文字を追う目の上のまぶたが徐々に重くなってきた。
壁に掛けてある時計を見上げる。0時を10分近くまわっていた。
少し、夜更かしをしてしまったようだ。読みかけの本にしおりを挟んだ。
書斎机の上に本を置き、外した眼鏡をその上に。
それからライトスタンドの灯りを消し、ベッドへ入って横になる――つもりだったのだが。
眼鏡を置いた時点で、ドアの向こうからトントンと小さなノックが鳴るのが耳に届いた。
おや、と思ってもう一度時計を見上げた。
こんな夜更けにどうしたのだろう。とっくに眠っているはずの時間だが。
「入りなさい」
椅子に掛けたままドアの向こうへ声を掛けた。
少ししてドアノブがカチャリと音を立てて回り、そっと薄くドアが開いた。
「失礼します」
ドアの隙間から、パジャマ姿の怜侍が顔をのぞかせた。
機嫌をうかがうような表情でドアの向こうに立っている。
「入りなさい」
もう一度言った。
怜侍の様子からしても、何か折り入って話したいことがあるのだろうと想像できた。
おずおずと部屋に入り静かにドアを閉めると、その場でもじもじと佇む怜侍。
こちらへおいで、と呼び寄せるとトコトコと歩いて来て机の傍らで立ち止まる。
「どうしたんだ、こんな時間に?眠れないのか?」
俯いたままの怜侍に声をかけると無言のまま小さく頷いた。
「怖い夢でも見たのか?」
よそと比べて大人びているとはいえ、実際にはまだ9歳である。
一人で眠れない夜もあるかもしれない。問いかけに対し怜侍はふるふると首を振った。
「違うのか?どうした?」
顔を上げず、指先でパジャマのすそをもそもそといじっている。
「お父さんに、何か話したいことがあって来たんだろう?
言いにくいことか?何か怒られるようなことでもしたか?」
努めて穏やかに問いかける。またも怜侍はぷるぷると首を振った。
「どうした?黙っていてはお父さんにも分からないぞ。」
それでもなお少し黙って、ようやく怜侍は薄い唇をそっと動かした。
「お父さん、ぼく……。病気、かもしれない」
「病気?」
最近の怜侍もいつもと変わらず元気そうだし、
定期的に学校で受ける健康診断では至って健康なはずだが…
「体の具合が悪いのか?どこがどう悪いんだ?」
ますます言いにくそうに口をもごもごと動かす怜侍。
「なんだ、聞こえないぞ。お父さんにちゃんと言いなさい」
パジャマの裾をぎゅっと握りしめながら意を決したように怜侍が口にした言葉は意外なものだった。
「お…おちんちんが…」
「…おちんちん?」
予想外のフレーズに思わず気が抜ける。いや、しかし症状によっては大変なことかもしれない。
「おちんちんがどうした?痛いのか?」
「ちがうの…あの…その…ぼく…」
「うん」
「ごめんなさいお父さん。ぼく…その…お父さんの、マッサージ器を…勝手に使って…
おちんちんに、こっそり当てていたんだ」
「マッサージ器?」
確かに私は以前肩こりがひどかった時に電動式マッサージ器を使用していた。
最近は全く使うことがなかったが…
「どうしてマッサージ器を?」
「ごめんなさい…」
「お父さんは謝りなさいと言っているんじゃない。理由を聞いているんだよ。」
「………最近学校で、電気あんまが流行ってるんだ」
「電気アンマ?……確か、男の子どうしてよくやる悪ふざけか」
「うん、おちんちんを足で踏んでビリビリってやるやつだよ。
矢張とかほかの男子とかの間で流行ってるんだ」
あいつか、とやんちゃそうな悪ガキの顔を思い浮かべた。
確かにあいつなら嬉々としてやっていそうだ。
