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9月にも入ると、世間の浮き足立った雰囲気は落ち着いてきたが、ただ残暑だけが夏の名残を漂わせている。
まだ休暇が続いている英斗は、世間から少し食い違った生活を送っている感覚を覚えながら、残暑を振り切るように涼しい店内へと入って行った。
DVDどころか、ブルーレイも見るようになった昨今、未だにビデオを置いているような小さなレンタル店で、英斗は少々人目を気にしつつも18禁コーナーへ足を踏み入れた。
途端に、赤やピンク、肌色といった刺激的な色と、相反する黒色が入り交じった混沌とした光景が目の前に広がる。棚の間の狭さと、高さ2mはあるだろうという圧迫感で、いつも入ってすぐは落ち着かない。
興奮を煽り立てられるような視界がちらつく中にいて、英斗は興味のあるジャンルのビデオが並んだ棚の前に立った。そして、1本1本手に取って表紙を眺めながら、どの女優が“あの人”に似てるだろうかと探した。
“あの人”とは――自分よりも少し背が低く、細身で、色白の肌を持つ、笑顔の可愛い――彼、歩である。「あの人」などと言っているが同級だ。
中性的な顔だちで、時折、女性のようにも見える容姿を持ちながら、その実、口調は柔らかいもののよく毒を吐く。思ったことをはっきり言うのも特徴で、可愛い顔から辛辣な言葉を聞くのは意外なほど魅惑的だ。
さらに言えば、なぜかアダルト関係の情報に強く、その知識も豊富で驚かされる。
見た目の印象とほど遠い内面に、英斗は余計に惹かれたのだった。
(おれが、こんなに男を好きになるとはなぁ……)
実のところ子供の頃から自覚はあった。
初恋は同じ幼稚園に通っていた気の強い女の子だったが、小学校に上がると同学年のガキ大将のような男子と、常に一緒にいたいと思って子分に志願した。中学生になると同じクラスの学級委員の女子といい雰囲気になったが、高校に入学すると男の先輩に恋をした。それも部活の先輩だったが、かなり傲慢で後輩に対し厳しい男だった。
大学に入学して念願だったインターネットを家に引き、検索してみると英斗は自分が両性愛という性的指向を持つ人間だと知った。そして、それを知ったとき、自分がどういう人に憧れや魅力を感じるのかわかった気がした。
(これかな)
縛られた男の上に女性が跨っている表紙のビデオを手に取って、その女性が彼に似てると判断し、今日はそれを借りようと中身を取り出しかけたとき――
「お、英斗じゃん」
急に声をかけられて英斗は焦った。ビデオを取り落としかけながら慌てて振り返ると、男に跨った女性――ではなく学友の歩がいた。英斗の好きな人、その人である。
ついさっきまでAVの女優を歩と重ねて見ていた英斗は、あまりのタイミングに頭が真っ白になり声もでなくなった。
そんな英斗を不思議そうに見てから、歩の視線が英斗の手元に移ったかと思うと、そのビデオを取り上げて言った。
「なに? 英斗はこういうのが好みなの?」
「あ……う……」
冷房の効いた室内であるはずなのに、英斗は体中から汗を噴出して呻いた。返事をしようにも、頭の中に巡るのはこの偶然を呪う言葉だけである。
なんで歩がここに居るんだ? なんでおれは今日ここに来てしまったんだ? なんで平気で声をかけてくるんだ? 普通は無視して見なかったことにするだろ? いや、そうしてくれてもいいんじゃないか? どうしよう。めっちゃ恥ずかしい!!
だが、そんな英斗を無視して歩が続ける。
「ふ〜ん、まぁ、わかる気ぃはするけどね。でも、言ってくれたら探してくるのに」
(わ、わかる気がするってどういうことだ!? それに言ってくれたらって……)
確かに歩からは何度かAVを借りたが、それだけでも恥ずかしいのにジャンルを指定するなんて――英斗の頭は混乱して声も出ない。
「そうだ。今からオレん家来る?」
(オレん家? 来る?!)
