時計の針は深夜を回っていた。
テーブルの上にはいかにもコンビニで揃えたという風な、
アルコールやつまみ類が散乱している。

「俺はもう女なんか信じねえぞおおォォォォ!!!」

ややろれつの回っていない口調で、男がわめいた。
飲みほしたビールの缶をテーブルに叩きつける。
空き缶の底がテーブルにぶつかって固い音を立てた。
テーブルの向かい側に座っている男は黙ってグラスを傾ける。

「おい!黙ってねえで何とか言えよぉ!御剣ィ!」

御剣と呼ばれた男はグラスを置いて、眉をしかめた。

「今日何度も聞いて聞きあきた言葉に、今さら何と言えばいいのだ。
 そもそも、今日だけではないぞ矢張。ここ数年、いや、もっとだ。
 キサマと付き合いが始まってから幾度となくそのセリフを耳にしたが。」

矢張と呼ばれた男が酩酊の様子を呈しているのに比べると、
御剣はしっかりとした口調で理路整然と述べた。
しかし、声のトーンが少しばかり普段より高くなっているのは
アルコールの影響も多少あるのだろう。

「うるさいうるさい!お前なんかに、オレの気持ちが分かるかよォォ!」

空き缶を握りつぶしながら矢張がわめく。
眉間にシワを寄せたまま黙ってグラスを傾ける御剣。

「お前はいっつもそうだ、そうやって気取りやがってよォォ!」

―――

くだを巻いているこの友人を、御剣が部屋に招き入れたのは夜9時くらいの事だった。

仕事場からの帰宅途中、御剣の携帯電話に珍しく矢張から電話が入った。
御剣が急いで自宅にたどり着くと、コンビニのビニール袋をぶら下げた矢張が
ドアの前にしゃがみこんでいた。
矢張は御剣の姿を見つけたとたん、目をうるませながらすがりついてきた。

「御剣ィ!今夜は突き合ってくれよォ!友達だろォ!!」

要は、女にフラれた矢張が憂さを晴らしたくて泣きついて来たのだった。
たまたま仕事で地方に行っていた成歩堂がつかまらず、
御剣にお鉢が回ってきたというわけだった。

矢張が買ってきた酒も底をついて来た。時計はすでに深夜1時を回っている。

「ちくしょう…女なんか…」

テーブルにもたれかかる矢張が、誰に言うともなく口の中で呟く。
最後の缶ビールを派手にあおったが、もう1滴も残ってはいなかった。

「何だよッ」

缶をテーブルに叩きつけて、顔を上げた。

「おい、御剣ッ…」

アルコールをねだろうと顔を上げた矢張は、ふと目に入った御剣の姿に見入ってしまう。
時間も随分と下がってしまったし、仕事の疲れもあるのだろう。
御剣は座ったまま瞼をトロンと垂れさせ、かすかに船を漕いでいた。
そう言えば、さっきから矢張に隠れて欠伸を噛み殺していたようだ。

自分の事ばかり喋っていて気にも留めなかった、御剣の服装。
白いシャツに黒いベスト・赤いパンツという出で立ちから察するに、
仕事から戻ってジャケットを脱いだだけなのだろう。

―こいつ、俺の愚痴に付き合ってくれてたからシャワーも浴びてねえんだな。

急に申し訳なく思う気持ちが沸いた。

仕事で疲れてんのに、もう何時間も黙って俺に付き合ってくれてたんだよな。
いや、黙ってではねえか。説教垂れてたしな。
いやいや、でも説教は垂れても帰れとか一言も言わなかったもんな。
こいつなりに、気使ってくれてたんだな。

矢張は急に、温かい気持ちになった。
座ったままウトウトと居眠りを始めてしまった御剣を、愛おしいと思う気持ちが沸いた。
テーブルに肘をついて、まじまじと御剣を眺める。

こいつ、いつも口うるさいけど俺の事けっこう考えてくれてんだよな。
…こうして、じっくり顔眺めることなんかなかったけど…
こいつ、結構イケメンなんだよな。イケメンっていうより…綺麗な顔してんだな。
目鼻立ち整ってるし…肌が白くて…すべすべしてそう…触り心地、良さそうだな。

ぼんやりとそんな風に考えながら居眠りをする御剣を眺めていた矢張は、
ハッと我に返り考えを打ち消した。

―何考えてんだオレ!女にフラれたからって、バッカじゃねえの!

