「あ、あぁ・・ん・・・はぁっ・・・・・あぁんっ・・・・・・」





軋むソファ、汗の匂い・・・・


そして、目の前に見えるのは愛しい私の跡部様。







「あぅっ・・・!」



片脚を高く持ち上げられ、跡部様のモノが私の中により深く深く挿入される。











薄暗い部屋。


目の前にいるはずの跡部様のお顔がよく見えない。







朦朧とした意識と、涙が私の目を狂わせているのか。















「跡部様・・・・跡部様ぁ〜〜〜」

泣きじゃくるように私は甘い声で跡部様を呼んだ。









抱きしめて欲しい。


キスして欲しい。








もっともっと私を見て欲しい。














「んあぁぁ・・・・はぁ・・・跡・・・・部様ぁぁ〜〜〜〜」










―あなたを愛しています

















返ってくるのは溜め息。



返ってこない言葉。











『愛してる』は禁忌の言葉。












あとべさま






決してキスしてくれないし、愛してもくれない。



私の望むものは何も与えられない。


















でも、良いんです。





こうやってあなたに体を差し出すことが出来るだけで・・・・・



あなたが私を選んでいるという事実だけで・・・・。























でも・・・・


でも・・・・









せめて・・・



そのビー玉のような美しい瞳に。















私の姿を映してください。




















110   

   12 -affezione-















「あ〜〜〜〜〜〜つ〜〜〜〜〜〜〜〜〜いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーーーー」


目の前でぐったりとりとした女が死にそうな声を出す。




こっちだって、あまりの暑さに参っているというのに、わざわざ死にそうな声で暑いを連呼されたらこちらも死にそうな気分になってくる。


「もう!暑い暑いとかいうから暑くなるのよ!少しは黙ってなさい!!!」





あまりの暑さに私は半ば八つ当たり的な声音で怒鳴りつけた。








「・・・・・すみません・・・・・。」


シュンと小さくなる女を横目で見ながら、頭からかけたタオルで顔を覆う。










確かに今日はいつもに増して暑い。



怒りはしたが、『暑い』と連呼したくなる気も分かる。








暑さには比較的強い私でも、今日の太陽には負けてしまいそうだった。













特にここ・・・テニスコートの熱気は凄まじいものだった。





タオルで顔を覆ったまま、コートの中を走り回っている部員達の方に視線を向ける。


汗だくで、大声出して一生懸命走って、球を拾って・・・






全くよくやると思った。












どんなに練習したって、跡部様には敵うはずがないのに・・・・




暑い中走り回って、必死で練習して・・・・




無駄な努力とはこういうことを言うんだ。












丁度その時、目の前のコートから跡部様がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。


私は頭の上に置いたタオルを投げ捨てると、すぐに隣に置いたバックから洗濯したばかりの私のタオルを取り出し、跡部様のところに駆け寄った。






「跡部部長!お疲れ様です。これ使って下さい!!」


「あぁ。」


それだけ言って跡部様は私の方をそっぽを向いたまま私の手からタオルを受け取る。






こんな時でさえ、跡部様は私のことを見てくれない。