しかし我が子怜侍には少し似つかわしくない遊びであるような気がした。
「怜侍も一緒にやるのか?」
「ぼくは…ぼくからは、やらない…」
“ぼくからは”という表現が引っ掛かった。さらに聞き出すことには、クラスの男子はどういうわけか
怜侍をいつも対象にして電気アンマごっこをやるらしく、いつも標的にされているのだそうだ。
「友達から、いじめられているのか?」
「いじめられてるわけじゃないけど…電気アンマごっこをやりだすと、
みんな僕ばかり狙うんだ…ぼくがその…変な反応しちゃうから…」
「変な反応?」
「最初はくすぐったいんだけどそのうち、なんだか…変になっちゃうんだ」
「変?…どんなふうに」
「なんだか息ができなくなって、体にびりびり電気が走るような気がして…
電流が走りぬけたと思ったら、そのあとぐったりしちゃうんだ」
妙な予感がした。うつむく怜侍の白くて細い首筋を眺めた。
「だから、ぼく…変な反応をしなくなれば、みんなから的にされなくなると思って…」
「それで、電気マッサージ器で練習したのか?」
黙ってコクンと頷いた。
「でも…何度かやってみたけどやっぱり…電気アンマされたときみたいに…
びりびりって電気が来て、息がしにくくなって、おちんちんがぞわぞわして…」
「それで、病気かもしれない、と?」
「だって、こんな風になるのぼくだけなんだ。他の男子は電気アンマされても、
ぼくみたいに変な声出したりぐったりしたりしないのに」
怜侍の声はいつの間にか涙声になっていた。
私の疑念は確信に変わっていた。
怜侍の小さな性器は、もはや大人のそれとして機能し始めて来ていると。
ならば、それを自覚させてやらなければいけないと思った。
無知のために病気と恐れていたずらに不安がるばかりでは、可哀そうだと思った。
「怜侍、こちらへ来なさい」
グズグズと鼻をすする怜侍を呼び寄せ、膝の上に抱き寄せた。
普段あまり甘やかすことをしないためか、こういった親子の触れ合いは久しぶりだ。
怜侍も甘えることを我慢していたのだろう、嬉しそうに身を寄せてきた。
半べそをかいている怜侍の髪をゆっくりと撫でる。
膝の上にかかる怜侍の体重。
このように膝の上に抱き寄せたのはいつぶりだろうか。
しばらく前のことだろう、記憶にない。ずいぶんと体重も増えたように感じる。
親の知らない間に日々成長していることを実感する。
「怜侍、聞きなさい。」
うん、といって怜侍が膝から私を見上げる。
「怜侍、それは病気ではないんだ」
「ほんとう?」
安堵したように笑顔を浮かべる怜侍。
「そうだ。みんな同じなんだよ、男の子はね」
「そうなの?でも…クラスの男子は、誰も…」
「怜侍が一番最初なんだよ。それと・・・怜侍が一番敏感なのかもしれない」
「びんかん?」
「そうだ。あと、マッサージ器を使うのはちゃんとした使い道じゃないね」
「ごめんなさい」
「勝手に使ったことを怒っているんじゃないよ。
お父さんは、怜侍にちゃんとしたやり方を教えたいんだ」
「やり方…?」
「そう、おちんちんの治し方を教えてあげよう」
「治し方?」
「おちんちんが変な感じになるんだろう?そうなったときの治し方だ」
「…うん!教えて!」
怜侍の表情がぱっと輝いた。父との久々の触れ合いを喜んでいるのだろう。
いつもの大人びた仮面を外して、9歳の子供然とした言動を見せる怜侍。
「よし、じゃあ下着とパジャマのズボンを脱ぎなさい」
「え、脱ぐの…?」
親子とはいえど恥ずかしいのだろう、怜侍は少し躊躇した。
「脱がないと治せないからな。治し方を知りたいんだろう?」