気を紛らわせようと、御剣に声をかけた。

「おい御剣ィ、風邪引くぞォちゃんと寝ないと」

呼びかけられた御剣が、んっと呟いてうっすら瞼を上げた。
その目は完全に寝呆けているようだ。よほどの眠気に耐えていたのだろう。

「んんー…」

御剣は子供のように唸りながら、そのままソファに寝転がってしまった。

「お、オイ!ここで寝るなって!ベッド行けよ!」

矢張は慌てて立ち上がり御剣の元へ行った。
御剣はソファに横たわって目をつむっている。

「ん…ここで…いい…」

アルコールが入っているからだろうか。
いつもの毅然とした御剣からは想像もできない、聞き分けのない子供のようだった。

「よかねえだろ!こんなとこで寝ちまったら風邪引くって!」

矢張は御剣の肩を揺すったが、起きそうな気配がない。
その時、矢張の目に御剣の白い首筋が飛び込んできた。
首筋から、うなじにかけての白い滑らかな肌。
アルコールのせいだろうか、ほんのり赤く染まっている。
急に、矢張の心臓が跳ねた。体が熱くなる。
御剣の首筋から目が離せなくなる。

―な…何だよ…これ…何だよこのキモチはァ…

胎児のように、ソファの上で体を丸める御剣。色の薄い髪が、さらりと額の上に落ちた。
早まる脈を感じながら、矢張は御剣の顔をしげしげと見つめた。

けっこうまつ毛長いな。
唇の形、きれいだな。
ほっぺた赤くなって、かわいいな。

触れてみたいという衝動が沸きあがる。

―ちょっとだけ、触ってみるだけ。

恐る恐る、手を伸ばした。
伸ばした指先が、そっと御剣の唇に触れる。
ぷにっ、というかすかな弾力が矢張の指先を押し返す。

―うわぁ…やわらけえ

矢張はかすかな感動すら覚えた。
心臓は早鐘のように鳴っている。それは、ある種の警告音のようでもあった。
しかし、そんな事すら今の矢張にとってはどうでもいい事であった。

矢張に触れられて、御剣がかすかに声を漏らした。
まだ、夢とうつつの狭間をさまよっているのかもしれない。

「んー・・・」

―なんだよ、こいつ。子供みてえ

矢張の好奇心がむくむくと肥大する。
指先で、今度は頬の中心を押さえてみた。意外なほど滑らかな肌の感触。

―こいつ、男なのに何でこんな肌つるんとしてんだよ

ぷにぷにと頬を押す。
「んっ」と言った御剣の手が、頬に触れる邪魔なものを遮るような動きをした。
しかしそれも一回だけで、再び深い呼吸を始める。

―ヤベェ。かわいいかもしんねェ

矢張は、今度は手の平を使ってその頬を撫でてみた。
安心しきったように目を閉じる御剣。冷静ですました御剣はそこにいなかった。

―ヤバイって。何考えてんだ、オレ

かすかな理性が警鐘を鳴らしている。
しかし、膨れ上がった好奇心は―もはや“欲望”と呼べる代物だったが―
そんな小さな理性など吹き飛ばしてしまう。

矢張は静かに顔を寄せ、唇を――重ねた。

耳の中を大きな動脈が走っているかのように、
ドッドッという心臓の音が矢張自身にもよく聞こえた。

―なんでオレ、こんなドキドキしてんだよ。童貞喪失の時だってここまでなかったぞ。

唇が触れていた時間は、正確には数秒だったかもしれない。
しかし矢張にはやけに長い時間に感じた。唇を離して、御剣の様子をうかがう。
相変わらず目を閉じたまま、すうすうと規則的な呼吸を繰り返している。

―安心しきった顔して、眠りやがって。襲っちゃうぞ、コラ!!