「よし、そうしよう。おいで」
言うが早いか、歩は持っていたビデオを適当に棚に戻すと、固まって立ち尽くす英斗の手を取って店を後にした。
気がつくと英斗は歩の家にいた。
いや、大分前から少しずつ冷静は取り戻していたものの、この状況をどうしたらいいのか判断がつかなかった。
AVを借りようとしているところを見られてしまった。しかもジャンルまでしっかり。たぶん9月中英斗はずっと「おれのバカ」と繰り返して、見られた自分の運命を呪うだろう。そう思うほど英斗にとって恥ずかしい出来事だった。
ところが、歩は「言ってくれたら探すのに」と言って、挙句に「今からオレん家来る?」とまで言ってきた。同じ大学の同じ学年で、多少親しくしていたとはいえ家に行くのは初めてだし、そこまでは親しくないとも思っていた。英斗の想いはともかくとして。
このまま歩の家に行ってもいいのかという迷いがあった。遠慮というのもあったが。
そして、どうすればいいのかわからない内に、歩の家に着いてしまったという次第だった。
一般的に見て大きめの家は、見た目の印象どおり中も広かった。比較的、最近建てられたものだなという感想を持ちつつ、歩に促されるまま2階へと階段を上る。2階の一室に案内され入ると、歩自身の部屋じゃないなということがわかって英斗は少しだけ落胆した。
そこが歩の部屋じゃないとわかったのは、部屋がほぼ物置のようになっていたからだ。
「ま、変なのもあるけど気にしないで」
そう言うと歩は積まれた段ボールの中から、たくさんのDVDを取り出し床に転がしていく。
「こんなのどーよ」と言いながら選別していく歩を、英斗は無視するわけにもいかず傍によってDVDを手に取って見た。確かに、ちゃんと英斗の趣味を捉えている内容に、また英斗は恥ずかしさがぶり返してくる。
やはりこんな状況は居た堪れない、そう思って「やっぱいいや」と切り出そうとした、その時――
「なぁ、ついでだし見てく?」
(見てく? ――見てく??)
歩の言う意味がわからなくて、英斗は頭の中で繰り返しながら混乱した。
だが、どう考えてみても「見てく」という言葉の意味はそれしかない。
「あの……見てくって、それを、ここで?」
「ああ」
ここで見たからと言ってどうなるのかと、英斗はそこにまで考えが至らなかった。ただ、これは夢じゃないのかと疑ってみたり、見る? それともやめる? という自問自答を繰り返した。
「オレの部屋のテレビ42型なんだ。デカイ画面で見たくね?」
手に持ったDVDをひらひらさせて言った歩に、「ああ……」と英斗が頷いたのは無意識だった。頷いたあとで慌てて「いや」と断ろうとしたが、
「じゃあ、おいで」
と再び腕を引っ張られて歩の部屋に連れて行かれ、ここが歩の部屋かと興味深く見ていたら、DVDの再生が始まってしまい断るタイミングを逸してしまった。
「ほら、座りなよ」
部屋の入口で立ち呆けていたら、ソファに座って歩が手招きするので、英斗は戸惑いながらも歩の隣に座った。
歩の部屋は6畳の英斗の部屋より断然広く、家具類などのインテリアには統一感があり、一般家庭で育った英斗から見れば洗練されているように見えた。この辺りは見た目の印象どおりだなと思う。
そんなことを考えてる間にも再生は進み、気が付くと男女の絡みが始まろうとしていた。
気の弱そうな男が、美女に強引に迫られてうろたえながらも、股間は確実に反応させている。
最初は他人の家、しかも歩の部屋ということもあり、内容に意識がいかなかった英斗だったが、女が男に跨り責めているのを見てさすがに興奮を覚えた。
ただ、そうなると英斗の下半身も反応してしまい、英斗はこれをどうしようかと迷った。歩の前では出来ないし、歩が気を利かせて部屋を出て行ってくれるか、あるいは自分が部屋を出て行くべきか――。
「っ!?」
もぞもぞと身動きしながら悩んでいたら、下半身に何かが触るのを感じ、英斗が慌てて見るとそこに歩の手があった。
「なっ――」
思わず歩を見ると、不思議なほど真っ直ぐな目で見つめてくる歩の視線と合った。それはいつにも増して魅惑的な色をしていた。つい、じっと見つめていると形のいい歩の唇が開いて、信じられない言葉を発した。
「英斗はさ、男同士ってどう?」
「へ?」
「アナルセックスに興味ある?」
「あ……あ?」
「オレの中に、入れてみたくない?」
「……あ」
答えられなかった。だが、歩の手の下にある英斗自身がどくんと跳ねた。
それを歩が感じ取ったのかはわからないが、強引に英斗をソファへ押し倒すとズボンのベルトに手をかけた。
バックル部分がカチャカチャと音を立てるのを聞きながら、英斗は「やっぱりこれは夢だ」と思った。現実には有り得ないはずの展開が起こっている、それは夢だからだと。
しかし、ベルトが外されジッパーを下ろされ、下着の上から歩の指が曲線をなぞるのを感じて、ついに英斗の理性が悲鳴を上げた。
「あ、歩っ! やっぱりこんなこと――」
そう言って上半身を起こしたが、すぐにまた歩に押し倒され上から睨みつけられる。
「英斗はオレが嫌いか?」
「い、いや……」
嫌いどころか好きなのだが、だからこそこんな遊びの延長のような行為で一線を越えては駄目だろうと思う。だが、
「じゃあじっとしてて」
そう強い口調で言われて英斗は身動きが取れなくなるどころか、背筋に何か這うものを感じて鳥肌が立つ。
(おれは、この状況に興奮しているのか――?)
