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『いつかのMerryX'mas』 by Riko
ある夜ふと三蔵が、クリスマスに海辺のあのコテージに行かないかと話を切り 出してきた。思いがけない提案に、無言のまま目の前のキレイな顔をまじまじ と見返してしまった俺に、三蔵は形のいい眉をきつく寄せた。 「…ンだよ。テメェはクリスマスに俺と出かけるのが不満なのか。」 明らかに機嫌が急降下した三蔵の声に、俺は慌てて首を横に振った。 「そうじゃなくて…だって三蔵、仕事は?年末なんて何処も忙しいのに。」 勿論俺としては、三蔵と二人で出かけられるのは単純に嬉しい。でも只でさえ 日頃から忙しい三蔵なのだから、年末なんてもっと忙しいに決まってる。無理 なスケジュールで三蔵を疲れさせることになったら、本末転倒になってしまう。 三蔵は半分呆れたような顔で、短い溜め息を吐き出した。 「阿呆。お前と休暇を過ごすこともままならないような予定を組まれたら、俺 はとっくに悟浄に机をぶん投げてるぞ。」 全くふざけている様子のない声でそう答えられ、その光景が妙にリアルに想像 出来てしまって、俺は不覚にも思いっきり吹き出した。 「オイ」 「ゴメン、だって…」 ひとしきり笑って満足した後、俺は三蔵の肩口に額を押し当て「…楽しみ」と 呟きを落とした。俺の顎に手をかけ顔を上げさせた三蔵は、薄く微笑ってとび きりのキスをくれた。 コテージに着いてまず買出しに行きたいと言った俺に、三蔵は「その必要はな い」と答えた。どうやら今夜の諸々の仕度は、予め全て手配済みらしい。 「えー、料理全部頼んじゃったの?俺色々やるつもりで、結構気合入れて来た のに。」 食うや食わずの生活が長かった俺は、ほとんど料理らしい料理なんてしたこと なかったけど、リハビリの時に八戒の世話になって日常の細々したことを教わ るうちに、まぁ何とか人並み程度には出来るようになっていた。 でも普段は充分過ぎるほど使用人のいる屋敷に暮らしているから、俺が三蔵に 料理を作る機会はほとんどない。だからせめてこんな時くらい、自分の手料理 を三蔵に食べさせたかったのに。 「自分で料理を作るとなると、お前はほぼ厨房に張り付きどおしになるわけだ ろう?」 「ん?まぁ、そうなるかもね。せっかくのクリスマスなんだから、どうせなら いつもは食べないような凝った物を作ってみたいと思ってたし。」 三蔵が口にした疑問に、俺は当然のようにそう答える。俺の返答を受けた三蔵 は「だからだ」と話を繋げた。 「だからって…何が?」 「俺からすれば、料理の仕度をするのは誰でも構わない。わざわざ休暇を取っ て二人で来てるのに、一人で放り出されることの方が余程問題だ。」 至って素の表情でそう説明する三蔵に、俺は思わずポカンと口を開けてしまっ た。つまり、二枚目でキレ者で金も充分過ぎるほど持ってて、望めば何だって 出来るのに、その反面呆れるくらい不器用で子供っぽいところのある目の前の 男は、俺が料理作りに奮闘している間、放りっぱなしにされるのは甚だ不本意 だと、そう言っているのだ。 口許に自然と笑みが上ってくるのが自分でもわかる。バカバカしいほど身勝手 なわがままが堪らなく愛おしいと思ってしまうあたり、俺も相当終わってると 我ながら思う。 「じゃあ今日は一日中、心置きなく三蔵を独占だ。」 紫の瞳を間近から覗き込み、俺はニッコリと笑ってみせる。一瞬不意を突かれ た表情になった三蔵は、短く笑って俺を腕の中に抱き込んだ。 少し落ち着いてから、二人で海へ出た。季節はずれの海は、あの日と同じよう に穏やかで。冬の澄んだ空気の中、青い水平線はひどく遠くに見えた。 「まだあの向こうに行きたいと思うか…?」 砂浜に並んで水平線をみつめながら、三蔵が問いを漏らす。俺は海の青から目 線を外さないまま、静かに首を振った。 「思わないよ。今は…本当に欲しいものはみんな此処にあるって、わかってる から。」 手探りで三蔵の手を探し当て、きゅっと握りしめる。一呼吸間を置いて、三蔵 がより強く握り返してくれたのを感じた。 「帰るか。」 三蔵の言葉に振り返り頷く。手を繋いだまま歩き出せば、ごく自然にこちらに 歩調を合わせてくれているのがわかる。すぐ傍らにある整った横顔を見上げ、 俺は小さく笑った。 「俺さ…こんな風にクリスマスを迎えるのって、生まれて初めてなんだ。」 生きていくのが精一杯だった暮らしの中じゃ、とても行事を楽しむ余裕なんて なかったし、そもそも俺は神の祝福なんてモノを毛ほども信じていなかった。 だからクリスマスの記憶といえば、いつもよりやたらめったら賑やかな街明か りを、空きっ腹を抱えてぼんやり眺めてたことくらいだ。 こんな穏やかな気持ちで誰かとこの日を過ごす時が自分に来るなんて、あの頃 は夢にも思っていなかった。 「…クリスマスにのんびり過ごしてちょっとイイ飯食うぐらい、フツーだろ。 何年か繰り返すうちには、お前の中でも『当り前』の一つになってくさ。」 繋いでいた手を外されて、軽く肩を抱き寄せられる。三蔵の肩口に頭を預け、 俺は「うん…」と答えた。 ぶっきらぼうだけど嘘のない三蔵の優しさが、じんわりと胸に染みていく。 ふと少しだけ、後ろを振り返ってみる。 まるでそれが当り前だというように、同じ歩幅で刻まれている二つの足跡が瞳 に映って、不意に泣き出したいくらいの幸福感で胸が一杯になった───。 ───I wish you are merry X'mas───… …Fin. 《戯れ言》 …というわけで、今年のクリスマスネタはこの二人でした。 少しでも楽しんで頂ければ幸いです。 楽しんでいただけましたのならポチっとお願いしますv
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