ここからは
18歳未満の方はお戻りください。
↓↓↓↓ 18歳以上の方はスクロールしてお読みください ↓↓↓↓
休日や、あるいは仕事が早く終わった日など、時間を見つけては足しげく通う喫茶店に今日もいつものように恭輔は訪れた。
ドアベルを鳴らしながら暖かい店内に滑り込むと、それに気付いた喫茶店のマスター、修哉が顔を上げて――
「――いらっしゃいませ」
と声をかけるのだが、いつもような笑顔はなく声のトーンも低い。
妙に思って恭輔が視線で問おうとするも、修哉は恭輔と視線を合わせようともしなかった。
どうやら、恭輔に対して思うところがあるらしい修哉の様子に、恭輔はすぐにも問いただしたかったのだが、店内にはまだ数人の客がいたため閉店を待つことにした。
閉店時間を僅かに過ぎたころ、やっと最後の客が帰って恭輔は今日はじめて修哉に話しかけた。
「今日は機嫌が悪いみたいだな」
すると、片付けを続けながらやはり視線も合わせず不機嫌そうな口調で修哉は答える。
「そういう恭輔さんは、今日はお暇なんですか?」
「どういう意味だ?」
「誰かの相手で忙しいんじゃないかと思って」
その言葉で恭輔は修哉の不機嫌な理由が何となく分かった気がして、少しの間考えるとこう言った。
「もしかして、誰かに何か言われたのか?」
恭輔の予想は当たっていたらしく、恭輔の言葉に修哉の動きが止まった。そして、恭輔を振り返ってやっと視線を合わせると、不機嫌な表情はそのままで恭輔を軽く睨んだ。
「どうして、わかったんですか?」
口を尖らせるようにして言う修哉に、苦笑して見せて恭輔は言った。
「俺のせいだからな」
先月のバレンタインに恭輔は修哉の告白を受けて、2人はそれから恋人同士となった。
お互いに一目惚れのようなものだが、それに加えて恭輔は修哉といると他の男とでは味わえない居心地のよさを感じることができた。
それはかつて、高校の頃に好きになった同級生と過ごしたときの、どこか初々しい気持ちに酷似している。
修哉をこの先守っていきたいと思いながら、その実自分が救われているのだと恭輔にはよく分かっていた。
この高校以来の本気の想いを、自分なりに誠意を持って貫きたいと恭輔は思い、それにはまず今までの男関係を清算しなければと思った。
「俺は今まで特定の相手は持たずセフレとばっか付き合ってきたんだが、お前とは本気で付き合いたいと思ったんだ」
今でも付き合いのある男らに、もう関係は持たないという連絡をわざわざして、セックスフレンドとしての関係を切った。
そうしたら――
「ま、どっかから俺がここに通い詰めてるのを聞きつけた奴がいてな……」
そのため、近頃セックスフレンドだった男からの電話やメールを受けると、話しぶりから彼らが修哉の店へ訪れたらしいことがわかった。
「俺はずっと特定の相手を作らなかったんで、たぶん珍しがって俺が付き合ってる相手を見てみたかったんだろ」
そう言ってふと修哉を見ると、何かを思い出しながら指折り何かの数をかぞえている。嫌な予感を覚えながらも恭輔は黙ってそれを見守った。
そして数え終わったらしい修哉が驚いた表情で、
「少なくても5人以上の人とセフレだったってことですか!?」
と声を上げるのに恭輔はすぐには何も言えなかった。
すでに関係が切れている過去のセフレも含めれば、両手ではすまないのだがその辺りは適当に誤魔化そうと恭輔は、口の中で「うー」とも「あー」とも聞き取れる返事をして話の方向を変える。
「で、何を言われたんだ?」
恭輔に問われた修哉は少しの間考えてから、再び片づけを再開しつつも答えた。
「その……どんな方法を使って恭輔さんをたぶらかしたんだって」
予想はしていた言葉に、だが恭輔はやはり苦笑をこぼす。
「それで、お前はなんて答えたんだ?」
「なんて答えたって――答えようがないじゃないですか」
「そうか」
ふいに沈黙がおりて、店内には修哉の片付けをする音だけが響く。
どれくらいかして店内の片づけが終わったらしい修哉が、エプロンを外しながら遠慮がちに恭輔に口を開いた。
「あの……訊いても、いいですか?」
「ん?」
「その……恭輔さんは、僕のこと――」
「好きかって訊きたいのか?」
言い難そうにする修哉の言葉を継ぐと、顔を赤く染めながらも修哉が頷く。
普段の接客態度は明るく積極的で快活なのに、こういう所では妙に消極的というか恥ずかしがる奴だなと、以前から思っていたことを改めて認識しながら、恭輔は真っ直ぐに修哉を見つめて言った。
「好きだよ。俺は修哉のことが」
すると、更に顔を真っ赤にして修哉は、
「ほ、ホントですか? その、僕のどこが――?」