驚くべきことだったが、今置かれてる現状は英斗の望むことでもあった。
歩の手が英斗の下着にかけられ、ゆっくりと引き下ろされるのがわかった。英斗のものが外気にあてられ空気の冷たさを感じるが、すぐに暖かい歩の手に包まれる。そして、躊躇する気配もなく生温かい舌が英斗のものを舐め上げていく。
「はっ、あ、歩――」
興奮のあまり声を漏らして英斗は、小さく体を震わせてそれでも歩の命令に忠実にじっとしていた。
歩の舌はまるで英斗をからかうように何度も上へ下へと滑り、その度に微かに声を漏らし震える英斗の様子を楽しんでいるようだった。
「ね、英斗。もしかして溜まってた? もう出ちゃいそうじゃない?」
英斗のものを舐めながら歩が言う。確かに英斗のそれは歩の手の中で時折、脈打ちながら先走りを滲ませている。その事実に羞恥を覚えながら、だが英斗はこの状況に興奮していた。
「入れたいけど、一回抜いとく? それに、オレも解しとかないとね」
歩はそう言って一旦責めるのを止めると服を脱ぎ始めた。白く細い体が露になり、つい英斗はそれに見入ってしまうが、裸になった歩が体の向きを変えると、大胆にも英斗の顔前に腰を突き出して英斗はハッとした。つまり英斗にそれをしろと言うのだ。
英斗は吸い寄せられるように手を伸ばすと、歩の入口を指の腹で刺激した。まだ乾いているそこは、そのまま指を入れてしまうと痛そうで、英斗は自分の口に指を入れて涎をつけると、今度こそ窄みに強く指をあてがった。
英斗の指が歩の中に沈むと、英斗のものを舐めながら歩が吐息を漏らしたのを聴いた。感じている、英斗はそう思ってさらに深く沈め、そして引き抜き、また押し込む。
「あ、英斗……」
漏れる歩の声がもっと聴きたくて、英斗は夢中になって指を動かし続けた。
指の動きを激しくするにつれて、歩の漏れる喘ぎも多くなり、指も増やすとさらに責め立てようとした――だが、今ここに英斗の優位性はないに等しい。
自分が歩を責めて感じさせている、という英斗の考えはすぐに消えた。
今まで舌先で英斗の反応を楽しんでいた歩が、舐めるだけではなく英斗のものを口に含んだ。絡むような舌と唇の動きに、たまらなく英斗は手の動きを止めて呻き、急激に強まった快感に眩暈を覚えた。
「ああっ、歩っ、出る――」
本当なら腰を引いて外へ出したいと英斗は思った。自分の想いはともかく、友人である歩の口の中に出すのは気が引けた。だが、そんな英斗の考えに気づいているのかいないのか、歩は英斗の訴えに更に動きを速め――
「あっ!」
歩の容赦ない責めに、英斗はついに歩の口の中で射精してしまった。
どくどくと溢れるそれを、歩が口と手を使いキレイに出させるのを感じながら、強い快感後に英斗が思ったことは「慣れてるな……」だった。自分にも同じものがついているとは言え、これが初めてのフェラチオではないことは明白だった。
だが、そのことに少し傷つきながらも、英斗は確かな満ち足りた思いのようなものを感じていた。
「ねぇ、手が疎かになってるよ、英斗」
口の中のものを飲み込んだらしい歩から催促され、英斗は言われるがままに手を動かし始めた。
「もっと早く」とか「ゆっくり」とか、慣れない英斗に教示するように歩が指示し、英斗も歩の言うとおりに従った。そうして、自分の指の動きで気持ち良さそうにする歩の様子に、言いようのない興奮を覚える。
