一月一日、元旦。
まだ冬は真っ只中で、身を刺すように風は冷たい。
湿度は無いが気温は低く、薄い雲が空を一日中覆っている、このところそんな天気が続いている。
元々日当たりの悪い『メゾン・ド・あした』は、だから一日中底冷えし、薄暗い。
煤けて、色褪せた、隙間風の入る六畳一間の安普請。それが糸鋸の城だ。
今、その城に不釣り合いな客人がいる。
色白で、色鮮やかな赤いスーツを隙なく着こなした、スタイル抜群のいい男。
あまりに場違いで糸鋸は何度かCGではないかと思ったくらいだ。
「汚い。それに狭い。家畜の小屋か」
「…酷いッス…未だかつてそこまで言った人はいなかったッス」
糸鋸は散らかった衣服やらゴミやら雑誌やらを乱雑に脇に寄せて、なんとか畳に御剣の座るスペースを作る。
にもかかわらず御剣は爪先立ちで歩くと、敷いてあったシートのようなものの上へ座った。
―こんなことなら大掃除すればよかったッス…。
まさか御剣が新年の挨拶にくるなんて思ってもみなかったのだから。
「うおおおおっ!」
という御剣らしからぬ珍妙な挨拶であったが、糸鋸は天にも昇る気持ちであった。
今年も寝正月。貧しい自分は染みの浮いた天井を眺めながら素そうめんをかじる…そう思っていたのに
あの、御剣が。
嬉しくて、そのまま帰ろうとした御剣を部屋に上げたのだが、糸鋸には御剣をもてなす準備など何もなかった。
しかも部屋は汚い。糸鋸の生活感剥き出しの部屋に小綺麗な御剣がいるのには、どこか後ろめたさを感じてしまう。
「お湯でも飲むっすか?」
「湯?ああ、任せる。しかし寒いな、風が入ってきてるぞ」
「うぅ…仕様ッス」
糸鋸は慣れているが御剣は本気で寒いのだろう。眦が赤い。下に敷いてあるシートを引っ張ってくるまる。
―そ、それは自分の寝袋ッス…!
長年使い込んでいるため、草臥れてぺちゃんこになっている糸鋸愛用の寝袋。いわば糸鋸の寝床だ。
その寝床に御剣がいる。
―なんかドキドキするッス…!
糸鋸はチラチラと御剣を観察しながら白湯を用意する。
くすんだ背景に御剣はやっぱり不似合いで、作り物のようだ。
頬や指先が赤く染まっている。心許ない蛍光灯の下で睫毛が影を作る。
御剣はシートに鼻を近づけ、何か臭うなと言っている。
―それは自分の寝袋ッス!あぁ〜嗅いじゃだめッス!
「…白湯ッス」
「うム」
御剣が湯呑みに口をつけるとチラリと舌と歯が覗いた。
―落ち着かないッス。うぅ、自分のノープランが嫌になるッス。
「その…刑事には、色々迷惑をかけた…」
「え?なんッスか?」
「年末の裁判、だ」
御剣は思い詰めたように糸鋸を見ている。
「じっ自分は迷惑だなんて思ったことは一度もないッス!御剣検事をいつも信じているッスからね!」
これは本当の気持ちだ。思ったことを素直に吐露できるのは自分の長所でもある。
御剣の眉間の皹が和らぎ、見るからにほっとした表情になった。
糸鋸はまた嬉しくなる。
誰かに感情や感傷を曝すことが苦手な御剣の微かな変化がこの上なく、愛しいのだ。
―愛しい…?だめッス!上司にそんな…!
糸鋸は頭を振って邪念を追い出そうと試みる。
でも、狭い部屋で二人きり、糸鋸の寝床に御剣…脳内の御剣は既に半裸になりつつあった。
ガタガタとサッシが鳴っている。どうやら風が出てきたらしい。
蛍光灯が不安定に光っている。
―鎮まるッス!自分!
中学生のころ、教室で好きな女の子と二人きりになったことを思い出す。
結局、何も話しかけられず、ドキドキしたまま家に帰って脳内で彼女を
―って何を思い出してるッスか糸鋸圭介!最低ッス!
でも今はあの頃のような子供ではない。
目の前の御剣に、伝えたいことを伝えることができるかもしれない。
―御剣検事、大好きッス!セックスしたいッス!
「……………」
「ム。どうした黙って。それよりも蛍光灯が切れそうだぞ、換えたまえ」
―そんな破廉恥なこと言えるわけないッス!!
