御剣が名乗ると、重い扉が開かれた。
部屋の中には見慣れた顔触れの男たち。それぞれが椅子に掛けて、御剣を迎え入れる。

「お待ちしてましたよ」

扉近くに立っていた、一番年若と見られる男がにこやかな笑顔で御剣に近付いた。

「御剣さんも、好きですねえ。
 何されるか分かっていながら、こうやって毎回きちんと出てくるなんて」

その手には細長い黒い布が握られている。
若い男に、部屋の奥から初老の男が声を掛けた。

「無駄口を叩いていないで、早くしろ」

注意された男はバツが悪そうに軽く会釈すると、御剣の背後に回り込んだ。
御剣の視界が黒く覆われ、頭の後ろで結び目を作られる。
御剣に目隠しを施すのはいつも決まってこの男の役である。布を結ぶ手つきも手慣れたものだ。
この目隠しは、最早大した意味はない。あるとすれば、凌辱される側の性的興奮を高めるためだ。

初めての査問会で御剣に告げられた、「君の性に自由はない」という言葉は真実だった。
以降、数回にわたり定期的に催される“御剣怜侍査問会”。
査問会とは名ばかりの、公開凌辱の場である。
それと分かっていながら、何故か御剣の足はそこへ向かってしまう。
自らあんな仕打ちを望んでいるわけではない、と自身では信じたかった。
しかしその場所へ足を運んでいるのは、他ならぬ御剣自身である。
先ほど言われたばかりの言葉が、頭の中で繰り返される。
『何されるか分かっていながら、こうやって毎回きちんと出てくるなんて』

やはりそうなのだろうか。
他人の目に痴態を晒し、複数の男の手で弄ばれることに快楽を得ているのだろうか。
それが自分の望みなのだろうか。
目の前に突きつけられる現実と欲望、それを認めたくないと思う自分。
しかし目隠しをされ後ろ手に縛られている今すでに、
鼓動が早まり体温が上昇するのを御剣は自覚していた。

認めたくはない。しかし、これが私の“性―さが”なのだ。

目隠しをされ緊縛された状態で、背中を押され部屋の中央付近まで歩まされる。
数歩歩いたところで背中を激しく突かれ、足を絡ませてその場に倒れ込んだ。
床に突っ伏した御剣の上に男たちの笑い声が振る。

好きであざ笑われているわけではない。
好んで侮辱を受けたいわけではない。
それなのに、男たちの嘲笑を受けぞくぞくと背筋を走るのは、まぎれもない快感。

―私のあられもない姿を、乱れる肢体を、はしたない喘ぎ声を、どうか罵って下さい。

突っ伏す御剣の髪を誰かが乱暴に掴んだ。そのまま髪を後方に引かれ、御剣はのけ反るように
顔を上に向けられる。それすらもゾクゾクと興奮の源になる。
早くも息を乱し始めた御剣を見下ろしながら、男たちがはやし立てる。

「御剣、もう興奮してるのか。さすがに早過ぎるぞ」

どっと笑いが起こった。


査問会開始から数十分。
仰向けに転がされた御剣の下半身はすでに何も着けていない。
上半身も、脱がされかけたシャツやベストが緊縛された手首のところに溜まっている状態だ。
ほぼ全裸の御剣は目隠しをされたまま、男たちの手や性器に弄ばれている。

ある者は御剣の顔面に跨り、怒張したペニスを口内へ無遠慮に押し込んでいる。
またある者は、御剣の肛門をおもちゃでいたぶっている。
既に何人かは果てたのであろう、御剣の顔や腹に白い体液が付着している。
回を追うごとに御剣の“査問会”はエスカレートし、その濃度を増していた。
男たちに囲まれて好き勝手になぶられて、御剣も股間のものを精一杯張り詰めさせている。
御剣の鳴き声のような嬌声と男たちの歓声が入り混じる。

「みんなちょっといいか、やめてくれ」

突如、初老の男が張りのある声を出した。
御剣に群がっている男たちの動きが一斉に止まる。
いいとこだったのに、と惜しそうに言う者もいた。

「御剣君、きみも聞いてくれ。本来この会は部外者は参加禁止なんだが…
 今日は特別にお客様をご招待しているんだよ」

はあはあと荒く呼吸しながら御剣は男の言葉を聞いた。

「君が懇意にしている者を招いたんだ、楽しませてやりなさい。さあ、お呼びするんだ」

男の合図で、重い扉が開く気配がした。重みのある足音がゆっくりと入って来る。
ある予感がよぎり、御剣の胸をざわつかせる。
―まさか。頼む、違っていてくれ。

御剣の願いは届かなかった。
ざわつきの中でもはっきりと聞き取れる、馴染みのある声。

「御剣…検事…」

ああ、やはりそうだったのか。
御剣はかあっと顔が赤らむのを感じた。
同時に体がすうっと冷えて行く。
なぜ、こんな姿の私を彼に見せるのだ。
最も見られたくなかった人物に。

