「暑い・・・・・・・・・。」






雑巾を絞りながら私はテニスコートの方を眺めた。












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   13 -desiderio-









「お前、倉庫のあの汚さなんだよ!!」


暇だったので何度も繰り返しテニスコートのベンチを拭いていた私は突然の怒鳴り声に驚いて相手を見上げた。











そこには3人の男子部員が立っていた。

顔には見覚えが無かったが、テニス部の人間であるのは確かなようだ。




















大勢の部員の世話を一人でしなければならないと言えば確かに忙しい。


しかし、マネージャーがいない時間を長く過ごしてきた彼らは大抵自分のことは自分でするように慣れてしまっているようで、仕事さえ覚えてしまえば後は、さほど仕事に追われることは無くなっていた。


というわけで、何かと暇な時間がある私は、時間が空くたびに色々なところを掃除して回っていた。










私は呆れるようにチラッとコートの周りに視線を送る。



女達はレギュラー達を見てキャーキャーと毎日毎日飽きずに黄色い声援というか雑音を送っているが、私は何度見ても面白いスポーツだとは思えないし、それ以前に彼らをカッコ良いとは思えなかった。


どんなに暇でも応援する気にも観戦する気にもなれないから不思議だ。








―もしかしたら私の感覚がおかしいのかもしれないけど・・・・




いつも私は自嘲気味に笑っていた。









せめてテニスが好きだったらなぁ・・・といつも思うのだが、やはり練習中に見学して、面白くないという印象が強すぎてルールを勉強しようという気にもなれない。










というわけで、結局私は暇つぶし目的に空いている時間があれば黙々と掃除をしていた。

何か、マネージャーになってから掃除だけが上達していっている気がする。

それくらい、掃除ばっかりしていた。






















はずなのに。




「倉庫?何ですか、それは・・・・?」


「テニス部専用の倉庫があるだろ!んなこともしらねぇのかよ。」

正直言って倉庫があるなんて聞いたことも無い。






そういや、球などを片付ける場所がなくてはならない訳だから、当然と言えば当然だ。

けど、大抵コート整備や道具の片付けは一般部員の下っ端が行うので私が関わることがなかったのだ。





大体、倉庫の掃除をしろというのなら倉庫の場所くらい最初に教えておいて欲しい・・・。










でも、逆らうことは得策ではないことが分かっている私は、

「スミマセンデシタ。」

素直に頭を下げた。










私に話しかけてきた男達はお互い顔を見合わせると、少し口元を歪めて私の方を見下ろした。





「一般部員専用の部室の斜め前だよ!」


「あの・・・・・デカイ・・・・?」




そう呟いた私の頭の中には正レギュラー専用の部室にも負けないくらい大きな白い建物が浮かんでいた。



前々から何かとは思っていたのだが、ちょうど斜め前がテニス部一般部員や、他の部活動の部室の集合した建物が建っているということもあり、あれもその一部なのかと思っていた。







というか一つの部の倉庫があんなに大きいなんて、私のような普通、いやそれ以下の人間の脳みそでは考え付かない。











呆気にとられている私の方を見て彼らはハンッと鼻で笑う。



「マネージャーのくせにそんなことも知らねぇのかよ。」


「ホント、役立たずも程々にしてもらいたいよなぁ〜」






役立たずは練習中応援しかしてない女共だ。

と言ってやりたいが、言ってみて私に得することが僅かでもあるかと言えば、否だ。






むしろ、また生意気だとか何とか言って、より一層嫌がらせが酷くなるだけだろう。











クラスのヤツらは大体私の存在を無いものとして扱ってくれるから楽なのだが、テニス部のヤツらはレギュラー達を含めて色々なヤツらがいちいち絡んでくるから結構鬱陶しかったりする。


テニス部のヤツらは余程暇な連中が集まっているらしい。













私は大きく息を吸うと再び頭を少し下げる。


「本当にスミマセン。今からすぐに掃除してきます。」

ある意味この退屈な時間から逃れられることが嬉しくて、私の声は自然と高くなった。





















そして。

とにかくこの場から早く逃れたくて私は彼らの顔を見ずにその場をすぐに立ち去ったのだった。













だから私は。










ニヤリ



と彼らの口元が歪んだことに気付きもしなかった。
































最近、真夏でもないのにいつ熱射病になってもおかしくないほど、毎日暑かった。




私がテニス部のマネージャーを始めたら暑くなるなんて・・・・

余程私は日頃の行いが悪いのだろうか、と思わず疑いたくなる。





そんな中、結構な速さで走った私は、別に倉庫までの距離がそんなに遠いわけでもないのに、倉庫に到着した頃には呼吸困難でぶっ倒れそうになっていた。










激しく息をしながら、私は冷たい金属の扉に手を当てる。



見た目的には結構重そうだと感じていた倉庫の扉だったが、押してみると以外にも簡単に開いた。




私はホッと小さく息を吐く。


実は何も考えずに倉庫に直行したため、鍵が掛かっているのではないかと少し不安に思っていたのだが、その心配も無かったため安心し、私は暗い部屋へと何のためらいも無く足を一歩踏み入れる。