その事実が私の心を苛立たせる。




けど、それを口に出すことが出来ない私は、わざと満面の笑みを向ける。








「跡部部長。何かお探しですか?」


「いや。はどこへ行った?」







』と言う言葉に思わず私は眉間に皺を寄せてしまう。





ただでさえ思い出したくも無い名前だと言うのに、その名前が『跡部様』の口から発せられたことがより一層私をムッとさせた。




「知りません。どこかでサボってるんじゃないですかね?そんなことより・・・・」


「探して、俺のところにドリンクを持ってくるように伝えろ。」

言いかけた私の言葉は跡部様の声に掻き消された。












そして、それは屈辱の言葉だった。



跡部様はいつもドリンクは持参しており、樺地くんに持ってこさせている。

必要な時、差し出すのも、樺地くんだけ。


それ以外の者から受け取ることはまずありえない。







最初はそれでも諦らめきれずに、どうにかして渡そうと試みる者も多かったが、やはり無駄な努力だった。





「悪いな。俺は信頼のおけるヤツからもらったものしか受け取らねぇ主義でな。」

一言一句違えず、跡部様に何かを渡そうとしたものはこう言って切って捨てられた。








けど・・・・・・。

ドリンクを持ってきても、お菓子を作ってきても決して跡部様は受け取ってはくれないけど・・・・





数いるマネージャーの中で私のタオルだけは受け取ってくれる。

部活後にはほとんど私を指名してくれる。




それが、マネージャーのリーダー的な存在である私の誇りでもある。


優越感とも言えた。








なのに・・・










知らず知らずのうちに私は掌に爪を立てていた。


爪が食い込んで血が出そうなほど握られた手にはそれでも構わず、無意識にどんどん力だ込められていくのが分かった。








どうして、あんな美しさも賢さも金も・・・・何もかも持っていないあんな気持ち悪い男に跡部様は目をかけるのだろう。












悔しい


悔しい







悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい











あんな害虫・・・私の目の前にいるだけで嫌なのに、そんなやつが跡部様にとって特別だなんて。


私ではダメなのに、何故あいつが・・・・?







「跡部部長は何故そうやって君を気にかけるんですか?」


本当は跡部様の胸元に飛びついて、問い詰めたかったが、跡部様にウザイと思われたくない私は、出来るだけ感情を押さえて、無理矢理笑顔を作り、ゆっくりとした口調で尋ねる。






が。



「てめぇには関係ない。早く探して来い。」







そう言って跡部様は冷ややかな声と目を私に向けると、踵を返し、コートから出て行った。












跡部様は他人に立ち入られることを極端に嫌う。



どんなにたくさんの美しい女達に囲まれても跡部様が笑うことは無い。








跡部様の笑みを見ることが出来るのはテニスに関する出来事に対してだけ。



強敵と戦う時の跡部様の笑みは美しくかっこいい男達を手玉にとっている私でさえ失神しそうになるほどだ。







強く、選ばれた者だけを認め、傍に近寄ることを許し、彼の記憶に残ることが出来る。

だから、跡部様が常に傍にいることを許しているレギュラー達は認めているし、それなりに心を開いているのかもしれない。












が、私はどうだろう。


テニス部のマネージャーのリーダーとして君臨していて、どんなに体を重ねてみても、跡部様が私に心を見せることは一度も無いし、必要な時以外に私を傍に近寄らせることも無いのだ。

