再び英斗のものが反応を示したころ、歩が英斗の手を止めると、また体の向きを変え英斗の腰に跨った。
「あ、歩……」
英斗は自分の先端が歩の入口に触れるのを感じた。
「英斗、入れるよ」
歩がそう言って、ゆっくりと腰を沈める。歩の入口を割り開いて、自身が歩の中に飲み込まれていくのを感じた。
強く締め付けられて、それだけでも射精してしまいそうになるのに、歩が腰を動かし始めて英斗は呻いた。思わず目を閉じても、歩の中に何度も自身が飲み込まれるのが強く感じる。
「だ、ダメだ……歩、もう――」
「英斗、もう少し、我慢して」
そうして、歩の手が英斗の手を取って自身のものに導くので、そうしろと言われなくてもわかった英斗は歩のそれを握った。
歩のものを扱きながら、自分の上で艶かしく腰を動かす彼を、英斗は恍惚の思いで見上げた。
「あっ、英斗、いいっ」
気がつくと無意識に英斗の腰も動き下から歩を突き上げて、歩はたまらなく善さげな声を出して悶えた。
だが、英斗の責めもそこまでで、歩の中で硬さを増しながら限界が近づいていた。
「あ……歩っ、おれ――」
「待って、英斗っ、あ……」
歩の制止を聞く余裕もなく、英斗は自身を脈打たせると歩の中へ精液を放った。強い解放感と、歩の中で出したという恍惚感に、英斗は眩暈さえ覚えて目を瞑ると余韻に浸った。
しかし、射精が終わっても歩は英斗の上から退かなかったが、それは当然かも知れない。ハッとして歩を見上げると、何とも言えない顔をして英斗を見下ろしていた。
「あっ、そのっ……ごめん」
慌てて英斗が謝ると歩は苦笑した。
「そんなに気持ちよかった?」
「う、うん……」
初めてで気持ち良すぎて、そして歩のことが好きだからで、さらに言えば自分が好むシチュエーションだったからだろう。
「ま、いいけど。オレを差し置いて先にイク奴にはお仕置きだな」
「お……お仕置き?」
「オレが満足するまで、放してやらないからな」
そうして歩が再びゆっくりと腰を動かし中にある英斗のものを刺激すると、英斗も次第に反応を返して硬さを増して行き、それに満足したように歩が笑みを浮かべると動きを速めた。
約1時間が過ぎた頃にやっと英斗は解放されたが、射精後の倦怠感と心地良い疲れに、しばらくソファに寝転がったまま動けなかった。
絶え間ない快感と幸福感に、英斗はずっと恍惚としている。
これが夢でもいいとさえ思ったが、夢なら覚めないで欲しいとも思う。出来ることなら、歩とのこの関係が続けばいいと。
ふと、ソファの横で服を着込む歩を見た。
歩はどういうつもりで自分にこんなことをしたんだろうか、そんな疑問が思い浮かぶが怖くて聞けなかった。その代わり、口をついて出てしまった言葉は
「また来ていいか?」
だった。
訊いた瞬間、断られたらどうしようと怯えたが、歩はいとも簡単に頷いた。
「ああ、またしたくなったら来いよ」
「見たくなったら」ではなく「したくなったら」と言った歩の言葉の意味を、この時の英斗には気づくことが出来なかった。
家に帰って「あれは夢じゃないよな」と思い返し、再び余韻に酔いしれていると「そういえば歩は『したくなったら』と言っていたな」と思い出し、また英斗は興奮するのだった。
想いを寄せる歩とこんな関係になるなんて、これは本当に夢だと思いながら――英斗は続くかもわからない幸福感を噛み締めた。