彼があらゆる手段を使って被告人を有罪にしていた頃の、ツケが回ってきたのだろうか。

ある日自宅から何者かによって連れ去られた御剣怜侍は
3ヶ月後に、郊外の貸倉庫の中で発見された。
辛うじて生きてはいたが、発見時、その場では数人の男が御剣に性的暴行を加えている最中で・・・
保護された御剣は、少なくとも自分の年齢や職業を答えることができなかった。
話し方がたどたどしく、表情には生気がなく幼くて・・・以前から彼を知る人間は、
みな同様に彼の変貌に驚き、その精神に何かが起こっていることを悟った。
いわゆる“子供返り”が起こっているではないか・・・と。

その後の医師の診断によると・・・精神を幼児まで退行させることで、
本来の御剣怜侍が崩壊するのを防ぐ・・・
そんな「守り」にも似た症状が起こっているとのことだった。
克服しきれていなかった15年前の心の傷と絡まりあって、
社会復帰を目的とした治療は、長期に渡る・・・との見解が示された。

身寄りのない境遇で、独りにはしておけない状況になった御剣を支えたい・・・
御剣と家族同然だった冥は当然、自分が引き取りたいと申し出た。

冥以外にも、親友や腹心の部下など・・・数人の人間が同じ心境で世話を申し出ていた。
だが、今の状況を引き起こしたのが男性である・・・ということが重視され、
女性で、かつ辛うじて成人していた冥が後見人となり、そのまま御剣を引き取ることに決めた。


昨日から、2人は一緒に暮らしている。
本来ならば専門の病院に入院させる必要があるのかもしれないが、御剣がそれを嫌がった。
ぼんやりと冥を覚えていた御剣はすぐに彼女に懐き、できるだけ一緒にいることを望んだのである。

ただし、忙しく仕事をしている冥と一緒にいられるのは、夜の間だけ。
恐らく、そのためだろう。
今朝、冥が仕事に行こうとすると、御剣は声を上げたり駄々を捏ねたりはしないが
心細そうな表情で冥を見送っていたし、
帰宅したときは、元気がないながらも嬉しそうに「おかえりなさい」と抱きついてきた。
食事の時はもちろん、家の雑事を片付ける時も横でできることを手伝ったり・・・と
御剣は、冥の傍から離れなかった。

恐らく、御剣は心細いのだと思う。

長い付き合いの過程で、冥にとって御剣は、ずっと一緒にいても苦痛にならない相手となっているので
好きなだけ傍にいてくれて構わないのだが・・・。

「レイジ・・・お風呂はまで一緒は、駄目よ。」

脱衣所の中で、冥はついてきた御剣にそう諭した。
しかし御剣は、冥の服の裾を握って、目で訴えてくる。

「ここで待ってて・・・お話しながらでもいいから。ね?
 昨日みたいに、レイジが入る時には背中を流してあげるから・・・。」

「いっしょじゃなきゃ、イヤだ」

本気で寂しがっている少年を前にして、冥は困惑した。

こうなる前、2人はすでに恋愛関係にあった。
もちろん、何度も肌を重ねている。

幼児退行の原因が「性的なもの」であると知った上で、御剣を引き取った。
その決意をした時、冥は自分の中で誓いを立てている。

――その傷を抉るような真似はするまい、と。
そのために、彼が元気になるまでは・・・幼くなった彼の母親のように接していこう、と。

だから昨日、冥は御剣は一人で入浴させたし、
ベッドも同じ部屋に2つ用意して、2人別々に寝た。

その時は素直に従った御剣が、今は頑として譲らない。

「おねがい・・・ぼくもいっしょに、いれて?」

膝を折って、少年がすがるように冥の手を取った。

「・・・いっしょに、いて」

冥が取られた手をもう片方の手で包むと、御剣がそこに頬を寄せる。
肌に触れて怯えている様子はなく・・・むしろ安心を感じている様子だった。

「わかったわ。服を脱いで、いらっしゃい。」

「・・・ありがとう、メイ」

――悲しい顔をさせないことが、きっと一番大事。

あどけなく笑う少年の表情を見て、これでいいのだ、と冥は思った。


順番に湯船に浸かって、冥が御剣の背中を流して・・・
かつてどこかの「兄妹」がそうしていたように、入浴の時間が過ぎた。

ただし、あくまで表面上の話。

冥の中では、数ヶ月一緒にいることすら叶わなかった恋人と
小半時ほど同じ空間で互いに一糸纏わぬ姿でいたことによって、
抑えつけていた何かがじわじわと暴れている。

情熱的な夜の記憶を頭から追い払い、傍にいる無垢な少年に向けられそうになる衝動を
かき消すので、内心は精一杯だった。

「そろそろ、寝る時間ね」

時刻は9時。
少し早い気もするが、“コドモ”が寝る時間には充分とも言えるし、
とにかく彼を寝かしつけて、離れて、衝動から解放されたかった。

「まだ、いっしょにいたい・・・」

御剣は、不満そうに思いを訴える。
だが冥にはもう、それを聞き届ける余裕がない。

「寝つくまで、傍で本を読んであげる」

手を繋いで寝室へのドアに向って歩く。
大きな身体は、引っ張られると仕方なさそうな負荷をかけつつも、冥の導きに従った。


「『そして、2人目の霊媒師が弁護士さんに言いました』――・・・レイジ?」

子供向けの児童小説を読み聞かせているうちに、御剣は寝てしまったらしい。
呼びかけへの返事はなく、あどけない表情で、彼は寝息を立てている。

無垢な子が寝たことに、冥はほっとした。
これで少しの間、冥は、御剣を好きだった自分でいられる。

「ごめんね」

そう声をかけてから、自分の唇を御剣の唇に重ねる。
しばらく、ついばむように久々の感触を味わい、手で男の髪を撫でた。
半開きになった御剣の唇をぺろりと舐め、冥の唾液でやわらかく開いたのを見計らって舌を差し入れる。
起こさぬよう、柔らかにその中を味わって、冥は唇を離した。