どすっ、と低い音が響いた。
部屋に通された糸鋸刑事が、膝からその場に崩れ落ちた音だった。
彼の目前に突然広がる、信じがたい光景。
彼の尊敬と憧れを一身に集める御剣怜侍が、哀れな姿で男たちに囲まれ横たわっていた。
目隠しをされ、裸に剥かれ、汚らしい体液で汚されていた。
しばらく言葉が出なかったが、次の瞬間糸鋸は怒声を発した。

「あっ…アンタ達、こんな事して…タダで済むと思うッスか!!これは犯罪ッスよ!!」

激昂する糸鋸の気迫に、周囲の人間が一瞬圧倒された。
少しの沈黙の後、初老の男が静かに口を開いた。

「君は、何か勘違いをしているようだね」

声には笑みが含まれていた。


「もしかして君は、御剣検事が強姦でもされていると思っているのか?」
「どう見てもそうッス!!検事をこんな目に遭わせて…アンタ達全員逮捕するッス!!」

糸鋸の言葉を受けて、初老の男が高笑いした。続いて周囲の男たちも笑いを漏らす。
糸鋸は戸惑ったように周りの男たちの顔を見回した。

「それは誤解だよ、刑事くん。彼は…御剣検事は、自らこの場に出向いてきているのだよ。」
「…そんなはずないッス!!御剣検事がこんなこと…望んでるはずないッス!!」

再び笑いが巻き起こる。初老の男が心底おかしいと言った様子で言葉を続ける。

「信じがたいのも無理はないがね、刑事くん。この会は今日が初めてではないのだよ。
 もう幾度も、こうして悦んで私たちの前に体を開いているのだよ」

男の指し示した手の平の先を、自然と目で追う糸鋸。
視線の先には、汗ばんだ裸体を横たわらせる御剣がいた。
目隠しをされた顔を糸鋸の方から背けている。
そんなはずはない。御剣検事が自分からこんなことを望むはずがない。

「嘘だと思うなら、本人に聞いてみるといいよ」

男が楽しそうに言い放つ。
御剣は体を硬直させたまま、身じろぎ一つしない。
糸鋸は御剣の傍へ駆け寄った。着ていたコートを脱ぎ、裸の御剣に掛けてやる。

「御剣検事!こいつらに…こいつらに、ヤラレたんッスよね…?そうッスよね!」

切羽詰まった声で問いかける。しかし御剣は糸鋸から顔を背けたまま黙っている。

「検事…御剣検事っ!」

初老の男が短く笑った。

「それが答えだよ、刑事くん。分かっただろう?彼は自分の意思でそうしているのさ。」

周囲からも再び笑いが漏れる。
男たちの顔と御剣の姿を交互に見比べて、糸鋸はぎゅっと唇を噛んだ。

「事を荒立てない方が良いぞ刑事くん。今日は何も君を怒らせるために呼んだわけではないんだ。
 御剣君と君を労ってやりたいんだ。ぜひ楽しんで行ってくれたまえよ」

糸鋸は混乱していた。何を信じていいのか、どういう状況なのか。
しかし、確かに分かっている事が一つだけあった。―“御剣を守らねばならない”

「アンタ達は…アンタ達の頭はおかしいッス!!」

糸鋸が語気を荒げると、周囲の男たちは顔を見合わせて失笑した。

「戸惑うのは分かるよ、刑事くん。即時に受け入れろというのも無理な話だろう。
 しかし御剣検事が淫乱な性奴隷だという事は、君にもすぐに分かるさ。」

糸鋸はぎりぎりと歯を食いしばり、初老の男を睨みつけた。
御剣をこのような目に遭わせた人間たちに対する怒りは、
一介のしがない刑事であるという自分の立場を忘れるには十分であった。
しかしそんな糸鋸の態度など意に介さないと言った態度で、男は言葉を続けた。

