こいつらは人を愛せない人間なんだと思った。
























瞳がそう語っていた。














それに気付いたのはきっと



彼らが私と同類だからだ。








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   6 -gelido-






















「今日から、マネージャーが新しく入る」



跡部の声に200人以上いる部員達の瞳が一斉に私に向いた。










緊張した空気が解けたかのように、沈黙していた部員達がざわめき始める。



(またか・・・・)



分かっていたとは言え、朝から同じ悪口ばかり言われ続けるのはさすがに辟易していた。










ここの学校の生徒は同じことしか言えないのだろうか。








(まぁ・・・・仕方ないと言えば仕方がないけどね)














私は僅かに視線を動かし、端に並んだ氷帝テニス部のマネージャーを見た。















レギュラー達もかなりの美形揃いだったが、マネージャーもかなりの美女が揃っていた。


当然のことながら全員女性である。







驚いたのはマネージャーの人数だ。


200人の部員のマネージャーをしなくてはならないのだから、たくさん必要なのかもしれない。







それは分かっているが・・・・・・











さすがに、38人のマネージャーには驚かされた。







38人の美女を毎日囲まれていたら、そりゃ私のようなダサく、しかも男など歓迎されようと思う方が間違いだ。




























「跡部部長が男をマネージャーとして入れるなんて珍しいな。」




「しかも何だよ、あの汚らしさ!よくレギュラー達認めたな?」








いくつもの私に対する言葉が投げかけられる中、小さく呟くように発せられたその言葉がやけに私の耳に残った。


私はじっと彼らを見た。







私の方を見ていた彼らと彼らを見つめた私の視線の合うのは当然のことで、彼らは私の視線に気付き、慌てて視線を反らす。










逃げるなら最初から向かってくるな、と多少は思ったが正直言ってそんなことはどうでも良かった。






私は視線を反らした彼らをそのまま見つめる。






ちょうど先ほど同じような言葉を言われた。















そう・・・・さっき部室の前で会った時・・・・・・・・・・































「こいつが新マネージャーやて!?」


眼鏡をかけた『忍足侑士』と呼ばれた男が、『部長』の横から割って入るように、大声を上げる。






「嘘だろ!?何でこんな小汚い・・・・しかも男なんだよ!?」

『オカッパ』少年が私を指差す。







彼らの偉そうな態度に一瞬苛立ったが、その瞬間あの大金のことを思い出す。






ここで、彼らに嫌われ、マネージャーになれなかったらその時点でゲームは私の負けた。









それはかなり困る。



















私は苛立ちを押さえ、無表情のまま唇だけ動かした。




です。今日転校してきました。どうぞよろしくお願いします。」

一息で言い終えると、私は少しだけお辞儀をする。












その様子を見て、『忍足侑士』がわざとらしく大げさにため息を吐く。






「男のマネージャーと『よろしく』なんかせえへんわ。」



『忍足侑士』は汚らわしい物でも見るような眼で私を睨み付けた。










彼の言葉に『オカッパ』は大声で笑い始める。












大声で笑い始めた彼に私は柄にも無く驚き、眼を見開いて凝視してしまった。





(一体何がそんなに面白いのか。)







世の中つまらないことだらけで、何をしても、何を見ても、何を聞いても面白いなんて思ったこともなければ悲しいなんて思ったことも無い私は、目の前で爆笑している『オカッパ』が不思議で堪らなかった。



そして、彼が笑うほど私の心は益々冷める。















しばらく笑った後、『オカッパ』は笑うのを我慢しているかのような顔で、『部長』の方を振り返った。



そして、今度は『部長』の方を向いて笑い始める。








「にしても、跡部が男のマネージャーをわざわざ入れるなんて珍しいよな。まさかこいつが自分から希望するようには思えないし。もしかして跡部あまりに女に・・・・・・」










ドゴッ!








