迷った。
気持ち良くも無いのに、気持ち良い振りをすべきかどうか。
本当は演技せずに、マグロでいてやろうかとも思ったけど・・・・
必死に私にしがみ付いてくる彼が・・・・あの忍足侑士が・・・・・何だか
ほんの・・・・ほんの少しだけど・・・・・・
愛おしくて・・・。
だから、
感じている振りをしてあげることにした。
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35 -bambino-
「ふっ・・・・あっ・・ぁん・・・」
静かな部屋の中。
響くのは悲鳴にも似た私の声と、忍足先輩の興奮した声にならない声。
二人の呼吸音。
肉と肉がぶつかり合う音。
そして、結合部から流れ出す粘着質な音。
たくさんの音が交じり合って、不協和音を作り出す。
忍足先輩が激しく腰を打ち付ける度に、私の身体が震え、それと共に口からは喘ぎ声が漏れた。
それに快くしたのか、徐々に律動が早さを増していく。
これで何度目だろう。
もう、数えるのも飽きた。
忍足先輩のソレはイってもイっても決して衰えることなく、私を貫く。
彼をここまで突き動かすモノはなんなのだろうかと呆れるほどだ。
薄く眼を開くと、普段では絶対に見れないくらい息を切らし、必死な顔つきの忍足先輩が目に入ってきた。
もう、どうこうする余裕は無いようだ。
最初から私を喜ばせるつもりは無いのだろう、と確信を持ってしまう程、前戯も何もほとんどなく、すぐに挿入された。
けど、こうやって必死な彼を見ていると、喜ばせるつもりが無いのではなく、無かったのは『余裕』なのだということが分かる。
―それでも、最初の辺りはまだリップサービスも少しはあったのだが・・・・・
「・・あっ、っ・・・・ん・・・・―――――ぁあ!!」
不意にピンク色に染まった剥き出しの足を股関節が痛むほど開かされる。
最奥まで挿入され、私は思わず身体がビクンと大きく震えた。
突然の衝撃に
「ん・・・・あぁ・・・も・・・と・ぉ・・。」
口が勝手に乞う。
両手を彼の肩から背中へと回し、拙劣な動きをする指で彼の背中に線を引く。
「・・・・クッ・・・」
私のその行為に、忍足先輩は久々に何とか言葉を発した。
苦しそうに顔を顰めて、余裕の無い笑みを浮かべる彼の顔がいつも以上に色っぽくて・・・・
何よりも
美しかった。
不意にそんな彼の顔をもっと歪めてやりたくなって、
私は、より深く彼を飲み込もうと忍足先輩の身体を強く抱きしめる。
前の開けたワイシャツだけを身に纏った私の身体が忍足先輩の身体に密着した。
その私の行動に、私の顔の隣で、彼が驚くように息を呑むのが分かった。
彼の腰の動きが心なしか緩む。
だけど。
それだけではまだ足りなくて、私は目の前にある彼の肩を唇でやんわりと噛むと、そのまま首へと向かってゆっくりと唇を動かした。
まるで舐めるかのように
まるで
キスするかのように
「・・・・・まずいわ・・・・・」
不意に忍足先輩の呟きが聞える。
それはきっと自分自身への言葉なのだろうけど、ピッタリとくっついている今の私たちにとっては、耳元で呟かれているかのようで。
はっきりと聞き取れた。
−なにがまずいの・・・・・?
そう聞いてやろうかとも思ったけど何だかそれは憚られて・・・・
だから、私は変わりに
「お・・・したり・・・せん・・・ぱい・・・・・
もっ・・・・とぉ・・・・・」
彼の耳に柔らかく温かくて・・・・くすぐるような息を吹きかけながら甘い口調でおねだりする。
普段の私だったら絶対に出せない言葉。
口調。
表情。
これが、私が長年培ってきたモノ。
特技・・・・・
いや。
技術と言った方がしっくりくる。
最初は恥ずかしくて出来なかったけど、今では何の躊躇いも無く出来るから不思議だ。
やはり慣れとは恐い。
そして。
瞬間、私の体内にある『彼』が自身を主張するかのようにさらに大きさを増す。
やっとイってくれるのか
早く解放されたいという期待が一気に膨らみ、私は思わず息を吐く。
・・・が。
ズルッ・・・
彼は一気に私の中からそれを先端近くまで引き抜いた。
一瞬どうなったのかが分からなくて、私は戸惑い気味に彼から顔を離し、彼の表情を確かめようとする。
けど、それすら出来なかった。
それは、彼がそれが出来ないように私を力強く抱きしめたから・・・。
そして、彼は私の肩から首にかけて唇でゆっくりと舐め上げる。
それは先程私がしたことと全く同じ行為。
だが、忍足先輩がしたのはそれだけじゃなくて、
今度はネットリと舌で私の首を舐め上げた。
その異様な感触に、私の身体がブルリと震える。
それが、一体何から来るものなのか分からない。
快 感 ?