糸鋸は悶絶した。
その時、ゴウと風の音が響いた。サッシが軋み、建て付けの悪いアパート全体が横から殴られたように振動する。
ギ、ギ、ギ、と梁が歪な音をだす。そして、ふっと、視界が闇に閉ざされた。
「停電…ッスかね?このアパート、ボロいッスから…」
「………」
「…御剣検事?」
「う」
「御剣検事?」
「うわあああぁっ!」
ガタガタと物が崩れる音、畳がこすれる音、空気が乱れる。
―みっ御剣検事!?これは、
御剣は闇雲に動いているらしい。糸鋸は闇の中、泳ぐように腕を伸ばす。
かって知ったる自らの城、そこにいる異質な存在、糸鋸は器用に物を避けて御剣がいるであろう方向へ向かう。
手のひらに、トン、と当たる。暗闇が形を成す。
自分のものではない、他人の体温。震えている。
「御剣検事っ!大丈夫ッス!ただの停電ッス、怖くないッスよ!」
糸鋸は震える御剣を寝袋ごとかき抱く。御剣は譫言を何か繰り返している。
御剣の顔が糸鋸の肩口に埋められている。
呼吸というよりも、ヒューヒューと空気の漏れるような音が聞こえて糸鋸は哀しくなった。
「御剣検事、大丈夫ッス、大丈夫ッス…」
御剣の背中をあやすようにさする。しばらくすると御剣も落ち着いてきたらしい。
重なった胸の動きが治まってきている。
「す…すまない…急なことで取り乱して、しまった」
「いいッス。御剣検事のペースでいいッスよ」
「うム…刑事にはみっともない所を見せてしまうな…すまない…」
御剣が顔を上げる。
青白い闇に端正な顔が浮き上がる。涙ぐんだのだろうか、湖面のように揺らめく灰色の瞳。
―うほおおおっ!?この状況はなんッスか!?
だんだん目が慣れてきた。暗がりで、御剣と二人、密着している。
―これはもしかしたら神様がくれたチャンスかもしれないッス。
いや、トラウマで怯える検事にそんなことは出来ないッス!
「…笑ってくれ。まだ私は恐ろしいのだ…地震や、エレベーターが…」
糸鋸の煩悶をよそに御剣はクラバットを緩め、寄りかかってきた。体にかかる体重が心地良い。
御剣の息づかい。御剣の匂い。
「…御剣検事…今だけでいいなら…その恐怖、忘れさせてあげるッス」
糸鋸は覚悟した。
御剣の肩を掴んで押し倒す。上手い具合に下に糸鋸の寝袋が敷かれる。
―ベッドイン ッス!
糸鋸は御剣のベストを手早く開き、シャツをぐいっと捲り上げた。
夜気に晒される御剣の素肌。暗がりで白く発光しているみたいだ。
―みっ御剣検事のおっぱいッス!
「け、刑事!?止めろ、寒い!!」
「寒いなら今温めてあげるッス!」
「は?……んぁ、っ」
糸鋸は御剣の胸へむしゃぶりついた。
ベロベロと乳首を下から上へ舐めあげると、プルプルと弾力を以て乳首が揺れ動く。
もう片方は指で緩急をつけてクリクリ摘む。
―乳首が堅くなってきたッス!あぁ〜可愛いッス!
糸鋸は乳首を強く吸いながら、きつく引っ張った。
「んはぁ!…刑事、や、止めろ…ああっ!」
「御剣検事はおっぱい、感じるッスね?可愛いおっぱいッス…」
舌先でツンツン突っつくと、御剣の胸が激しく上下する。
舌で乳首を転がしながら御剣のズボンへ手をかけ、下着ごとずり下げた。露わになる御剣の下半身。
ごつごつとした糸鋸と違い、無駄のない均整のとれた張りのある体。体毛は薄い。
糸鋸は上体を起こすと、御剣の裸をじっくり眺めた。
―自分の唾でベトベトの乳首がツンとしてるッス!あ、腹筋も格好いいッス!陰毛は…薄いッスね…!
御剣は何がなんだかよくわからないという表情をしている。
普段は従順な部下の思い切った行動に思考がついていっていないのか。
糸鋸は彼の膝裏を掴んで股を左右に大きく開いた。まだうなだれた陰茎がそこにある。
―御剣検事の…チンポッス!あぁ〜停電なのが口惜しいッス!できることならフルカラーで目に焼き付けたいッス!
もっとよく見ようと顔を近づけると、荒くなった糸鋸の息が当たったのか、ヒクリと陰茎が。
「あぅっ!そ、そんな所…舐める、なぁ!」
―我慢出来ないッス!これが、御剣検事の…!
糸鋸は御剣の股座に顔を埋め、その陰茎を味わう。
溢れる唾液をたっぷり塗りつけ、口に含み、御剣の形を覚え込む。
先っぽから染み出る液はストローでジュースを飲むように吸う。
「ああっ、んぁ…く、ぅん…もぅ、や…」
「…御剣検事…最高に美味しいッス…腰が浮いてるッスよ、気持ちいいッスね!」
糸鋸の唾液と御剣の先走りが混ざり合って垂れ、更に奥へ糸鋸を誘う。
更に奥、そこは。
―御剣検事のアッ、アッ、アナルッス!
