夢を見ていた。










右手にはお父さん。

左手にはお母さん。









二人に挟まれ嬉しそうに満面の笑みを浮かべている幼い私。
















夕日が私達を照らし、私達はその夕日に向かって歩く。













全く。

青春ドラマじゃあるまいし・・・・。









世界が明るく照らされ、私をオレンジ色に染める。















この頃はまだ何も知らなくて、楽しかった。


無垢な私の笑顔が眩しい。








本当に幸せそうだ。










いや・・・・


幸せだったんだ。




















けど、この頃には戻りたくない。




















だって、私はこの続きの物語をすでに知ってしまっているから。










絶望の先に希望なんて存在しないことを分かっているから。

























信じていた者に裏切られる失望、絶望・・・・をもう一度味わいたくないから。

















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   17 -famiglia-


















「!?」



何の前触れも無く、私の目は突然開いた。







大きく見開かれた目に一番最初に映ったのは私の部屋の天井だった。






「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・・・はぁ・・はぁ・・・・。」



恐い夢を見たというわけでもないのに、私はまるで悪夢を見た後のように激しく息を吸った。

呼吸が上手く出来ない。




呼吸しているはずなのに何も空気が入ってこないような気がした。









体全体から汗が吹き出ている。



じっとりと湿った髪の毛や服が何だか気持ち悪い。









私はゆっくり上半身だけ起こすと、私の上に掛かった掛け布団をギュッと握り締める。
















私は何故ここにいるのだろう。



昨日私はどうやってここまで帰ってきたのだろう。













何も思い出せなかった。

















もしかして、昨日あったと思ったことは全て夢だったのだろうか。









それはただの願望。


あれは夢でないことはすでに分かっている。







頭を駆け巡る痛みと、足の痛みが夢でないことをはっきりと表していた。


























『アアイウコト』には慣れている。


だから別に大したことじゃない。




『アノコト』自体は大したことじゃない。

















けど・・・・・

男の格好していて、相手も男だと思っていて





目的は何にしろああいう風に襲われるのは苦痛だった。











別にあの男達は今まで出会った男達のような目的で私を押さえつけ服を脱がそうとした訳ではないだろう。










それでも。


私は決してその螺旋から逃れられない事実を突きつけられているようで。







私はどこまで行っても弱い人間であると馬鹿にされているようで。












虚しくなる。













男である間は自分で望まない限りそういうことは無いと油断していたんだ。











だからだ。



衝撃は大きく、そして大きな傷を私の中に刻み付ける。


















それを意識した瞬間、今まで絶対に考えないようにしていたコトが頭の中をグルグルと駆け回る。

















―私は自分から望んで体を売っているのかと思っていた。









けど、もしかしたらそうでは無いのだろうか。





と。




所詮私もただ『巻き込まれている』に過ぎないのだろうか・・・・・・・・。


























自分自身を抱きしめるように私は無意識に両手を自分の体に回す。




「はぁ・・・・・はぁ・・はぁ・・・・・・」










いくら呼吸してもやはり苦しくて堪らない。




何とか自分を落ち着かせようと、ゆっくりと・・・・深く息を吸う。















そうするうちに上下に激しく動いていた肩が徐々に静かになっていく。





ソレと共に次第に落ち着いてくる呼吸。

















けど、相変わらず心は晴れない。
























「眠るように死ねたら良いのに・・・・・・・・」


ポツリと呟いたその言葉。








こうやって朝を迎えるたびに言わずにはいられないその言葉。


意識していたその言葉もいつの頃からか無意識に出てくるようになった。


























・・・・・いつの頃からだろう。


















『死』を希望に生きるようになったのは・・・・・。

























「あっ!」


最近、思考回路が無茶苦茶だ。







さっきまでの暗い気持ちはどこへ行ったのか。

頭の中に浮かんだ素敵なアイディアに思わず口元が緩んでいた。















『これを理由にして学校を休める!』




不幸中の幸いとはまさにこのことだ。


病院に行きたいとでも言えば学校を休むことはきっと出来るはずだ。







