今まで見て見ぬ振りをしてきたのに








自分の好きな人が関わり始めているからって

















いきなり偉そうなこと言う俺こそ











一番浅ましいのかな・・・・?
















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   19 -puro-
















俺の言った言葉に最も驚いたのは当然のことながら跡部だった。













そりゃそうだろう。




俺は跡部のこと大好きだし、誰よりも尊敬している。


跡部の言うことに間違いは無いと思ってる。






だから、彼の言うことに反論することはない。


というよりもする必要が無いのだ。












そりゃ、怒られればムッとするし、跡部が恐いと思うことだってある。






でも、決して跡部は間違ったことでは怒らないから。


怒っても跡部は優しいから。








だから、俺はどんなに跡部に怒られても跡部のことを絶対に嫌いにはなれない。













だけど・・・・・。






















「最近のテニス部おかしいよ。」



俺はキッと跡部を睨みつけるように見る。

負ける訳にはいかなかった。







「跡部達、何かおかしい・・・・。もう、あんなこと止めよ!?」



真っ直ぐ跡部を見つめる俺の眼。



そして。

跡部もその鋭い瞳で俺を見ていた。













が、跡部は何も言わない。


変わりに答えたのは忍足だった。





「あんなことって何や?」



そう言って忍足はソファに座ったまま、足を組みかえる。

顔は笑っていた。





きっと、忍足は俺が何を言いたいのかはっきりと分かっているのだろう。




そして。

今まで何も言わなかった俺が跡部に牙を向いたのが面白かったのかもしれない。











面白そうだから、ただ聞いてみただけだということは分かっているんだ。




でも、俺はきちんと答えた。

忍足にも跡部にも・・・・他の皆にも分かってもらうために。








「マネージャーを道具みたいに扱うことだよ!

レギュラーになって・・・・レギュラーだけの特権で、ずっと続いているテニス部レギュラーだけの伝統だとしても・・・・・・





こんなの伝統だなんておかしいよ。」




拳を握り締め俺は一生懸命訴える。


その様子が意外だったのか、先程まで馬鹿にした顔をしていた忍足でさえ目を見開いて俺を見ていた。










でも、



「・・・・・。」


やはり跡部は何も言わない。










「別に構わへんのとちゃう?マネ達も自分らから望んで道具になることを希望してくるわけやし?」



「だから、それがおかしいんだよ!!同じ人間なのに・・・・・・相手を道具としてしか見てない跡部達も・・・・・それを普通に受け入れているマネージャー達もみんなどっかおかしくなってるんだ!!」








悪気など微塵も感じさせない忍足の発言に俺は忍足の方に視線を向け、まるで助けを求める叫び声のような声で俺はそう言っていた。










一度口に出したら、もう止まらなかった。


それに、一度止めて跡部の顔を見てしまったら続きが言えなくなりそうで恐かった。







だから俺は流れるようにどんどん言いたい事を口にする。








そして。


最後に俺は言ってしまった。





「こんなのいつか断ち切らなくちゃ、いつかテニス部が潰れてしまう気がする・・・。」


と。







息をすることさえ忘れてしまうほど一気しゃべったことと、言ってしまったという興奮から俺は眩暈がしていた。

俯いたまま俺は肩で息をする。







―やっと言えた。








ずっと言いたかったのに言えなかったこと。




やっと言えたんだ。









それだけで俺は安心していた。




安心感から俺はホッと一つためいきをついた・・・・・





ちょうど、それと重なったのは












跡部のため息だった。










跡部は一瞬目を伏した後、

鋭く光る眼を俺へと向けた。








そして、口から出てきた言葉は


「言いたいことはそれだけか・・・・?」




「え・・・・?」



予想だにしないものだった。









呆然としている俺に、今度は跡部が言う番だった。



一瞬でも乗り遅れてしまった俺にもう入る隙間はないほどに跡部は雄弁に語り始める。












「別に伝統だからとか俺には関係ない。

面白いからやってるんだ。当然俺自身の意志でな。
お前だってそうだろ?お前もレギュラーだがマネとセックスする気は全くない。




それはお前の意志でそうすることを選んでいるんだろうが。違うか?」




「確かにそうだけど・・・・・」

俺にはそれしか言えなかった。





何とか言えたのがそれだけだった。











「俺は部長として次の部長となる者にこの特権のことは伝える。が、それを強要するつもりはない。したけりゃすれば良いし、止めたければ止めれば良い。これは権利であって義務では無いんだよ。」






