反応に私は目を見張った。確かに、目尻は少し涙で濡れていた。私の表情の変化を見たからか、ま
た一層成歩堂が楽しそうに笑った。
「もっと、怯えてよ。御剣のその顔、僕好きなんだ」
成歩堂の手がこちらに伸びてくる。思わずぎゅっと目をつぶった。成歩堂のクスクスと笑う声が妙に耳障りだっ
た。
成歩堂の手が私の唇に触れる。
金縛りにでも遭ったかのように、身じろぎひとつできない。
成歩堂の指はつつ…と上下の唇をなぞったあと、指先で唇を割って口内に指を潜り込ませてきた。
私は顎に力を込めてその指に思い切りかみつくこともできたはずだった。
しかし、体は硬直して指先一本たりとも動かせなかった。
成歩堂の指が私の口内をまさぐる。なぜか私はそれを受け入れる。恐る恐る成歩堂を見上げると、その顔は楽し
そうに幸せそうに微笑んでいた。
指先で確かめるように私の頬の裏、歯の裏、舌…と指を這わせた成歩堂は、しばらくするとその指をゆっくりと
取り出した。
私の唾液が糸を引き、濡れて光る成歩堂の指へ繋がっている。
成歩堂は、その指先をしげしげと眺めると今度は自分でそれをくわえ、味わうように舐めだした。薄く開いてい
る唇からはフフ…と時折笑い声が漏れている。
「御剣の口の中、おいしいね。今度は直接舐めたいな」
そういうと成歩堂は私に覆いかぶさって来た。古いベッドが成歩堂の体重を受けてギシリときしむ。
成歩堂の唇が私の唇に重なる。舌が唇を割って口内へ滑り込んでくる。
成歩堂のはふはふという息遣いと、互いの唾液が混ざりあうぴちゃぴちゃという水音だけが暗い保健室の中に響
く。
どれだけそうしていただろうか。
意識も朦朧としてきた。
正常な呼吸もままならず、ハッハッと浅く息をする。
口の周りを唾液で濡らした成歩堂が体を起こすと、満足そうに笑う。
「御剣、キスだけで興奮してきちゃったんでしょ?」
何を言うのか。私はぷるぷると首を横に振る。
「じゃあ、これは何かな」
成歩堂の手が私のむき出しの性器に伸び、スッと触れた。
「んあっ」
私は体をびくつかせた。いつの間にか、私の未成熟の性器はそれでもなお精いっぱい、硬く大きくなろうとして
いた。
敏感になった性器の周りをを成歩堂の指が上下する。
「や、やめ、ナルホドっ…」
私は成歩堂の手から逃れようと体をよじった。しかし手足を拘束され自由に動けない私は、ベッドの上でじたば
たとうごめくことしかできない。成歩堂はいつのまにかもう片方の手で、私のむき出しの胸の上にある小さな突
起を弄んでいた。
「やめ、て、くれっ…んっ…はぁっ」
体をまさぐる手を休めず、わたしの耳元に顔を寄せて成歩堂は囁いた。
「色んな人に触られて散々いやらしい事されたのに、まだ感じちゃうんだ…御剣って体は小さくなったのに、淫
乱なところは変わらないね」
かあっと顔が熱くなるのを感じた。
そんなはずはない。そんな、はずは。
「ち、ちが…」
「違うの?おっぱいもちんちんも、これ以上ないってほど反応してるよ?えっちな声で喘いでるよ?」
成歩堂は私の股間に顔をうずめ、精一杯主張する小さな性器を口に含んだ。
生温かい成歩堂の口内が、今までとはまた違った刺激をもたらす。
「んあっ…はうっ…ん」
「御剣の小さいちんちん、おいしいよ?このまま食べちゃおうかなあ」
成歩堂が笑みを浮かべる。笑っているのにそう見えないような、違和感のある笑みを。
成歩堂は壊れてしまったのか。
いや、これが本当の成歩堂なのかもしれない。
それを呼び起こしてしまったのは私なのか。
そんなことを頭のどこかで考えていたはずだったが、いつしか霞の向こうへ消えた。
成歩堂が与えてくる絶え間ない快楽に脳と体を支配され、射精もしないはずなのにビクビクと痙攣し、果ててし
まった。
その後も、朦朧とした意識の中でなおも成歩堂が私の体を好きに弄ぶのを感じた。
時々、フフッとかククッという笑い声も聞こえた気がする。
それさえもいつしか遠のいて行った。