「君にトップバッターの座を譲ろう。
 今日はまだ誰も御剣君の中は味わってないからね、綺麗なものだよ。
 もっとも、ここへ来るまでに誰かほかの男を受け入れていなければの話だがね」

男の発言にどっと笑いが起こる。
糸鋸は殴りかからんばかりの勢いで掴みかかった。

「いい加減にするッス!!」

鼻息を荒くして興奮する糸鋸の両手を振り払うと、男は冷笑した。

「君が辞退するというのならいいんだよ、刑事くん。誰かほかの者が譲り受けるまでだ」
「なんッスとぉ!!」
「君が抱くか、他の者が抱くか。その程度の違いしかないんだよ」

くくっと低い笑い声を漏らす。
肩で息をしながら、糸鋸は再び御剣の方を見やる。そしてハッとした。
先ほどまで死んだように横たわっていた御剣が体を起こして此方を向いていたからだ。
傍には先ほど自分が掛けてやった安物のコートがはだけて落ちている。
目隠しをつけられ視界を奪われている顔が、糸鋸の方に向けられている。

「み…御剣検事…」
「やめろ、糸鋸刑事。彼らの言うとおりにするんだ」
「な、何を言ってるッスか検事!!検事は…」
「早く!!」

糸鋸の反論を遮って御剣が声を荒げた。糸鋸が困惑していると、背後から大げさな拍手が聞こえた。

「えらいねえ、御剣くん。美談だねえ」

初老の男が手を叩いていた。周囲からも心の無い拍手が送られる。
糸鋸ははっとした。御剣は、自分の刑事としての立場を守ろうとしている。
その為に、身を捧げようとしている。
糸鋸は震える拳を握りしめ、痛いほど唇を噛んだ。自分の不甲斐なさが憎かった。
御剣を守ると決めたのに、その御剣に守られるなんて―

「早く…」

御剣が小さな声で呟いた。その声はまるで泣いているようだった。
床にぺたりと座った御剣が、誘っているかのように脚を開く。
糸鋸の鼓動が高鳴った。
自分は、こいつらとは違う。御剣を欲望の対象になどしない。
そんな自負もプライドも、風前の灯火であった。
御剣の白い肢体が、糸鋸を迎え入れるように開いている。それを見て自然と喉が鳴った。
初老の男を始めとし、周囲の男たちがその様子をにやにやしながら眺めている。

「刑事さんよ、御剣がこう言ってるんだぜ?抱いてやるのが男気ってもんじゃねえか?」

誰かがくすくすと笑う。
立ち尽くしている糸鋸の背中を、誰かが押した。バランスを崩し、御剣の前に倒れ込む。
顔を上げた糸鋸の目前に、御剣の裸体があった。
汗ばんで妖しく光る肌。白い太腿のその奥に、剥き出しの性器が見えた。
糸鋸の下腹部に熱が宿る。

「け…検事…」

糸鋸が弱々しく声を絞り出すと、御剣は黙って頷いた。
糸鋸の脳裏に、初老の男の言葉が浮かぶ。
『君が抱くか、他の者が抱くか。その程度の違いしかないんだよ』
御剣は、自分を守ろうとしてくれた。自分も、御剣を守りたい。
誰かに心なく抱かれるくらいなら、自分が大切に抱いてやりたいと思った。


拳を力いっぱい握りしめる。
聞こえるか聞こえないか分からないほどの声で、小さく呟いた。
「すまねッス…」
御剣の口元が少し緩んだ気がした。

早くしろよ、と笑って誰かが糸鋸の背中を小突いた。
糸鋸は御剣に向かって崩れ落ちる。その勢いで御剣が仰向けに倒れ込んだ。
とっさに両手をついた糸鋸。四つん這いになった自分の下に、御剣が仰向けている。
心臓の脈動が早まる。下半身の一点に熱が集中して行く。
せめて、感じさせてやりたいと思った。
同じ抱かれるのならば、苦痛ではなく快感を与えたいと思った。
糸鋸はおずおずと御剣の胸に舌を這わせた。御剣は黙って受け入れる。

「御主人様のイイとこ、いっぱい舐めてやれよ!」

外野から野次が飛ぶが、糸鋸は愛撫に集中した。
胸を這う舌は徐々にその頂へ近付く。ついにその突起に触れた時、御剣が小さく鼻を鳴らした。
べろべろと犬のように、舌全体で乳首を舐め回す。
糸鋸の唾液で濡れて光る御剣の乳首。次第に充血して赤みを増してくるその部分が、卑猥に尖る。
その頃には御剣の呼吸も乱れ始める。