「すぐに追い出してやる・・・・」


自分にしか聞こえないくらいの小さな声でそう呟くと、私はを探すためにコートから離れたのだった。






















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






次の日。




昨晩、色々と考えてしまって眠りに付けなかった私は、何かに誘われるように学校へと足を運んでいた。



生徒がほとんどいない静かな学校はとても新鮮だった。






私の足は意識せずとも勝手に動いていた。


が、その先は一つしかないことは分かっているのだ。








ゆっくりと歩いていた私の視界にそこが目に入る。


普段は周りには人が溢れていて、女達の黄色い声援が響き渡っているその場所には今はテニス部員しかいない。












そこ・・・そうテニスコート。

何だか、近付きにくくて私は少し離れた場所からテニスコートを眺めていた。





これだけ離れている所にいてもテニスコート全体が見渡せるなんて普段は人で壁を作っているような所としては考えられないことだった。




跡部様を愛する私としては煩い害虫共がいないことは嬉しいこと限りない。








だが。



―こんな姿は氷帝テニス部にはふさわしくない。



どんなに害虫が煩わしくても、それこそが跡部様やレギュラー達が輝いている証。


跡部様こそ天下を取るにふさわしいという印。








そして、その男を必ず私は手に入れてみせる。
















「跡部様・・・・・」

正レギュラーと話をしている跡部様の姿を私の目は捕らえる。










―ダイテホシイ







跡部様にとって他の人間より私が特別な位置にいるのだと確かめる唯一の方法。










何かに引っ張られるように私の足は前へと踏み出す。



今、跡部様に近付くことは跡部様の逆鱗に触れてしまうことかもしれない。

ウザイ女だと思われるかもしれない。






自分の領域を勝手に侵した者を絶対に許しはしないのに。







けど、一度踏み出した足は勝手に歩み始める。









言いようの無い不安が私を襲う。


その不安から私を解放出来るのは跡部様だけなのだ。










こちらを振り向いて、その美しい瞳に私を映してくれるだけで良い。

いつものように何も感じない冷たい表情のままでも良い。









「跡部様・・・・・・・・・・。」








私はいつの間にか目の前に来ていたフェンスに手を絡ませる。

レギュラー達と話をしている跡部様は私と一緒にいるときとは違う良い表情をしていた。














私もあの中に入りたい。


フェンス越しとはいえ、私と跡部様との距離は10mほどまで距離を縮めたというのに、本当の距離は何も変わってない、むしろ近付いたことでより遠のいたような気分にさえなる。










「・・・・・跡部様・・・・。」



もっと近付きたい。




そして、私は再び足を踏み出そうとした。


















その時だった。










私は瞠目した。

踏み出そうとした足が踏み出せずに、まるで地面に縫い付けられたかのように動けない。











私は見てしまった。



跡部様の至高の笑みを浮かべている跡部様の姿を。










今まで見た中でもこれ以上ないといっても過言では無いほど、美しく妖艶な笑みを。













ザワリと鳥肌が立った。




思わず両手で口元を押さえる。

そうでもしないと泣いてしまいそうだった。








(あなたは・・・・・・)




誰を思って

そんな顔をしているのですか?
























考え出したらどうしても知りたいと思う気持ちが止まらなくて、私は跡部様達に気付かれないようにゆっくりと近付く。



フェンス越しとは言え、ここまでコートに近付くと、さすがに私の存在に気付いた者も数名いたが、彼らは私が人差し指を口元に持っていくと顔を赤くし、黙って頷くようにお辞儀をしただけで、跡部様に目を引き付けられているレギュラー達には気づかれることはなかった。






私は跡部様の背後に位置するフェンスの前まで行った。



















そして。









「あいつを見てると嗜虐心をソソルンダ。」









微かに聞こえた声は確かに跡部様の声に違いなかった。

私は足を止め、先程とは違う場所のフェンスにそっと触れた。











『あいつ』

確かに聞こえたその言葉に私の心臓はバクバクと激しい音を立て始める。


(あいつって・・・・・・誰?)









「必死に何かにしがみ付こうとしているあいつが、

俺には哀れで可愛くて仕方が無い。」







そう言った跡部様の声は楽しそうで、表情を見なくても跡部様が笑みを浮かべているのが分かった。







「なんや、あいつが気の毒になってきたわ。」


「そう言いながら顔が笑ってるぜ、侑士〜。」



「そういうお前もな、岳人。」










顔を見合わせて口元を歪める忍足くんと向日くん。








「もう、勝手にして下さい。でも俺や宍戸さんに迷惑がかかるようなことだけはやめて下さいね。」



「おいおい、長太郎・・・・。お前それで良いのかよ?」


「ここまできちゃってたら、跡部部長を止めることなんて俺には不可能ですから。」


「まぁ・・・・・そうだが・・・・・。」



「苛められている対象が宍戸さんとかだったら絶対に止めますけど、どうでも良い人間どころか、嫌いな部類に入る人間のために今の跡部部長に逆らう勇気は俺には無いです。」



いつもの可愛い笑みはどこへ行ってしまったのかと思うほど黒い微笑みを宍戸くんに向ける鳳君。

そんな鳳君を呆れた顔で見つめながら、宍戸君は降参とでも言うように両手を挙げて大きくため息を吐く。












じれったかった。


この際、彼らの感想なんてどうでも良いのだ。













私が知りたいのは名前。




そう、跡部様にあんな笑顔をさせる者が、誰なのかということだけなのだ。















(早く、名前を言いなさいよ・・・・・。)













