その日、馬堂は厳徒のオフィスへ向かっていた。
何のことはない、担当した事件の事後報告だ。ただ厳徒のにやけた顔を思い浮かべると気分が沈んだ。

あの何でも見透かしたような底光りのする目が馬堂は苦手だった。

直通のエレベーターから降りて厳つい扉をノックする。
はーい、と年に似合わない間延びした声。…俺だ、と短く伝える。
少し間を置いて扉が開く。覗いたのは厳徒ではない、痩せた青白い顔。
「…狩魔。」
「…ふん、間の悪い奴だ…」
「いや〜、逆じゃない?タイミングがいいのかもよ?」
どーぞー、部屋の奥から厳徒の声が聞こえる。馬堂は狩魔の脇をすり抜けてオフィスへ踏み込んだ。
すれ違いざまの狩魔の射すような視線を馬堂は頬に感じたが気づかない振りをした。

「…何を…している…!?」
「何ってねぇ、見てわからない?」
厳徒が困ったように笑った。椅子に腰掛けた厳徒の足の間に屈んでいる一人の人影が。
頭部が細かく動くと同時にぴちゃぴちゃとした水音が鳴っている。見覚えのある、色素の薄い髪。
「ほら御剣ちゃん、お客さんだよ。」
厳徒が御剣の顎を掴み、馬堂の方へ向けてきた。
御剣の唇が糸を引く、厳徒の体液か己の唾液か、顎から胸元までじっとりと濡れている。
とろんとした瞳。半開きで浅く息を吐く唇。紅潮した頬。
ゾッとした。
犯罪を異様なまでに憎み、軽やかにロジックを振りかざす凛とした青年。ともすれば子供じみた正義感を馬堂は快くも思っていた。
だが、そんな背筋の伸びた青年はいない。あどけなさの残る顔に浮かぶのは欲に濡れた官能。
馬堂は手のひらに汗をかく。


御剣は馬堂の無反応に興味を失ったのか、再び厳徒に向き直る。
頬擦りするように厳徒の一物へ顔を寄せ幹へ吸い付き奉仕を再開した。
「御剣ちゃんのお仕置き中なんだけどさ、何か全然効いてないっていうか。」
「…んむ…っ、も、申し訳…ありません…ひっ!」
「ここ、こんなにしちゃってさ。」
厳徒は御剣の股間を踏みしめた。青年が顔を歪める。
「御剣、貴様、法廷で醜態を晒しおって、我が輩の顔に泥をぬる気か。」
いつの間にか馬堂の傍まで狩魔が近寄っていた。茫然とする馬堂を一目もせずに、手にした杖を振り上げる。
「ああっ!!」
打ち据えられ、若竹のようにしなる御剣。しかし拒絶するようではない。
「ふん、貴様、仕置きを望んでわざと失態を演じているのではないだろうな?」
「ち…違います…」
「ならこれは何だ?」
狩魔が杖の先で厳徒に踏まれた御剣の勃起を扱く。
「あ、あっ、先生っ…」
御剣の腰は揺れ明らかに快感を享受し若いそれはぴくぴくと反応する。
「だからね、いいタイミングだし、今日は馬堂君に協力してもらおうと思ってね。」
「…何…だと…!」
御剣、と狩魔に杖で叩かれよろよろと立ち上がる青年。座る厳徒に縋って上半身を支え、尻を馬堂へ向けてきた。
「…馬鹿な…お前ら…どうかしている…」
思った以上に乾いた声だった。にやつく厳徒。見下すような狩魔。だが、この青年の痴態に下半身が沸騰している。
「ほら、君があんまりいやらしい声を出すから。ちゃんと責任とってあげなよ。」
「…はい…」
「馬堂、御剣を犯せ。」
まさに悪魔の囁きであった。馬堂は御剣の尻を左右に割る。しっとりと汗ばんだ肌が手に吸い付く。
ぱくぱくと物欲しげに開閉するそこに漲るそれを挿入した。


「…ああっ、んん…」
侵入を拒むどころか奥へ誘い込むように馬堂を銜えてくる。
「御剣ちゃん…どう?」
「あっ、はい、気持ちいい…いい、ですっ、」
「何だその様は、御剣。」
狩魔が杖をぐりぐりと揺れる御剣の性器へ捻り込む。ひきつった悲鳴と同時に出入りする馬堂を激しく締め付けた。
「…ボウズ…くっ……!」
咄嗟に身を引き、御剣の背中へ吐き出す。「御剣ちゃん、口開けて。」と巌徒は膝を着いた御剣の顔へ白濁をかけた。
白く汚れ、力無く床へ座り込んだ御剣は狩魔へ縋るような視線を送る。
「次は、完璧な勝利だ。わかっているな。」
「はい…先生…」
差し出された杖の先についた己の体液を舐め取る、陶然とした表情の御剣。
怒ったような、哀れむような表情の狩魔。愉しげな巌徒。
歪な何かがこの青年を中心にしてある。
図らずもそこに片足を突っ込んでしまった馬堂は、だが漫然と目の前の青年から目が離せなかったのだ。



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