「しゃぶる? って、何だよ、それ……」
唖然とする佐伯の反応を、彼らは面白がっているようだった。 「言った通りだ。……ああ、勿論、ただ舐めるだけじゃねえぞ? 俺たちが指示する通りのことをするんだよ。そうでなくちゃ飯は食わせねえ」 「そんな……」 それきり佐伯は絶句した。硬直してしまった佐伯に、からりと笑いながら木戸が声を掛けてくる。先ほどまであんなに怒っていたくせに今度は人懐こそうな笑顔だ。気味が悪い。 「あ。そうだ。いいもの準備してやったから、見てみろよ」 「あれか。俺も貼るの手伝ってやるよ」 彼の発言に、松原もにやりとしている。 (いいもの? ……それ、何だ?) 嫌な予感がした。こんな状況で彼らが言う『いいもの』が、まさか本当に良いものであるはずがない。考えられるものって言ったら――バイブとか、薬とか、……写真とか。佐伯は監禁という状況に沿ったアイテムをいくつか考え出してみた。そして最後に浮かんだ考えに自分で血の気が引いていく。 果たして木戸の鞄から取り出されたものは、有名なプリント会社の紙袋だった。 「じゃーん。ほら、これ! 見てみなよ、どれもよく撮れてたから」 しかもその袋は、通常のサイズではなかった。普通、L判写真を印刷した際につく袋は縦幅が短いものだ。それなのに、放り投げるように足下に置かれた袋はいやに大きくて、まるでその中に、……大きな写真でも入っているみたいだった。 震える手で佐伯は袋を掴む。そして開くなり取り落としてしまった。ばさりと、床に落ちた袋の中から写真がぶち撒かれていく。 「あ。落としちゃった」 「はは、ちょっと驚いたんだろう。いいじゃねえか、俺らで一枚一枚見せてやろうぜ」 「そうだな」 彼らはまるで友人同士で旅行の計画でも立てるときのように楽しげだった。だが佐伯には何も言えない。 袋に入っていたものは全てが写真だった。昨日撮られた、レイプに関する写真。途中で見せられたような、まだ何かを挿入される前のきつく閉じた肛門から、犯されている真っ最中の全身像、赤くなって泣き叫ぶ顔のアップ、散々吐き出された精液がアヌスへ溜まっている様子。その内容は様々だった。5枚や6枚ではない。数十枚。しかも、そのどれもが大きく引き延ばされた用紙で、残酷なほどに細部まで鮮明にプリントされてしまっていた。 「どう? 佐伯が初体験をいつでも思い出せるように、こうやってプリントしてきてあげたんだよ。あ、かなりお金掛かったから、おまえの財布から払っといたから。鞄持ってきてただろ昨日。あの中から」 「木戸は授業の関係で忙しかったからな、俺が受け取りに行ったんだ。普通、写真屋ってプリントした写真見せてきて、これで宜しかったでしょうかって言うだろ。でもこの写真にはそれがなかったよ。すげえぎくしゃくしながら、無言で渡してきやがんの」 「第三者にもばっちり見られたってことだよ。どうする? 佐伯」 「これ、壁に貼っていってやるからな。これでいつまでもあの日のこと忘れないでいられるだろ。ああ、貼るって言っても画鋲じゃなくてセロテープな。画鋲は下手したら凶器になっちまう」 ――第三者がこれを見た。あの画像を見せつけられるという辱めを受けた。この写真を壁に貼っていく……。衝撃を受けることがありすぎて、心のどこか、大切な部分が割れてしまいそうだった。冷静に現状を理解したら気が違ってしまいそうだ。 限界を大きく超えた羞恥に佐伯がひっくひっくと喉を鳴らしている間に、その写真はどんどん貼られていった。用紙が大きいせいで遠目でもどんな画像なのかがよく分かる。分かってしまう。彼らのペニスが入っている写真、その大きさ、そのとき自分の肛門がどんな風に広がっていたか。目を背けたくなる写真が大量に佐伯を囲む。 酷すぎる。これじゃ一人でいる間にも、レイプされている最中の様子がどこを見ても目に入ってきてしまう。こんなことをするなんて二人は正気ではない。これは、変態だとか復讐だとか、そんな言葉で表せるようなありふれた凶行ではない。 涙がとめどなく溢れた。写真を見せられたことで昨日のことを思い出してしまい、これから起こることについても考えてしまって、どうしたって涙が出る。