何故鍵がかかっていなかったのかなんて疑問が浮かぶことは無かった。





















部屋には小さな窓が一つしかなく、ほとんど光が差し込む様子は見られない。


きっと、この入り口の扉を完全に閉めてしまったら真っ暗で何も見えないだろう。










何となく天井を見上げると、広い部屋に一つだけ電灯が付いていた。





いや。

電灯・・・というよりむしろ大きな電球が笠をかぶってぶら下がっているような感じだ。








綺麗で近代的なお金がかかってそうな倉庫なのに、ここだけやけに庶民的で汚くて印象に残らない方がおかしい。













だが、本当に気になったのはそんなことではなかった。







部屋は思った以上に綺麗で、さっぱりとしていた。













「あれ・・・・・?」

中に入っていくにつれて私の脳裏にとある疑問が浮かぶ。









広い部屋に確かにたくさんの道具や器具が置かれていた。

印象としては綺麗に整理されており、これだけの物が置かれているというのに何がどこにあるのか一目見たらはっきりと分かるという状態だった。













―綺麗に整理整頓されて・・・・



そう、汚いどころか、綺麗過ぎるのだ。

ほとんど生活しないため汚れていない私の部屋以上に綺麗だ。





倉庫独特の臭いや、埃が立つ様子も無い。










私は足を止めて周囲を見渡す。



「掃除しろって・・・・・・・滅茶苦茶綺麗じゃない・・・・。」







「そりゃ俺達が毎日掃除してきたんだからな。」

私の声を被さる様に突然の背後からの声に、私は驚いて振り返る。









どこかで聞いたことある声だとは思っていたが・・・・・








そこにはつい先程のテニス部員3人、

そう私をここに導いた張本人の3人だった。




2人は扉から一歩中に入ったところに、もう一人はその少し後ろに・・・扉にもたれかかる様にして立っている。

その男の手には何かが握られていた。






そう、カメラのような・・・・・














「どういうことですか?」




「ここは俺達が管理する担当なんだよ。汚いと俺達が跡部部長に怒鳴られる。」




「そうそう。綺麗だろ〜。毎日練習後にキツイ中頑張って掃除してんだぜ?」


彼らはそう言いながらわざとらしく部屋の中を見渡す。








嫌な予感が私の体を駆け巡る。

全身の産毛が逆立つような感触だった。








それは恐怖からでは無い。








どうしようもなく気持ち悪いのだ。

人を見下したようなこの目が、口が、態度が。

全てが醜くて気持ち悪い。








―オトコって何て気持ちが悪いんだろう・・・


















はっきり言って、彼らの顔など直視したくは無かったが、私は睨みつけるように彼らを見た。





彼らの顔を見ていれば、何か企んでいることなど一目瞭然だった。









何故、もっと早く気付かなかったのだろうと、平和ボケした自分が情けなくなる。







「あんたらは何がしたいんだ?」



私の問いに彼らは少し目を開くと、顔を見合わせ、

笑い始めた。









前に立っていた2人が徐々に中に足を踏み込んでくる。







「ちょっとお前に用事があるんだよ。」











一瞬の出来事だった。



彼の言葉に私が気をとられた瞬間。










バタン!



扉が閉まる音が聞こえ、すぐにガチャっという甲高い音が部屋中に鳴り響いた。

一瞬にして闇に包まれる。








ドアに凭れかかっていた男が鍵を閉めたのだと気付いたときにはもう遅い。

出入り口は無い空間の中にいるのは私と敵3人。


















一体今から何をされるのか。

分からない。













でも、一つ確実なのは


絶対に私にとって「イイコト」ではないだろう。











不意に暗くなった部屋に薄暗い光が灯る。


どうやら男の一人が先程の汚らしい電気を点けたらしい。








光は弱弱しくはあるが、私と男達をしっかりと照らしていた。






汚い男達の顔と、男たちが一歩一歩と私に近付いてくる姿がはっきりと目に映る。


私も後ろに少しずつ退くが、それにも限界があった。


どんなに広い部屋だとは言っても限られた空間なのだから。











男たちは徐々に私との距離を狭めながらも、決して足を速めることはしなかった。




まるで、獲物を追い詰める感触を楽しんでいるかのように・・・

ゆっくりと、少しずつ。















ガタッ


何か踏みつけたことでようやく私は背後を振り返った。




いつの間にか壁際まで追い詰められてしまっていたらしい。










踏みつけたのは何だったのか。

足元すらもよく見えなかった。














もはや逃げ場がないことを悟ったその時だった。





ようやく男が口を開く。

































「服脱げよ。」


















出てきた言葉は女の私にとっては予想内で、男の俺にとっては想像だにしない言葉だった。




















BGM:光闇世界-モノクロ-














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