「それに、望んでいるのは女達の方だ。醜く争って良い男を奪い合う・・・・。

 あいつらは別に愛情だとかそんな大層な物が欲しい訳じゃねぇんだよ。
男をただのブランド品のような物としか思ってねぇんだ。金持ちの男で顔のいい男を隣に連れていれば自分の価値が上がるぐらいにしかな・・・。




お互い様だろ?」

まるで、死肉に群がるハイエナのようだな、と跡部は付け加える。









『お互い様』










確かにその通りなのだ。





冷静に考えてみて、もし今、レギュラーの特権を廃止したとしたら、一体何人の人間が喜ぶのだろう。

おそらく・・・・
いや。
確実にマネージャー達は全員物凄い勢いで泣き叫ぶだろう。


きっと誰も喜ばない。













「ぎぶ あんど ていく ってやつだな!」

先程まで驚いた顔をしていた岳人も跡部の言葉に乗って自信満々に言う。

偉そうに胸を張っている姿に少し腹が立ったし、本当に馬鹿っぽい発言だった。



が。




確かに的を射ていた。









「がっくん・・・・・何や・・・・アホっぽいで?」


「何だとーーー!!?」



忍足や岳人にとっては特権についても、今俺が言っていることもただ『面白いこと』の一つ。

遊びでしかないのだろう。




他愛も無い会話でじゃれ合っている忍足と岳人を横目で見ながら、俺は負けないよう必死で奥歯をかみ締めた。

ここで弱気になっちゃダメなんだ。



それじゃ何も変わらない。









「それは・・・・それはそうだけど!!」


『それはそうだけど・・・・』

言葉を濁すように言ったその言葉。




その後に続く言葉なんて俺は知らなかった。










でも、言わずにはいられなかったんだ・・・・。




そのまま俯いて黙り込んでしまった俺を跡部はずっと冷静な眼で見ていた。

そして、不意に浅いため息を吐く。










「さて。質問タイムは終わりだ。

お前の質問には答えたんだ。





今度は俺が質問する番だ。

















昨日、一体何があった・・・?」








何でもお見通しの跡部。

まさか質問を返されると思っていなかった俺は、一瞬驚いたように跡部に視線を向けたものの、居た堪れなくなりすぐに視線を床に落とす。







言いたくは無かった。

けど。


無言の圧力がそれを許しはしない。







クンが襲われてた・・・・。」

そう言った瞬間、押さえてきた感情が一気に爆発した気がした。

助けることが出来なった自分の不甲斐無さ、差し伸べた手を振り解かれた悲しみ・・・怒り・・・・・・・

分かってもらえない悔しさ、





そして。

初めての感情への無意識の戸惑い。








倉庫で三人のテニス部員に押さえつけられて殴られたり服脱がされたりしてた!!



後半は半ば吐き捨てるような言葉だった。

無意識に声が大きり怒鳴りつけるようになってしまう。









「うわぁ〜マジかよ。」

「えげつないですね。」

後ろで傍観していた宍戸と鳳が驚いて呟く。






「今日、クンが来ないのはたぶん昨日の怪我のせいなんだ。もっと早く助けられれば良かった・・・・。」





俺は泣きそうだった。





俺が跡部並みの頭の回転の速さを持っていたら

きっと、もっと早くにあの男達のことに気付いていたはずだ。








あれだけのヒントがあったのに・・・


結局俺は守れなかった。

怪我をさせてしまった。








全く役に立っていないんだ。





無意識に俺の拳が力強く握られる。









「ジロー・・・・。」


「お前のせいじゃないだろ!?元はと言えば生意気なあいつが・・・・・」

岳人が焦ったようにそう言う。







きっと岳人は慰めようとしてくれてるんだと思う。


凄く優しいヤツだから。










でも。

今の俺には逆効果だった。






「違う!!クンは忍足達が言うほど悪い人じゃない!!」



そう。

分かって欲しいのは本当はそれだけなのだ。








「一般のテニス部員達もどこかおかしくなってるんだ・・・・。俺達の影響が他の部員達にも及ぼしてるんだよ!!」













「ジロー・・・・・・・・お前・・・・に惚れでもしたか?」

必死で訴える俺に、跡部は苦笑していた。





「そ、そんなんじゃない!!!俺は・・・・・・・ただ・・・・・・昔の跡部達に戻ってもらいたくて・・・・・・。」









俺は嘘を付く。




確かにそれもホントのこと。

けど、今現在の俺にとって昔の跡部に戻ってもらいたいというのは二の次だった。





一番望んでいるのは・・・・・・・・・












「ジロー・・・・」


名前を呼ばれ俺は俯いた顔を上げた。


目の前の跡部は優しく微笑んでいた。






眼以外は・・・。









そして、跡部はゆっくりと口を開く。






次の瞬間。

聞こえてきた言葉に俺は奈落の底へ突き落とされたような・・・・








予想だにしていなかった言葉を聞いた。














「ジロー・・・・・・
















お前はズルいな?」
















ズルイ・・・?



