冬。僕はきみの傍に、

08.遊びと本気

 ここからは18禁です。
 18歳未満の方はお戻りください。

↓↓↓↓ 18歳以上の方はスクロールしてお読みください ↓↓↓↓

「あ……あ……っ」
「はぁ――ぅ」
 冷房の効いたリビング兼ダイニング兼キッチンに男たちの喘ぎが響く。
 リビングの照明しかついていないせいか、どことなく室内は薄暗い。
 一糸まとわぬ姿で晃がよっつん這いになり、同じく全裸の祐介が晃の腰を掴んで一心に腰を振っている。
 いい加減この体勢も疲れたなと晃は思うが、もう汗が目に染みるくらい長い時間を相手にしているので、自ら体勢を変えようという気力も体力もない。
 それでも祐介の求めに応じるように晃の体は反応を示して、もう何度目かもわからない限界が近づいて来ていた。
 祐介もそれは同じだったようで、晃の反応したそれを手で刺激しながら、晃を絶頂へ導くと自らも晃の中に欲望を解き放った。
 しばらく互いにその体勢のまま息を整えて、自分の中から祐介が出て行くのを確認すると、晃は体を横たえてグタッと倒れ込んだ。
 汗の滲む体を冷気が撫でて涼しさを感じるが、それも次第に寒くなってしまうので、冷房を止めようと晃は頭を上げてリモコンを探した。
 リモコンは足元に近いところにあり、晃はだるい体を何とか動かして手を伸ばそうとしたが、身動きしたせいか下半身からドロッとしたそれが出てきてゾッとした。祐介が吐き出したそれが出てきたのだ。
 いつになっても慣れない感覚に晃が固まっていると、晃の動きに気づいた祐介が冷房を切った。そして、固まってしまった晃に「どうした?」と訊いてきたので、晃はついにカチンと来て祐介を足蹴にした。
「お前さぁ、もっと自重しろよな! 体ダルイんだよ、腰痛いんだよ、明日もバイトなんだよ!」
「す、すまん……」
 晃になじられて、慌てて謝りながらしょんぼりする祐介。
 最初のころはもう少し気を遣ってくれていたはずが、こんな関係を始めてから約2ヶ月もすると祐介に遠慮はなくなり、晃に欲求のすべてぶつけてくるようになった。
 晃自身、祐介が好きだということもあり、加えて健康な男子であるからして、決して嫌ではないのだが、こうも頻繁にしかも全力で来られると困るというものだった。
「まったく、自慰を知ったサルだな」
 しょげる様子を見せる祐介に、そうぼやきながら晃はティッシュで軽く処理する。
「だが、それは俗説だと聞いたぞ」
 皮肉で言った言葉を正論で返されて、晃はもう一度祐介を睨みつけた。
「知ってるっつーの!」
 真っ正直な男には皮肉も通じないのかと、晃はため息をつくと立ち上がった。
「先に風呂使うぞ」
 返事も待たずに晃は風呂場へ向かい、諸々でべたつく体をシャワーで流した。
 晃は風呂場を出ると、替わって祐介がシャワーを浴びている間に、小腹が空いたので買い置きのカップラーメンを食べた。
 風呂場から出てきた祐介が、晃がラーメンを食べているのを見て「おれも」と棚を開けて覗くので、晃はその背中に「悪ぃ、これで最後」と無情に言ってのけた。
 悲しそうにする祐介に、冷凍の鍋うどんがあることを教えてやり、いそいそと作り始める祐介を見ながら、晃は何気なく声をかけた。
「なぁ」
「なんだ?」
「もうすぐ給料日だろ」
「ああ、そうだな」
「結構多そうか?」
「どうだろうな」
「給料出たら――」
「うん?」
「密ってやつに会いに行くんだろ?」
「……」
 晃のその質問には答えず、祐介はぐつぐつと沸騰しだした鍋をじっと見つめている。
 密という男娼に思いを寄せて、彼を買うために祐介はアルバイトを増やしていた。
 だから、給料が出たら会いに行くんだろう、そう晃は思っていた。しかし、祐介はなかなか答えようとしない。
「もしかして、迷ってんのか?」
「……」
「じゃあ、何のために働いてんだよ」
「それは……生活費とか」
 確かにそれはあるだろう。シェアしているこのアパートの家賃や光熱費を折半しているのだから、そういった生活費を稼いでいるという理由は至極真っ当だ。今までのアルバイトでそれは賄えても、来年からは就職活動も始まるのだし、今から稼いで貯めておくというのもわかる。実際、晃自身がそうだからだ。
 しかし――
「じゃあ、もう会いに行かないんだな」
 給料を生活費に充てるということは、密を買うことには使わないということだ。