不 快 感 ?
恐 怖 ?
その答えは出ない。
最近の私の感情はあまりにも日によって変化が大き過ぎるから・・・
きっと、今出した答えは『明日』の答えでは無い。
丹念に舐め上げた後、今度は忍足先輩の方が私からわずかに離れ、
そして・・・・
私の顔を無遠慮に見下ろした。
「・・・・・・・・・やっぱりキスしたいなぁ・・・・・・・」
激しい呼吸と共に彼の口から出た言葉は少し意外で、私は瞠目して彼を見た。
口元は笑っているのに、眼は真剣で。
いつものような軽口でそう言っているのでは無い事がはっきりと読み取れた。
だけど・・・・
「ダメ・・・・・約束・・・・・。」
私の中の何かは、絶対にそれを許しはしない。
しかし、忍足先輩は私のその言葉に全く不快になったような表情は見せず
「強情やな・・・・」
そう言って苦笑いを浮かべると
わざと唇を外し
額・・・・・・下瞼・・・・・・・・頬・・・・・・・・・・・・・・・・
唇以外の顔のあらゆる所にキスを落としていった。
まるで、「唇じゃなければ良いんやろ?」とでも言っているかのように。
その唇は優しくて
くすぐったくて
心地良かった。
しばらくそれを繰り返した後、
彼は満足したのか、再び私の身体を強く抱きしめる。
そして
耳元で呟く。
「さっきみたいにお強請りしてや・・・・?
もっと、もっと甘い声聞かせて?」
耳元で呟く彼の声は凄く熱っぽくて、吐き出す息が凄くくすぐったかった。
ソレと同時に
何だか必死な彼が凄く愛おしく思えて・・・・
だけど・・・・
これは駆け引きなのだ。
今までのセックスが駆け引きであったように
今のコレもそうでしかない。
だから。
「・・・・やだ・・・・」
言ってはみるけど
「お前の声・・・気持ち良い・・・・・・・
・・・・・・・・・お前の声がもっと聞きたい・・・・・・・。」
声が聞きたいと言いながら私の言葉など聞こえてないのか、忍足先輩は自分の意見だけ言うと再び一向に萎えることの知らない彼自身を一気に私の中に挿入した。
「・・・・きっ・・・・・つ・・・う・・・・・・。」
一瞬眉を僅かに顰めると、今度は動かそうともせず
ただただ苦しそうな・・・・だけど恍惚とした表情で私を見下ろす。
まるで、何かを味わっているかのように・・・
「ん中、暖かくてキモチイイ。
・・・・・・・・・挿れとるだけで逝ってしまいそうや・・・・・」
―だったら早くイって下さいよ
― 一体何回イけば気が済むんだ、この精力絶倫野郎!
などなど
そう皮肉たっぷりに言ってやりたいことはたくさんあったけど、
「ひ・っ・・・・ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・あぁぁ・!」
突如再開された最大の律動に、私はそれどころじゃなくて・・・・・
私の言いたい事は、彼の背中の引っかき傷でしか表せなかったのだった。
その後・・・・
彼は昨日別の男に付けられたキスマークと同じ場所に新たにキスマークを残していった。
まるで・・・・・
自分の所有物であると主張するかのように
だから、私も。
彼の背中にたくさん爪を立ててやった。
こいつは私の獲物とでも言うように・・・・・
お互いに付けた印は似て非なるもの。
きっと、この印が消える前に、私は再びこうやって彼に抱かれているだろう。
常に残る傷跡。
それは、この脚に刻まれた青い薔薇と同じ。
夜は短くて長い。
全ての行為が終わった後、
ようやく眠りに付いた忍足侑士は
私を抱きしめたまま寝入ってしまっていて・・・・・
私は帰るに帰れなかった。
その姿はまるで、母親に甘える子どものよう。
ただ、私をしっかりと抱きしめる両手が子どもにしては大きいだけで・・・・・