だけど、腹は減っている。今は泣くよりもとにかく飯だ。佐伯は号泣のあまり呼吸困難に陥り掛けながら、近くにいた松原に声を掛けた。 「めし……、パン、めし…」 松原がかがみ込み、ぐいと乱暴に髪を掴んでくる。 「食いたかったら、どうしろって言ったっけ。覚えてるか?」 「しゃぶれって……、言った」 パンが食べたい。それはつまり、先ほど彼が言ったこと、要は口腔奉仕をすると認めるということである。ペニスなんて絶対に舐めたくない。そんな汚いもの舐められない。気持ちが悪いし、下手したら吐いてしまうかもしれない。それでも餓死するくらいなら、フェラチオした方がまだ良かった。 「しゃぶるって何をだよ。ちゃんと言えよ」 「言えない……」 佐伯は泣きながら首を振った。写真を目に入れてしまうことがないよう、目を閉じて。だが松原は容赦してくれない。 「言えって。てめえが自分から言わなきゃ、させてやんねえぞ? そしたらいつまでも食えねえぞ。死にてーのか!」 声にならない声で、佐伯は叫んだ。自主的に言わされるという屈辱に耐えきれなかった。強姦はそれでも、自分の意志には関係なく強制的にされるものだ。だが自分から言うのは違う。強要ではなく、自分からなのだ。自ら惨い言葉を口にしなければならないのだ。 「無理っ、無理い……!」 「ふーん。じゃ、仕方ないな。このパンは処分するぜ」 眼鏡の奥で松原の瞳がキラリと光った。その眼差しで分かる。本気だ。言わなかったら彼は、パンを食べさせてくれずに処分する。 うあああと佐伯は泣いた。 「わっ、分かった、よ! ……チンコを…しゃぶるよ、それでいいんだろ!」 「何でそんなに偉そうなわけ? 俺たちは、厚意で食わせてやろうとしてるんだよ? 懇願するのが筋だろ?」 木戸も口を挟んでくる。彼らがどう言わせたいのか、アダルト雑誌もビデオも散々見たことがある佐伯には分かってしまった。しゃくり上げながら佐伯は言う。 「ち、チンコ、しゃぶらせてください……。チンコ舐めさせてくださいい…、お願いします……」 「はあ? 声が小さくて、聞こえねえな」 「チンコ、しゃぶらせてください!」 やけになって大きく叫ぶ。すると二人は苦笑いするのだった。まるで、佐伯が本当に自主的にこんなことを言って、仕方ないから舐めさせてやろうかと考えてでもいるかのように。 かがんでいた松原が、立ち上がった。そして股間を佐伯の目の前に持ってきたあたりでズボンのホックを緩めた。今日はその前は張っていない。勃たせるところから始めなくてはならないのだ。 「仕方ねーな、よっぽどチンコ銜えたいみたいだから、俺のしゃぶらせてやるよ。分かってるだろうが、噛みつきでもしたら殺す。これは脅しでも何でもないからな。いいか、うっかり噛んじまったら、その瞬間に人生終わると思え」 目の前にペニスを突き出されることを佐伯は覚悟した。だが、ホックだけ外して松原は動こうともしない。何なのかと思って、恐る恐る佐伯は彼のことを見上げた。そして頬を殴られた。 「ひぐうっ!」 「おい! 何をぼさっとしてんだよ、てめえがしゃぶりたいっつうからしゃぶらせてやってんだろ!? 自主的に動けよ、アホが!」 「え、えっ……」 「あ。ちょっと待った」 戸惑う佐伯。怒鳴る松原。そして、木戸はそんな二人に呑気な言葉を掛けてきた。 「ビデオがじきに設置し終わるからさあ、どうせなら、録画を始めるのと同時にやらせてよ。AVみたいなこと言わせてさ」 「お、それ、いいな。……おい佐伯。どんなこと言えばいいか、分かってるだろうな? 何が目的で何をするのか、自分がどんな奴なのか、ビデオに向かってちゃんと言えよ? やらなかったらパン食わせないからな」 「……よし。準備できた。録るよ」 木戸が言うのと同時に、ぽちりと何かボタンが押されるような音がした。恐らく録画が開始されたのだろう。同意すらしていなかった佐伯は戸惑って辺りを見回す。だが、二人は何も言ってくれなかった。 (AVみたいに……言わなきゃ、飯をもらえない! い、言わねえと……!) どんなことが彼らの気に障るか分からない。こうなったら、どれだけ恥ずかしくても、全力で痴態を演じなくてはならない。