「こんな所に一人で住んでるんですか? 淋しくないですか?」
「別に」
「はぁ〜、お強いんですね、とても」
「……」
「僕なら淋しくて絶対無理ですよ」
居間の囲炉裏を挟んで鬼の向かいに座った少年は、会話の内容と関係なく目を輝かせながら鬼を質問攻めにした。
つい先ほど、家の外に何かの気配を感じて出てみれば、生い茂る草に隠れるようにして少年が倒れていたのを鬼が発見して、そのままにしておくのも気になって仕方がなくて、鬼は面倒だと思いつつも少年を家まで担いで来たのだった。
少年の容姿が好みだったこともあるし、まだ幼いが成長してまた来ることもあったらその時こそ――と思ったのだ。
しばらくして少年は意識を取り戻し、鬼が用意してやった白湯を飲んで落ち着くと、これがひっきりなしに鬼に質問を繰り返すのだった。
「いつから住んでるんですか?」
「ご家族はどうされたんですか?」
「いつも何をしているんですか?」
これには流石の鬼も閉口するのだが、外はもう日が暮れて暗く、こんな中を出て行けと言うことも出来ず、拾ってきたことを鬼は後悔した。
だが、いい加減質問ばかりされるのもうんざりで、鬼は会話の流れを変えようと逆に少年に質問をした。
「お前は何故あそこで倒れていたんだ」
「最近になって母が病気になってしまったので、森へ薬草を取りに来たんです。だけど、僕も元々体が丈夫じゃなくて……」
体力がなくなって意識を失ったらしい。恥ずかしそうにそう少年が言った。
「薬を買えばいいじゃないか」
「無理ですよ。僕んち貧乏だから」
「――それで薬草は?」
「それが……どれが薬草か分からなくって」
また、顔を赤くして少年が頭をかいた。
鬼はひとつ大きなため息をつくと立ち上がり、少年をその場に残して家を出て行った。そして、しばらくして帰って来た鬼の手には薬草があった。
「たぶんこれで病気は治るはずだ。これをやるから今日はもう大人しく寝ろ。いいな」
「ありがとうございますっ!」
そうして寝所に二人並んで寝るが、しばらくして少年が咳き込み始めた。
体が弱いだけあって、母親の病気がすでにうつっていたようだった。
鬼は一晩の我慢だと思って無視をしようとしたが、少年の咳き込みが酷くなったのを見て起き上がると、横向きに寝る少年の背中をさすった。
「す、すみま、せん……」
少年が申し訳無さそうに言うが、それには答えずさすり続けて、少年の咳が落ち着いて眠りについたのを確認すると、またひとつため息をついた。
次の日の朝、少年は薬草を手に鬼の家を出た。
何度も何度も鬼に頭を下げて、「さっさと行け」と言われてようやく歩き始めるが、しかし向かう方向は確実に森の更に奥だった。
鬼は天を仰ぐと少年を呼び戻し、その腕を掴むと山道へと導いて、
「いいか、ここを真っ直ぐに行くと町に着く。ここを真っ直ぐだぞ」
と念を押した。
「ありがとうございます。僕、必ずお礼に来ます」
「来んでいい」
少年の言葉に即答して、鬼は早く行けと少年の背中を押した。
また何度も振り返ってお辞儀しながら、ゆっくりと少年の姿は小さくなっていった。
その背を見ながら鬼はもう一度ため息をついて言った。
「病気持ちは駄目だ。それに、ああいう奴を喰う気にもなれん」
鬼にも苦手なものがあるらしかった。