これ以上エスカレートしないうちに、いったん離れよう。
立ち上がって最後に御剣の頬を撫でると、ぱちり、とその目が開いた。
驚いて、冥は体を震わせる。

「起きて・・・いたの?」
「・・・半分くらい」
少年はまどろんでおり、表情の判別はつかない。
自分の迂闊さに自己嫌悪に陥る冥に、御剣が訊いた。

「もう、しないの?」
「ええ」
冥がその場を離れようとする仕草を感じたのか、御剣が起き上った。

「ぼくが、きたなかった?」
「・・・何を言っているの?」

「たくさんのしらないおじさんたちに、
 めちゃくちゃにされたぼくにさわるのが、きもちわるくなった?」
そう問う声は、震えていた。
その顔に表情はなく、目からは止め処なく涙が零れ落ちている。

御剣が何か言おうと口を開く。恐らく、自分を傷つける言葉を出そうとしているのだろう。
それより前に、冥は御剣の口を自分の唇で塞いだ。

「ん・・・・っ」
歯列を舐め、舌を絡め舐め回すと、御剣がびくんと体を震わせた。
それを感じて、冥は御剣から離れる。
「これが証拠よ」
そう声をかけるも、御剣は茫然としていて反応がない。

「汚いなんて思ってないって、今のキスで分かってもらえたかしら」
そう言って、震えた肩を抱きしめる。
胸の中から、くぐもった声が言った。
「だったら・・・もっと・・・ショウコをみせて・・・
 ぼくがきたなくないって・・・ぜんぶさわってもへいきなんだ・・・って。」

涙で濡れた目が、哀願するように冥を見つめる。
当初から限界にあった理性が音もなく消え去るのを、冥はどこかで感じていた。


「・・・ん・・・ふ・・・っ」
口の中を優しく蹂躙しながら、パジャマのボタンを外して肌に手を滑り込ませる。
以前より少し薄くなった胸板の小さな突起を軽くなぞると、
塞がれた口から熱い声が漏れた。

冥は、御剣の頬や耳元、肩にも優しいキスを落としていく。
あなたは優しく愛されるだけの価値があるのだと、伝えたかった。

肩から唇を滑らせ、先ほどから撫でている突起にもキスをした。
「は・・・ん・・・」
いつの間にか脱がされた上半身を仰け反らせて、御剣が、女の子のような声をあげる。
「可愛いわね・・・好きよ。」
そんな言葉を漏らした唇で突起をついばみ、指でもう片方の突起を軽く摘む。
心地よいような、全身から力が抜けるような刺激に、御剣は声を抑えることができない。
「や・・・ぁ・・・」
空いている冥の手が、震える背中を優しく撫でた。

そうしてしばらく、気持ち良さそうする男の声を楽しんだむと、冥の唇がキスをしながら下腹部へ移っていく。
請われて腰を浮かせると、下半身を覆っていたものが全て取り去られた。

優しくされただけで大きくなったものが露わになり、御剣は戦慄した。
彼を監禁した男たちから、これを見られて罵声を浴びせられた記憶がある。
その声が、一瞬、頭に響いた。だが・・・

「大丈夫よ。これは自然な反応で、あなたは汚くなんかない」

先端に軽くキスをしてそう言った冥の声が、戦慄も記憶も吹き飛ばした。


そのあとは先端に触れられることなく、
竿に唇を這わせ、舌で浮き出た血管を舐めあげられる。
御剣が快楽とともに焦れったい思いに支配されているを知ってか知らずか
冥は突然、その先端を口に含んだ。
「ひ・・・・あ・・・・・!」
やわらかく蕩けそうな感覚。
しかも根元まで銜えられて吸い込まれるように圧力がかけられる。
しばらくそうして全体を吸われていたかと思うと、突然唇が上下に動いて
分身全体が、舌と唇に激しい愛撫を受ける。
「メイ・・・だめ、・・・もう・・・っ」
事件の恐ろしさから、ここしばらく本能的な自慰行為すら満足にできていなかった御剣は
簡単に登りつめてしまう。
限界の声が届いたのか、冥の小さな手が御剣の手をぎゅっと握った。
少し低い体温に守られているような安心を感じた瞬間、御剣の中で何かが解放される。



「あぅ・・・はぁ・・・・・っ!」
冥の口の中に、溜まっていたものが吐き出された。
御剣の感覚では、たくさん出たように感じたが、
冥は表情一つ変えず、口に溜まったものを飲み下していく。
――メイに、ぼくのきたなさを、のませてしまった。
快楽でにじんでいた涙が、後悔の涙と一緒に、シーツに吸い込まれていく。
後始末を終えた冥が、涙を零す御剣の顔を覗き込んだ。
涙が、小さな手に拭われた。
「怖かった?」
黙って首を横に振ると、冥の腕が体を優しく包み込んでくれる。
服の布地から伝わる柔らかい感触が、心地よかった。
「さて、怖くなかったのなら・・・続きをしなきゃね」
ふと思い出したように、冥が体を移動させた。
「つ・・・つづき?」
「当然よ。まだあなたを汚いなんて思ってないって、証明できていないもの。
 その顔から考えるに、まだあなたは信じていないでしょう?」
――立証は、カンペキに。
冥がそう呟いたが、今の御剣には難しすぎてよくわからなかった。

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