矢張の中で何かが弾け散った。
ソファの上に跨り、御剣の唇を自分の唇で塞いだ。
そうしているうちに妙な背徳感や高揚感が矢張を襲い、ひどく興奮して来た。
御剣の唇をむさぼる。さすがの御剣も、ぼんやりと目を開けた。

「んっ!?」

次の瞬間御剣が目を見開き、声をあげた。
目の前で欲望を剥き出す矢張に、ようやく理解が追い付いたようだった。

「んんっ!」

呻きながら矢張の体を押し戻す。
のしかかって来る体が重くてなかなか引きはがせなかったが、
御剣の抵抗に観念したのか矢張が自分から体を離した。

「な、何をしている…キサマ!」

御剣の顔が耳まで赤面する。何が起きていたのかが御剣にも分かったようだった。

「何ってオマエ…そんくらい分かるだろうが。
 それともアレか…オマエ、こういうの初めてか?」

興奮して息を荒げる矢張。御剣の上に跨ったままニヤニヤと見下ろす。

「ば、バカを言うな、は、早く離れろッ…!」

御剣が必死で矢張をどかそうとするが、ビクともしない。
普段バイトで肉体労働をする事も多い矢張は、細身の割に意外と筋肉がついていた。

「お、お前は…女性にフラれたばかりで、気が動転しているのだッ…!」

赤面して必死に抵抗してくる御剣の困ったような顔を見て、矢張が言った。

「御剣ィ、お前よく押し倒されンじゃねえか?
 お前のそういう拒否ってる顔さ、すっげーエロいんだよ。分かってる?逆効果なの」

「なっ…!」

御剣の顔がますます赤くなった。
その反応に、矢張の興奮はますます高まる。
目の前の御剣は、もはや長年の友人などではなかった。
抱きたくても手が届かなかった高値の花の女をついに手に入れた時のような、
いやむしろそれ以上の興奮が矢張を支配していた。
顔を赤らめて力なく抵抗してくる御剣の様が、矢張を誘惑する。

―なんでこんなエロいんだ、こいつ。ヤベェよ、これ

矢張は押し返そうとしてくる御剣の両手を押しつけた。
涙で潤んだ不安そうな瞳が矢張を見上げている。

「やめろ…矢張」

そんな訴えかけるような表情も、今の矢張には情欲を掻き立てるだけだ。
矢張は自分の唇を軽く舐めると、再び御剣へ口づけた。
御剣がじたばたと抵抗するが、矢張はものともしない。

矢張の唇を避けようと御剣が顔をそむければ、
耳から顎にかけての綺麗なラインが矢張をゾクゾクさせた。
耳を舐め、耳たぶを噛み、耳の後ろから首筋へ沿って舌先をちろちろと動かすと、
御剣が息を漏らす。

「んッ…ふ」
「ン?耳、感じるのか?」

御剣はぎゅっと目を閉じてぶるぶると首を振った。

「素直じゃねえなァ」

矢張は御剣の両手を片手で押え直すと、開いた手で御剣のクラバットを外した。
さらにはシャツのボタンを外して襟元を開けた。御剣の首筋が赤く染まっている。

「御剣ィ、キスマークいっぱい付けてやろっか」
「な…ふざけるなッ…!」

にやりと笑う矢張は御剣の鎖骨へ唇を落とし、肌を吸う。
ひとつ、またひとつと御剣の肌へ矢張の残す跡がついていく。
御剣の潤んだ目が矢張の欲望を加速させていく。
鎖骨を味わい尽くした矢張はさらにシャツとベストのボタンを開けると、
御剣の胸を剥き出しにした。薄い桃色の突起を口に含む。

「はぁ…ンッ」

矢張の舌と唇が御剣の突起をまさぐれば、やがて尖った形状に変わる。
御剣は唇を噛み締めて、いやがおうにも感じてしまう快楽に抗っているようだ。
左右の頂を交互に舐めた矢張は、いやらしく尖る御剣を眺めて満足げに笑う。

「御剣ィ…お前のおっぱい、エッチな形になってんぞ。気持ちいいか?」

ぎゅうっと目をつぶる御剣の目尻に涙が光っている。矢張はその目尻に口づけた。
胸元をはだけさせ紅潮した顔を矢張から背ける御剣が、たまらなく情欲的だった。

「なぁ御剣、お前のやらしい声もっと聞かせろよ」

耳元で囁いて、服の上から股ぐらをまさぐった。
かすかに反応している、御剣の性器。触れると、御剣がビクリと痙攣した。

「お前…おっぱい舐められて勃起しちゃうんだ」

楽しそうな声で矢張が語りかけると、御剣は小さく首を振った。


―ヤベェ、エロい、エロ過ぎるよ御剣。超楽しい

布越しに、かすかに膨らむ御剣自身を撫でさする。
御剣が泣き声のような声を漏らした。

―うわ、だんだん勃って来てる…エロ…っ!