『オカッパ』が言い終わる前に『跡部部長』の拳が彼の頭部に直撃していた。









「向日、とりあえずお前は黙ってろ。」







『跡部部長』が恐ろしいほどの眼力で『向日』と呼ばれた『オカッパ』を睨み付けるが、



その行為も意味無く、『向日』はあまりの痛さに頭を抱えて蹲っていた。

あまりの痛さにうめき声も出ないらしい。





しかし、殴った張本人の『跡部部長』は彼のことなど全く気にも留めず、つい数秒前まで『向日』に向けられていた眼力を持ったその視線を私に向ける。












やはり嫌な気分だった。











彼の眼にはかなりの力がある。

だからかもしれないが、この眼を見ていると全てを見透かされそうで、気分が悪くなるのだ。







このまま彼に見つめられたら、一瞬にして私が女だということがばれてしまうような気がした。




それだけじゃない、私がしてきたこと、私の過去。

ばれる訳が無いのに、何だかそれまで見透かされてしまいそうで恐くなる。
















私は居た堪れなくなり、彼から視線を反らすように俯くと、そのままの姿勢で声を上げた。



「では、これからよろしくお願いします。」


それだけ言って私は俯いたのを隠すかのように今度は深々と頭を下げ、そのまま彼らの顔を見ずに踵を返し、駆け出した。



















・・・・時だった。
















「おい!」


背後から呼ばれた声に私は振り向きもせず、声も上げず、ただ立ち止まった。











かなり無礼なヤツだと思われても仕方ないのだが、『跡部部長』は全く気にもしていないかのように話を続けた。


「お前、どこで着替えるか知ってんのか?」








「えっ!?」
思いがけない言葉に私は思わず後ろを振り返った。


まさかそんなテニス部部長らしい言葉が出てくるとは全く予想していなかった。

『何が目的だ』だの何だのとマネージャーの志望動機でも聞かれるのかと思っていたのだが・・・・・













『跡部部長』は口元に笑みを浮かべる。












「今までマネージャーは女しかいなかったからな。男マネージャー専用の部室は残念ながら無い。」


「それって・・・・外で着替えろってことですか?」


「まさかそこまで俺は卑劣な男じゃねぇよ。

















ココを使え。」







そう言って、親指を立てるようにして指差されたのは貧乏人をあざ笑うような腹の立つ、大きなレギュラー専用の部室だった。



これもまた予想だにしなかったお言葉に私は一瞬思考が停止する。















そして、気付いたときには私は跡部に抗議していたのだった。






「申し訳ありませんが、それはお断りします。」

「何故だ?」

「ここはレギュラー専用の部屋だと決まっているはずです。俺がこの部屋に入るとなれば余計な反感を買うことは確実です。俺は仕事だけしたいんです。喧嘩をしに来たわけではありません。」















「お前やったら、そないなこと気にするまでも無く反感を買うわ。」


今までの一連の流れを見ていた『忍足侑士』は馬鹿にしたように鼻で笑いながら呟く。








私は冷めた視線を彼に送った。

確かに彼の言うことは正論ではあるが・・・・


「確かにそうですが、先ほども言ったように『要らぬ反感』を買って、自分の意に沿わぬことで恨まれるのだけは勘弁してもらいたいんです。」









そう言って私は少しだけ口元を歪ませる。

























「まぁ、生まれ持った容姿や性格で恨まれるのも、『自分の意に沿わぬこと』と言えばそうですけどね。」

















私の言葉に何か思ったのか、『忍足侑士』はわずかに目を見開き、すぐに俯くかのように顔を背けながら舌打ちした。



そのまま彼はゆっくりと腕組みをして部室の壁に凭れかからせる。


もう、何もコメントする気はない様だ。






『向日』もまた頭部を片手で押さえ、恨めしそうな表情をしているものの、先ほどまでの勢いはどうしたのか、無言で成り行きを見守っていた。




必要ないときは自分の意見をうざいくらい言うくせに、言って欲しいときは何も言わない・・・・・









先ほどまで私のことをボロクソに貶したくせに・・・・。











役に立たない男たちだ。
































結局この後、跡部は自分の意見だけを押し付け、抗議する私の言葉を聞こうともせずにその場から立ち去ったのだった。






















一人残された私は、今まで出会ったことないほどの凄い自己中心的な思考回路を持つ『跡部』という存在に呆然と立ち尽くしていた。






「強制かよ・・・・・・。」















私は無意識の内にその馬鹿でかい部室を見上げていたのだった・・・・・・・



































そんなこんだで今に至るわけだが・・・・・


私はそんな衝撃的な出来事を思い返し、今日で一体何度目だろうと思うため息を吐いた。








「ん?」







ふと周りを見渡すと隣に立っていたはずの跡部の姿も無く、部員たちは散り散りにその場から離れていっていたことに気付く。





どうやら色々と思い返しているうちに、いつの間にか跡部の話も、マネージャーの紹介も終わったようだった。





中には練習をすでに始めている者もいる。
















「ったく。誰か教えてくれても良いだろうが・・・・」



舌打ち交じりにそれだけ言うと、私はその場から駆け出したのだった。






























『向日』や『忍足』が言った言葉の意味を私はよく理解していなかったのかもしれない。


『跡部部長』に気を取られすぎて彼らの言葉から感じる、『何か』を感じ取ることが出来ていなかったんだ。

















それに気付いていたら、私のストーリーは何か変わっていたのだろうか。













いや、変わらない。















私の過去が消えない限り。









私が変わらない限り。
















彼らがいる限り。




























彼らの秘密を私が共有するまで、あと3時間。
















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