「俺も仲間に加わさしてもらってもええか?」



「勝手にしろ。だが、あまり苛め過ぎるなよ。それで辞められたら楽しみが無くなってしまうからな。」




「じゃぁ、俺も仲間入ろっと。」

そう言いながら、向日くんは楽しそうに軽やかにその場でジャンプする。


その様子を苦笑しながら見つめる宍戸くんと鳳くん。

彼らはその『あいつ』を苛める気は無いようだった。











にしても、まるで私をじらしているかのように、彼らはその者の名前をなかなか出さない。







「ふん。俺様の邪魔だけはするなよ。」


跡部様の麗しいお声も今だけは私をイラつかせるものでしかなかった。








私は内心苛々しながら、黙ってその時を待つ。













その時だった。




「あいつは俺の玩具だ。




苛めて苛めて、土下座して泣いて許しを請う姿を見るまではな。






飽きるまではは俺様の所有物だ。」


























(・・・・・・・・えっ?・・・・・)




自分の耳を信じられなかった。








    



想像だにしていなかった男の名前。








ある意味一番聞きたくなかった名前。









どんなに美しい女より、どんなに金持ちの女より、聞きたくなかった。




「・・・・・なんで?」





呟いた問いは誰でも無い私への問い。









何故?

何故?


何故何故?











私はダメで、私より数倍劣る男が何故跡部様に見てもらえるのだ?




私は視界にすら入れてもらえないのに・・・・









どんなに望んでも適わなかった夢を、どうしてもあんなヤツが簡単に手に入れるのだ?











いや。



それより・・・・




先程の美しい微笑みが頭の中を支配する。


そして、それがその名前と結びついた瞬間、







「うっ・・・・・・」

私は急激な嘔気に襲われ、私は叩くように口元を押さえ、もう片方の手でフェンスを掴んだままずるずるとしゃがみこむ。











「なんでぇ・・・・・・・・・・なんでぇぇぇぇ・・・・・・・・・・」


もう、目から溢れ出す涙も、口から溢れ出す嗚咽も止める事が出来なかった。














跡部様が悪いわけではない。


じゃぁ、私が悪いの?















私が・・・・・・・・・?






悪い・・・・・・・・・・・・・・・・・?
















何故・・・・?