矢張は片手を使って器用に御剣のファスナーを開けると、苦しそうな性器を解放した。
聞き取れるかどうかというかすかな声で御剣が抵抗したが、矢張は聞かなかった。

「やぁっ……」

御剣が力なく呻いた。濡れて揺れる御剣の瞳が矢張を見上げる。
その目は悲しそうでもあり、諦めのようでもあった。
しかし熱で浮かされた矢張の目には、御剣の目に宿る感情は映らなかった。

いつしか抵抗をやめた御剣の性器を握り、体液を絡めながらぬるぬると擦る矢張。
御剣の体がぴくんと跳ね、甘い声をあげ始めた。

「んッ…ふぅ…ぁ」

薄く開いた唇から淫靡な喘ぎ声と乱れた吐息が漏れる。
濡れた瞳が矢張を見詰める。矢張は大きく唾を飲み込んだ。

―こんなエロいセックス、したことねェ…何なんだよォ、コイツは!

御剣の股間をまさぐりながら、矢張は自分のモノもパンパンに張り詰めている事を
自覚する。今までに感じた事のない興奮が矢張を駆り立てる。
性器を扱く手をさらに激しく上下させると、切なげな表情を浮かべた御剣が
より淫らな声をあげながら矢張の腕にしがみついて来た。

「あ、んっ、ん、だ、ダメっ……出るッ…矢張ッ…!」

今にも溢れそうな涙を目いっぱいに浮かべ、必死に首を振る御剣が、
掠れた声で訴える。

「イ…イッてしまう…から…ダメ…だ…」

はあはあと熱い息を吐きながら絶頂が近い事を知らせて来る御剣の行為は、
矢張にとってみれば逆効果でしかなかった。

―ヤベェ。すげェエロいし、すげェかわいい。ヤベェよ、御剣。

「じゃあ、やめるワ。」

そう言って手を止める。
矢張の目を見る御剣の目は、安堵したような落胆したような、複雑な色を浮かべていた。

「やっぱやめねェ」

矢張は楽しそうに笑うと、再び激しく手を上下する。


「やっ!あっ、んぁ、あっああ!」

滑りが悪くなれば唾液を垂らして潤滑を良くした。
矢張の手の動きに合わせて御剣の性器からぬちゃぬちゃと卑猥な音が立つ。
自分の手で淫らに乱されて快感に飲み込まれる御剣の姿を見ながら、
矢張もまた自らの性器を弄っていた。

「ん、はぁっ、だ、だめ、も、イ、イくぅ、や、やはりっ…!」

涙が溢れるすがるような目が、矢張を見上げている。
答える代わりに矢張は、さらに激しく手を動かしながら御剣に口づけた。

「んぁっ、あ、…はっ…ンっ…っん!!」

ビクン、と大きく御剣がのけ反る。
矢張の手の上に熱いものが降り注ぐ。御剣が矢張にしがみついてくる。
粘り気のある白い液体がどろどろと溢れ出る性器を、矢張はゆっくりと扱きながら
最後の一滴まで絞り取った。御剣の下腹部が自身の精液で汚れる。

はあはあと息を荒げて脱力した御剣が、ソファに沈み込んだ。
乱れて果てた御剣の痴態を見下ろしながら、矢張も自身のものを扱いた。
やがて、矢張のものも御剣の腹の上にぶちまけられる。
2人分の精液で汚された御剣を見下ろしながら、矢張はゾクゾクとした感覚に襲われた。

―やべェ。完全にハマるかもしれねェ。

脱力する御剣に覆いかぶさり、もう一度口づけした。
御剣の目尻から、一筋の涙がつたい落ちた。

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