佐伯は涙で真っ赤になった顔をビデオカメラの方に向けた。それからこんな状況に見合った『AVみたいなこと』を言い始めた。 「い、……今から、チンコしゃぶります。っあ、しゃぶらさせて、もらいます…。俺は、飯を食うためならチンコだってしゃぶる淫乱です……」 彼らの機嫌を損ねないよう、懸命に恥ずかしいことを口にする。だが二人は完全に黙ったまま。松原に至っては腕まで組んでいる。いつ怒号が飛ぶか怯えつつ佐伯は、ズボンから松原のペニスを出した。手に触れる萎えた男性器の感触が、言いようもなく気持ちが悪かった。ぐにゃぐにゃとして、根元に陰毛の絡む性器。それを今から口に含まなくてはならないと思うと堪らない。 露出させた松原のペニスは、小さく萎んでいてもやたらと大きかった。全体が黒々として、柔らかくはあるけれども包皮にゆとりがない。いかにもぱんぱんに膨らみそうな性器だった。舐めるためにそれを口に向けて持ち上げると、亀頭の先端、尿道口が丸見えになる。これからこの部分を喉奥に迎え入れなければいけない。 思い切って佐伯は口を開き、亀頭を口内に入れた。 「んん……っ」 絶対に歯を立てないよう注意する。立ててしまったら、終わりだ。奴らは躊躇なく暴力を振るう。 ペニスを銜えているときなんて、いわば男の一番の弱点を手中に収めているときで、その気になればいつだって反撃ができる。けれど駄目だった。佐伯にはもはや反抗する気力が残っていなかった。言うことを聞かなくちゃ殺される。恐怖が佐伯を従順にしていく。 「は……ぐっ」 銜えてみると亀頭は見た目よりもずっと多くの質量を持っていた。口をいっぱいに開き、開いた笠の奥まで押しやろうとする。けれど、つかえてしまって、息が苦しくてそれが叶わない。 (ぐ、るし……! でも、な、何とかして、しゃぶらなきゃ、飯が食えねえ…) 必死な思いをして佐伯はペニスを口内に入れようと尽力した。昨日挿入されたとき、あんなに堅かった性器だというのに、こうして唇で触れてみるとその亀頭は不気味に柔らかい。ぐにゃぐにゃとして最悪な感触だ。腹ぺこではあるけれども、その気持ち悪さを感じていると食欲も失せてしまう。 「おい、先っちょだけでうっとりしてんじゃねえぞ。ちゃんと動けよ」 「ふ、ぐ……」 そうして佐伯が精一杯に頑張っているというのに、松原は非情だった。仕方なく佐伯は、苦しさと不快感両方に目元を濡らしながら、じゅぶじゅぶと頭を前後させる。歯が立たないように頑張った。口の中をペニスが行き来するたび、えずいてしまいそうになる。昨日とは別の意味で地獄みたいな時間だった。けれどもやはり、先端しか口にすることができない。ちっと松原が苛立ちを露わに舌打ちをしたもので、慌てて頭を前後させる速度を高めた。 仁王立ちフェラ。俗にそう呼ばれている体勢だった。膝立ちになって奉仕する佐伯と、立ったままそれを受ける松原。ずっと高い位置に彼の頭があって、見下されているということが佐伯に、支配されているという感情を与えていく。 「ちっ――ヘタクソだな!」 ついに松原が怒鳴り始めた。そんな風に怒られたって、佐伯なりに頑張っているのだ。決して手を抜いているわけじゃない。だが彼はそれを分かってくれず、乱暴に佐伯の後ろ頭をわし掴み、そして激しく前後に動かし始めた。 「ひぐっ! ぐっ、ぐう! んんんぐううーー!」 強制的に口を最大まで開けさせられて、ずこずことペニスを喉奥まで突き込まれる。あまりの苦しさに呼吸もできなくなり、佐伯は全力で抵抗をした。ペニスで口を塞がれたままくぐもった声で叫び、頭を離そうと必死にもがいて、手を松原の腿に押し当てやめさせようとする。 「ったく、てめえは本当に、何の役にも立たねえクズだな! 寝っ転がってケツマンコ使わせてるときが一番社会の役に立ってんじゃねえの!?」 「んぐっ、ぐうっ、うぐうう!」 イラマチオさせてくる手の動きには躊躇がなかった。本当に道具代わりに佐伯の口を使っているのだ。呼吸困難に頭ががんがんしてくる。しかも奥まで突き込まれるたび、陰毛が喉に絡む。舌をくぐって口蓋垂にまでペニスは届いた。そのまま本当に喉の最奥にまでぶつけられるのではないかと佐伯は恐怖した。 