言葉の意味をしっかりと飲み込めず、俺は何度も頭の中でその言葉を繰り返す。






「俺がズルい・・・・・・・?」

思わず声が震える。

平静を装うとするけど、動揺が大きすぎて・・・・無理だ。








「お前は昔の俺に戻って欲しいと言ったな?





だったら・・・・・


それをずっと思っていたのなら何故今まで何も言わなかったんだ?」







「それは・・・・・」





跡部がロッカーを力強く叩く。



ギャシャン!



という不協和音に俺は思わずビクッと肩を震わせた。











「俺が恐ろしかったからだろ?




だからお前は言わなかったんだ。


ずっと、傍観していた訳だ。





なのに、気になるヤツが俺達のターゲットになった瞬間、『もう止めろ』だの『前の俺に戻れ』だの何だのと俺に意見してくるのか?


つまりお前は自分が大切に想うヤツさえ幸せだったら良いと思ってるわけだろうが?








お前も俺たちと同類だよ。」







跡部の言っていることは正論以外の何物でもなかった。






そうなのだ。

俺はズルイ。















今までずっと逃げていたくせに・・・・・




今更、俺がそんなことを言うのか?










跡部は俯いて黙り込んだ俺を見てフゥと軽くため息を吐いた。



「お前はしばらく部活には出なくて良い。少し頭を冷やせ。」


「おい!!跡部!!」

そこまですることはないだろう、と周囲のヤツらが焦って口々に騒ぎ出す。






「勘違いするな。別に怒っている訳じゃない。今のままの気持ちでテニスをしてもどうせ身が入らねぇんだ。それなら少し落ち着いて気分転換でもした方が良いだろう。」

そして思い出したように

「だが、さすがにあまりに顔を出さないと他の部員達が何か勘付くかもしれないからな。どれだけ休もうが構わないが、出来るだけ二日に一回くらいは一度コートに顔を出すようにしろ。」

と付け加える。




皆の視線が俺に集まるのを感じていた。








自分の情けなさが恥ずかしくて、


悔しくて、


俺は顔を上げることが出来なかった。












跡部の言う通り、すぐにでも頭を冷やしたかった。






「・・・・・・分かった・・・・・。」


それだけ言うと、俺は跡部の顔も、他の奴らの顔もみずに部室を飛び出したんだ。












俺は逃げ出した。


粉々に打ち砕かれて、もう何も言えない。




考えないようにしていた事実を跡部に突きつけられたから。


跡部が悪いわけじゃない。

だって、跡部は本当のことしか言ってないんだから。







自分の想いを正直に伝えれば良かったのかもしれない。



偽善者ぶって、ズルイ俺を隠し、それを聞こえのいい言葉で覆って誤魔化そうとして・・・






そんなのが跡部に通用する訳がなかったんだ。







今更それに気付いたところで後の祭り。





自分の醜い部分もひけらかすことなんて今の俺には無理だ。


だって、まだ自分の中の色々な気持ちを自分自身が整理出来ていないんだから。











飛び出した俺は、何も考えずに目的地もなく・・・・・

ただ、走った。




誰もいない場所に行きたくて。

ひたすら走ったんだ。







登校してくる生徒と幾度も肩がぶつかった。



けど、俺は振り返ることもなく、ただ走る。










湧き上がってくる感情に、不意に浮かぶ疑問。










何故、俺はまだほとんど話したことも無い人間のためにここまで傷ついているのだろう。














もう、何がなんだか分からない。


これから俺はどうすれば良いんだろう・・・・?




見てみぬ振りを続ける?