ギュッと窄まった縁にぬらぬらと体液が絡まっていやらしい。
糸鋸は意を決して指を差し込む。
ツプリ
「あぁぅ!何だ…貴様っ…な、まさか私を抱く気か…っ!」
「今頃気づいても遅いッス!!もう、わかっていると思ったッス!」
―御剣検事の中に指が入っちゃったッス…うねうねしてるッスね…。
指先に感じる御剣の感触。ひやりとした外肌とは違い、内側は温かい。
御剣は暴れようとしたが、糸鋸がぐいと差し込んだ指を鉤型に曲げると、くぅと呻いて糸鋸にしがみついた。
御剣は眉間に皹を作って目を固く閉じ、糸鋸の指に耐えている。
そんな上司の表情を真上から凝視しながら、中を解す。
―ああ、きっと真っ赤になっているッスね…!あっ縁がパクパクしてるッス…早く挿れたいッス!!でももう少し…
既に盛り上がってしまった己の陰茎を御剣の太股に擦り付ける。ヌルッとした自分の液でその太股が汚れるというだけで、
糸鋸は興奮した。
「ん……あ、ああ……」
ふと御剣のアナルが収縮した。氷が融点に達したかのように、御剣の体は力を解いて、溶ける。
目蓋を上げ、糸鋸を見上げる瞳がトロンとしている。
―御剣検事、どうしたッスか!?最高にエロかわいいッスよ!
御剣は腰を捩って、糸鋸の陰茎と自分の陰茎を擦り合わせる。
「はうぅ!みっ御剣検事っ!」
「んん…け、刑事…は、早く、したまえ…」
「は、早く…?い、挿れてもいいッスか…!?」
「言わせるな…!き、貴様の、その、汚らしい…ぺニスを……あああっ!」
言い終わらないうちに御剣をうつ伏せにさせ、持ち上げた尻に糸鋸は勃起を突き入れた。
御剣はキレイに背を反らせて挿入の衝撃に耐えてから、糸鋸の寝袋に突っ伏す。
―たまんないッス!ああ…御剣検事!御剣検事!
ズンズンと腰を振り、糸鋸は御剣を犯す。媚肉に包まれ、勃起した陰茎を扱かれる快感が凄まじい。
繋がった部分を目を凝らして見れば、グロテスクな糸鋸を御剣のアナルが懸命に広がって銜えている。
「あぅっ、あはっ、あ、刑事…っ、もっと…、っ!」
「もっと、何ッスか、御剣検事、苦しいッスか…?」
さて、思うがままに挿出を繰り返したが、御剣には苦痛であるかもしれない。
半分ほど挿さった状態でふっくらと盛り上がった結合部を撫で、ゆるゆるとかき混ぜる。
「御剣検事…これで、いいッスか?気持ちいいッスか…?」
「んくっ、ば、馬鹿者…もっと、酷く、したまえ…っ」
―ええ〜っ!そんなこと出来ないッス!
「…そんな、もっと…動き…たまえ…っ」
「み…御剣検事…じ、自分、頑張ってみるッス…!」
糸鋸は一心不乱に動いた。部屋は雄の匂いで噎せかえる。
熱く湿った空気が沈殿する中で寒さも忘れて糸鋸達は必死に番った。
―あ、電気点いたッス。
突然の眩しさに目の奥が痛んだのをやり過ごすと、見慣れたボロ部屋が広がっていた。
ただ、いつもと違うのは。糸鋸の下で御剣がぐったりとしていることである。
御剣が零したであろう体液が、捩れた寝袋や畳に染みを作っていた。
「け…刑事…」
「御剣検事…大丈夫ッスか…?」
「う、ム。シャワーを浴びたいのだが…」
汗で体が濡れている。乱れた前髪から覗く顔が気怠げで、初めて見る御剣の情事後の色気に糸鋸は釘付けになった。
―やっぱりフルカラーッス…!
「あ、シャワーは外ッス」
「は?何故外に?刑事は避難生活中なのか?難民キャンプか?冬だぞ」
「…仕様ッス…」
唖然としている御剣の体を拭いてやる。胸や腹に散った二人分の体液。
糸鋸は畏れ多くて中には出せず、御剣の下腹部にぶちまけたのだ。
その性交の痕跡を眺める御剣は憮然とした面持ちだ。
「…お、怒ってるッスか…?」
「当たり前だ」
―うう〜やっぱり自分はなんてことを〜…!
「貴様があまり優しくするものだから、ちっとも良くない…!」
御剣はそばにあった座布団を糸鋸目掛けて投げつけると、
糸鋸のシャツを適当に羽織ってそのまま強引に寝袋にくるまった。
―えー!何ッスかそれは!!
見れば、耳が真っ赤に染まっている。検事、検事と揺すっても起きようとする気配はない。
まあ、いいか。
朝には、彼から借りたシャツがブカブカ!な、希少価値高い御剣が見られることだろう。
糸鋸は寝袋に腕を回し添い寝をする。
外はまだ風が強いらしい。隙間風も相変わらずだが寒くはなかった。
御剣の寝顔を見て、本当はキスしたかったのだけれど、やっぱり畏れ多くて、止めてしまった。