「知りたいです」
頷いた怜侍は一度私の膝から立ち上がり、下着とズボンを脱ぐと畳んでその場に置いた。
再び私の膝の上に上がり、先ほどと同じ姿勢を取った。
「今からお父さんが、怜侍のおちんちんを治してあげるから、お父さんを信じて、
怜侍はただじっとしていればいい」
「分かりました」
怜侍の表情がぐっと引き締まる。私の肩に手をまわして服をぎゅっと握る。
「じゃあ、まずおちんちんを指でそっと挟むからね」
「はい」
「ぎゅっと掴んだり爪を立ててはだめだ」
「わかりました」
「それから、そっと上下に動かす」
「…はい」
怜侍の真っ白い太腿の付け根にある、まだ未成熟な性器を指で挟むと私はゆっくりと扱き始めた。
ゆっくり、ゆっくり。
シンと静まり返った書斎にカチコチと時計の秒針が響く。
しばらくすると怜侍がもじもじし始めた。
「お父さん…?」
「変な感じになってきたか?」
こくりと頷く。
「大丈夫、お父さんに任せるんだ」
「でも…」
「じっとしていなさい」
「はい…」
私は怜侍を抱えたもう一方の手をパジャマの上着の裾からすべりこませ、
薄い胸の上に這わせると指先で小さな突起を探した。
指先に目的の感触を感じると同時に、怜侍が鼻から抜けるような声を少し出した。
胸の小さな突起をコリコリとはじき、その間も性器をこする指の動きを続けた。
次第に怜侍の呼吸がふーっ、ふーっ、とリズミカルになってくる。
未熟な性器が少し膨張し、指を押し返してくる。
「おとう、さん…」
「どうした?」
「こ…怖い…よ」
「お父さんにしっかりつかまっていなさい。大丈夫だから」
「うん…」
怜侍の涙声が震える。
自分の体に起きている変化に怯えているのだろう。
両腕をまわして私の体にしがみついてくる。
時々、裸足の足がピクリと痙攣する。
白い太ももの血色がよくなってくる。
呼吸のリズムがハッハッと短くなってくる。
「ん、おと、さん、へん…お、ちんちんが、へ、へん、んっ」
はあはあと乱れる呼吸混じりに怜侍が訴えて来る。
スタンドライトの薄暗い灯りに照らされて、
そのあどけない顔立ちにもハッキリと淫らな快感の色が浮かんでいるのが見える。
紅潮した頬には乾きかけの涙の跡が一筋ついていた。
誘うように腰を浮かせ、徐々に股を開いてゆく怜侍。
若干9歳の子供に、これだけの色気があるとは露ほども思わなかった。
この子はもしかすると、天性とも言える淫らな“さが”を持っているのかもしれない。
怜侍の熱い息と淫らに喘ぐ声を耳に感じながら、そんなことを思った。
「んっ、はあっ、おと、おさん、んっ、あっ」
頭を私の肩に押し付けてくる。細い首筋を眺めているうち、
その白い肌にむしゃぶりつき唇の跡を着け、歯を立ててみたい衝動に駆られた。
衝動は理性で抑えたものの、自らの股間まではコントロールできず
ズボンの下ではちきれそうになっている我が性器が、下着を濡らしていた。
「お、と…さん…んっ、あ、あああっ!」
ビクビクと一層激しく痙攣した怜侍が、私を掴む両腕にグッと力を込めた。
怜侍の頭を抱き、自分の顔をうずめた。シャンプーの香りがした。
怜侍の性器を見てみた。汚れていない。
精通はまだしていないようだ。
ピクピクと断続的な痙攣を繰り返す怜侍をもう一度強く抱きしめる。
はぁーはぁーと肩で息をしている。落ち着くまで頭を撫で続けた。
細い肩を腕に抱きながら我が子を愛おしく思う気持ちがふつふつと沸き上げたが、
この淫らな少年を一度この手でめちゃくちゃに乱れさせてみたい、
という衝動も禁じえることができずにいた。