「んッ…ふっ…」

御剣の甘い吐息が糸鋸の興奮を助長する。
舌先を硬くさせ上下にレロレロと擦ったり、時に歯で軽く噛んだりした。
唇で挟みこみぎゅうっと吸い上げると、甘い声が漏れた。

「そんなに乳首ばっかり攻めてると、検事さんがイッちゃうぜ」

誰かが冷やかす。愛撫を休み、改めて御剣の顔に目をやる。
目隠しの下、御剣の白い頬が上気して赤く染まっているのが淫靡だった。

「後ろの方も可愛がってやれよ」

一人の男が近付いてきて、糸鋸の体を押しやった。
その男は仰向けに寝そべる御剣の体を起こすと、今度はうつ伏せにさせる。
後ろ手に縛られた状態の御剣はべたりと床に這いつくばった。

「なにするッスか!やめるッス!」

糸鋸の抗議を制止して、割り入って来た男は御剣の腰を掴んで引き上げる。
突っ伏した状態の御剣の腰が、高く突き上げられる。糸鋸ははっと息を飲んだ。
御剣の事を考えるよりもまず、その卑猥な姿勢に欲情してしまった事を後悔した。

「ほら、いいだろ?たっぷり可愛がってやれよ」

男は御剣の白い尻を掴んで割ると、糸鋸に向かって見せつけた。
目の前で御剣のアナルがいやらしくヒクついている。
その下方には、勃起した性器がぶら下がっている。
あまりにも卑猥な光景に、糸鋸の股間も暴発しそうであった。

「早くしてやれよ。検事さんのアナルが寂しそうだぜ?」

尻を高く突きだした御剣が、脚を少し開いたのが分かった。
糸鋸は意を決し、御剣の尻を掴む。左右にぐっと割り、恥部に口を近付ける。
菊の門を舌先でそっと撫でると、御剣がビクンと身震いした。
愛撫に感じ入る御剣に、周囲から下劣な罵声が浴びせられる。

糸鋸は胸が締め付けられる思いがした。
一体どれほどの卑猥な行為を強要されたのだろうか。
もう、そんな思いをしなくても済むように。そんな願いを込めて糸鋸は一心に愛撫した。
唾液をたっぷりと絡ませて、アナルの周りを舐め回す。
肛門を舐めると同時に、御剣の勃起を手で扱く。御剣が身悶えて喘いだ。
糸鋸の手の中で御剣の勃起が硬さを増して行く。

「あふぅ、あ…んん…ぅん…」

感じている証拠のように、御剣が時折ぴくんと跳ねる。甘い声が糸鋸の劣情を刺激する。

「おい、そろそろいいんじゃないか」「ああ、ガンガン突いてやれよ」

糸鋸はおそるおそる、御剣の中へ指を挿し込んでみた。
少し乾いていて抵抗があったが、思っていたよりもずっと緩やかに肉壁はその指を飲み込んだ。
糸鋸が挿し入れた指を少し動かすと、御剣がうっと小さく呻いた。

「あ、すんませんッス!痛いッスか!?」
「いや…ローションを…取ってくれ…」
「ローション?」

きょとんとする糸鋸の足元へボトルがころころと転がって来た。

「滑りが悪くて痛いんだとよ」
「それ使えばアンタのでかちんぽも余裕で入るぜ」

ざわめくような笑いが起こる。
糸鋸は御剣から指を抜き取ると、ローションのボトルを拾い上げた。
キャップを開けて中身を手に取ってみる。
とろりと糸を引くジェル状のものがひんやりと手の平に広がった。
指先に取って、おそるおそる御剣の中に挿し入れる。先ほどよりもスムーズに指が吸いこまれる。
たくさん塗った方が御剣に苦痛を与えずに済むだろうと思い、
たっぷりと塗りたくった指を奥深くへ挿し入れた。