太郎さんもそこまで鬼ではないだろう。




今日はあの男達に会わなくて良いかもしれないという望みが出てきて嬉しくて堪らなくなっている自分がいた。



さっきまで私の頭の中を駆け回っていた黒いモノは奥に引っ込んでしまう。

心がスッと楽になっていた。



















そうと決まれば、早く行かなくては。




そう思い私は足が痛いこともすっかり忘れて勢い良くベッドから飛び出したのだった。









余談だが当然その後、あまりの痛さにベッドの横に蹲ってしばらく動けなかったことは言うまでもないだろう。























ようやく歩けるくらいは痛みが治まった私は壁伝いに階段へと向かって廊下をゆっくりと歩く。







ふと自分の足元を見る。


左足には綺麗に包帯が巻かれていた。





もちろん頭にも巻かれている。









どうやって家まで帰ったのかも良く覚えていないが、誰がいつ治療してくれたのかも全く覚えていなかった。



それも何だか微妙な気分だった。

























ようやく階段の前まで来たときにはいつもの倍以上の時間がかかっていた。











左足を先に階段に一歩踏み出した






丁度その時だった。

















「結婚!!?」


階下から聞こえてきた大声は私とはからっきし縁の無い言葉だった。







叫んだのは間違いなく小暮さんだろう。

あんな鶏の首を絞めたような声を出せるのは彼しか知らない。















『結婚』と言う言葉を呆然と聞いていた私だったが、徐々に胸の鼓動が早くなってくるのを感じていた。





私は足音を立てないようにそっと階段を降りる。












ちゃんに言わなくて良いの?結婚するってこと。」


部屋により近付いたことで声がさっきよりもはっきりと聞こえる。












―結婚する・・・・?











誰が?

私は自問自答するかのように胸の中で吐き捨てる。















もしかして・・・









ふと思い浮かんだ人物に胸がチクリと痛んだ気がしたが、私は気付かない振りをした。


彼らは私の存在に気付かず、口論し始める。






















しかし。









「言う必要は無いだろう。には関係のないことだ。」










―結婚するのは








私にとってこの世で唯一関係ある人で、





そして。


関係ない人。






思い当たるのは一人しかいなかった。







―結婚するのは・・・












―太郎さん?



























「関係ないってことは無いでしょう?」

太郎さんの言葉を聞いた小暮さんがため息混じりに呟く。








が、太郎さんは全く平然として


「いや・・・・・。関係ないことだ。」

とだけ。



















チクリ。

また胸が痛んだ。








それは『私には関係ない』といった彼の言葉が悲しかったからなのか、それとも彼が結婚するかもしれないことが寂しいからなのか。






それとも。



ただ、今私を苦しめている人間が自分だけ幸せを手に入れようとしていることが許せないのか・・・・



















私は動くことが出来ずに呆然としていた。


階段の途中でまるで足が張り付いたかのように思うように動かないのだ。







私の存在に気付かない彼らは、私の心に気付くこともなく話し続ける。









「ほん〜っと、太郎ちゃんは相変わらずね。」

そう言って、小暮さんは笑う。





「何がだ。」


「相変わらず頑固ねってこと。」


不機嫌そうなのはいつものことなのか、ぶっきら棒に聞き返した太郎さんに小暮さんはますます面白そうに声を上げて笑う。








「何がそんなに面白い?」


「なんか、言ってることとやってることが噛み合ってないな〜と思って♪」



「何だと?」




低い声がより一層低くなる。


その声にはわずかだが、怒りを含んでいる気がした。






顔は見えないがきっとあの綺麗な目が鋭く光り、眉間に皺を寄せているのだろう。


太郎さんが怒ったときの表情だ。














しかし、相手はそんなこと全く気にすることなく、笑いを含んだ声で話し続ける。




「で、それは誰への復讐なのかしら?






あなたを置いていったあの人かしら?






それともあのクソ野郎?









それとも・・・・














ちゃんかしらね?」
















声色変わることなく、自然な流れで発せられた言葉に私は聞き流すところだった。



私にとって衝撃的なことだったのに、衝撃的過ぎて何も感じなかった。














「あなたのちゃんへの復讐はまだ続いているの?」



そう言いながらやっぱり小暮さんは笑っていた。




















私は。





ただ、手すりを握った手にわずかに力がこもった。














それだけだった。

























BGM:音楽素材屋海龍

















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