いや消極的とは違うかも知れないと、恭輔はもう一度考えを改めてから素直に気持ちを伝えた。
「笑顔かな。それに一緒にいると落ち着くし、居心地がよくてずっと傍にいたいと思うし、傍にいるだけで幸せな気持ちになれる――どうした?」
気付くと修哉は顔を真っ赤にしながらも、どこか困ったような呆れたような表情で恭輔を見つめていた。
「いえ……他の人にもそんな風に言ってたんだなって思うと――」
「言っとくが、こんなこと言うのお前が初めてだからな」
「えっ!?」
「当然だろ。今まで本気になって口説いたことなんてないんだし」
言いながら、少々気恥ずかしくなって恭輔は修哉から視線をそらすが、結局今まで決まった相手もなくだらしない付き合いしかしてこなかった自分を曝け出してしまったことになったなと思い、そう思いはじめると恭輔の中にも不安な気持ちが広がった。
「そういうお前は?」
「はい?」
「俺のこと嫌になったんなら――」
「な、なりませんよっ!」
恭輔の言い終わるのも待たずに否定する修哉に、苦笑して恭輔は「そうか」と返す。
変わらずに慕ってくれる修哉に恭輔は内心で感謝しながら、これからずっと修哉のことを想い続けるだろうと、さすがにそれは口にはできないが思う。
「それで、お前は俺のどこがいいんだ? 一目惚れっつーのは聞いたが」
内心の想いにまた気恥ずかしくなり、別に心の声を聞かれてはいないと分かっているのだが、どこか誤魔化すように恭輔はまた問い返した。
すると予想外に修哉が驚いた声をあげた。
「ええっ!? 一目惚れって僕、言いました!?」
「ああ……」
そういえば酔っていたときに言っていたなと思い出して、2回目に出会ったときの話をすると修哉は頭を抱えて恥ずかしがった。
「や、やっぱり僕、あの時そんなことを――」
ということは、少しは記憶があったのだと、恭輔は2回目に出会った以後のことを思い出した。
いつものように振舞いながらも、時折、恭輔のことを盗み見るような仕草をしていたのは、酔いのせいであやふやになった記憶が事実なのかそうでないのか気になっていたからだろう。
そんな修哉の様子を思い出して恭輔は思わず笑ってしまうが、
「でも、聞いてたなら教えてくれても……」
という修哉の言葉に困った顔を見せた。
「教えろって、なんて言うんだ? お前酔っ払って俺のこと好きだとか言ってたぞ、って?」
「うう」
修哉の多少自分勝手な責めを遣り込めてから、恭輔は立ち上がって横のイスに掛けていたコートを羽織った。
「もう、帰るんですか?」
「明日、朝早いんだ」
恭輔の言葉に淋しそうに「そうですか」と呟く修哉。
そんな修哉の様子につい恭輔も心ひかれて――
「泊まってもいいんだったら……」
思わずそう言葉が口をついて出て、それを聞いた修哉は頬を染めながらも嬉しそうに「はい」と返した。
ベッドの中での行為中、室内を薄暗くするのは修哉の好みだが、恭輔の腰に跨って悶える修哉の裸身が、橙色の灯りの中に浮かぶ様子はいつになく艶かしく、恭輔は下から修哉を攻めつつ充分にそれを堪能する。
まだ、数えるほどしか体を重ねたことはないが、修哉との行為は新鮮でありつつも、まるで昔から知っているかのように体に馴染んだ。
「ああっ! きょ、すけ……さっ――もぅっ!」
辛そうにする修哉の訴えに、恭輔は修哉のものを扱いてイかせると、恭輔も修哉の中で精を放った。
お互いに満たされる感覚に体を弛緩させて、少しの間ただ荒い息をつきながらその余韻に浸った。
どれくらいかそうして心地良い沈黙を共有していると、徐に修哉が口を開いた。
「そういえば、僕が恭輔さんのどこを好きかっていう話なんですけど……」
「ん? ああ……うん」
「最初は確かに一目惚れだったんです。恭輔さん、格好いいし好みだなって」
「そうか」
「絶対モテるんだろうな、この人って思って」
「ん、んー……」
「そういうとこも好きで――でも、最近になってはじめて僕、自分が嫉妬深いヤツなんだって知りました」
「そうなのか?」
「恭輔さんがモテるの分かるのに、お店に来てた人と関係してたんだなって想像して嫉妬してました。だから――」
「修哉?」
「あの、これからは他の人と寝たりしても、僕には分からないようにして欲しいんです。じゃないと僕――」
修哉の言葉を遮るように恭輔は修哉を抱き寄せると口付けた。
想いを込めるように深く口付けて、それから修哉を間近で見つめると言った。
「安心しろ。もう俺の頭の中は修哉だけだ」
そういう恭輔の言葉に、やはり顔を赤くしながら笑みを作る修哉の表情は、恥ずかしがっているようにも呆れているようにも見えるが、
「僕もです」
そう言って口付ける修哉の唇を、恭輔は心行くまで味わった。