 祐介はその問いにも沈黙で答え、少しの間鍋の噴く音だけが室内に響いた。
 うどんが充分に温まると火を消し、テーブルの上に鍋を持って来ると、イスに座って祐介はやっと沈黙をやぶった。
「本当は悩んでいる」
(やっぱりな)
 内心で相槌を打って、晃は口では別の言葉を発した。
「悩んでるって?」
「売春には、未だに抵抗がある。金を払って体を買うのは、できればしたくない」
 祐介は先月のはじめに、一度だけ密を買って抱いたと言っていた。そして、金を払う自分がすごく最低だと思ったとも言っていた。密との一夜は楽しんだようだが、それでも金を払うときの体験がトラウマのようになっているんだろう。真面目で間違ったことが嫌いな祐介だ、無理もない。
 晃はそう思いながらも、「それで?」と先を促した。
「それで、できればそんなことしたくないと思う。でも――」
(でも、か……)
 やはり祐介としては迷うところだろうと、声には出さずに呟きながら、晃はとりあえず祐介にせっかく作ったうどんを食べろと勧めた。
 言われてやっとうどんをすすり始めた祐介を見ながら、晃は何をどう言えばいいのか頭の中の考えを巡らせた。
 祐介と密の情報を共有している友人の歩に先日、「密と会いたいなら働いて稼げと言った」というようなことを祐介に言ったと話したら、
『晃は買春をやめさせようとは思わないの?』
と言われたのだ。しかも、気のせいか驚いたような、どこか呆れたような表情だったように見えた。
 あるいはそのどちらともかも知れないが、言われてみれば確かに普通はやめさせようと思うものなのかも知れない。
 歩に言われて、咄嗟に「祐介が恋愛に関して行動を起こしてるのは初めてだから」と答えてはみたが、かと言って買春を薦めるようなことを言ってしまったことに、多少なりとも後悔をしたのは確かだ。
 それに、売買春が違法だということもある。
「……例えばだけどな、密ってやつが誰か人を刺して傷つけたとか、そういう奴だったらどうする?」
 考えに考えて晃はそんな疑問をぶつけてみた。
 突拍子もない質問だったが、祐介は口の中のうどんを咀嚼しながら黙考したようだった。視線を上下左右に動かして、うどんを飲み込むと答えた。
「もし、密がそんなことしたとしても、何か理由があるんだと思う。だから、話を聞いて理解して、罪を償うように説得する」
 ごく正当な、あるいは少し真面目すぎる回答を聞いて、まぁ普通はそうだよなと晃も頷く。
「じゃあな、密が今やってる売春も違法だろ? そこはお前、説得したりは――」
「言った。2度目に会ったとき、売春をしていると知って『やめろ』とは言った」
「言ったのか。それで?」
「誰にも迷惑はかけてないし関係ないと、言われた」
 その時のことを思い出したのか、項垂れる祐介。肩を落としながら続ける。
「それに、説教されるのがとても嫌みたいだな。売春するのはセックスが好きだからだとも言っていた」
 そこまで言って、何か思い出したかのように「あ」と声を漏らした。
「法律に違反してないとも言っていた」
「……わかってないじゃん」
「そうだな」
 再び祐介は淋しそうな顔でうどんをすすり始める。
 頬杖をついて、うどんをすする祐介を眺めながら、晃は何が解決策なんだろうと頭の中が迷走しかけていた。
 祐介は密が好きで、でも密は売春にこだわる。祐介がそれでいいと言うなら密に会いに行けばいいが、それでいつか想いが叶わなければ意味はない。そもそも、違法なことを続けてもし学校側にバレてしまったらどうする。親に知られたら泣くだろう。晃にはもう、そんなことを簡単に薦めるようなことは言えない。
 だが、それでもひとつだけわかることはある。
「祐介には、諦めるつもりはないんだろ?」
「ない」
「売春ヤローでも、犯罪者でも?」
「それだけで嫌いになることはない」
「じゃあ、何度でも会って気持ちを伝えるしかないよな」
 密に会えば、売春という行為に手を出してしまうことになるかも知れない。だが、そうしろともそうするなとも言わず、結局、晃は祐介の背中を押してあげるような、そんなアドバイスをするしかないのだ。
 祐介のことは好きだが、祐介にとって自分は幼なじみの親友であり、それ以上でもそれ以下でもない。いや、それ以下になってしまわないためにも、晃は自分の想いを隠し続けなければいけない。
 そうして、親友という立ち位置を認識すると、晃の口から出てくるのは祐介を励ます言葉だけだった。