「んっ」
「あっ、い・痛かったッスか!?」
「大丈夫…もっと…」
「も…もっと、ッスか?」
「もっと、深く…いや、もっと手前…そう…んぁっ!」

御剣の中でくにくにと動かす指。御剣が指示する場所を指で擦ると、明らかに反応が違う。
ひときわ高い声をあげ、ビクリと腰を震わせる。

「けいじ…そこ…きもちい…あっ…はぁん…もっと…っん」
「こ、ココっすか検事…こうッスか…」
「あぁん、いぃ…ン…刑事…も…もう…挿れて…くれないだろうか…」

はあはあと苦しげな呼吸をしながら御剣が求めた。
御剣の張り詰めた性器からはぽたぽたと液が零れている。糸鋸はごくりと喉を鳴らした。

「御剣君、欲しいのならばちゃんと口に出して願い出る事だ。
 この淫らな穴を、刑事の勃起したペニスで激しく突いて下さいと」

初老の男が口を挟む。御剣は苦しそうにゆっくりと言葉を発する。

「わ…わたしの、淫らな…穴に…刑事の…ちんぽを…ください…」
「それから?」
「突いて…激しく突いて…ください…乱暴に…」


初老の男がくっくっと笑いを漏らした。
糸鋸は見ていられなくなって、慌ててベルトを緩めズボンと下着をおろした。
先ほどから下着の中で痛いほど膨張していた性器が解き放たれて上向く。

「いいモン持ってんじゃねーか、刑事さん」「そんだけデカけりゃ御剣も大喜びだろ」

嘲笑の中、突きだされた御剣の尻に勃起を押しあてる。
心の中で御剣に詫びると、糸鋸はぐっと腰に力を込めて押し当てた。

「ふっ…ん…あぁ…っん」

ぬぷぬぷと吸いこまれて行く性器。糸鋸の形に広がってゆく御剣の肉。

「あぁん、けいじの…が…入って…くる…んぁ…お…っきい…はぁン」

御剣の中を犯しながら、糸鋸はうわ言のようにその名前を呟いた。
御剣の肉壁はまるで糸鋸の性器の形を味わうように、緩んだと思えば締め付ける。
その度に糸鋸は背中を走り抜けるような強い快感を味わう。
糸鋸は、御剣と結合している部分を凝視した。
ペニスに巻き付くような御剣の肉の縁が、糸鋸の抜き挿しに伴って蠢いている。
御剣の中を濡らしているローションが糸鋸のペニスをもぬらぬらと光らせ、
動かすたびにくちくちと卑猥な音を立てている。
快感の場所へ導くように腰を振る御剣の様子が、とてつもなく淫靡だった。

「んぁ、けい、じ、もっと、奥…突いてっ…はぁん」
「はいッス…!!」
「あっ…も…もっと上…あン!そ…そこっ…!あぁん!」

糸鋸は御剣の腰に抱きつき密着すると、本能のおもむくまま雄犬のように腰を振った。
御剣の直腸内を擦りあげる糸鋸の先端が、快感のスポットを絶妙に突き始めたようだ。
御剣がひときわ激しく声をあげる。

「んっ、あっ、い、いい、あっ、あっあっ、やっ」
「検事…検事ッ…」

糸鋸は激しく突きながらも、手を伸ばして御剣のペニスを扱いてみた。
御剣がさらに激しく身悶える。

「やあっ!だめ…で…でるぅ…ッあ…あああぁ!!」

御剣の体がビクンと跳ね、咥えこんでいる糸鋸を締め付けた。
糸鋸の手の中で御剣のペニスはどくどくと吐精する。
御剣の中から性器を抜き取ると、御剣の体は脱力してずるずるとうつ伏せた。
糸鋸は、倒れ込む御剣の体を強く抱き寄せる。そんな二人の傍に初老の男が立ちはだかる。

「御剣君の中は気持ちよかったかね?刑事くん。君も私の言っていた意味が分かったろう?
 御剣検事が淫乱な性奴隷で、人前で性行為を行うことに興奮と快楽を覚える変態だと」

ほくそ笑む男を睨みつけ、糸鋸は言い捨てた。

「検事は淫乱でも変態でもないッス!」

ほほう、と驚いて男は笑った。
糸鋸の腕の中でぐったりとして、まだ整わない呼吸をしている御剣に言い捨てる。

「君の飼い犬はずいぶんと忠犬だな、御剣君。君の卑猥な尻でかなり躾ているんだろうな」


男が笑いながら立ち去る。
一人また一人と去って行くうちに、いつしかがらんとした部屋の中には
御剣と糸鋸の二人だけが取り残されていた。
無意識に、糸鋸は御剣の髪を撫でる。
手首の緊縛を解き、続いて目隠しの布をほどいた時だった。
糸鋸の胸に身を預けていた御剣が、体を起こすと糸鋸の体を押しのけた。

