私は夜なのに明るいその道を駆け抜けた。








途中何人もの男に声をかけられたけど、








構わずに走った。














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   2 -casa-















私は一件の家の前でやっと足を止めた。



そこは私の家・・・・・のようなもの。








でも、時々帰るくらいだから自分の家っていう感じはあまりしない。


前に帰ったのは1週間前ほどだっただろうか。

よく思い出せない。







私はドアの前でバックを漁り鍵を取り出す。





チャリ・・・





鍵とキーホルダーがぶつかり合って甲高い音を鳴らす。







鍵には熊のキーホルダーが付いていた。




私が付けた訳じゃない。

これは、コレをくれた人が最初から付けていたもの。







きっと女の子ならこういうものが好きだ、という勝手な考えからわざわざ付けてくれたんだろう。















私は鍵を差し込む。


そして、すぐに違和感に気付いた。










「開いてる・・・・・?」




私は恐る恐る扉を引いた。




扉にはやはり鍵はかかっていなかった。













私は無用心さに呆れながらも、なるべく音を立てないようにして靴を脱ぎ家に上がった。



帰ってきたことがバレるとまた色々と煩いから、気付かれないように・・・・






















別にあの人に何と思われようが私の知ったことではない。







でも・・・




何故だか分からないけど・・・・







あの人と会うと気分が悪くなる。













だから、寝るところがないときは帰ってくるけど、それ以外はここに帰ってくることはない。




とにかくあの男に会いたくない私はそっと階段を上り、そして二階の自分の部屋のドアのノブに手をかけた。









ほっ・・・










どうやら見つからずに部屋に入ることが出来たと私は思わずため息を一つ吐いた。





ドアノブを回した。














「何をしていた?」





背後から突然、聞こえてきた声に私は柄にも無く驚いて身を竦めてしまった。


この人の声は嫌いだ。









私は聞こえないフリをして扉を開こうとしたが、それは後ろの男によって阻まれた。


男は私が開けようとしたドアの端を掴み、強い力で強引に止める。









「話しがある。下に来なさい。」







有無を言わさない威圧感で私を一瞥すると、彼は無言で階段を降りていった。




私には断ることは許されないらしい。










別に怒られようが殴られようが痛くも痒くも無いが、貴重な時間を取られるのははっきり言って迷惑以外の何物でもない。




しかし、『他人』と言っても過言では無い『』という人間を拾って置いてくれているという、感謝・・・いや罪悪感のようなものが自分の心の中にわずかにあるからだろう。









結局、この男には何故か逆らえないのだ。











私は大きくため息を吐くと、少し開いた目の前の扉をゆっくりと閉め、男の後を付いていった。



























一階に下りると、先ほどとは違い、部屋の明かりが明々と点されていた。



暗闇に慣れた眼にはこの光は少し眩しくて、私は思わず目を顰める。










「何をぼけっと突っ立ってるんだ。早く中に入りなさい。」




入り口付近で呆然と立ち尽くしていた私に、すでにソファに座り優雅に寛いでいる男が不機嫌そうに声をかけた。


男の目の前に置かれたテーブルにはすでに2人分のコーヒーが置かれていて、私の大好きな鼻にツンとくるような匂いが部屋中に漂っている。










コーヒーは私の大好物だったりする。





その事を彼が知っているのか知らないのかはしらない。

けど、何だか癪に障った。







私は足を一歩部屋に踏み入れる。

重くて仕方なかった足も、一歩踏み出すと加速して行き、すぐに男が座るソファの前まで辿り着いた。












目の前のソファに腰掛けながら私は、「私の領域」を侵しかねない私の養父の男に悪態をつく。













「ってか、寝る前にコーヒー?この後眠れなくなるじゃない?」




「もう、朝だ。起きる時間だ。」



そう言いながらコーヒーを口元に運ぶ男の姿が何だか優雅すぎて、腹立たしい。









「年寄りは早起きだもんね。あぁ嫌だ嫌だ。」





















「今日はどこに行っていた?」


突然の直球の質問に、私は不意を突かれ先ほどまでアレコレと考えた言い訳がすっかりと頭から飛んで行ってしまった。






良い言葉が思いつかなくて私は思わず視線を反らした。









その行動に男は全てを悟ったようだった。





相手の顔を見なくても分かった。











一瞬にして部屋の空気が変わったから・・・・・









ピリピリとした空気が肌を刺す。



こういう空気は決して嫌いじゃない。

けど、一緒の空間の中にいる相手がこの男となると話は別だ。









居心地が悪いことこの上ない。








男は大げさにため息を付くとソファ背凭れから身を乗り出す。


ソファが深く沈み、小さく音を立てる。













「今度そんな真似をしたら覚悟しておけと言ったはずだな?」





その言葉に私は背けていた視線を男に戻す。








そして、今度は真正面から見据えた。







私の生きる理由を奪おうとしている私の養父を。












世間体が悪いからか、それとも意味の無い正義感からか・・・・

どうしても私を更正させたいらしい養父は目の前で恐い顔をしている。






無駄なのに、一生懸命怒っている。














それがおかしくて堪らなくて、私は思わず口元を歪めた。




私のその表情が癇に障ったらしく、男は眉を顰める。





「何がおかしい?」









「いや。いつも一生懸命だと思って・・・・















太郎さんは。」








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