 買春という行為は危ない。だが、それで祐介の初めての恋を、自分が「やめろ」と言って壊してしまいたくはない、晃はただそう思う。
 晃のアドバイスに、迷いが完全に吹っ切れたかはわからないが、祐介は笑みを見せると頷いた。
「ありがとう。晃には、いつも励まされてばかりだな」
 そう急に礼を言われて晃は気恥ずかしくなって、照れる自分を誤魔化そうと
「お前がいつになく悩みすぎなんだよ。ま、仕方ないよな。初めての恋なんだし」
と揶揄した。すると、丁度うどんの汁を飲んでいた祐介がそれを噴く。
「うわっ! やめろよ。風呂入ったばっかだぞ」
「――あ、晃が、変なこと、言うからだ」
 汁が気管に入ったのだろう、咳き込みながら祐介が抗議するので、晃は布巾でテーブルの上を拭きつつ抗議に抗議した。
「本当のことだろ。今まで浮いた話ひとつなかったくせに。それで初めて好きになったって相手が男娼って!」
「そこは関係ないだろ」
「あるだろよ。じゃあ、お前もし俺の恋人が売春婦って言ったらどう思うよ?」
「そ、それは――驚く」
「だろう?」
 我が意を得たりと晃は言って、汚れた布巾を洗うため流しに立った。
 テーブルでは、まだ祐介が何度か咳き込んでいたが、キレイに洗った布巾を祐介のそばへ放りながら晃がイスに着くと、何事か考えていたらしい祐介が真剣な顔をして口を開いた。
「だがおれは、晃が本当に好きだと言うんだったら、恋人が売春婦でもいいと思うし、おれはそれで偏見を持ったりしないからな」
 何を言い出すのかと思えばと、晃は呆れて祐介を睨みつけた。
「安心しろ、さっきのは例えだ。それに、それじゃあ俺が偏見持ってるみたいだろ」
「すまん……」
「――ま、確かにあるかもだけどな」
 無いということは無い。
 密という青年に限って言えば、セックスが好きなら体だけの関係の男でも作ればいい話だし、金を稼ぎたいと言うのであれば仕事を頑張ればいい話だ。
 セックスを仕事につなげたいなら、他にもやりようがあるだろうとも思う。
 それに、世間一般から見ても倫理に悖る行為は、祐介が密に金を払ったときのように、普通はうしろ暗い気持ちが付き纏うものだ。
 そんな気持ちさえ密が持っていないというなら、それはどこか心を病んでいるとしか言いようがない。
「お前だって、少しはそういうの、あるだろ?」
 別に同意を得て安心しようというつもりではなかったが、晃がそう祐介の本心を探ると、彼はしばらく口を真一文にして黙り、
「――ある」
そう言って肩を落として項垂れた。
「だっ、だから落ち込むなって! 少しぐらいあるのが普通だと思うぞ」
 だが、晃のフォローを聞いているのかいないのか、祐介はついに頭をかかえだした。
「やっぱりおれは最低だ。売春は駄目だとか言いながら、それでも金払ってでも密に会いたいと――抱きたいと思ってるんだ!」
「わかったから、ちょっと落ち着けって」
 ともすれば堂々巡りに陥りそうになる会話を、晃は慌てて修正しようと試みた。
「いいか、とりあえず倫理とか道徳とか、そういうものは置いとけ。それは人間が社会で問題なく生きるために必要なものであって、人を好きになる気持ちを分別したりするものじゃないはずだろ?」
 唐突に語りはじめた晃の勢いに圧されたのか、祐介は押し黙って頷いた。晃は祐介が頷くのを確認してから続ける。
「それ以前に動物の本能としてあるのはなんだ? 誰かを好きになるってことがそのひとつだろ。倫理がどーだとか言っても、結局は好きになったらその気持ちを無視することなんてできないよな? 金を払ってセックスするのは確かに後ろめたいが、でも、お前は本気なんだろ?」
「あ、ああ」
「だったらそれでいいんじゃないか?」
 つまるところ、買春を認めてしまったような形になるが、今の晃にはこの結論が精一杯だった。
 それでも、祐介の気持ちを晴らすことには成功したようで、
「そう、だな。ありがとう、晃。おれ、折を見て会いに行ってくる」
と祐介は嬉しそうに微笑んだ。
 元気付けることができたと晃はホッとして、祐介の笑みにつられるように晃も微笑するが、その下で晃はふと今の自分を省みると、ついぼやいてしまうのだった。
(それにしても、なんで俺こんな、好きな奴の恋の応援してんだろ)

2010.05.06

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル