恋の仕方を教えて * 26

 勿論!と悟志は目を輝かせて力一杯に答えた。
 羞恥と不安に支配されながらもベッドに寝そべり、悟志がその上に身を乗せて数分。早くも貴幸は、あまりの緊張で死んでしまいそうになっていた。
「な……舐めて、いい?」
「……好きにしろ」
 上着のボタンを外すとごくりと息を呑んで悟志が言った。どきどきしているのは彼も同じであるらしい。悟志は先ほどから著しくギクシャクとし、落ち着きなく言葉を洩らしていた。
 まさか、こんな日が来るとは思わなかった。悟志に思いを打ち明けて、好きだと言われて。そして『寝る』ことになるなんて。
「じゃあ……」
 フイと顔を逸らした貴幸の胸に、悟志は唇を寄せた。そして、既に僅かに反応している胸の尖りを、ぺろりと舐め上げた。
「っあ……!」
 途端に痺れるような鋭い甘さがそこから巡り、つい貴幸は声を上げてしまっていた。高い喘ぎだ。いきなり変な反応をしてしまった自分が恥ずかしく、ベッドのシーツを握りしめる。
「タカちゃん……」
 その姿に興奮したのか、悟志は息を荒げ、先ほどよりも深くベッドに体重を掛けた。体が密着し、下肢の熱くなった部分が触れ合う。
 そもそもどうして入れるために『慣らす』だけではなく、愛撫まで受けることになってしまったのか。それはその場の流れと言う他なかった。今更やめてくれと言える空気でもなく、貴幸は文句を言わずに悟志のすることを身に受けた。
「タカちゃん」
 貴幸の名をやたらに呼ぶのは悟志の癖だ。彼はかなりの頻度でタカちゃんタカちゃんと口にする。こんな状況のときにまで喋られては、胸に振動や吐息、そして彼の興奮の度合いが伝わってきて、肌の熱が高まることこの上なかった。
「ん……、う」
 胸など他人にいじられたことがない。ずっと恋をしていた悟志が恐る恐ると、自分の反応を窺いながらそこをいじっているのだと思うと、強烈な恥ずかしさに襲われてしまってどうしようもない。
 しばらく舌先でチロチロと舐められた後、立ち上がってきたそこを指でいじられ始める。摘み、押しつぶされ、ぐりぐり転がされていく。
 悟志が息を呑んだ。
「うわ、凄い……」
「へ、変なことばっかりするな!」
「だって」
 注意すると悟志は、鎖骨のあたりへとキスを落としてきた。体を乗せられたまま動かれたせいで、体が軋んで痛くなる。そのぎこちない体勢の変え方が彼の不慣れと緊張を表しているようで、痛くはあるものの不愉快ではなかった。
 鎖骨へ口づけたあと、悟志は頬へ、首筋へ、肩へとキスの位置を変えていく。
「駄目だ、我慢できない」
 言いながら悟志は貴幸に深く身を被せ、体全てで抱きつくように重なってきた。足のあたりにぶつかる彼の性器が、先ほどよりも大きく、びくんと脈動しているのが分かる。これからこんなものを、あんな穴に入れることになるなんて、信じられない気持ちだ。
 普段より息を荒げる悟志はよほど興奮しているようで、何度も体中に唇を合わせつつ、するりと再びズボンの中に手を入れてきた。
「……んっ」
 ペニスの幹全体を緩く扱き上げたあとに、先端から染み出た先走りを指で掬い取る。そうして悟志の指に絡められた先走り液は、粘着質に糸を絡め、亀頭にじわりとした刺激を与えてきた。興奮しているのは貴幸も同じだ。
「うっ、……ん」
「タカちゃん、痛かったら、言ってね」
 そうして指を再び奥の方へと伸ばされる。指先は先走りのおかげで温度を持ってぬるついていた。ぐじゅりと湿る、柔らかい人差し指。それが何も全く受け入れたことのない場所に入ろうとしてくるのだ。異物感は凄かった。
「っく……」
 解すように指先をぐりぐり押しつけたあと、ついに悟志は第一関節のあたりまで指を沈めてきた。気持ち悪さに体が震え、思わず力が入ってしまう。
 悟志はそんな抵抗を感じては指を引き抜き、抜いてはまた僅かだけ奥へと進ませていく。
「きつい……、入るかな」
「わ、分かる、かよ、俺に」
 どうしても動かされるたびに体が跳ね、声も途切れ途切れになってしまう。
 滑りが悪くなった指を悟志は一度引き抜き、再び性器の先端に触れさせた。慣れない部分に触れられたせいで貴幸の前は先ほどのような勢いを失っている。それでも僅かな残滓を指に塗りつけ、悟志は再び後ろへ手を伸ばした。
 先ほどよりは深く、指が奥の方へと入っていく。
「っ、あ、……う」
「痛い? タカちゃん」
「いや……」
 痛さよりも圧倒的に気持ち悪さの方が上だった。内臓に直接触れられている故の、感じたことのない強烈な違和感。それでも貴幸は首を振り、悟志の問いかけを否定した。
 キスをしながら悟志がまた抜き差しを繰り返し、少しずつ指を深めていく。そのうちに指の全てが中に入った。悟志が内に入った指を曲げる。
「くっ、あ……!」
 堪らず声を上げてしまう。
 しばらくいじられていたために、始めの頃のような気持ち悪さは次第に薄まっていた。かと言って未だに慣れたわけではなく、微かにでも指が動くたびにそこから鋭い感覚が走る。
「タカちゃん……、タカちゃん」
 悟志はしきりに貴幸の名を呼んでいた。人差し指だけでなく中指までもが、外側に添えられる。あっと貴幸が思ったときには、既にその二本めは穴を広げて入ってきていた。まだほとんど解れてもいない穴に、性急に中指が奥まで突き込まれる。
「あっ、ああ……っ!」
 突然の衝撃に大声が出る。なのに悟志は止めてくれず、二本の指を揃え、性交するときのようにグチュグチュと、激しく体内でそれを動かし始めた。
「さ、っさと、し……! う、う」
「早く入れたい、タカちゃん」
 内側の襞が彼の指に吸い付いて、抜き差しのたびに水音がそこから響く。生理的な拒絶で収縮しているはずのそこは、まるで悟志の指を離したくないとでも言うように彼を締め付けるのだった。
 そのたびに悟志の指の形をはっきり体の中で感じてしまう。突き入れられたときの言葉に表せない抵抗も、抜かれたときの喪失感も。痛みでもただの不快感でもない強い刺激は、体をぞくりと震わせた。どうしてもこの感覚を言葉に表さねばならないとしたら、今のこれは、快感へと変わり始めている違和感だ。
(や……、ばい、これどうなるんだ、俺)
 無意識のうちに高い声を小さく洩らしつつ貴幸は思った。喘ぎを抑えたいと思うのに、勝手に出てきてしまってどうしようもない。
 悟志もそんな貴幸の姿を見て興奮を高めていた。重なった胸の内からは強い鼓動が伝わり、体の中を掻き回す指の動きからも、余裕のなさが感じられる。
「っ、はあ」
 明らかに高ぶっているような声を出し、突然に悟志は指を引き抜いた。そしてカチャカチャと、ベルトを緩める音が聞こえてくる。焦りのせいかうまく外せないようで、その音はやたらに長く響いていた。
(――外してる)
 ついに、悟志の性器が入ってくるのだ。あんな慣れない場所に入れたりして本当に大丈夫なのだろうかと不安ではあるが、そのときにはもう貴幸は、止めて欲しいとは思わなくなっていた。
 先ほどまで指が入っていた部分に先端が押し当てられる。
「あ……」
 それは思っていたよりもずっと大きく、固かった。亀頭の先端だけなら強く押し込めば少しは入るかもしれない。けれど全てを受け入れるのは、無理なように思えた。
 そしてペニスには避妊具も何も、ついてはいなかった。感覚で分かる。
(そ、それもそうか。悟志が持ってるわけないよな、そんなの)
 自分のことを納得させようとする。それでも次までには買っておくか、もしくは買うように言わないとと思い、早くも『次』のことなんて考えている自分が嫌になる。
 心配そうに悟志は聞いた。
「大丈夫そう?」
「……い、痛いって言ったら、ちゃんと止まれよ」
「うん」
 押し当てられたペニスは信じられないほどに固い。亀頭には独特のまろみがあるものの、そうしてくっつけられただけでも、体内を犯すための棒であることがよく分かる形である。
 グッと、悟志が腰を進めた。
「――あ……! う、う、あ」
 一度突き入れただけでは全てなど入りはしない。それでも大きな先端によって穴が広げられる圧迫感、苦しさは貴幸の想像を遥かに越えていた。
 痛い。気持ちが悪い。苦しい。すぐにでも引き抜いて欲しいほどだった。
 引きつる体の様子は、最も敏感な部分を貴幸に入れようとしている悟志にも勿論、伝わった。
「痛い? タカちゃん」
「う、……思ったより、…っく」
「た、タカちゃん……」
 身を引くことも動くこともできず、悟志は戸惑っていた。どうしたらいいのか分からない。そんな感情が貴幸にもよく伝わってくる。
「やめた方がいい?」
 痛みを紛らわすように口づけが落とされる。触れられるたび貴幸は、びく、びくと下半身を引きつらせてしまい、そのたび悟志も中の狭さに息を詰めた。そうして反応する彼のことが、貴幸には愛しかった。
「……いや。ちょっとずつなら、いいよ」
「う……!」
 貴幸が返すと、悟志も体をびくりと跳ねさせた。
「どうした?」
「しゃ、……喋ると振動が伝わってくるって、……本当なんだあ…」
「……そんな知識、どこから手に入れて…るんだよ」
「ん? いや……」
 悟志は曖昧に首を振り、笑ってごまかした。それから貴幸の足を弱く抑えつけ、腰を進ませてくる。
「う、っん……!」
 先端を、ぬるりと呑み込まされる。どうしようもなく苦しかった。あまりにもきつい。貴幸の様子を分かってか、悟志も侵入を止めてくれる。
「はあ、……っは、はあ……」
 それでも何度も胸を上下させて息を整えるうちに、中の異物感に慣れてくる。相変わらず押し広げられている苦しさはあるものの、始めよりはずっとマシだ。
「大丈夫? 痛くない? タカちゃん」
「最初、よりは……」
「……そっか。僕は気持ちいい」
 うっとりしたように言うと、悟志は貴幸を抱きしめた。そしてグイとペニスを奥へと進めてくる。
「あっ……! う、う」
 一番太い部分を既に入れ終わったからか、思った以上にペニスはあっさり深いところまで侵入してきた。反射的に思い切り強く締め付けてしまう。
「うわ! た、タカちゃん、それ、やばいよ」
「仕方、ないだろ……!」
 悟志のそこがビクビク跳ねる。体に彼を受け入れている貴幸には、その動きがよく分かった。
(入った……)
 全部ではないけれど。それでも、絶対に無理だと思ったあの場所に、ペニスが入ってきたのだ。――セックスしたのだ。
 そう思うと達成感にも似た脱力感が襲ってくる。
「……はあ…」
 息を吐き、体の力をぐたりと抜く。悟志はその隙に動き出すようなことはせず、また何度も貴幸の顔に、唇に頬にとキスをした。
「タカちゃん……好き。僕、ずっとこうしたかった。タカちゃんと」
「……ん、悟志」
「痛くない? タカちゃん」
 入れたいと自分から言っておいて、悟志は本当に心配そうな顔で聞いてくる。熱さに汗を滲ませながら、貴幸はつい笑ってしまった。
「悟志、…お前そんなんだと、いつか彼女できたときに苦労するぞ」
「できるわけないよ、タカちゃんがいるのに……!」
 ムッとして悟志は言った。あからさまに不満げだ。
「ああ、そっか……。そうだったな、ごめん」
 謝りながらもまだ小さく笑ってしまう。悟志の拗ねたような言い方が可愛かった。
「もう二度と言わないでよ? ……動いていい?」
「ゆっくりな」
「うん」
 ずるりと、悟志がペニスを引き抜きにかかる。太いもので内側を擦られ、反射的に声が出た。
「――っあ、あああ、う、ああ……っ!」
「ん、っ」
 ゾクゾクと、内側からの震えが起こる。そして口からは知らぬうちに、高く引きつった叫びが零れていた。
 体の内側を満たしていたものが一気に抜けていく感覚。それは貴幸のすべてをめちゃくちゃにしてしまいそうなほどに強烈だった。まだ開かれたばかりの体内は加減することもできずに狭く窄まっていく。その強さに悟志もまた身を震わせた。
「た、タカちゃん。また入れるよ」
「う……っ」
 何も答えることができずに貴幸は腕で顔を隠した。今、口を開いても、それは喘ぎにしかならないように思えた。そして質問自体に対しても、答えるべき台詞がない。良いとも駄目だとも言えない。
 悟志はシーツに手をつき、ず、と再びペニスを挿入してきた。
「……あ、あ、っああ、ううぅう…!」
 先ほどよりも楽に、それは奥へと入ってきた。最初に突き入れられたときには全ては収まりきらなかったペニスが、僅かだけ残して全て入りきる。深くにまで悟志が達しているのが分かる。
 まだジンジンとした痛みはあるものの、苦痛よりも挿入感の衝撃の方がずっと強い。ぬめるように、押し開くようにして犯される。何も考えていられなくなるほどだった。
「う、うっ、はあ、ああ!」
 貴幸の反応に拒絶のようなものがないことを感じ取ったのか、悟志はゆっくりペニスの抜き差しを始めた。慣れない動きで抜き、少し抜けたところでまた突き入れ、それを繰り返す。次第に動きは大胆になっていった。
「う、タカちゃん……!」
 初めての交合に溺れ、悟志は浮かされたように貴幸を呼んだ。何度も何度も飽きずに名を口にし、動きながら時にキスをする。口づけはたどたどしかった。
 ぬぷ、ぐちゅと悟志が動くたびに結合部から音がする。生々しすぎる音に貴幸は身を捩った。それでも何度も体の中でペニスを動かされるうち、痛みは痛みでなくなっていた。
「あー、あっ……う、ううう、あっ、はあ…!」
 粘膜と硬いペニスとが擦れ、体の中に熱を呼ぶ。むず痒いような充足感。擦れて、混ざり合って、中にいる悟志をぐいぐい締め付けてしまう。
 ひと突きされるごとに、痛みではない何かが積み上がっていくようだった。耐えきれずに身を逃がそうとしても、ペニスを突き入れる悟志がそれを許してくれない。体のその部分が大きく開いてしまっているのが自分でもよく分かった。
「はあっ……、あ、あ、あっ」
 掻き混ぜられたそこから、何かがせり上がってくる。訳が分からなくなるような何かが。正体の見えぬそれが迫ってくるのが恐ろしく、貴幸は悟志の背を強く抱きしめた。貴幸の性器も悟志の腹に密着する。挿入の痛みに萎えていたペニスはいつしか、ふたたび勃ち上がっていた。
「んっ、タカちゃん、……タカちゃんも、いい…?」
 即座にそれに気がつき、悟志は貴幸の髪に口づけを落としながら囁いた。貴幸に答えられずはずもない。ただ首を振り、ぎゅうと悟志を狭隘な穴に包み込む。
 不意に悟志が貴幸のペニスに手を伸ばしてきた。
「あ――あ、んうああっ!」
 抱き合ったまま、そして繋がったままの姿勢では悟志もうまく貴幸の性器を掴むことができず、いくらか不自然な動きでの握り方になる。それでも悟志は全体を扱き上げ、亀頭の先端に指を這い、その間にも激しくペニスを挿入し続けた。卑猥な音が響く。
 後ろからの慣れぬ刺激に加え、性器にも強烈な愛撫。もはやどうすることもできなかった。頭が真っ白になっていく。一気に、堪えることもできずに追い上げられていき、今まで体験したこともない深い高みに押しやられる。
「タカちゃん、僕、もう……!」
「ひっ、あ! っあ、ああ、……っく、ううう!」
 それからじきに悟志が、貴幸のペニスから腕を離し、体を強く抱きしめてきた。結合が一層深くなる。と同時に、貴幸の意識は弾け飛んだ。性器だけへの刺激による快感とは全く違う大きな絶頂。尿道口が熱くなり、びゅくびゅくと貴幸のペニスから精液が吐き出されていく。それを感じる余裕もなく内側へ――悟志のペニスからも精液が吐き出され、穴の中へ掛けられていった。
「――…っ! う、…………ッ、あ、……あ……はぁ、――ううっ!」
 もはや声にもならない。喉をのけぞらせ、引きつった叫びを零す。
 体の信じられないほど深くに、熱い、熱い液体が浴びせかけられているのが嫌でも分かった。散々擦り上げられて感じきった穴に、ちょうど絶頂した瞬間に精液を吐き出されたのだ。その刺激は貴幸の体を震わせ、堪えきれないほどの快感を呼び起こしてきた。
 果たしてこれが絶頂と呼ばれるものなのかも分からないほどに、今までとは全く種類の違う、激しい喜悦だった。
「ん……、う……」
「はあ……う、く、…あ……」
 じきに悟志の体からクタリと力が抜け、体内に残るペニスも柔らかくなっていったけれど、貴幸は未だに達したままだった。精液はもう出ていないが、体中が強ばり何も考えられないままで、いつ絶頂が終わるとも知れない。
「……はあ…」
「う、っ――うう、……あっ…!」
 そうして精液を吐き出しきった悟志は、脱力したように貴幸に身を乗せた。その接触にも反応してしまう。全身が跳ね、身を捩ってもやり切れぬ快感が駆け巡り、思考を侵す。少し掠られただけの乳首までがピリピリと痛いまでだった。堪らない。全てが敏感になっていた。
「……タカちゃん?」
「んっ、あ……う…っ」
「タカちゃん? ……あれ、もしかして」
 そんな反応をされ、驚くのは悟志の方だ。悟志は始め、射精の疲労もあり今ひとつぼんやりとしていたが、自身の腹に掛かっていた貴幸の精液に気づき、ハッと声を上げた。
「もしかして…タカちゃんも、イッちゃった……?」
「う、るさ……、っううう…っ!」
 ようやく絶頂も落ち着いてきたところで、悟志がグイと右胸の乳首を摘んできた。そこは始めに少し触れられたきりだったのに、固く尖ってしまっていた。
「そっか、……僕だけじゃなかったんだ、うれし」
 呟く悟志の口元には笑みが浮かんでいた。
 ずるりと、貴幸の体の中から萎えたペニスが引き抜かれる。
「あああ……っ!」
「ん……、た、タカちゃん、力入れないで、きつい」
 喘ぎ喘ぎ悟志が抗議するが、そんなことを言われても貴幸にはどうしようもない。絶頂を終えたところで抜かれていくその感触に、知らぬうちに貴幸は、少量の精液を再び零してしまっていた。
「タカちゃん、好き」
「……は、っはぁ、は……」
 悟志は心から幸せそうに言って貴幸の頬にキスをした。だが貴幸は荒い息を整えるのに精一杯で、とても返事などできない。
「好き、タカちゃん。大好き」
 返ってくる言葉もないのに、悟志は飽きもせずに何度も貴幸に愛を囁いた。そしてそのたびにそこら中に口づける。愛しくて堪らないとでも言うように。
「ん……」
 ようやく余韻も抜けてくると、今度は口も開けないほどの眠気が一気に襲ってきて、貴幸は指一本も動かせずに瞳を閉じた。初めてのセックスは、体にはきつかったのだ。
 それでも悟志は「タカちゃん好きだよ」言い続けている。
 幸せな気持ちでいっぱいになりながらも、俺もだよと言い返してやれないことが歯がゆかった。

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