「ひっ……ひ、ひぐっ、ふぐう!」 そうして好きに佐伯を扱ううちに、だんだん松原のペニスも勃起してきた。 息ができない、このまま気絶してしまう! そう思って必死にもがいている途中、鼻孔で呼吸をすれば良いのだということに気がつく。がつがつと喉を突かれ、頭をめちゃくちゃに揺さぶられながら佐伯は、鼻に意識を集中しそこで酸素を吸った。けれどもいっそそのことに気づかず意識を失ってしまった方が良かったのかもしれない。佐伯が意識を保っている限り、この苦痛を感じ続けなくてはならないのだから。 「いいか! 遊んでんじゃねえんだから、しゃぶるっつったらこのぐらいやるんだよ!」 「んんぐっ、ひぐっ、はぐっ!」 松原は呼吸を荒げながら蹂躙を続けている。舌の上を血管の浮いたペニスが何度も何度も行き交い、だんだん先端も角度を増して上顎を犯していく。 苦しくてもう駄目だ、朦朧としてきたと佐伯が思ったとき。がちがちに堅くなった性器が抜かれ、突き飛ばすように手のひらで押された。 「えぐっ……!」 あまりに強大なものが口から離れていく感触に、佐伯はげはっと喉を鳴らした。それから解放によって正気を取り返しつつ、げふげふと咳き込み、呼吸を整え出す。 松原はまだ達していなかった。いかに佐伯へ屈辱を与えるかを重視している奴のこと、てっきり口内に射精されるとばかり思っていた佐伯は、急激な解放に戸惑いながらも喜びを覚えた。 だが松原は、真っ直ぐに佐伯の方を向き、勃起したペニスを眼前に突きだしたまま命令した。 「金玉も舐めろよ」 「げふっ、げはっ、はあっ、はあっ、……はあ…っ!」 咳き込むばかりで佐伯には返事ができない。それでも、早く動かなければ怒られることは分かっていたので、息苦しさをやり過ごしつつ松原の足下へと這う。――下から見上げたペニスは、強大だった。 「……ぐ」 息を呑む。その大きさに恐れをなしたことは勿論、これから自分がする屈辱的な行為、それについてもだ。口で性器を慰めさせられるのはまだ分かる。しかし睾丸まで舐めるというのはよほどのことだ。松原としても、快楽目的ではなく佐伯に精神の苦痛を与えたいだけに違いない。 佐伯は松原の足の間へ潜り込み、手で性器を持ち上げつつ、舌を伸ばしてその先で睾丸に触れた。そのまま、ちろちろと舐めていく。中に丸い玉があることが触れた感じで分かる。まさかこんな部分の感触を味わわせられる日が来るなんて。 「そしたら今度は裏筋もだ。……もっと舌の根っこまで出して舐めろ! そう、そうだ。そしたら今度は先の方も舐めろ」 頭がぐわんとしながらも佐伯はそれに従った。それからしばらくしたところで、再び松原が突き飛ばしてくる。 「……ぎゃっ!」 「よし。あんまり気持ちよくはなかったが、仕方がねえな。食わせてやる」 「……あっ…」 ほろりと、何度目か分からない涙がまたも落ちた。その理由では自分でも分からない。やっとパンを食べられるという喜び? それともこんなことまでしなければ食事すらできないという辛さから出たものだろうか。 松原が食パンの袋を手に取る。佐伯の胸は弾んだ。そして彼は封を切り、中からパンを一斤取り出した。 「早く、くれ……! それ、食わせて…!」 気持ちが逸り、佐伯は大声を出す。しかし松原は勿体ぶるように語りかけてきた。 「その前に、だ。まだ仕上げが残ってる」 「え……?」 「高校の頃。おまえ、俺らの大事な弁当に、ジュースやお茶をぶっかけてきたことがあったよな。……おかげでせっかくの上手い飯が、台無しになっちまった。同じことしてやるよ」 「えっ、ああっ!」 何が起こるのかと呆然としていた佐伯は我を忘れて悲鳴を上げた。勃起したままだった松原のペニス、それが食パンへと向けられたのだ。そしてそのまま松原は、自身の性器を手で激しく扱き上げ始めた。 「やめろー! やめろっ、やめてくれえええ!」 力を振り絞って佐伯は絶叫する。しかし叫べば叫ぶほど彼の手の動きは早くなった。 「……んっ」 彼が息を詰める。そしてその先端から、どぴゅどぴゅと激しく精液が噴き出され、これから佐伯が口にするパンの表面へと掛けられていった。 |