そう思ったとき、急激に周囲の空気が下がるのを感じた。




情けない自分への嫌悪が砕け散り、変わりに生まれたのは

















怒り。





嫉妬。




という人物への憎悪。










「・・・・・許さない・・・・・・。」










ユルサナイ ユルサナイ ユルサナイ ユルサナイ ユルサナイ ユルサナイ
ユルサナイ ユルサナイ ユルサナイ ユルサナイ ユルサナイ ユルサナイ











―絶対に追い出してやる









フェンスを握りこんだ手にグッと力が込められる。



食い込んで、指が真っ赤になっても構わず私は力を込めた。









痛みなんて無かった。


頭にあるのはの顔。









汚くて、何も出来なくて、どんくさいあの生意気な男。





跡部様の笑顔を私から奪ったヤツ・・・・・













絶対に許さない・・・・。

























◆◆◆◆◆

今日一日は最悪のものだった。





周りが全て背景で、色も動きも何もかも失くして見えた。


音も無く、ゆっくりと静寂だけが私を包んでいた。









頭の中はごちゃごちゃしていて、への憎悪と嫉妬とに溢れかえっているのに、心は自分でも驚くほど穏やかだ。




授業も友達の言葉も何も私の中に入ってくることは無い。


―どうすれば、あいつを追い出せるか。







あるのはあいつを追い出すいくつもの策だけ。







でも、どうしても何かが足りない気がした。

あいつを嵌める策なんていくつもあるのに、どうしてもいまいちピンと来ないのだ。








「協力者が必要かもね・・・・・・」






あまり公には動けない。




中途入学など氷帝学園ではそう簡単に認められるものでは無い。





となると、ヤツは実はかなりの後ろ盾がある可能性がある。

が、私も跡部様には及ばないがそれなりの家柄だ。






その件で私があいつに負けるとは思えない。










つまり、証拠が残らないように上手くやりさえすれば良いということだ。


証拠さえ残らなければ、どんなにアイツが訴えようとも誰もあいつなど信じないだろう。










仲間に引き入れるなら絶対に裏切らない人物が良い。



私と同じであいつに恨みを持つもの。






そして、テニス部から追い出すにはやはりテニス部の人間が良い。

だが、私の手足となって動いてもらうためにはやはり身近で一番動かしやすいテニス部マネージャーだ。













けど、男に色目を使うことしか興味の無い面倒臭がり屋の女共の中にわざわざあんなクズに対して動こうという奇特なヤツなど私以外にいるのだろうか。







ドンッ!!








私は手に持ったシャーペンを机に突き刺す。


クラスメイトが何事かと驚いたように私の方を見るのが分かった。








けど、そんなことどうでも良い。


早く、アイツを追い出したい。








テニス部だけじゃなく・・・・・出来れば私の目の前から消えうせて欲しい。

が、多くを望めば今度は私の立場が危うくなる可能性だってある。










「テニス部からいなくなれば良い・・・・・・・」





そうすれば跡部様との接点だって無くなる。


跡部様だって、わざわざテニス部の者でもなければ同じクラス・・・学年さえ違う者にちょっかいをかけようと思うほどまであの男を気に入ってはいないだろう。






とにかくテニス部から追い出せば良いのだ。







単純で簡単な話だ。












−とりあえず、使えるヤツを探そう。

そう心に決め、私は俯いたまま口元を歪ませた。




















そして放課後。


まさに私に幸運が転がり込んできた。






どうやらあの男は神にすら疎まれているらしい。

本当に良いタイミングだった。














私が重い足を引きずりマネージャー専用の部室の扉の前まで来た時だった。


扉をわずかに開けた瞬間。







「なんで、あんなダサい男を日吉君は気にかけるのよ!!」


『ダサい男』。

今じゃ、アイツの代名詞とも言えるその言葉。

ドアノブを掴んだ私の手が興奮で震える。







「どうしたのよ、一体。」

中にはもう2人の女がいるらしく、先程の発言をしたのとは別の女が訝しげに尋ねた。



「それがさ!聞いてよ!!日吉君が今日あのにノートを貸してたのよ。」


「ノート?」



「そう!!しかも、が受け取ると日吉君が微笑んだの!!」

興奮気味に椅子を叩きながら叫ぶ女にもう一人の女は驚いたようだった。






「うっそー。マジで?日吉くんが笑うなんて良いもん見たじゃん!!」


「良いもの見れたのはそうだけど、あんなダサい男にその笑顔を奪われたと思うと腹が立って仕方が無いのよ!!!」


「まぁ・・・・あんたはいつも日吉君にあしらわれてるもんねぇ。」



「あーーーーーー!!もうあの男許せないーーーーー!!あの男がテニス部に存在するだけで許せないってのに!!もう死ねって感じ!!!!」

















ギィ・・・












瞬間的な判断だった。


私はゆっくりと扉を開く。















「あらら。女の子がそんな汚い言葉使っちゃダメよ?」





驚いて目を見開いている女達に向かって私は満面の笑みを向ける。


笑みを浮かべたまま私は2人の顔をマジマジと見つめる。






一人はあまり見覚えの無い女だった。




だが。


(こいつは確か・・・・・・・)