「御剣検事…?」

御剣は糸鋸に背中を向ける。

「すまなかったな、糸鋸刑事」
「…どうして検事が謝るッスか」
「見苦しいものを見せた。…それに、迷惑をかけた」
「な…何を言ってるんッスか!一番の被害者は御剣検…」
「私を買いかぶらないでくれ!!」

糸鋸の言葉を遮って、御剣が言い捨てた。
丸めた背中が、御剣を一回り小さく見せた。

「見た通りの男だよ、私は。彼らの言うとおり、淫乱で色欲狂いの下劣な人間だ。
 男たちに見られ、弄ばれ、代わる代わる抱かれ、なお快楽に溺れてしまう変態なのだよ。
 軽蔑してくれ!嘲り笑ってくれ!見下してくれ!」

肩が小刻みに震えていた。
たまらなくなって糸鋸は御剣の背中を強く抱きしめた。

「放せ刑事!私は汚れている…汚いのだよ!」
「検事は汚れてないッス!綺麗ッス!誰よりも、綺麗ッス!!」
「買いかぶるなと言っているんだ!」

糸鋸はさらにきつく御剣を抱きすくめる。

「御剣検事は自分の憧れの人ッス!それは今までもこれからも変わらないッス!
 何一つ変わらないッス!」

感情が高ぶるあまり、糸鋸の両目から大粒の涙がぼろぼろと溢れていた。
糸鋸の嗚咽に気がついて、御剣が振り返る。その御剣の目にもうっすらと涙が光っていた。

「検事は…自分の…大切な人ッスから…」

大きな手で子供のように涙を拭う糸鋸を見て、御剣はふっと笑った。

「バカ者…泣くやつがあるか」
「だって御剣検事が…」
「私が悪者みたいではないか…」

御剣は糸鋸の方へ向き直ると、その指で涙をぬぐった。
穏やかに微笑む御剣の顔を見て、糸鋸が言った。

「検事…き…き…キス、してもいいッスか」
「な!急に何を言い出すんだ!」

御剣の頬が赤らむ。

「き、キスしたくなったッス!……だめッスか…?だめッスよね…やっぱり…」


あからさまにしょぼくれる糸鋸の様子に、御剣が吹きだした。

「いいぞ」
「ええっ!」
「何を驚いている、キサマがしたいと言ったのだぞ」
「いや、まさか許可が下りるとは思わなかったッスから…」
「今日は…その…よく頑張ってくれたからな。礼と言っては、なんだが、その」

御剣が言い終わらないうちに、糸鋸が御剣の唇を奪った。

「んんっ!」

咄嗟の事に御剣が声を漏らす。糸鋸の分厚い唇が、はふはふと御剣の唇を味わう。
一瞬ひるんだ御剣だったが、両手をそっと糸鋸の背中に回した。
二人は唇を吸い、舌を絡ませ合う。くちゅくちゅという唾液の音が混ざり合う。
口内をまさぐり合っているうちに、互いにぞくぞくとした感覚が走る。
ちゅぱ、と音を立てて唇を放すと唾液の糸がつうっと伸びた。
顔を見合わせればはあはあと息は上がり、上気した頬、潤む瞳。

「キス…だけで…いいのか?」
「えっ…?」
「キスだけで満足したのか、と聞いている!」

拗ねたような御剣の顔。糸鋸は思わずはにかんだ。

「もっとしたいッス!!」

糸鋸の言葉に、御剣は妖艶な笑みを浮かべた。
抱き合ったまま御剣が仰向けに倒れ込めば、重なるように糸鋸の体が覆いかぶさる。
御剣が糸鋸の首に手を回す。さらに激しくキスを交わす。
キスを交わしながらも、糸鋸は御剣の腰を抱き寄せる。
髪の毛の一本一本までが愛おしく感じる。
唇を放し、御剣の顔を見詰めた。
恍惚とした御剣の表情、濡れた唇。
綺麗だと思った。

「検事がして欲しいこと、してあげるッスよ。検事の命令なら、何でも聞くッス。
 何して欲しいッスか?」

糸鋸の言葉に、御剣は嬉しそうに微笑んで言った。

「抱いてくれ。糸鋸刑事がしたいように…」

綺麗な笑顔でそう言い放つ御剣に、胸がきゅっと締め付けられた。
せめて今だけは何も考えずに、快楽の虜になろう。
糸鋸は今一度、御剣の体を力強く抱きしめた。

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