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『memories』    by Riko







ある休日の午後のこと。三蔵と悟空はリビングで昔のアルバムをめくっていた。
戸棚の整理をしていた悟空が、偶然みつけた物を引っ張り出してきたのである。
「なぁなぁ、これは?」
「あ…?確か…幼稚園の遠足か何かだったんじゃねぇかな。」
「ヘエ…三蔵って、子供の頃は特別大きい方でもなかったんだな。」
興味深げに金の瞳を輝かせ、悟空は一枚一枚の写真を丁寧に眺めている。子煩
悩な両親が愛する我が子の瞬間瞬間を捉えた、まさしくかけがえのない『思い
出の集大成』とも言える一冊だった。

「お母さん、キレイに写ってるね。」
写真の中で優しく微笑む母親の顔を、悟空がそっと指でなぞる。アルバムに視
線を落としているその穏やかな横顔を、三蔵は少々複雑な思いと共にみつめて
いた。
自らを産み落として幾らも経たぬうちに亡くなってしまった母親を、悟空は残
された写真や映像でしか知らない。二度とは帰らぬ思い出の中の母親に向けら
れる眼差しには、憧憬の気持ちが溢れている。


もしも。もしもあの時母親が突然他界することなく、家族揃って和やかに暮ら
すことが出来ていたなら。
自分とこの弟は『時折りくだらない言い合いやケンカをしながらも、それなり
に仲の良い兄弟』のままで終わっていたのだろうか。
三蔵の口許に、自嘲めいた苦笑いが滲む。『もしも』などというのはあくまで
『そうであったかもしれない可能性の話』に過ぎない。実際問題、自分は彼の
存在を『たまには生意気なところもあるけれど可愛い弟』で終わらせることは
出来なかった。そしておそらくこの先、これほど揺るぎのない熱情を注げる相
手には、もう二度と出逢えることはないであろうと思う。


まだ熱心にアルバムをめくっている悟空の頬を、三蔵が指先でチョンと突付く。
「何?」と振り返った小さな唇に、三蔵はカプリと軽く噛みついた。
「…痛い…」
歯を立てたとはいっても、ほとんど戯れに近い甘噛み程度のことなのだが、悟
空は拗ねた表情で上目遣いに三蔵の顔を覗き込む。悟空が決して本気で怒って
いるわけではないことを承知している三蔵は、こげ茶の髪をクシャリと掻き混
ぜた。
「お前が写真にばっか夢中になってるから。」
思いがけない三蔵の言葉に、一瞬きょとんとした表情を見せた悟空は、やがて
クスリと小さく笑った。
「ヘンなの…こっちでだって、見てるのは三蔵のことなのに。」
そう答えた悟空に促されアルバムへと目を向ければ、いつの間にか写真は母の
死後・主に三蔵が一人で写っている時代のものに移り変わっていた。
「…この頃の三蔵はどんな風だったのかなぁとか、もし一緒に暮らせていたら
近くで見てられたのになぁとか、一枚見る度に色んなことを考える…まぁ俺は
赤ちゃんだったからしょうがないんだけど、」
「三蔵の思い出の中に自分がいられなかったのが、ちょっとくやしい」と、少
し照れ臭そうに悟空は笑う。完全に不意を突かれた表情で大きく目を見張った
後、ほんの微かな笑みを浮かべた三蔵は、悟空の肩を柔らかく抱き寄せた。
「じゃあこれからはマメに思い出を残すとするか。」
三蔵の一言に顔を綻ばせた悟空は、ジーパンのポケットから携帯電話を取り出
した。
「だったら早速一枚撮ろうよ。」
無邪気に笑う弟を見遣りながら、三蔵は思う。


やはり『もしも』という仮定はありえない。
在りし日の母の笑顔に思慕を募らせている姿にすら
どうにも面白くないという馬鹿げた感情を抱いた自分が
あの瞬間確かに存在したのだから。


携帯電話を持つ手を前方へと伸ばし、三蔵の肩口に頭を預けた悟空が「いい?
撮るよー」と声をかける。
悟空がシャッターを押したのとほぼ同時に、三蔵は無防備に笑みを形作ってい
る唇を素早く奪った───。


                               Fin.



《戯れ言》
…後書きなんぞ書く必要もないくらい短いバカ話でした(笑)お気付きの方も
居られるかと思いますが、話の大元のイメージとなっているのは槇原敬之氏の
『No.1』だったりします…しかしあの爽やかな歌からどうしてこういう話に
なったのかは、私自身にも謎です(苦笑)

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