それとも・・・・・































残された彼らがどんな会話をしたのかなんて俺は知らない。









だから、気付かなかった。








俺は、本当に余計なことしか出来なかったんだって。




俺のせいでクンがさらに追い込まれるだなんて考えてもみなかった。













俺がそのことを知るのはまだ先のことだ。









































「にしても、ジローにアレだけのことを言わせるとはな。」



「一体どんな手を使ったんやろうな?クンとやらは。」

笑うように言った跡部の言葉に忍足はソファの背凭れに寄り掛かりながら頭の後ろで手を組む。











「うーーーん・・・・。」

突然聞こえてきた唸り声に、逸早く反応気付いたのは忍足だった。








「どうしたんや?がっくん?無い頭をそんなに使うて・・・。」


「えーーーい!うるせぃ!!ただ、ちょっと考えてただけだ!!」


「だから何を?」





















「ジローってホモなのか!!?」












申し訳なさそうに小声でそう呟く岳人だったが、それも意味無く、その言葉は部室中に見事に響き渡っていた。





数秒の沈黙。

皆、動作途中で固まっていた。














ぶははははははははは!!!!跡部の言った『惚れる』っちゅーのはそういう意味とちゃうわ。人間として惹かれてるってことや。」




最初に笑い始めた・・・・というより大爆笑し始めたのは忍足だった。

それにつられて他のヤツらも笑い始める。






笑っていないのは当の向日だけだった。

「ふーん・・・・・・そんなモンなんだ。」




向日は顎に片手を持ってくると、より深く考え込む。







「岳人やって俺んことも跡部んことも鳳も宍戸も樺地も滝もジローも好きやろ?そういうことやな。」




忍足のその言葉に向日の顔がパッと明るくなる。


「あーーー!それ分かりやすい!!」












「まぁ、ジローがどういう眼でのことを見ているのかは俺にはまだ分からないがな。」





「また、そんなこと言って向日先輩をからかって・・・・。」



口元だけで笑いながら余計なことを言う跡部に鳳が呆れたようにため息混じりに呟く。




跡部が本気で言っているのかどうなのかは分からない。







「俺は事実を言っているまでだ。」


「でもそりゃありえへんやろ?ホモやったらAV見て楽しそうに笑ったりせぇへんで?」




「AV見て笑うっていうのも何か変な感じだがな・・・・・。」

忍足の言っていることも微妙だと宍戸は首を捻らせる。

健全な男だったらAV見て楽しそうに手を叩いて笑うのだろうか・・・・。





―微妙だな・・・・



そう思っていた宍戸だったが、どうやら向日はそれで納得しているようだったため、余計なことは言わないことにし、結局何も言わない。













「でも、まぁ・・・・。その君を襲ったっていうテニス部員は何者なんだろうね。

本当に同性愛者だったら跡部はまぁ・・・さすがに恐いから近付かないかもしれないけど岳人とかヤバイんじゃない?」





面白そうに滝が微笑みながら、とんでもないことをさりげなく口にする。

この中では一番普通の神経を持っている鳳と宍戸は「ヲイヲイヲイヲイ・・・・」と内心ツッコミを入れる。





が、もうあまりこの関係の話しには関わりになりたくなかった彼らは無言で貫き通そうとする。
















「ヤバイってなんで!?」




「ほんまにがっくんは何も知らんのやなぁ・・・・・。掘られるってことや。」



「掘られるって?」






「男に突っ込まれるってことや。男同士でもちゃんとセックスは出来るんやで?」





「アナルセックスってのは気持ち良いらしいぜ?それこそ一回やったら女のソコでは満足出来なくなるくらいにな。

まぁ、女の場合嫌がるヤツがほとんどだからな。変態扱いされること覚悟で頼んでみたらどうだ?」

そう言って跡部はクッと笑う。








向日の頭の上に豆電球が見えた気がした。



良い事を聞いた、とでもいうように眼が輝いている向日に宍戸は一抹の不安を覚え、思わず


「おい!跡部も忍足もあまり向日をからかうんじゃねぇよ。こいつの場合本気にすっから・・・。」



軽くツッコンでみた。










「はははははは!!がっくんもそこまでアホやないって。なぁ?がっくん?」



「あ、当ったり前だろ!!馬鹿にすんなよ!!」










勢い良くそう言った向日の肩を組むようにして、忍足は爆笑しながら向日の肩に手を回す。



ソレを見て、つい先程までの重々しい空気は嘘だったかのように部室内が笑いに包まれる。












忍足はもちろん、宍戸も鳳も滝も・・・・・・そして跡部でさえ口元を僅かに綻ばせ、僅かだが微笑んでいた。









そんな中。

浮かない顔をしている者が一人いた。











それは、その話題の中心にいるはずの


















向日岳人。















口では自分を馬鹿にするような忍足達に怒りながら、頭の中は別のことで支配されていた。















『女とのセックスより気持ち良いこと・・・・・・・・・・・・・・?』
















彼の中にあるものは快楽への貪欲さ。




未知のモノを望む好奇心。
















何かを考えている訳ではない。











ただ。














欲望に忠実なだけなのだ。



























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