氷帝学園

名門中の名門学校。







太郎さんの話の後、インターネットで検索してみて驚いた。









偏差値高く、部活動の成績も良し











そして、何よりも





大金持ちの集まった金持ち学校なのだ。



















110   

   5 -scuola-



















「初めまして、です。よろしくお願いします。」
















私はそれだけ呟くように言って、挨拶すると頭も下げずに俯いたまま、先生に指示された席に着いた。














教室に足を一歩踏み入れた瞬間私には分かった。










私の容姿を見て、これ見よがしに落胆の色を見せる者、それもまだ良い方で中にはわざと聞こえるように


「あ〜何か貧乏臭いのが入ってきたぁ〜」



などと罵倒してくるものもいた。













けど・・・・













私は、侮蔑や好奇の視線の間を潜り抜け、自分の席の椅子を引いた。





(これは無いよな・・・・・・)


心の中でそう呟く。













今時なかなかお目にかかることもない、黒縁の瓶底メガネ。

寝癖+天然パーマのボサボサ頭の鬘。

しっかりと眼まで覆ってくれている長い前髪。

手には学校指定のバッグに、背にはどこの山に登山に行くんですか、と思わず尋ねたくなるような大きなリュック。











今日の早朝に太郎さんが、雑誌でよくお目にかかるメイクアップアーティストを連れてきたときには目を疑った。

事前にどんな格好で行くかまでは聞かされていなかった私は、柄にも無くそんな有名人にメイクしてもらえることに少し幸福感を感じてしまったわけだが・・・・









完成した自分の姿を鏡で見たときは思わず気を失いかけた。




















普段通りの私だとしてもこの金持ち達の前では同じようなことを言われたかもしれない。



けれど・・・・
いくらなんでもこれは無いだろう。






自分でも確かに驚いたくらい今の私の格好はダサい気がする。


いや、ダサいなんてもんでは片付けられない。





「汚い」と言った方が正しい表現だろう。











こんなの一般の学校に言っても同じことを言われると思う。



ってか、見事に苛めの標的になれる器だ。














「さすが、メイクアップアーティストのトップに立っているだけはある・・・・」

私は、自分の席に座ると、先の苦悩を考え頭を抱えたのだった。






























その日一日はあっという間に過ぎた。




嫌味の一つや二つ覚悟していたのだが、そんな心配も無く、私のようなダサい男は相手にすらされないらしい。


私から話しかけることはもちろんないから、誰も進んで私と話そうとするものなどいない。

見事にその辺りに落ちている石ころのようにあっても無くても変わらない存在として扱われていた。





一般の教師達は私と太郎さんの関係を知らないらしく私を授業中でも完全に視界から遮断し、見てみぬ振りをしている。




どうやら教師達もまた臭いものには蓋をしろ、的な考えらしい。










確かに人間見て見ぬ振りが一番楽だ。














私的にはそれが一番ありがたいので全く構わない。

苛められれば嫌でも目立つし、かと言って太郎さんとのことがバレ、教師達からえこ贔屓されてもそれはそれで生徒達の反感を買い目立ってしまう。

何にしろ、正体がばれないのは目立たないことが一番なのだ。











授業が終わるとすぐに私は大きなリュックを背負う。

(全く・・・・・毎日こんなの背負って登校しなくちゃいけないの・・・・・?)






ぶつぶつと文句を吐き捨てながら私は賑やかしい教室を後にした。

























で、問題は実はこれからだったりする。

私はその問題の目の前に立っていた。









『テニス部部室』








太郎さんの話ではもうすでにテニス部の部長には話を通してあるため、後は当日に練習前にレギュラー専用の部室に行くようにという話だった。







が、いざテニス部の部室を目の前にすると扉を開けられずにいた。


呆然と目の前にある建物を見上げる。













「何だよ・・・・・これは・・・・・。」







中学の部活動のレベルの大きさではない。

しかも『レギュラー専用』の部室。







100歩譲って氷帝テニス部は200名以上の部員がいるらしいから、その人達の部室であるのならこの大きさでも多少は納得がいく気がする。

が、数人のレギュラー達がこの無駄にでかい部室を使うのかと思うと驚きを通り越して怒りが生まれてきた。






貧乏人を馬鹿にしているのかとしか思えない。
















「あ〜・・・・すでに付いていけない。」


そう言いながら私は大きなため息と共に項垂れると、重い足取りで一歩前に踏み出した。





















扉の前に立ち、ノックしようと右手を挙げた。







ガチャッ









不意に開いたドアに私は驚いて一歩後退する。






「侑士〜!今日、予約はどうなってんの?」


「そういや、今日入れとらんなぁ・・・・。何か最近飽きてしもうて。」












「だったら、忍足。お前が新しいヤツを見繕って来い。」
















扉から出てきたのは、金持ちオーラを爆発させながら現れた美少年3人だった。


ついでに、偉そうなオーラも眼ではっきりと分かるほど溢れ出していた。














「ん?」

一番最初に出てきた眼鏡をかけた、確か『侑士』と呼ばれていた男がやっと私の存在に気付いた。








「何や?この小汚いのは。」









遅れるようにしてその少し後ろに立っている青年2人も私に気付く。











一番最後に出てきた青年が、ハッと何かに気付いたようだった。


彼は『侑士』の前に踏み出す。















(あっ・・・・・・・)




すぐに分かった。


こいつが部長だと。



















部長は上から下まで舐めるようにじっくりと私を凝視する。






見定められているようで、気持ち悪い。

見られるのは慣れているから不思議だった。



何故、こんなに気持ち悪いと感じるんだろう。















部長らしき人物は一通り眺めると、興味深そうに口角を少し挙げ、腕を組んだ。
















「お前が例の新マネージャーか?」











その問いに私は答えたくなかった。






















それは直感だったのかもしれない。



この・・・男子テニス部はヤバイ。










そう、きっと直感していたんだ。
















けど、それを私はこの時、気付くことは無かった。


















だって、私はこの男子テニス部の『秘密』について知らなかったから・・・・・















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