声に聞き覚えがあったからすぐに先程までアイツに対して毒を吐いていたのはこいつだと分かった。


顔にもかなり見覚えがある。







確か、木更津アリス。

2年だがかなりの存在感をテニス部で示しているヤツだ。






忍足くんが結構気に入っていてよく指名していると言って、私の周りによく集まる3年のマネ共が嫉妬してた覚えがある。









けど、私が彼女を覚えていたのはそんなことじゃない。





まず、印象に残ったのは顔だ。





アリスという可愛らしい名前とこれほどまで合ってない名前があるだろうかというほど、鋭く、強い目をしている。


そして、その目に現れている通り強い意志を持っている女だった。







嫉妬に狂ったマネ達からかなりの嫌がらせを受けても絶対挫けないその瞳と高いプライドに私は、次にマネを率いることが出来る者がこいつしかいないだろうと思ったのをよく覚えている。







確か・・・・

と同じクラスだった気がする。









−こいつは使える








恐ろしいくらいあまりに私に都合よく進んでいく。

顔がニヤけるのが止められなかった。










「わ、私は何も言ってないですよ。」

一緒にいた女が私に怯えた様子で慌てて否定しようとする。





「そんなことわざわざ言わなくても分かっているわ。あなたは早くコートに行きなさい。もうすぐ練習が始まるわよ。」


「は、はい!!」

女は安心したというように肩を撫で下ろすとすぐに荷物を持ってその場から逃げるように出て行く。










これで邪魔者はいなくなった。






女が部屋から出て行くのを視線だけで見送ると、私は再び視線をアリスへと向ける。

私と視線が合うとアリスは少し怯えて目をそらした。








「そんなに怯えなくても別に苛めたりなんてしないわよ。」



「じゃぁ・・・・・何の用ですか・・・・・・?」









私は一歩一歩彼女の元へ歩み寄っていく。


一歩近付くたびに彼女の体が震えるのが分かった。













「ねぇ。私と組まない?」


「組む?」








をテニス部から追い出すの。」













一瞬、アリスは驚いた顔をしたが、すぐにその顔には私と同じ笑みが生まれる。



その顔を見た瞬間、こいつは私に似ていると思った。









全てを語らなくてもこいつなら私の考えを理解することが出来る。










「良いですよ。私もそうしたいと思ってたところだったんです。」




























「アリスと先輩・・・・?」


笑いながら一緒にコートに現れた私達の姿に先程逃げて行った女は驚いたように出迎えた。





「なーに、そんな驚いた顔してんのよ〜。先輩とは世間話をしてただけよ。」


「そうよ。私が苛めたりするわけないじゃない。失礼な子ねぇ〜。」

笑いながら冗談っぽく言うと、女の怯えた表情が一瞬にして緩む。











「じゃぁ、また後でね。」

「はい。また後で。」






そう言って私は一人コートの中へと入っていった。

背後で、


先輩と世間話って何を話してたの?」


「私を置いて逃げたあんたには教えなーーーーーーーい♪」


「えーーーーー!!けちーーーーーー。」





というアリス達の他愛も無い会話を聞きながら・・・・・。















その日の放課後。


私は跡部様からの折角のお誘いをお断りし、他の男と会っていた。









アリスと共に。


それは、練習の途中でこっそりと呼び出しておいたテニス部員達。







テニス部の中でも私もしくはアリス一筋の信頼出来る裏切らない男達を計3人ほど集めた。








その男達を目の前にして私とアリスは微笑む。

美しく、妖艶に。



























「お願いがあるの。聞いてもらえるかしら?」





























さて、ゲームの始まりよ。

まずは、準備運動から始めましょうか。











跡部様から認められたプライドとやらを見せてみなさいよ。



私が再生出来ないくらい粉々に砕いてやるから。













せいぜい私を楽しませてよね?



























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